4月10日-1
なんとか間に合いました。
20190413 一部の名前が間違っていたので訂正いたしました。
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目を覚まして思い出すのは昨日の事だ。
捕まえた『嗤い面』をスマートホンごと淡雪に渡したら、ものすごい笑顔で受け取られた。
どうやらコピーとの連続投稿の戦いはかなり腹に据えかねていたらしい。
対策本部は引き払われていたため、最寄りの警察署の隅の部屋が割り当てられた。
「おはよう」
挨拶をしながら身を起こすと、いつも通りの柔らかな笑みを浮かべた淡雪が目に映る。
今日は長い髪を後ろのあたりでお団子のようにまとめている。
髪が下されている状態では全く見えなかったうなじがまぶしい。
「いい」
「?なにがですか?」
「よく似合ってる」
そこで自身の髪形に気付いたのか、笑みを濃くして。
「ありがとうございます、こちらの方が好みなら――」
「元の髪形の方が好みではある」
するとクスリと小さく笑い。髪を結っていたヘアゴムを外し、流れるように髪がこぼれる。
「そろそろ『嗤い面』の無力化と情報の抜き出しが終了します」
「どんな塩梅だった?」
と言いつつ近づく。
テーブルには一台のパソコンが置かれ、スマートホンから取り出された記憶メディアが接続されている。
と、妙なことにそのパソコンには壁につけられたコンセントではなく、大型のバッテリーから電源が取られている。
不思議に思ったので淡雪に視線を向ける。
それに気づいたのか教えてくれた。
「どこから逃げるかわからないので電源も含めてこのパソコンは完全に隔離されています、もちろん電子機器はこのパソコン以外はペースメーカーも含めていれないようにしてもらっています」
苦笑して。
私と山上さんの装備はハッキングはできないように物理的に封鎖済みです。
とも続ける。
「それはまた厳重だな」
「やるなら徹底的にです」
パソコンの画面には何度か見た人を馬鹿にしきった顔が映っている。
脇のテキストファイルには何事か書き込まれ続けている。
どうやら無駄だし、本体ではないから逃がせという旨らしいが――
「これ本気か? 逃がすわけがない。」
「どうやら本気のようです。」
そこで一度淡雪は考え込み。
「サイコパスという言葉を聞いたことはありますか?」
「まぁ、何度かは」
すると画面の『嗤い面』を指さし。
「まさにその症状を示しています、精神科の医師による判定は行っていませんが一般的に言われるサイコパスの要素をすべて満たしています」
何本か指を立てて。
「良心の欠如、その場しのぎの嘘、高すぎる自尊心、他人を支配しようとする傾向があるなどです」
「なるほど」
こちらの言葉は聞こえていないようで、同じ調子でどう見ても口から出任せの脅し文句を続けている。
「情報の抜き取りはどこまで行けた?」
「すべてです、どこからきてどうやって生まれて、目的は何か? 何ができるのか?などなどです」
「ほんとに全部って感じだな……で結果は?」
口の端に満足げな笑みを浮かべて。
紙の束を差し出してくる。
中にはかいつまんだ説明が最初に書かれているが――
「紙の理由は前にきいたが、なんで手書き?」
「プリンターに細工されないようにですね」
「そこまで気を付けるのか?」
「気にしすぎて悪いことはないですし」
といって手にしたペンを見せてくる。
まぁそこまで手間になってないのならいいかと納得して中を読み進めていく。
そうするうちに血の気が引いていく。
「かなり危ない状況だったんだな、世界中に殺人鬼が出るところだった」
今度は泣き落としに入っている『嗤い面』をちらりと見て。
「肝心の行動ルーチンがダメな奴だったようで助かったよ」
「私にも言えることですけど、性能に驕るとよくないということですね」
「……一応確認だが、逆ハッキングとか受けた可能性は?」
少しだけ淡雪は考えて。
「『嗤い面』とはこのパソコン越しでしか相対していないです、画像にコードを紛れ込ませて仕込んでくるなども想定して、目に細工済みです」
「なるほど、おかしな仕込みはない、と断言できるわけか」
そこではっきりとうなずいた。
そして淡雪はパソコンのキーを叩いてハードディスクの初期化を開始した。
いまだ喚いている様子だがもう興味はないので淡雪と会話を続ける。
「で、出所なんだが――」
「いつもの街、しかも場所が隔離病棟なんですよね」
となるともう心当たりは一人しかいない。
「安逹か」
「ですね、これは私のミスです、あの時最初に何か手を打っておけば」
「それは違う、俺もあの時の安逹の様子がおかしいって伝えなかった」
二人して軽く気落ちする。
が気を取り直す。
「ともかくこの報告書を針山さんに――」
とそこで針山さんが中に部屋に駆け込んできた。
「あ、ちょうどいまあがったところで――」
「二人ともいいか!?」
かなり慌てている様子だ。
「この写真を見てくれ」
と言って一枚の荒い画像の写真を見せてくる。
そこには灰色のぼんやりとした人型が見えている。
なんのことか全く理解できていないので聞き返そうとすると――
「Gray Ghost――」
「は?」
淡雪がポツリとそういった。
何事かと思ってそちらを振り向こうとしたら――
「ああ!! クソ!! なんか知ってたか!!」
と、針山さんが声を荒げた。
すると異様に印象の薄い男性が現れた。
「では針山警部補、彼らを借りていくよ」
「ああ!! ったく!! あくまで二人に聞け」
といって苛立たしそうにその場をあとにした。
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「では、自己紹介から始めましょうかね」
にぃ。
とどこか蛇を思わせる笑みを浮かべる男性。
思わず腰が引けてしまう。
「なに、そこまで気にしなくていいよ、山上奥谷君」
「!!」
いきなりフルネームを呼ばれ驚くが、針山さんには伝えてあるためさほど気にしなくていい。
と思っていたら――
「ところで君のおじさんも心配しているから電話はしなくていいのかね?」
「え?」
意識に空白ができるうちに――
男性は近くに置いてある置き電話に何らかの電話番号を入れて、受話器を渡してきた。
「おぅ、奥谷か? 大丈夫か?」
幸次さんが出た。
どうして?
という思いが頭の中に満ちて、幸次さんには悟られないように必死で取り繕い電話を終える。
「うん、おじさんも山上奥谷君の元気な声を聞けて嬉しそうだったじゃないか」
さすがに針山さんには幸次さんのことまでは伝えていない。
冷や汗が背中ににじむのが感じられる。
「どなた、でしょうか?」
「そうだね、僕のことは岩田と呼んでほしい」
「岩田、さん」
よろしく。
と言いながら手を差し出してきたので握手を返す。
「ところでそっちの君は何者なんだい? ほとんど情報がないんだけど?」
「ええっと、ですね」
と言って淡雪は目をそらす。
しかし、そんな様子を気にせず岩田さんは話を切り出してくる。
「どこまで知っているかわからないからとりあえず最初から話すけど、今この日本は海外からの物流が閉鎖されているんだ」
「え? でもそんな話どこにも」
「だって大混乱起きるからね、騒ごうとした層もいるけどほらずっと緊急事態だったしね、すこーしだけ黙るのに合意してくれたよ」
割ととんでもないことを言われて頭がクラクラする。
が気を取り直してしっかりと耳を傾ける。
淡雪も同じつもりらしい。
「でね、封鎖、というか調査に出た船やら飛行機を破壊して回ってるのがこいつ」
と言って写真をしめす。
「あ、これ比較対象ないからぱっと見わかんないけど、二百メートル超えてるから」
「はい?」
それはあまりにもばかげた大きさだ。
怪獣映画でも百メートルはなかなかいないのに、それを倍以上も超える存在だ。
「まぁそんなわけで、昨日あたりから救助の無線が飛び交ってるんだけどお手上げで、小耳にはさんだの君たちってわけ、好きでしょ?人助け」
「っ!!」
怪しすぎる相手から言われた言葉だ。
鵜呑みにできないし、いいように使われる気がするが――
「行きましょう、助けてほしいという救助を要請する情報は本当なんですから」
「あ、そうか、君って無線も傍受できるんだ、へーぇ」
総毛だつ。
何がどうというわけではないが、この岩田さんの前では余計なことをしない方が良いという確信が湧いた。
「とりあえずここに行って指示を仰いで、この封筒を渡せばよいように取り計らってくれるはずだから」
と言いながら地図と封筒を渡してきた。
地図には丸が打たれており、封筒は完全に無地だが厳重に封がされている。
嫌な予感がぬぐい切れないが頭からその思いを振り払い指示された場所に向かうことにした。
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指示された場所に向かうと体が鍛えこまれた大人の男性たち、自衛隊員に止められたが言われた通りに封筒を渡すと多くの人が集まっている場所に案内された。
そこには疲労がありありと見て取れる初老に入りかけた男性たちがいる。
服装からすると海上自衛隊に所属している様子だ。
「まず一つ言いたいことがある」
「え!? な、なんですか?」
「私たちまだ来たばかりなんですが――」
淡雪と二人で少し挙動不審になると、一番偉いと思われるその人が――
「来てて感謝しているということだ」
と目だけを伏せるような礼をしてきた。
本来なら民間人を守る立場にいある側が、民間人それも未成年を危険にさらしかねないことを頼んでいるその慚愧の念が込められた動きだった。
何を言うべきか迷い、結局無難な言葉を返すことにした。
「がんばります」
「急いで助けに行きましょう」
そうして、話が始まった。
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「まず巨大な敵対行動をとる対象、協力者Aの仮称を使いますがグ、gr――『グレイゴースト』は洋上のこの範囲」
と言って地図に丸を書き込むがかなり広い。
「に出没しています、昨日からで自衛隊だけでも航空機3機、艦船4隻は撃破されています、そして民間の船もです」
一瞬痛ましい空気が流れる。
が、すぐに気を取り直し。
「得られた情報はひとつ、こちらからの攻撃はほぼ無意味――損壊はすぐに回復されたこと、そして神出鬼没の移動力です」
そこで少し気に合っていることを聞く。
「ねぇ淡雪? あの巨体にこの片手剣程度でダメージを与えることができると思う?」
「実際にやってみないとわからないですが、最悪は速度を乗せての肉弾戦の方が有効かもしれないです」
「破壊はおそらく無理だとこちらも判断しまして、現時点では『グレイゴースト』を要救助者がいる場所から引き離すことを優先してください」
「では私はその付近の海域で要救助者の詳細なマッピングと支援物資などの投下を行えばいいですね?」
「ええ、実は出没範囲近くに輸送艦やヘリ搭載型護衛艦を派遣しています、連携して救助に当たってください」
説明役の人がそこでいったん言葉を切る。
「簡単な説明ですが、お願いします」
「はい!!」
「わかりました」
頼まれごとが多いなぁ。
などと思いながら、気を引き締めて外へと向かった。
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そこはどんよりとした雲が垂れこめた陰気な海だった。
淡雪の指示に従い進んでいると見えた!!
「でかい」
まだかなり位置があるのに海面の上にゆらゆらと立っているその姿は異様だ。
さて、どうしようか?
などと思ったら、こっちを見た。
「く!!」
急ブレーキをかける。
そこで動きを考えていると『グレイゴースト』が走ってきた。
かなり距離があるように見えたがみるみる近づいている。
その姿はたくさんの金属をかき集め積み重ねた武骨な姿をしている。
各部は白い靄らしきものがかっている。
と、淡雪から連絡が入る。
「山上さん!! よけて!!」
「は?」
ただ走っているだけにしか見えない。
がどこか頭の隅にひりつく嫌な感覚が走る。
「『グレイゴースト』のスピードは――」
横に急いで加速し始める
「約マッハ4!!」
間に合わず直撃した。
体中が混ぜ合わされるような感覚がする。
はねられ、水切りを行う石のように何度もバウンドし――
「Gaaaaa!!」
先回りされ逆方向に打ち返された。
そうか、こいつは――
「Shiiiii!!」
また先回りされる。
でかくて、速い。
ただそれだけ故に強い化け物なのだ。
海面なのにコンクリートに打ち込まれたボールのごとく体はバウンドする。
そこでようやく音速を越えたときの轟音と衝撃波が吹き荒れ始めた。
明日4月13日は帰宅後に用事ができてしまい続きを書くことができません。
そのため明日は投稿がありません。
大変申し訳ありませんでした。