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勇者の初来襲から三日が経った昼の事。
「あれ・・・そう言や今朝は警報が鳴らなかったな。今日は勇者来ないのかね?」
「む・・・そう言えば確かに・・・まぁ未成年らしいですし、補導されたか資金切れで帰ったと言う所では?」
「そうだな・・・諦めるって事は出来ないんだし、その内懲りずに来るんだろうけど」
まさか親に叱られて帰ったとは思ってもいない魔王達であった。
そして当の勇者は自分とその家族に魔の手が迫っているなど思いもせず、妹に頼まれた御土産を手に帰路に付くのだった。
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「・・・・・くそっ・・・5階までしか行けねぇとは・・・・・・・・ただいまぁ・・・遅くなってごめん。あ、茜、頼まれてた御土産買って来たぞ・・・って、おい!無視すんなよ!・・・・・何だあいつ・・・・・・・・」
飛行機と電車を乗り継ぎ自宅へ着いたのはPM11:00近くで、玄関を開けて直ぐにリビングから出て来た妹と目が合ったが一言も口を利かず、自分が頼んだ御土産も受け取らずに部屋へと入ってしまった。
何が何だか訳が解らずに困惑しながら靴を脱いでいると、父親から呼ばれたのでリビングへと入り父親と向かい合って座った。
「あのな・・・今日の夕方にこれが届いてだな・・・それで茜が受け取ったんだが、あ~その~・・・差出人がお前だったから先に土産だけ送って来たんだと思って開けちまったんだよ・・・・・まぁなんだ、お前位の年だとこう言った物に興味が有るのは解るし、俺にも覚えが有るから責めはせん・・・・・だがなぁ・・・ちょっとマニアック過ぎだと思うぞ、俺は」
「は?何言ってんのか解かんねぇんだけど?差出人が俺って何だ?俺は何も頼んでねぇけど・・・・・」
テーブルの上に置かれた通販の段ボール箱に張られた配送伝票の差出人と受取人の所には何故か勇者の名前が書かれていて、品名の所には『土産物』と書かれていた。
「はぁ?!どう言う事だよこれ!俺は何も頼んじゃいね・・・ぇ・・・・・・・何じゃこりゃあああぁぁぁ!!」
訳も解らずに開けた箱の中から出て来たのは・・・・・詳しくは言え無いが、笑いが取れるタイトルのアダルトビデオ十本だった。
「くそっ!・・・あいつか・・・・・あの野郎舐めた真似しやがって!おぼえてやがれ!必ず仕返ししてやる!!」
勿論送ったのは勇者の予想通りマサトなのだが、代金が勇者の銀行口座から引き落とされていた事に彼が気が付くのは、仕事を再開して給料を貰った後だったと言う。
更に妹の誤解を解き機嫌を直して貰う為に買い物に付き合わされた上に、その代金も彼が支払う事となり、次の迷宮攻略資金が貯まるまでに半年を有したと言う。ご愁傷様である。
因みにAVは未開封のまま父親に売りに行って貰ったのだが、受け取った金額の少なさに、更にマサトへの恨みを募らせるのだった。
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薄暗い部屋の中でカタカタとキーボードを叩く音が響く。
「・・・ふぅ・・・かなり厳しいけど何とかなりそうだ・・・デミス様誉めてくれるかなぁ・・・・・ぐふふ」
マサトはコーヒーを飲みながら一息つき、モニターに表示されている時計を確認した。
「・・・23:30か・・・流石にもう帰ってるだろうなぁ・・・ぐふふふふ・・・妹ちゃんに開けて貰える様に夕方着に指定したんだ、上手く行ってると良いけど・・・ぐふぐふ・・・大体可愛い妹とか生意気なんでふよ。精々嫌われると良いさ・・・ぐふ・・・ぐふふふふ・・・・・・・」
妹が可愛いとか勇者に何の責任も無いのだが、彼にとっては罪でしかないのだろう。酷い話である。
「再来月の妹ちゃんの誕生日には何を送ろうかなぁ・・・ぐふぐふ・・・コスプレ衣装の詰め合わせとか良いかも知れませんな・・・どうせ奴のお金だし・・・ぐふふふふ・・・・・・・」
この企みは勇者の預金を全て引き出しておくと言う対策によって防がれた。
更に自分名義で着払いの品が届いても受け取り拒否をする様にと、家族に徹底させる事で完全に対処されてしまったのである。
マサトは勇者の家族名義を使って、とも考えたがそれはちょっと違うなと思い直し、別の嫌がらせを考える事にするのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




