4月23日-2
何とか間に合いました。
「少し歩こうか」
「はい、山上さん」
もうすっかり夜遅く、もう初夏に近かった宮崎県の空気も少し冷めている。
触感はほとんど感じない右手で淡雪の左手をつないで歩く。
少し覚悟を決めて指を絡めるような握り方に変えようとすると、淡雪は少し頬に少し朱がさしてかすかにうなずき応じてくれた。
「その――」
「なんですか? 山上さん」
俺が何かを言いたそうにしているのを察して聞き返してくれる。
俺が言いたいことは――
「名字ではなく名前で呼んでほしいな、と……」
言葉は尻すぼみなるが確かに伝わったようで、月に照らされたその顔は朱が濃くなる。
最初――四月の頭はどこか人形のような印象だったその顔はもうすっかり人間味にあふれている。
「奥谷――さん」
「うん、ありがとう淡雪」
互いにはにかむような笑顔を浮かべる。
大変なことはあるし、明日――もう今日だが、日本史どころか世界史に残りかねない大震災が訪れる。
今までの中で最大の激闘が起きる可能性が高い。
ノスタルジストの他三人。
そして化け物たち。
どれもこれも気が滅入りそうになるくらい強力だろう。
でも、手伝ってくれる――いや戦うことを選んだ人も多くいるのだから絶望的ではないだろう。
深夜になり、風のかすかな音しか聞こえない。
「静かだな――」
「ええ、でも死んだ静けさじゃなくて、眠っている静けさですね、そして朝にはもっと活気がでますよ」
事実、見える建物は明かりがついていない物も多いが、オレンジに見える常夜灯がついているところもある。
また、遠くにはいまだにフル回転で物を運んでいる車の列も見える。
「朝、明日――か」
ポツリとつぶやく。
「どうしました?」
こちらを覗き込むようにして淡雪は問いかけてきた。
「いや、何でもない」
今日はもう二十三日。
あと泣いても笑っても一週間で平成は終わる。
そのあと淡雪はどこに行く?
そんな疑問が胸の内に浮かぶ。
それを首を振って振り払い。
「俺たちも明日のために寝ようか」
「ええ、そうですね」
割り当てられたホテルの部屋(当たり前だけど別室)に向かう。
その足取りはどちらからともなくゆっくりとした歩みだった。
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夢を見る。
「ぁ――」
夢の中で手を伸ばす。
「―――」
夢の中の彼女――淡雪は今まで見た中で一番きれいな顔で笑う。
その笑顔は無防備と言えるほど無邪気だ。
「奥谷さん――」
つぶやくその言葉は穏やかだ。
「生きて!!」
言い切ったその後に、淡雪は白い光に呑まれて焼滅した。
「あ――」
腹のそこから叫ぶ、それは悔しくて苦しくて、そして怒り。
いつの間にか誰かが傍らに立っている。
その人物は楽しげに透明に輝く結晶を差し出す。
「――――」
何かを説明する。
そして、俺は――
「明日なんて――」
俺の顔は今にも泣きだす寸前にも、世界を恨んでいる様にも見える。
手をその結晶の上に置き――
「こなくていい」
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「っ!?」
飛び起きる。
身体は汗で濡れている。
心臓はいまだに早鐘のようになっている。
「……」
体の各部を見るが変わったところはない。
「なんなんだ、いったい」
その不安を振り払うようにベッドから出て身支度を整えることにした。
明日も頑張ります。




