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勇者が階段を上り地上1階に辿り着くと目の前には壁が迫っていた。


「何だこりゃ?・・・右・・・・・にしか行けねぇのか。それにしても狭めぇな・・・道幅1mも無いんじゃないのか?天井も低いな・・・2mってとこか?・・・今までより薄暗れぇけど、こんなんでビビるとでも思ってんのかね?・・・・・・・・おっと、マッピングの用意しねぇと・・・・・」


勇者は背中のリュックからメモ帳と消しゴム付き鉛筆を取り出すと胸ポケットに仕舞い、右手にバールを持って外周沿いに続く通路を歩き始めた。




「・・・・・なんだよこれ、薄暗くて狭いだけで何もねぇじゃねぇか。分岐が有る訳でもねぇし・・・・・ん?」


十分程歩いた所で背後から何かが聞こえた様な気がして振り向き耳を澄ますが何も聞こえず、気のせいかと胸ポケットから取り出したメモ帳に記入して更に進んで行く。




緩い左カーブの一本道を歩き続けていると、やはり背後から音が聞こえ足を止めた。


「・・・・・・・チッ・・・それで隠れてんつもりか!こそこそ付いて来やがって!隙でも伺ってるつもりかよ!・・・・・くそが・・・・・・・」


種を明かせば自分の声や足音が反響しているだけなのだが、薄暗く狭い単調な一本道を警戒しながら歩き続ける事で神経が過敏になっており、精神的疲労から来る幻聴や居る筈のない気配を感じているのである。




更に歩き続け、漸く半周を超えた辺りで事は起こった。


「・・・・・しまっ―――」


集中し続けていた警戒心が精神的疲労により薄れた僅かな隙に、設置してあった罠の魔法陣を踏んだ勇者の体が光に包まれて消えて行った。






「・・・・・っつ・・・ここは外・・・か・・・・・・・・・っざっけんなあああぁぁぁ!!」


突然明るい所に出されて眩んだ目が慣れてきた勇者が見たものは、自分が入った最寄り駅から一番近い迷宮の入口だった。


勇者はその後も挑戦を続け、七回目にして漸く地上2階へ辿り着いたが、入り口が1階と同じ創りだったために精根尽き果て、その場に倒れる様に眠りに付いたのだった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



マサトが603号室に現れたのは昼食の時だった。


「くうぅ!本物のメイドが作ったご飯が食べられるなんて最っ高の職場ですなぁ!!あ、勿論デミス様に作って頂けるなら尚良しですが」


「あ、あたいは・・・料理とか苦手だし・・・・・」


「おお!それなら心配要りませんぞ!僕は〝飯マズ嫁〟もいける口ですからなぁ!ぬはははは!」


「そこまで下手じゃねぇよ!そ、それに・・・嫁でもねぇし・・・・・」


「テンション高けぇなぁ・・・徹夜したのか?朝食食べに来なかったけど無理すんなよ?」


「いやぁご心配頂き有難う御座います。ですが、僕は朝食食べない派ですのでご安心を」


「いや、心配したのはそっちじゃねぇよ?それで、昨夜は何か成果は有ったか?流石に昨日の今日でって訳には行かないのは解ってるんだが」


「ボイスチャットの逆探知は略不可能だと思われますな。ですので【迷宮をつくろう】のプロテクト解除の方から攻めてみたいと思います」


「まぁその辺は任せるよ。にしても、この〝蚊取り線香〟で本当に大丈夫なのか?もっと転移陣の数を増やした方が良いと思うんだが?」


「何の問題も有りませんな。転移陣の数は多くても一階層当り五個迄で十分・・・と言いますか、少ない方が効果的なのですよ。人間の集中力と言うのは通常で十五分前後しか持ちませんからな。薄暗く狭い通路の中、反響する自分の足音と居もしない敵に脅え、罠を警戒し続ける事で精神をゴリゴリと削られて行く鬼畜仕様ですから。まぁ常人なら五回も挑戦すれば心が折れて二度と挑戦する気がなくなるでしょうな・・・ぐふ・・・ぐふふふふ・・・・・」


マサトの黒い笑みに食事をする手が止まりドン引きする俺達だった。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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