2.伝説の魔法戦士
「いきなり教科書を読み上げてどうしたんだよ」
俺は目の前に座っている同級生を冷めた目で見つめる
「あんたの成績が少しでも上がるようにって勉強に付き合ってあげてるんでしょうが…。大体ねぇ、この問題を間違えるってあんた頭どうかしてるわよ。3年前のあの戦争を勝利に導いた剣士の名前なんて赤ん坊でも知ってるわよ」
真っ赤なストレートの長髪に透き通るように白い肌。ただでさえ目立つくせに性格ゆえに余計に目立つこの女はヴェナ。
我が学年における筆記、実技の首席にして貴族令嬢。
天は二物を与えても生まれた後のおせっかいな性格まで責任を持たないらしい。
「進級さえできれば俺はそれでいいんだよ。それに俺はこの男の名前なんか知らなくても生きていける。疾風のバロンだかベロンだか知らんが俺の人生には全く関係のない事だ」
「疾風のブロン!!!!国の英雄よ?次にいい間違えたら、あんたの頭のてっぺんから足の指先まで消し炭にするわ。」
本当にやりかねない勢いと目線をギラつかせながら、ヴェナは目の前で燃えていた。
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ここはエイオルトの中心部に位置する国立魔法学校。
超実力重視のこの学校は才能と覚悟さえあれば誰でも入学することができる。
全寮制のこの学校は昼夜問わず、魔法技術の育成と研究に力が注がれている。
我が国は軍事だけでなく資源においても弱小国であり、魔法技術による軍事力とエネルギー事業は国家の生命線でもあり、俺たち学生への期待は大きい。
魔法の才能は遺伝によるものがほとんだ。。
そして、どの国家でも魔法技術は長い間貴族によって支えられてきたため、自然と貴族の割合は増えてくる。現に帝国では魔法学校に入学できるのは貴族だけだという。
我が国も魔法学校は貴族の特権!と言いたいところだがそうもいかない。
帝国が本気を出せば明日には国が滅ぶ現状では貴族だ平民だと差別はしてられないのだろう。
そのせいでヴェナみたいな貴族と俺みたいなどこの馬の骨かもわからない平民が机を並べるはめになっている。
この国の歴史は古く、周辺国家の中では最も長い。
といえば聞こえがいいが、他の国は多くが帝国に吸収されてしまい我が国は残っているだけ・・・いや残してもらっていただけというのが現状であり事実かもしれない。
帝国もさすがにいつまでも残しておいてはくれないようで、本格的に侵攻があったのが3年前。
ヴェナが鼻息を荒くして読み上げていた戦争だ。
北方要塞によって帝国からの侵攻を防いでいたが、帝国の魔法戦士によって構成された軍によって要塞はほぼ崩壊。
国土も狭い我が国は降伏やむなしと誰もが思っていた。
帝国も勝利を疑っていなかっただろう。
一人の戦士によって戦局は覆ることとなった。
疾風のブロン。人々は彼をそう呼んだ。
いや、正確には男なのか女なのか明らかではないが、風のように現れ帝国が誇る魔法戦闘のエリート達を蹂躙した話はまたたく間に国中に広がった。
ある者が言うには、王家の近衛、ある者は遠い国の傭兵、ある者は帝国を裏切った帝国兵と噂は噂を呼び実際には何が本当かよくわかっていない。
しかしながら、国立魔法学校の落第生だと疑う者のは誰一人としていなかった。