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俺はギービル達の後を追うべく、引き止める為にしがみ付くリトラを引き摺る様に玄関へと向かって行った。
「離せリトラ!あいつ等だけで対処出来ない相手の可能性の方が高いんだ!あいつ等を見殺しにするつもりか!!」
「解っております!ですが、私達にとってご主人様の身を守る事が全てなのです!それにご主人様が近くに居ればご主人様を守ろうとして隙が生まれます!ですからここは彼等を信じて御待ち下さい!!」
「ふざけんな!守るって!戦うって決めたんだ!俺達は〝家族〟だ!誰か一人でも欠ける事なんて許せねぇんだよ!!」
リトラを引き剥がそうともがきながら廊下に出たとたん、リトラが手を離した為に俺はバランスを崩して廊下に倒れ込んだ。
「・・・ッ・・・なんだ急に離して・・・・・え?・・・・・・・」
上体を起こして振り返るとリトラが十畳間の入り口で俺に背を向け両手を左右に開いて立ちはだかっていた。
そしてその向こう側、部屋の中にはあの日見た黒い靄が立ち込め、その中からもう一人の俺、魔王が姿を現した。
「・・・ククク・・・久しいな伊竹秀雄よ・・・あの日受けた屈辱は忘れはせん!我主より戴いたこの身体にて晴らさせて貰おうぞ!!グハハハハハハ!!」
「ご主人様、ここは私が抑えます、どうかお逃げ下さい!」
「・・・どいつもこいつも勝手な事ばかりしやがって・・・・・ふざけんな!惚れた女置いて逃げる様な真似できる訳ねぇだろうが!!リトラ!お前こそ逃げろ!!そいつはお前じゃ倒せねぇ事位解ってんだろうが!!おい!てめえの目的は俺だろう魔王!!他のもんに手ぇ出すんじゃねぇぞ!!」
「・・・ククク・・・元より他の者なんぞに興味は無いわ!グハハハハ!」
今度こそ完全にこいつを喰らって一回り強くなって皆を守るのだと、伊竹が覚悟を決めてリトラを押し退けようと肩に手を掛けた時、玄関が開いて四天王達が雪崩れ込み、その後に付いてパンドラ達も入って来た。
「陛下!ご無事で・・・す・・・・・ま、魔王様・・・・・・・」
入って直ぐの所で魔王を見たギービル達が青褪めて固まり、それを押し退ける様にパンドラが前に出た。
「おい、お前等邪魔だ退け。取り込み中邪魔するぜ、状況から察するに奥に居る方が敵って事で良いのか?答えろ、メイドの傍に居る方の魔王」
「あ、ああ、そうだが、あんたは?・・・お、おい!」
伊竹の問いにパンドラは答えもせずにつかつかと廊下を歩き、二人を押し退けて室内へと入って行った。
「何だ貴様は・・・只者では無い様だが、我の目的はその伊竹秀雄一人よ。死にたくなければ引っ込んでおれ」
「ハッ!操り人形風情が偉そうな事言ってんじゃねぇよ。俺を殺すだぁ?やれるもんならやって見ろや。尤も・・・手ぇ出した瞬間、死が確定するのはてめぇの方だがな」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら魔王を挑発するパンドラ。
「なかなか威勢の良い若造だが・・・それが命取りとなる事と知れ!!喰らえええぇぇぇ!!」
「ゴウッ!」と風切り音を立てて放たれた魔王の右拳がパンドラの額を捉えた瞬間「ドゴン!」と音を立て、その衝撃で室内が大きく揺れた。
「グアアアァァァ!!」
パンドラを殴った魔王の右手首と指が折れ、魔王が額から脂汗を流し右手を押さえながら悲鳴を上げて蹲る。
「おう、こら・・・手ぇ出しやがったな・・・・・おらぁ!!痛ぇじゃねぇかこの野郎!よくもやってくれたなぁ!!回復する暇なんざ与えねぇぞごるぁ!!この程度で魔王を名乗ってんじゃねぇ!!このっ!このっ!このっ!!死ねやあああぁぁぁ!!」
当然痛みなど感じている訳では無く、唯難癖を付けているだけなのだが、残像すら残らない文字通り目にも留まらぬ早業で蹴り上げ、天井にぶつかって落ちてきた所を殴り飛ばして壁に打ち付け、倒れる事も許さず殴り続けて魔王をあっと言う間にボコボコにして行くパンドラにドン引きする皆だった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




