マルヨンフタサン-2
間に合いました。
「何が――」
むせかえるような鉄さびに似た匂い――血の匂いの中でうめくようにつぶやく。
傍らには今まさに体温を失っていく同僚がいる。
致命傷の原因は防弾チョッキの隙間を縫うような精密狙撃だ。
しかしここは玄関から入ってすぐの薄暗い管理人室。
向かいには同じように突入して逃げ込んだものがいる調理室がある。
ほとんど人の手が入っていないはずだが、調度品や備品がえらく磨かれている。
それとは逆に握りこぶしほどの金属の球が転がっていたり、壁や地面にめり込んでいるのが気になるが、視界の中にテロリストと思われる人間はいない。
つまり狙撃など不可能だ。
と、銃声が鳴り同時に同僚の頭が爆ぜた。
さっきもそうだった。
狙撃など不可能な状況で精密な狙撃によって致命傷が与えられた。
「くそ!!」
そうして走馬灯のようにこのロッジに踏み込む前からの光景が脳裏に浮かんだ。
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最初のブリーフィングでは電気の類は来ておらず、監視カメラもないという話だった。
そして人質の数は三人。
一番下の階の個室に一人ずつ入れられている。
作りは斜面に建てられた建物のため、突入できるのは一番上の階からだ。
テロリストは二階の広い部屋に立てこもっている。
らしい。
「……なんでこんなに詳細な情報が?」
「人質は連絡手段であるスマートホンを持ったままだからだな、取り上げなかったらしい」
「詰めが甘いな」
腕や武器は常軌を逸しているが、隠し持った連絡手段に気付かないし、見張りもいい加減というのは朗報だ。
「だから表で陽動のために拡声器で話しかけ続けながら、こっちは人質を確保して逃がす、その後叩きに行く」
「了解」
だからできる限り静かに扉の前に待機する。
しばらくすると絶え間ないエンジン音と拡声器による声がここにまで聞こえてくる。
「窓際にホシが顔を出したそうだ」
「よし、行動開始」
特殊なトーチで蝶番を焼き切って突入する。
そこまではうまくいっていた。
一歩踏み込んだ時、一人目がやられた。
銃声と共に一番前を歩いていた人間が崩れ落ちた。
同時に濃い血の匂いがする。
とっさに撤退しようとしたとき、また銃声が響き今度は一番後ろの人間がたおれた。
視線を建物のなかに向けるとカーブミラーのような緩やかな曲面をもつ鏡が腰の高さくらいに取り付けられている。
それだけだ。
銃を構えた人影なんて見えない。
混乱するが日ごろの訓練によって、とっさの時であろうと動いてくれる。
「隠れろ!!」
自分自身が隠れたとしても意味があるのかどうかはわからないがそれでも叫ばずにはいられなかった。
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あとはすぐわきに居た人間が狙撃されて、いま射殺された。
深呼吸をする。
危険な時ほどおちつかなければならない。
「何が起きた?」
向かいに飛び込んだ人間に話しかける。
あっちも状況がよくわかっていない様子だ。
「狙撃された、相手は透明人間か?」
「そうかもな」
眉唾物の話だが相手は未来人だとかでそう考えるなら完全に透明になったとしてもおかしくはない。
だから確かめるために撃たれた人間の傷を見ると、廊下側から撃たれたようだ。
「そっちのとどめを刺されたのはどっちから撃たれた?」
「そっち――廊下側からだ」
となると相手は廊下に突っ立ているはずだから――
「閃光手りゅう弾を投げる、ゼロカウントで投げるから気をつけろ!!」
そうか。
と思う、透明になる手段があるとすれば光学迷彩が有力だろう。
窓から顔を出しているのというのは何らかの映像を投影して、光学迷彩で透明になった様態で射殺していく。
大胆だがだからこそ盲点の行動だ。
そして光学迷彩は周りの風景を認識することができていないといけない。
つまり強力な光を浴びせれば何らかのエラーが絶対におこる。
それが狙い目だ。
「サン、ニィ、イチ、ゼロ!!」
投げられた手りゅう弾が爆発し、瞼越しでも感じる強烈な光と爆音で満たされる。
そして目に映ったのは――
「は?」
生きていた半数が血の海に沈んでいる光景だった。
おかしな見え方がする人影もなし。
まだ呪いで殺されたと言われた方が信じられる光景だ。
行われたことはわかる。
強烈な光を避けて目をつぶり、爆音が鳴っている間に射殺した。
だが、相手はどこにいる?
こめかみに銃口を押し付けられており、今この瞬間に射殺されるかもしれない。
そんな益体もない妄想が浮かんできたので、振り払うようにして首を振る。
「なにか、何かあるはずなんだ」
そう呟いて相手が姿を見せずに次々射殺してくるからくりを看破するために頭をフル回転させる。
明日も頑張ります。




