4月23日-18
間に合いました。
“リーパー”に“ブラックスミス”と同じロックをかけて穂高さんの部隊に引き渡しました。
現地の警察に引き渡すと、事故で殺害される可能性があるので直接的な交戦を行っていない福島に展開している部隊に渡しました。
それは言い訳に近い話で本当の目的は――
「ん? 淡雪じゃないか」
山上さ――奥谷さんの事です。
原発での役目を終えてきたので、強化外骨格は脱いでラフな格好をしている。
いつもと変わらない表情で私に挨拶をしてきますが、詰め寄ります。
普段はやらない行動なので奥谷さんは驚いた様子で下がりました。
「ちょ、淡雪、なにが――」
「なにがじゃ……ないです」
奥谷さんの手を包み込むように握る。
「……」
奥谷さんは何が起きたのか理解できてない様子で押し黙っている。
「なんで腕を変形させたり、増やしたのですか?」
奥谷さんに渡してある強化外骨格は、駆動するために使っているエネルギーは私から送っている。
ということはどんなことを行ったかは大体わかります。
自身の体を大切にしてほしいと伝えていたのに、完全に人間の枠を超えた改造に近いことを行いました。
「早く勝つ必要があるのはわかりますが、一度リーパーと合流するとかあったと思うんです」
「それは……」
攻めるつもりはないのですが、ついそれに近しい口調で言ってしまいます。
奥谷さんの表情が明らかに曇っていきます。
そんな様子を見ることで段々と私もつらくなってきます。
だから縋り付くように重ねる。
「口で言うだけなのは簡単なのはわかりますが、奥谷さんが心配なんです、治るから無茶をしてもいい、壊れてもいいというのは絶対に普通じゃないんです」
「わかるけど――」
「けど、なんですか?」
奥谷さんは私をじっと見て。
「俺も必死で、その時はやるしかない、と思ったから」
「でも!!」
と言おうとしたところで拍手が聞こえる。
二人で思わずそっちを見て――
「え? 不審者ですか?」
「あらあら、ひどいですね」
と防護服から聞こえた声は“リーパー”だ。
彼女はそのまま私の手をつかんで引っ張ってその場を離れていきます。
「え? 何を?」
「少し頭を冷やした方が良いでしょ」
とウィンクをした気がします。
確かにさっきから冷静ではない気がしています。
なので、あきらめて引きづられるままにしました。
奥谷さんの方を見ると消化不良のような顔をしていますが、何を伝えればいいかも私自身が整理できていないのでそのまま押し黙っています。
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「それで私は何をすればいいんですか?」
連れて行かれた先、倉庫の隅のあたりで“リーパー”に質問します。
「知っていると思いますが、私今放射能で汚染されていてですね、最終処分場で着替えるように言われているのですが、遠いので」
「なるほど、外部に漏れない場所を作ってほしいわけですね」
その言葉に“リーパー”がうなづきました。
なので早速いつもの金属球を呼び出して、薄く薄く変形させて“リーパー”を包むようにしました。
そして人一人がすっぽりと入った球体が出来上がります。
「この装備やっぱり汎用性が段違いですね」
若干くぐもった声が聞こえてきます。
同時に衣擦れの音が響く。
「ところで先ほど喧嘩一歩手前の空気でしたけど、山上君との関係はどれほど進みました?」
「奥谷さんとの関係を聞くのは流石に出すぎです」
クスクスと笑っています。
脱い服をたたんで積み重ねています。
「恋の話はいつまでも変わらない娯楽ですよ」
畳み終わった服を内側から球に押し付けてきました。
その行動の意図を読み取って通り抜けさせました。
同時に外から空気を勢いよく送り込んで、体に付着していた塵を吹き飛ばします。
そして中のごみや塵を集めて固めます。
同時に一旦壁の中に保持させて、密閉できる袋の中に入った衣服一式を送り込む。
入れ違いに中からの服を袋に入れて密閉します。
放射線の線量はモニタリングしているが今のところ問題はないようです。
「娯楽って……」
つぶやくように言葉を返します。
「山上君と意識でのズレがあるように感じてますね」
「ノーコメントで」
しかし“リーパー”はその言葉を無視して話を続けます。
「私たちと人間は精神の構造が似ているようで大きな違いがあるので――作られたモノだからと言変えてもいいかもしれませんね」
「……」
着替えを続けながら機嫌が良さそうに続けています。
「私たちはあきらめません、目的を完遂するために優先順位はつけて取捨選択こそしますが目的達成ということだけはあきらめない」
「人は違うとでも?」
思わずそう聞き返しました。
「ええ、心変わりするとでも言いましょうか、成長と言い換えてもいいかもしれません」
「成長……」
そう呟いて、じっと今までの事を思い返します。
そうしたとき私は成長できたと胸を張って言うことはできないことに気付きます。
「よし、これで終わり」
といって、球の内側をノックするので出入り口を開けます。
中からいつものワンピースと、肌の露出がないほど包帯が巻かれています。
包帯の下は重度の火傷を負ったようになっていると思います。
「線量等は大丈夫ですね」
「ええ、ありがとうございますね」
と頭を下げてその場を離れていきます。
「あの、治す当てって」
「“ディープスロート”の組織を使うので大丈夫です」
「なるほど」
と納得しました。
確かに“ディープスロート”から組織を移植すれば完治は難しくないでしょう。
そうして“リーパー”は空へとふわりと飛びあがりました。
私はこのまま奥谷さんのところに向かうのもどこか居心地がよくない気がしますので、待機場所に戻ることにしました。
明日も頑張ります。




