4月22日-4
間に合いました。
そこは戦場のよう――実際最前線という意味では戦場なのだろうと思う。
全員が一瞬たりとも無駄な時間が無いかのように常に駆け足で何事か行っている。
その中の一人、おそらく今まで指示を行っていた自衛隊の方が穂高さんに報告にくる。
ごく自然な動作で型にはめたような敬礼を行う。
「ようこそ、穂高二佐」
「今までご苦労様でした、これからはわたしが指揮を執ります」
相手は明らかにほっとした表情をした。
同時にどこまで進んでいるかの説明も行っている様子だ。
それが一段落した後で、
「さて、この場にはいませんが実は別ルートで補充部隊を手配しています」
「それは――ありがたい話です」
そして穂高さんはいくつかの紙束を渡す。
「あらかじめ入っていた部隊の疲労が濃い所と交代で休息をさせたいので采配をお願いできますか?」
「いまこの波を越えるために投入してはどうでしょうか?」
その意見に対して穂高さんはあることを聞き返す。
「今が一番大変だという見通しがあるのですか? 勘でも良いですよ、現場の空気を知っている人間の勘は本質をとらえていることがありますので」
その言葉を相手は否定する。
「……ありません」
「ということはより大きな波が来る可能性があります、果たすべき時に最大限のパフォーマンスを発揮できるようしておくべきです、わかりましたか?」
「了解」
あとでこちらに向き直り。
あの時の笑顔を見せる。
「では早速ですが仕事です」
「はい、まず何をすればいいんでしょうか?」
すると地図を渡されて――
「まず分かっていることは多少準備をしていたとはいえ家畜の殺処分どころか診断も追いついていないのです、なのでこの地図に記されている場所を回ってサンプル――家畜と人の体液などですね、それを回収して研究所に運んでください、とにかく準備済みの所から回ってほしいので大変でしょうが頑張ってください」
ああ、あと。
と言葉をつなげてくる。
「かなり悲惨な状況を見ることになりますから覚悟を決めてくださいね」
「……はい」
笑顔で脅してくるような内容だったので内心顔を引きつらせながら答える。
「行ってきます」
と言って空を飛び始めた。
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「連絡のあった運び屋の方ですね」
表情には濃い疲れが見て取れるがそれでもピシりと音が入るような美しい敬礼で迎えられる。
それに対して俺も会釈をするようにして挨拶する。
そこもやはりひどい状況だった。
倒れた家畜は唸るような息をしながら、汚物を垂れ流してひどいにおいが立ち込めている。
それを一頭一頭安楽死させるためのガスや設備すらも満足になく、遠巻きに見ていることしかできない飼い主。
そして飼い主の結構な人がひどい咳と熱から倒れて、公民館や学校の体育館などのまとめて寝かせることができる場所に集められている。
それは決して治療施設ではなく、完全に隔離施設だ。
渡されたケースの中身は詳しくは知らないが、それでも大事なものであることには変わらない。
「たしかに受け取りました」
用心のためなのか受け取ったことを示す書類とそれの写しを残していく。
「あの……だいじょうぶですか?」
疲労がかなり積もっているようなので思わずそう聞き返す。
するとあいてはかすかだが表情を崩して。
「ただ全力を尽くすのがやるべきことですから」
「わかりました、でも倒れないように全力を尽くしてくださいね」
そこで虚を突かれたような顔をして。
ただ敬礼で返された。
「よし!! がんばろう!!」
再度気合を込めて研究機関にサンプルが納められたケースをもって空へと飛びあがった。
明日も頑張ります。




