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4月20日-6

何とか間に合いました。

「速攻で行きます!!」


 叫び突撃します。

 パイロットの方はさっきの時点であと五分が限界だと言っていました。

 だとしてもいつ緊張の糸が切れるかわからない状態です。

 素早く倒す必要があります。


「あらいいのかしら? 自動操縦のコントロールを先に取らなくても」


 しかしそれは誘いでしょう。

 その気になればすぐに奪えるでしょうが、“ディープスロート”からの妨害でいつどうなるかわからないと思います。

 そもそも軽く調べたら、物理的にコックピットに入らないといけない可能性が高いのです。


 だから少々乱暴な考えですがまず相手を倒してからが最善だと私は思います。


 それにこの状況は相手は苦手のはずです、なぜなら――


「音を伝えにくいでしょう? 気圧が低いから!!」


「そうね」


 表情は少しだけ忌々しそうです。


 そして同時にハッキングを仕掛けて、ドンドン防壁を抜けていきます。

 あと三十秒ほどでハッキングを完了させて無力化できます。


 しかし“ディープスロート”は少し余裕がありそうです。


「確かにこの状況では音は減衰しますが――」


 一歩下がって、扉に――客室につながるそこに手を付けます。


「それでもある程度の人間の脳を破壊することは可能なんですよ」


 血の気が引く。

 ここはたくさんの人質がいるような状態なのです。


 慌てて金属球を二つ壁に投げつけます。

 同時にハッキングを一時中断して、“ディープスロート”から発振される音波を解析して逆位相の波を当てることで軽減させます。


 少し出遅れたが間に合ったと思います。

 そんな安堵を無視して、“ディープスロート”は客室に飛び込みました。


「あ」


 まずい。

 このままでは私は乗客を気にして戦わないといけませんが、相手はほぼ自由というだけでも不利になります。


 頭の隅で、有利と不利ばかり気にしているのはよくない傾向です。

 という反省するような思いが湧いてきます。


「よし!!」


 とにかく立ち止まる暇などないのだから、客室に飛び込みます。


「ふふ、慌てんぼねぇ」


 すると左の義手が飛んできました。

 よく見るとワイヤーがつながっており――


「趣味的ですね!!」


 おそらく高周波が流されており、うかつに触ると生体部品が崩れるかもしれません。


 しかし、脇が開きました。


 なので残り三つの金属球をぶつけに行きます。


「学ばないのね」


 にぃ。

 と、どこか残忍な笑みを浮かべて先ほど同じようにすぐわきの人間を殺しにかかります。


 だけどそれは読んでいます。


「音波を中和します」


 今度はあまりうまくいかなかず、周りの人が目や耳、鼻から少し血があふれています。


 けど――


「生きてます!!」


「だからどうしたのかしら」


 左の義手につながっているワイヤーが巻き戻されるのが見えます。

 このままでは後ろから殴られて大きな損傷を受ける可能性があります。


 だからというわけではありませんが――


「えぃ!!」


 そのまま抱き着きます(・・・・・・)


「はぃ!?」


 “ディープスロート”が驚いて明らかに隙ができます。


「よいしょっ!!」


 そんな掛け声とともに全力で鯖折りを仕掛けます。

 柔らかいものと硬いものが同時に絞られる嫌な音が連続で響きます。


 そこで真後ろから戻ってきた左腕に全力で殴られます。

 しかしそれだけでした。

 高周波による生体パーツの破壊を行おうとすれば、密着している“ディープスロート”自身もただでは済まないためだでしょう。


「賭けは私の勝ちです!!」


 自身の被害を無視してくる可能性もあったのでそれなりに危険な賭けでしたが、それに勝ちました。


 “ディープスロート”を抱えたまま金属球を呼び寄せます。

 今は客室から引き離すときです。


「こら!! セクハラよ!!」


 そのありふれたセリフとは裏腹に全力で殴られ続けます。


「でも今は我慢です」


 金属球を杭の形状に変えて私と“ディープスロート”を囲むようにして突き立てて。

 くりぬくように切り取ります。


「よし!! 貨物室です!!」


 本来は気密が効いていない上に、荷物がみっちり詰まっている空間です。

 ですが今客室も全く気密が効いていないので気圧差による問題はないですし、みっちり詰まっている荷物は――


「ごめんなさい!!」


 床をくりぬくのに使った杭で物理的に破壊したり、突き刺して移動させてドンドンスペースを開けます。

 なんとかさほど時間をかけずに三メートルほどの空間を開けることができました。


「相変わらずでたらめね」


 そう呟く“ディープスロート”は浅くないダメージを負っているようです。


「おかげさまというと変ですよね」


 そして私は体の各部がきしみ、それなりに深刻な損傷が入っています。

 が、それは今こうしている間にも修復されています。


 だから時間を長引かせれば私の方が有利です。


 でも、タイムリミットは刻一刻と近づいているのでそういうわけにはいきません。


「恨まないでくださいね」


「ふぅん、それはどちらのセリフかしら?」


 余裕を持った笑みを“ディープスロート”は浮かべています。

 が、もう勝負は決まったようなものです。


 浮かんでいる杭四つを変形させて客室への穴をふさぎます。

 残り一つは私の両手を保護するために使います。

 金属球を一つ飛ばしてもこの状態では牽制にもならないでしょう。

 だから思い切り殴れるように保護具に変えました。


 落ちて振り払われたので私と“ディープスロート”の間は離れており。

 私が殴り掛かるには五歩必要です。


「食らいなさいな!!」


 左腕を飛ばしてくる。

 一歩踏み込み右の拳で打ち返す。


 右腕を飛ばしてくる。

 一歩踏み込み左の拳で打ち返す。


 巻き取る間にもう一歩進む。


 両腕を飛ばしてきたので一歩踏み込み半身になることで間をすり抜ける。


 最後の一歩踏み込んだ時。


「お返しよ」


 ウィンクと共に密着されました。

 飛ばされた両腕は絡まり合いすぐに抜け出せそうにありません。


「高周波最大発振、いくわよぉ」


 死なばもろともとというものでしょう。


 が――


「恨まないでください、そういいましたよね?」


 高周波は不発(・・・・・・)に終わりました。


「え?」


「ハッキングが完了したということです」


 “ディープスロート”の機能をロックさせていきます。


 ハッキングは中断していただけで、それを再開させればこんなものです。


「っは――」


 一呼吸おいて、“ディープスロート”が笑い始めました。


「あははははは!! さすがね淡雪ちゃん でも――」


 そう言葉を話しながら、何かを焼き切る音が“ディープスロート”の頭の中から聞こえます。

 自殺した様子です。


「この飛行機は落ちるわ」


 そう呟いて完全に機能停止しました。


 なんのことか一瞬わからないでいると――


「あっ!!」


 私はワイヤーで拘束されています。


 物理的に動くことが難しい。

 そして、自動操縦はコックピットに入らないと開放することができません。


 悩んでいる暇なんてありません。

 祈るような気持ちで、穴をふさいでいる金属に指令を下します。


 そして、銀色のそれは四方八方に飛び散った(・・・・・・・・・・)


====================〇===========


 必死にワイヤーの拘束から逃れながら祈るような気持ちで待っていると――


「気圧が戻ってきました、よかった」


 その動きは制御された動きで墜落途中というわけではなさそうです。


 そこでやっとワイヤーから抜けられました。


「あ、淡雪!! こんなところに居た」


「あ、山上さん、ご迷惑をかけました」


 穴から山上さんが顔をのぞかせます。


 急いで立ち上がります。


「良かった自動操縦は動いて――」


「ませんよ、破壊しました」


「は!?」


 飛び散った金属で自動操縦が制御している物をすべて破壊して、物理的に完全にマニュアル操作に変える。

 イチかバチかですが、それしかない対処法です。


「急いでコックピットにいきましょう」


 穴から飛び出し、コックピットの扉を破って中に入ると、限界をとっくに超えている若い男性が血を吐くような必死さで操縦をしています。


「よくきたね そうじゅうはできているからあとはぼくらぷろにまかせてくれなんとかさせせる なんとかしてみせる」


 そのセリフは重すぎる責任感から出しているものでしょう。

 いつ倒れてもおかしくないほど憔悴している様子です。


 左の席に座っている年配の男性は酸素マスクをつけてはいるが、いまだに少しぼんやりしています。


「これは、かなりまずい、か?」


「なれる時間があれば私なら操縦できるでしょうが、ぶっつけ本番で損傷した機体で着陸なんて分が悪すぎる賭けです」


 少しだけ考えます。


 手はあるのですが。

 それは――


「薬剤で無理やり興奮させるしかないと思います、でもそいわゆる違法薬物に近い成分なので二度と操縦桿は握れなくなります」


 と、若い男性は一切の躊躇なく左腕を差し出してきました。


「それしかないなら いますぐうって 早く!!」


 頼み込むような口調で叫みました。

 だから頭を下げつつ薬品を生成し、変形させた金属のシリンダーで注射しようとしたら、それを左に座っていた年配の男性がもぎ取ってそのまま首筋に注射しました。


「え?」


 みるみるうちに男性の目に光が戻ります。

 力強く言い放ちました。


「偉そうなこと言っていた奴が醜態を晒してすまなかった、ここからはこっちで操縦する」


「その――」


 若い男性は安堵とも後悔ともつかない表情を浮かべ、口ごもっていると――


「返事はどうした? これがおれの最期のフライトなんだろ、頼む」


 ゆっくりと若い男性は言葉を発します。


「ユーハブコントロール」


 疲れを見せない歯切れのいい言葉でした。

 それにゆっくりとうなずきながら。


「I have.」


 そして飛行機は安定した旋回を初めて空港に戻り始めます。


「すいません すいません」


 と若い男性は言葉を漏らしています。


「おれはもうずいぶん操縦桿を握っている、そろそろ潮時ってやつだ 薬の力を借りているとはいえ生涯最後だが、最高のフライトを見せるから、つらいだろうが最後まで負けるなよ」


「はい」


 そこで年配の男性は――


「長い事この仕事やっているが、途中で搭乗した乗客は初めてだが――」


 背後の扉――正確には客室の席をしめして。


「当機はこれより緊急着陸に入ります、お席についてシートベルトを締めて、緊急時の姿勢を取って準備をお願いします」


 機内放送と合わせて指示されたので――


「わかりました」


「よろしくおねがいします」


 山上さんと二人で頭を下げて客室へと向かい、指示に従うことにしました。

明日も頑張ります。

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