4月24日-4
間に合いました。
何とな話を切り出せないまま二人で散歩に出かける。
ただん眠ることができなかった被災した地元の方が、急に現れたこの付近に住んでいない高校生の二人を不審な目で見つめてくるので早々に人気のない場所に離れることにした。
どちらからというわけではないが、一歩だけ距離を取って並んで歩く。
「……」
日が上り少し経った、熱くも寒くもない空気。
あえて言うなら起床前のあわただしさを内包した空気だろうか?
炊き出しの準備かどこかからか米が炊けるようなにおいがしている。
そんな空気を遠くに感じながら何かを話すでもなく二人分の靴音だけが続いている。
「あの……」
淡雪が話しかけてくる。
だから足を止めて淡雪に正面で向かいあう。
一瞬淡雪は視線を逸らすが、しっかりとこっちをみつめてさっきの言葉の続きをしようとして――
「……」
決心がつかなかったのか目を伏せた。
だからこっちから切り出すことにした。
「腕の件なんだけど……」
「はい」
静かにうなずいてくれた。
だからうまく言葉にできないが一つずつ口に出す。
「原発で戦った化け物――ディザスターは強かったんだ」
思い出すのはウランの剣で襲い掛かってくる姿だ。
「速くて強かった、でも早く倒す必要があったから」
ギリギリの戦いだった。
あと少しずれていたらきっと大きな被害が出ていたと思う。
「もし、ディザスターが外に出ていたり、原子炉の炉心まで到達していたら、きっとひどい被害が出ていた」
そこでじっと淡雪を見る。
そして思い出すのは強力な放射線で大火傷を負い、死にかけていたリーパーの姿だ。
つくづく淡雪の出番が来る前に終わらせて良かったと思う。
「そうしたらたくさんの人が死んでいただろうし、そうしたら淡雪もこっちに来ることになっていたと思う、だからもっと強くなれるよう努力する」
それ以上の事は言えずにそこで詰まってしまった。
「そう、ですか」
淡雪はただ静かにそうつぶやいた。
その目には涙が溜められている。
「そうじゃ、ないんです」
淡雪は首をゆっくり横に振る。
「私が言いたいのは――」
そこで近くの茂みで音がした。
「誰だ!!」
と思ったより鋭い声が出て、淡雪とその茂み間に割り込んだ。
するとその茂みから手を軽く上げた人影が立ち上がる。
黒髪をポニーテールにまとめた少女――ブラックスミスだ。
しかし今はなぜか片目にアイパッチをつけている。
「いやー、お邪魔だったみたいだね」
その表情は悪戯っぽい笑みだ。
それを訝しげに淡雪は見つめて。
「ブラックスミス、あなたならもっとずっと遠くから見れるはずでしょう」
それに。
と淡雪はあきれ気味に――
「わざとでしょう」
「あ、ばれてた」
とあっさりばらした。
「実は手伝いが必要なことがあってさ、その穂高さんだっけ? あの人に頼まれたことでさ」
「なんですか?」
と淡雪は話を聞く態勢に移っている。
どうやらさっきまでの空気は消えたらしい。
なんだかノスタルジストのメンバーに邪魔をされている気がするが――
「きのせいか」
と、そこで淡雪が言いかけたことに思いを巡らせる。
しかし手掛かりらしきものは思い当たらない。
「誰かに相談するか」
ポツリとつぶやいていま近くにいる人間を思い浮かべるが――
「いきなり恋愛相談なんてされてもびっくりすだろうし……」
どうにもピンとこない。
橘のお姉さんはこの手のことに頼りになりそうだが、そこまで親しいわけではないし橘を確保できたわけでもないので連絡するわけにはいかない。
となると、思い浮かぶのは一人だけだ。
時間的にはちょうど朝食の用意をしている頃だろう。
連絡を取るためにスマホからある一つの番号に電話をかける。
数コールのあとに――
「おはよう、奥谷、電話とは珍しいな」
深く落ち着いた声が返ってくる。
その響きはどこかうれしそうだ。
「おはようございます、幸次さん」
何となく頭を下げてしまいながら電話を続ける。
明日も頑張ります。




