4月21日-7
間に合いました。
「ここです」
用心のため医者と子供さんはあの後返して、ガイドとして母親を青木さんの車に乗せて一緒に診療所を名乗る場所に来た。
「ここの座標ってわかる?」
淡雪に問いかけるが首を横に振られる。
「まったくわかりません、連れてこられないとたどり着けないという制限はかなり厳しいようですね」
そこで青木さんは気楽に話す。
「でも、今回は楽勝でしょ? ただの疑似医療を再現しているだけだし、中に入って倒して終了でしょ?」
母親が物騒な会話に目を白黒させる。
「え? いったいどういうことなんですか?」
「もう気づいているだろうけど、相手はカルトの出先機関でさ、まぁこれから押し入って資料とか回収するってこと」
と嘘八百を並びたてる。
が、断言されたからか曖昧な表情でとりあえず納得した様子だ。
一瞬車の中に残して三人は外で話そうかと思うが、すぐに思いなおす。
ここは相手のホームグラウンドだ、何が起きるかわからない。
「ええっとですね、青木さん」
淡雪が非常に言いづらそうに話す。
「今まで私たちがほぼ一方的に相手できたのは相手のペースに乗らないように相手してきたからです、例えるならカードゲームをしているテーブルを破壊するレベルの唐突さで相手してきたわけです」
「つまり?」
「あの建物に入る――診察に訪れるわけにはいかないのです」
そこで青木さんは納得した。
「あー、なるほど、そりゃあぶないねー」
そのあとすぐに切り返してくる。
「じゃあどうするの?」
「こうします」
風切り音を立てて銀色の一線が走る。
いつものように金属球だろう。
それがいくつもいくつも小さく分かれてミキサーにかけるように建物を崩していく。
その様子に母親は完全に取り乱している。
「あのね、せっかくごまかしたのに真っ向からひっくり返す事やめてほしいなぁ」
といいつつ、別に本気ではなさそうだ。
そんな話をしていくうちにみるみるうちに建物は瓦礫の山になり、怒り狂った化け物が飛び出してくるが――
「これで終わりですね」
一呼吸もしない間に眉間を撃ちぬかれた。
そして音もなく崩れていく。
「……あっけないというかなんというか、こと真正面での戦闘は圧倒的だよね」
「リーパー相手には間違いなく勝ったというのがないので微妙です」
ぼやくように答えた。
リーパーは大鎌も厄介だがそれ以上に有利不利を見抜く目がこっちよりも上なのが厳しい。
「ま、過去の事でくよくよするのはやめて次の事に取り掛かろう」
「そうですね」
そうしている間にGPSも機能するようになったのか、淡雪が声を上げる。
「こおがどこか分かったのですが――」
「どこなの?」
非常に言いにくそうに口に出す。
「本州の端、山口県です」
「は!?」
慌てて青木さんはスマホで確かめ始めて。
「本当だ、元が東京湾付近――関東だったのにそんなに運転してないの山口県まで来てるのは流石にでたらめすぎるでしょ」
「え!? 山口県ってあの山口県ですか!? どういうことですか!!」
さすがに黙っていられなくなったのか母親が声を上げる。
淡雪が口を開くが青木さんが止める。
これ以上不審に思われることをやらない方が良いという判断だろう。
「こちらが連れ出したようなものですし、帰りの旅費はこちらが出すので安心してください」
「当たり前です!! まったく何を言ってるんですか――」
と段々興奮しだす。
青木さんは視線を俺たちに向ける。
軽くうなずいたことから先に下がっておけということだろう。
その言葉に甘えて車の外に出た。
すると、メールが一本入る。
その内容は添付された番号に連絡を取って人を呼んでほしいらしい。
おそらく未成年より成人が欲しいということだろう。
少ししか向けられていないが母親の勢いはすごいと思う。
「じゃあ、よろしくお願いしますね」
どうやら連絡は終えた様子だ。
なので淡雪に向かい話しかける。
「子供の虐待をしていてもあんな風になるんだな」
「おそらくですが、あんな風に憤るから虐待まで至ってしまうのだと思います」
不思議に思ったので聞き返す。
「というと?」
「あくまでも想像でしかないですが、過剰に気にかけてしまい何とかしたいから実績が積まれていない物に飛びついてしまうのだと思います、一縷の望み掛けて」
その考えを聞いてため息をつきながら返す。
「そして、あんたのためにやっているんだから嫌がるなんて何事だ!! ってなるのか、本末転倒って言ってしまえば」だけど」
「やるせない話ですね」
ポツリと淡雪が漏らした感想に俺もまた強く同意した。
明日も頑張ります。




