4月1日
新元号の発表後に、4月が『30』日で平成が『30』年だと気づいて書き始めました。
なので割とフワッフワした思いつきで書いていきます。
タグは思いついたのを適当に入れました。
SFなローファンタジー。
毎日更新出来たらいいなぁ。
まだ寒さが強く残る春の昼時、窓際の席で何となく窓の外を見ながら弁当を食べている。
視線をめぐらせると仲が良いグループでまとまるようにして昼食をとっている制服姿の塊が見える。
「あの集団も飽きないな」
別にボッチというわけではないが、一人でゆっくり食べたいときもある俺はそう呟きながら少々彩りにかける弁当に箸を伸ばす。
お供にするのはスマホのテレビアプリだ。ニュースキャスターが昨日お隣の国で軍の動きが活発になったとかでアメリカがいきり立っているとかいうニュースを流している。普段であればなかなか刺激的な話題だが、今日はすぐに次の話題に入る。
その理由をつぶやきながら画面に目を落とす。
「新元号――令和か」
画面内には見慣れた総理大臣が墨痕鮮やかに記された新元号を脇に置いて会見を行っている。
記者が総理大臣に対して質問を行っている。
と、背をたたくようにして無駄に元気のいい声が聞こえた。
「いよぅ!! 山上、一人で食っててさびしそ――ってそのニュースか」
「あぁ、気になって」
声をかけてきたのは橘 諸井。無駄に活発なのが玉に瑕だが小学時代からの友人だ。
サッカー部らしく日に焼けた手でこちらのスマホを指す。
「れーわ、ねぇ、なーんかピンとこねぇよな」
「まぁな、でも明日からそんなには変わったことはないだろう」
「ははっ、違いない」
見てるこっちに元気が出るようなあけすけな笑いで流した。
諸井は手に持っていた袋の中から総菜パンなどを出しながら向かいの机に腰かける。
こちらももう一人で食べる気分じゃなくなったので苦笑を浮かべて駄弁りながら弁当を腹の中に収めることにした。
=〇==============================
夢を見ている。
熱狂に浮かれ、火の中で踊り狂い燃え死ぬ蛾のような人々
血走った目で子供に切りかかる男
興奮した様子で何かを眺めつつ暗がりでうずくまっている少年
人をはね飛ばし、暴れまわる男
虚ろな目で何かに必死に祈りを捧げながら、変に目につく新聞紙の包みを足元に置いている大人
そして
死だ
たくさんの死が見える。
地震で、火事で、洪水で、津波で、事故で、事件で、虐待で、差別で、実験で――
進む先に光など見えない。
未来は――
=〇==============================
「山上っ!!」
鋭い声で飛び起きた。声は男性教諭だと思い出し、そこで気づいた。
午後の授業に居眠りしてしまっていたらしい。
「すいません、寝てました」
「……素直に謝ったのなら良し、二度とするなよ」
「わかりました」
素直に頭を下げる。後に引かない人なのでどうやらこれで終わりらしい。
胸をほっとなでおろし座る。
まじめにノートを取っているとチャイムが鳴り授業が終了したらしい。
これで今日の授業が終わりで放課が近いので露骨に空気が緩む。
「山上、どうした?」
「諸井か、うん、なんか変な――気味が悪い夢を見た」
「おぃおぃ、顔が真っ白になってきたぞ、大丈夫か?」
夢を少し思い返しただけで血の気が引き始めたらしい。
確かにあんな夢は――
「おぃ!! 山上!! 山上ぃ!!」
=〇==============================
目が覚めたら見覚えが薄い天井を眺めていた。
身を起こして見回すとここは保健室のようだ。
起きた気配を察したのか養護教諭の男性が現れた。
「山上君大丈夫? とりあえず脈とかはかるね」
少しゆっくりとした口調で話しかけてくる。
そうする間もてきぱきと体調の確認を行ってくる。
「うん、異常はなさそうだね、居眠りしてたそうだし寝不足? 寝なくちゃだめだよ」
「夜更かししていた記憶はないんですけど、わかりました」
「うんうん、よかった、飴ちゃんいる?」
と言いつつポケットからのど飴らしきものを取り出して差し出してきた。
「いえ、目の前で校則を破るのはやめておきます」
「あ!! そうだったそうだった、近所のおばさんがよくやってきたせいでつい、ね」
と言いながらのど飴をポケットに戻した。
「もう、遅いから気を付けて帰らないとだめだよ」
と緊張感のない声で下校を促されたのでおとなしく帰ることにした。
=〇==============================
まだ肌寒さが残る春先。
澄んだ、というより空虚な夜の空気が迫る中スマホで音楽を聴きながら帰路につく。
そこで背筋に冷たいものを感じた。
「気のせいだ」
そう口に出すが思い出すのは夢で感じた多数の死だ。
スマホから伸びたイヤホンを耳に押し込んで外の音を強く断ち、足早に進みだしたとき。
「っ!! あっ!! うるさっ!!」
イヤホンから爆音が聞こえ思わずイヤホンを引っこ抜く。
スピーカーを通して機械のような音声がある言葉を繰り返す。
「しんげんごうはへいせい へいせいです しんげんごうはへいせいです へいせいです へいせいで――」
うすら寒いものを感じてスマホの電源を落とす。
さすがに音声が切れてほっと胸をなでおろそうとして、唐突に電源がつきでたらめな表示をしながらがなり立てる。
「しんげんごうはへいせいへいせいへいせい――」
「この!!」
おもわずスマホを踏み潰す。
もったいないなどとはかけらも思わず一心不乱に踏み続ける。
画面が粉々になり、本体がへし折れても執拗に踏み続ける。
「はぁはぁ、いったいなにが」
「へへへへ営為じぇえいいえw濃いlじぇうぃえjmsだwdhじゃぃdじゃだs機ldじゃsdなskjだsxばsでゃうwjうぃっじぇwぽwじqwdjぽいdjさxnasdxじwduwあxmwsxはうでゃすdかびあywhぢおwdそういwhdoiwjsどいwsdoiwづをい」
電子機器としては再起不能どころか、スクラップ以下のごみクズから鼓膜を突き破らんばかりの轟音が聞こえる。
もはや音声とも取れない何かが聞こえてきて唐突にとまり。
「新元号は平成と閣議決定いたしました 移行時期につきましては――」
肉声で今まさに話しかけられているような明瞭で聞き取りやすいが全く理解ができない言葉が聞こえる。
思わず一歩下がってしまったとき――何かにぶつかった。
「え? ぅぇっ」
呆けたような声が出てしまい、誰かにぶつかったのかと思い振り返ろうとしてその匂いに気づいて思わずえづいてしまう。
その匂いはむせ返るような血の匂いだ。
よろよろとその場を離れ振り返って、見た――見てしまった。
「な、にが」
立て続けに起こりパンクしかけの頭が完全に止まってしまうモノが立っていた。
「いくきくきくいくいくくいくく」
「いいんうぇいうぇ」
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇっぇlmmmmmmんんん」
「かかんんかんあようようかかんなかな」
なにかを喚ていている2メートルをこえる四つ首の『何か』だ。
顔の一つ一つは雑に黒塗りにされているように見通せず、ただ悪意に満ちた笑みをしているのは見える。
最低でも8本ある腕は鈍器などの物騒な物を持っているが、一番目につくのは、
「なんで、人が」
顔がわからないほど殴り続けられた少女らしき人間が雑に引きずられている。
着衣すらはぎ取られ、もう長い間ろくな食事も与えられていないのか枯れ木のようにやせ細っている。
見ればわかる、彼女はすでにこと切れている。
「みられたみられてみてる」
「こrこrこrころす」
「こんこんんんりくくり」
「すてててっててて」
頭は逃げろ!! と叫んでいる。
しかし腹の奥底で、彼女を見捨てるな、という衝動に突き動かされてバッグを投げつけ挑みかかってしまう。
「ふ、ざ、けるなぁぁ!!」
自分でもこれほど大声が出せるのかびっくりするほどの声量でさけべた。
だがそこまでだ
「さいいいいいうるるううるるるるさいささい」
「hしhししひしひしぇぇんねんねね」
「くりくくりkのんこんrんrんrここん」
「みんみみしれれっられられれれれ」
殴られて、飛ばされた。
交通事故などあったこともないが、頭の片隅で交通事故ってこんな感じだろうか、などとどこかのんきな考えが浮かぶ。
四つ首のナニカはゲラゲラと耳障りな笑いを続ける。
そしてこちらを殴ったと思しき武器は『引きずっていた死体』だった。
頭に血が上り、立とうとして足に力が入らないことに気づく。
「く、ぁ」
頬に熱いものを感じる。
考えずともわかる、涙だ。
悔しくて、悲しくて、そして何より怒り狂うからこそ流れる涙だ。
「くそ!! くそ!!」
感情に従い動こうとするが、体が全くいうことを聞かない。
ひと際大きく叫ぶ。
それをあざ笑うかのように死体を振り上げる。
もっと使いやすく威力のありそうな武器を持っているにも関わらず、だ。
と、
「見つけました!!」
その凛とした声とともに何かの手が切断される。
そして淡く光るモノが死体をかっさらい、そのまま体当たりをするようにしてナニカをはね飛ばす。
それを行ったモノは――
「きれいだ」
口に出たのはそんな一言だ。
月のような涼やかな光を放つ剣を持った少女だ。
全体的なシルエットはスラリとした鎧武者。
しかし関節部からは何らかの機械音が響き、見た目よりずっと高度な技術で作られていることがわかる。
極めつけは少女の背側で空中で漂っている二つのレンズだ。
と、こちらの言葉が聞こえたのか苦笑したような声が聞こえる。
死体をやさしく地面に横たえるながら。
「今は向こうのアレ――ノスタルジストのクリーチャーを倒します」
「びじいjにじびおじにに」
「いいいいたたいいめはmへはまはめめっめ」
「いくいきくきくきかかいくsきく」
「すすすsこそおrこおす」
明らかに下卑た笑いを浮かべたナニカ――剣を持った少女の言葉を使うならノスタルジスト。
武器を持っているとはいえ、猛獣に近い存在へ萎えることなく少女は立っている。
「再装填」
落ち着いた声でそうつぶやくと、剣から人の指ほどの金属部品が吐き出された。
まるで銃が弾を吐き出すように。
それを隙と見たのかノスタルジストは突進を敢行してくる。
「危ない!!」
「いいえ」
涼しい様子で言葉を返してきて、剣を横に一閃する。
と、糸をちぎるような音がしてノスタルジストが上下に断ち割られた。
「これでおしまい」
そこでようやくこちらを向いた。
その顔は気負いなく自然体の表情で、その目は。
「あぁ――」
ほんとうにきれいだ。
という言えなかった言葉を思いながら、恋に落ちるという感覚をあじわいながら本日二度目の気絶をした。