4月9日-1
何とか間に合いました。
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「つ、つかれた」
その場にへたり込むように倒れる。
もうすっかり深夜に活動することが増えてしまっている。
「そうですね」
淡雪の方も同じらしく、声に元気がない。
その様子を幸次さんが苦笑しながら見ている。
思い返せるのはいくつか忙しさの波があったということだ。
最初の波は耐え難い悪臭に耐えて食事を行った人が思ったより多かったことだ。
幸いこのあたりは食べ盛りの人間や大食漢だったため体力が多目なので重症化する前に病院に送ることができた。
その時点で広い範囲で発生した食中毒が認識され始めたが、地震によって破壊された情報インフラのせいで正確な情報の拡散がスムーズに行われず食中毒の拡散は進んでしまった。
そこまでならまだ予想できた。そこから後はほとんど自分たちがやらかしたことの後始末ばかりだった。
少し気まずそうに淡雪が口を開いた。
「異臭騒ぎを甘く見ていましたね、まさかあんなデマが出るなんて」
デマというモノの本質は刺激的で自分が信じたい事を伝える行動だ。
だから水やらの配給に国が毒物を混ぜたという突拍子もないデマが出回り始めた。
伝える方は悪気なく大仰に伝えてしまう、そのことに出所不明の悪臭が拍車をかける。
となると配給の物品に口をつけず、他人が備蓄していた非常食を狙う人間が出てきたのだ。
上記のデマを理由に分けてもらうことを頼み込み、近所の人間の頼みなのでこころよく分ける例がほとんどだった。
一部が詰め寄り集団圧力で無理やり共同の非常食にさせた例もあった。
また他の集団が、市役所職員などの公務員は毒物が入っていない食糧を確保しているというデマを理由に職員たちに詰め寄る騒動も起きた。
「ままならないもんだな」
同時に発生したのは、ばらまいた物質がにおいの強さで選んだため、都市ガスに含まれていることが問題になり、大規模なガス漏れ事故だと思われてしまったことだ。
そのために安全が確保されるまで街全体の活動自体を停止されてしまった。
これは大きな失敗だ。
しかも、同時に子供や老人などの体力がない層が本格的に具合が悪くなってしまっったことも重なり綱渡りの連続だった。
「似たようなことがまた狙われないとも限らないし、どうにかしないとな……」
「そうなんですが、人手を借りようにも一昨日のような今明らかに起きている事件へ協力を求めるならまだしも、今回みたいな確証がない場合には……」
うーん。と二人でうなっていると、幸次さんからあきれたような声でこう言われた。
「警察や消防に訳を話して協力がもらえるようにすればいいだろうが」
そうしたいのはやまやまだが――
「頭のおかしな人間として相手にされないと思うが」
「こればっかりは、信用の問題ですし――と、あ!!」
何かを思いついたかのように淡雪は声を上げる。
「一昨日協力した人たちがいます!! その人にあらかじめ訳を話しておいてですね、こっちの人にそれとなく話をしてもらうってどうでしょう? 今回みたいな化学テロを起こさなくてもよくなると思います」
そんな都合のいい話はないだろう。
という思いが湧くが、頼むだけならタダだし、ダメもとでお願しにいこうという思いが出る。
幸次さんを除けば、二人しか動ける人間がいないというのが弱点なのだ。
協力がもらえるようになればいいし、知恵を借りれるだけでも大きな助けになる。
「よし、そうと決まれば早速話にをしに向かおう」
「ですね」
といって二人で宙に浮かぶ。
それを幸次さんは気負った様子もなく見て。
「朝までには帰って来いよ、学校が再開する可能性もあるからな」
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「で、来たってわけか」
苦虫をかみつぶした様子でうなっている男性。
しわと白髪が浮き始めているが鍛えこまれているのがよく見てとれる。
年季は入っているがよく手入れされているスーツはよく似合っている。
場所は地下鉄の出入り口が見える対策本部らしき場所だ。
多少騒動はあったが、淡雪がある手土産を渡したらなぜか関係者と話ができている。
「はい!! 刑事さん」
以前に会っている淡雪に会話を任せているが、非常に頭がいたそうだ。
男性――刑事は金属製の鎧を着ているこっちにも視線を向けて。
「こっちのコスプレじみた格好の小僧も嬢ちゃんの仲間か?」
「そうです」
うなずく。
刑事はしばらく虚空を眺め。
意を決したように話し始める。
「地下鉄の除染が済んでない、朝までに何とかしろって言われているがどれもこれも問題があってうまくいってねーんだ、俺のもっと上の奴がひーひー言ってるんだが、嬢ちゃんならなんとかできるか?」
「はい、できますよ」
と、あっさりと返事をした。
その返事を聞いた刑事は喜色を浮かべ手を打ち、奥の方を指さし。
「よし来た!! 嬢ちゃんは向こうの方に行って一番疲れ切っている奴に俺の名前、針山を出して話してこい、そいつにはおかしな嬢ちゃんが手伝ってくれたことは通してある」
「はい、ではいってきます」
と言って向かっていった。
あとには刑事と俺だけが残っている。
「で、小僧は何ができる?」
「実は斬った張ったくらいしかできないんです」
大人と話すときは意識して改まった言葉を選ぶ。
なんといってもお願いするのはこちらなのだ。
「うーん、あの嬢ちゃんもとんでもなかったが、小僧――と山上もか?」
「淡雪がいうにはお――こちらの方が強いらしいです」
思わず普段の一人称が出てしまいかけたので慌てて訂正する。
その様子に苦笑でかえして、
「俺っていったくらいじゃ気にしねーよ」
「すいません」
そこで針山さんはを改めて、
「いや、こっちも頼みごとをしているんだったな、悪かった」
そこで深く頭を下げてきた。
「さて、さっき二人が言ってきた協力についてだが――」
一つ大きく息を吸い、吐いた。
「直接行うことはかなり厳しいと思う」
「やっぱり……」
わかってはいたことだった。
しかし、除染の手伝いはできたので来た意味はあった。
「いやいや、勘違いするな、直接は難しいって話だ」
あわてて針山さんは否定してくる。
どういう意味かとりあぐねていると――
「昼間みてーな、多分水か食料が汚染されているってことを伝えられたなら、テロの危険性をこっちからそっちの市に伝えるとかの手伝いはできる可能性は結構ある」
「どういうことですか? 正直なところ俺たち二人はものすごく怪しいですよ」
「まず理解してもらいてーのは、こっちはそっちの話を鵜呑みにはしない、これが大前提だ」
考えてみれば当たり前だ。
警察などの治安維持組織は、ある意味では俺と淡雪二人よりずっと広い範囲と人間を守っている。
だから重い腰はそうそう動かさないだろう。
「でも重要なタレコミの一つくらいには思っている」
「なるほど、昼間の件ならそういう内部告発など確度がそれなりに高い情報が有った、としてくれるわけですね」
「ああ、それでなくても時間があれば相談にのるぞ、正直なところ命の責任は二人が思っている以上に重いぞ、子供二人が背負っていいものじゃない」
その言葉におとなしく頭を下げる。
と、針山さんは気恥ずかしそうに頭を掻きながら。
「ああっ!! くっそ柄じゃねーことは言うもんじゃねーな」
と、その時だ警察無線から一斉に雑音が響く。
それはチューニングを行うようにまとまっていき。
「新元号は平成です」
といって急激に途切れた。
「どうした? 山上?」
針山さんが不思議そうな顔でこちらを見ている。
同時に連絡が一つ入る。
[山上さん!! 出ました、クリーチャーです!!]
[どこだ?]
[ええとわかりません、物理的に存在していないのかもしれないです、でも信号の強さからするとすぐ近くです]
[く、またか]
と渋い顔でいると、針山さんが肩を叩いてきた。
「おい!! 何があった」
「説明で出していた化け物が出ました、でもこれで二度目ですが場所がわからない、すぐ近くって話ですが……」
「なるほど、こういう時はむやみに動くな、情報を確認するんだ、通報してきた相手は混乱して必要な情報をすっ飛ばすことが多いんだ」
なるほどと納得したので一つ深呼吸をして聞き返す。
[そこから情報収集とかできるか? 多分地下だよな?]
[正直な話、上にいる山上さんの方が詳しく調べられると思います、必要な分だけ残してあとはそちらに回します]
[OK、ドローンを回してほしい]
というが早いか駅出入り口からドンドン情報収集用のドローンが飛び出して付近を飛び回り始める。
「情報収集を行うドローンを展開中、おかしなものは――」
ない。
全くないのだ。
人が集まっている喧噪こそあるが、事件らしきものは何も起きていないのだ。
「なにか起きたはずなのに――」
焦燥感が募る。
と、もう一度深呼吸して考え直す。
「すぐ近くなのに見つからない……物理的に存在しない……」
そこである疑問が浮かぶ。
[なぁ、淡雪?]
[どうしました?]
[まだ近くにいるか?]
[はい、まだ近くにいます 確かに存在しているはずなんです]
答えではないがあることに気付いた。
「今までの化け物は決められた行動を行うだけだったが、今回の化け物は隠れている、つまり知能があるんだ」
「いま現れるとまずいから息をひそめて活動を待っているってことか、小賢しいな」
もしくは誰かが現れる条件を満たしたら現れるということだろう。
考え込み動けずにいると、一つの着信音が響く。
すぐ近く――
しかし、物理的に存在しないモノがある。
鉢山さんは懐からスマートホンを取り出して――
「あ!?」
唐突にひらめいた。
存在しているが、物理的な意味では存在していないモノ
スマートホンの受話ボタンを押したのが見える。
「電子情報!!」
「は?」
と、針山さんのスマートホンの画面にでたらめな文字列が走り――
醜悪な顔がゲラゲラと笑っていのが見える。
そのままスマートホンは発火しだした。
「あっつ!!」
針山さんはスマートホンを落としてしまう。
逃げられた。
その思いが去来した。
「やられた」
すぐさま落とされたスマートホンを拾って確認するが、かなり焼け焦げていて中身が無事かどうかはわからない。
「すまん、オレのせいだ」
「いえ、これは相手が上手だったのでしょう」
挑発するような、馬鹿にするような行為。
この化け物は明らかに知性があり、今までのような嵐のような悪意ではなく、人間の狙いすました悪意を持っているのだ。
だからこそ、先ほど針山さんからの言葉を思い出す。
むやみに動くな。
という言葉だ。
「中身の解析は淡雪が帰ってきてからにしましょう、きっとこの場の誰よりも詳しく調べられます」
「……わかった、とりあえず今は、な」
その言葉に力強くうなずく。
「絶対に捕まえましょう」
出し抜かれたがまだ負けではない。
そう心に刻んだ。
明日も頑張ります。
ただ実際の日付に追い付くのは無理かもしれません。
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