マルヨンフタサン-1
間に合いました。
「警察からの協力感謝する」
満身創痍の自衛隊員から敬礼を向けられる。
こちらも敬礼で返す。
村からの避難を担当していた部隊は壊滅的な被害を受けていた。
本庁の方からの指示を受けて機動隊などの警備部と即応できる人員が派遣された。
それなりの人数が痛そうだが――
「十人に満たないとはな」
「……避難が目的だったのでほぼ非武装だったが、上空からの砲撃は流石に想定外なので」
その表情はどことなく悔しそうだ。
しかしほとんどの民間人を逃がしたのは誇るべきことだと思うので。
「ほとんどの民間時を逃したヒーロー達がそんな顔をするな」
「……」
それでも自分たち自身を許せないらしく押し黙っている。
「まぁ、仇はこっちがとる」
と言っている間にヘリが空を飛ぶ空気を叩くような音が聞こえてくる。
本庁からのSATの応援だ。
噂によると結構な欠員が出たそうだが、かなり本腰を入れて派遣してくるらしい。
というのもかつての大事件あさま山荘に関わるとか何とかでえらく本腰を入れているらしい。
もしあさま山荘に関わるのなら長野県警の人間として気合を入れるしかない。
「やめた方が良いと思います」
「そういうわけにもいかないな」
つっぱねる。
確かにとてつもない兵器を持っているようだが、少人数という話だ。
何らかの交渉を行う時に窓際に出てくればこっちのものだし、疲れもするだろうからつけ切るスキはいくらでもあるはずだ。
すると相手は真剣な面持ちで忠告してくる。
「相手は厳密には人ではないです」
「なら、化け物とでも?」
聞き返したらはっきりうなずいた。
「見た目は高校生くらいの少女ですが、ビル一つを借り切って二桁の犠牲を出してようやく大けが負わせた仕留めきれなかった相手です、コードネームはブラックスミス」
「……マジか」
「ええ」
そして指を一本立てる。
「相手は目がものすごくいいそうです、想像を絶するほど」
そして二本目を立てる。
「恐ろしく腕のいい狙撃手です、物陰に隠れた程度だと眉間を撃ちぬかれますよ」
最後に、と前を気をして三本目を立てる。
「大けがを負わせた方法は、見えない場所から対処する前に襲い掛かることです」
「わかった、伝えておく」
と相手は敬礼をしてきたので、こちらも敬礼で返して別れた。
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ヘリが降りることができる開けた場所で本庁から派遣されたSATを待つ。
ローターからの暴風によって目を開けていることができない。
耳を打つ音は段々下がっていき、ドアが開けられる重々しい音がして十人のSAT隊員が降りてきた。
敬礼で出迎える。
相手も堂々とした敬礼を返してくる。
ついでいかにもお偉いさん的な格好の人間が降りてきた。
「潜伏場所は!?」
まだヘリのエンジン音がうるさいので声を張り気味に質問をしてきた。
「目下探索ちゅ――」
そこで無線が入る。
相手に断りおいれて受けると、相手は県警本部の通信手だ。
その内容をそのままSATと共に来たお偉いさんに伝える。
「わかったそうです、地図はもう送ったそうです」
「? 一体どういう――」
そこで相手も言葉を区切って懐から情報端末を取り出した。
それを見て目を見開く。
「相手に受け取ったと伝えてくれ」
「はっ!!」
そこで一応さらに言われたことをつたえる。
「自衛隊からというか、今からたたきに行くテロリストの専門家が来るまで待ってほしいともいわれたのですが――」
「聞かなかった、いいな?」
「ええ」
ということで聞かなかったことにした。
伝えられる情報では相手は一人。
かなりの狙撃手という話だが、弾切れもするだろうし付け入るスキはいくらでもあるはずだ。
「ええと、襲撃された隊員から話を聞いたところ、ものすごく目が良いということと、とてつもない狙撃手という話です」
「しかし、一人なのだろう? まったく隙を突かれたのかもしれないがたった一人になんてざまだ」
と話す口元には笑みが浮かんでいる。
どうやら思うところがあるらしい。
正直嫌な予感がしだすが無視をすることにした。
「では、とりあえず臨時の作戦本部を――」
といった瞬間ヘリの挙動がおかしくなる。
嫌な予感がして全員その場から全力で離れる。
ヘリは全く制御がされていない様子で、横倒しになり地面をローターで削り飛ばしながら物理的にめちゃくちゃになった。
「一体……何が」
巻き込まれた人間はいないようでほっとする。
続いて比較的原形の残っているヘリのコックピットを覗くと――
「眉間を一発……」
日本ではなかなか見ない銃殺された遺体があった。
きれいに額のど真ん中を撃ちぬかれている。
「……規格外すぎるだろう」
もし潜伏している場所から狙撃したのなら世界記録を桁一つ余裕で越えた次元が違う能力だ。
どことなく甘く見ていたが、背筋に氷が入れられたような寒気が背筋を登っていく。
「……悼むのは後に回そう、今はとにかくテロリストへの対処が先だ」
と言っている表情は青ざめている。
ここはすでに相手の射程内。
生きた心地がしない時間が始まった。
明日も頑張ります。




