卯月廿三日-1
間に合いました。
「各地の放射線のモニタリングはどうですか?」
頑丈な地下施設に簡易の指揮所を設けて、そこで通信手に話しかける。
簡易とはいっても通信システムに淡雪ちゃんを介しているので驚くほど通信周りは優秀だ。
そして今の技術とは比較にならないクラスの目となるドローン群を一部提供されているので主要な場所はすぐその場にあるように観測できる。
あとはそれを使いこなせばいいのだが、
「はい!! ええと――」
かなり優秀なAIと洗練されたUIが搭載されているので習熟は難しくないようだが。
部下の表情を見ると初めての機器のためなかなか苦労しているようだ。
「ありました!! 全国的に安定し――いえ、福島のあたりで急上昇しています、数値は――」
その言葉を聞いて正面に設置された大型ディスプレイに地図に可視化された線量が表示される。
欲する情報を自動で集計するのは流石に少し驚く。
その気になれば私一人で操作をできるかもしれないが――
「ワンオペは避けるべきよね」
見たところほかの原発は異常がない様子なので安心する。
線量が上がり続けている福島は心配だが人を派遣してどうこうできるものではない。
必要があれば死地に向かうよう命令を下すが、正直なところ無駄死になる可能性が高いのでここは祈るしかない。
それに原子炉での事故が起きることは想定済みのため、元々遠くから攻撃できる艦船か素早く移動できる航空機しか支援に出していないというのもある。
「そして首都圏からは?」
「当初の予定を大幅に超える人数が集まったようですが首尾よく対処したとのことです」
「ありがとう」
少し考えこむ。
複数回破壊が必要な巨人など当初の考えを超えた出来事は多いけれど今のところは対処できている。
うまくいっているときこそ慎重に動くべきだ。
何より――
「ノスタルジストの動きがないのが不安ですね」
メンバーはあと二人、特にウォーモンガーと呼ばれる戦闘に最も秀でる存在が厄介だ。
リーパーから聞き出したスペック通りなら手持ちの火器だと傷も入らない。
艦船の速射砲でなら不可能ではない装甲とそれらを簡単にスクラップにする火力を併せ持つ厄介な相手だ。
一応確認を取る。
「出動している部隊に連絡を取りなさい」
「わかりました」
ディスプレイの脇に安否の確認が取れた部隊が次々記されていく。
福島と首都圏の部隊は警察も含めて無事だ。
が、ある場所の部隊と通信が取れていない。
そこは――
「長野県の部隊?」
思い出すのは栄村付近の住人を避難させるために派遣した部隊だ。
何故?
と思うがあることに気付いた――
「昭和四十七年の長野県で起きた大事件」
自衛隊より警察の方が深くかかわっている事件であり、その後日本に大きな影響を与えた立てこもり事件。
「あさま山荘事件!!」
そこは思わず鋭い声が出てしまう。
が、すぐに落ち着いて指示を出す。
「今すぐ部隊と通信が途絶したと思われる地点と時刻を割り出して」
「あ、はい!!」
一人がすぐにとりかかる。
それを目の端でとらえて次の指示を別の人間にくだす。
「動かせる部隊はないか確認して、場所が場所だから足は確保するわ」
「わかりました」
ほかの人間――とりあえずその場にいる人間全員に指示をだして電話を取る。
少し悩むが因縁深いはずの警察関係だ。
いの一番に連絡したということは大きくはないが、小さくもない貸しになる。
心証への影響を与える程度だがそのような積み重ねが関係性につながっていく。
覚悟を決めてダイヤルを押した。
明日も頑張ります。




