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勇者襲撃から明けて翌早朝、マサトを除いた全員で朝食を取っていると仕事部屋から警報が聞こえてきた。


「お、勇者が来たみたいだな。解ってると思うけど全員手出し無用だ、特にデミス、昨日の借りを返そう何て真似はするなよ」


「・・・・・解ってる・・・けど、納得は出来ねぇよ・・・・・ここまで上がって来たらあたいにやらせてくれ、これだけは他の誰にも譲れねぇ」


「まぁ良いだろう。けど、少しでも危なくなったらギービル達に介入させるからな。お前達の内、誰か一人でも欠けたら勇者の脅威度は跳ね上がる。俺達はこのふざけたゲームに勝つ事も負ける事も許されないんだ。全員それだけは忘れない様にな」


「「「「はい」」」」


「そんで、マサトはまだ寝てんのか?早速取り掛かってくれんのは有り難いんだけど、あまり無理はしないで欲しいんだよなぁ・・・・・」



  *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



勇者が地上1階へ上がる階段の前に到着した時、マサトが階段を下りてきた。


「やぁ、遅かったじゃないか、勇者君」


徹夜の為、少し重くなった頭を軽く振りながら勇者に話しかけるマサト。


「・・・誰だてめぇ・・・魔王の新しい手下かなんかか?」


マサトの見た目は人と変わらないが、自分を勇者と呼んだ以上、魔王の関係者で敵だろうと勇者は身構えた。


「やだなぁ昨日僕の事怪我させたのに忘れちゃったのかい?」


「あぁ・・・デミスの事庇った奴か・・・それで、お礼参りにでも来たってのか?」


仕返しに来たにしては様子がおかしいし、態々迷宮の奥で待ち伏せする必要も無い。勇者はマサトの見た目から唯の人間だと思っているために警戒しつつも困惑していた。


「・・・ん~・・・まあ似た様な違う様な・・・・・鈴木隆十六歳、両親と妹の四人家族。中学二年の時の虐めが原因で引き篭もり今に至る。父親は地元の商社の課長代理で母親は専業主婦、妹は中学一年で成績は中の上と・・・・・合ってるよね?」


「・・・何で知ってる・・・・・」


勇者が眉を顰めマサトを睨む目付きが鋭くなっていく。


「やだなぁ、名前は昨日自分から名乗ったじゃないか。僕はPCがちょっと得意でね、その気になれば一晩でこれ位は調べられるのさ・・・・・一つ忠告をしよう、簡単に引き篭もった根性無しの君ではこの先は攻略する事は出来ないから諦めて帰るんだね」


「ふざけんな!そんな真似出来る訳ねぇだろうが!それに・・・てめぇに俺の何が解る!!」


「ハッ!そんなの解りたくも無いね・・・・・・・十年・・・十年だ、八歳の時から唯太っていると言うだけで虐められた・・・私物が無くなるなんて日常茶飯事で、裸に剥かれて水を掛けられたり暴行を受けるのもしょっちゅうだったさ・・・・・でもね・・・僕は一度だって逃げた事は無いよ、君とは違ってね・・・・・僕を虐めてた連中・・・今如何してると思う?」


「・・・まさか・・・てめぇ何かしやがったのか?!」


マサトの口角が怪しく釣りあがり黒い笑みを浮かべる。

勇者は今まで感じた事の無い得体の知れない者に対する恐怖を感じていた。


「・・・ククク・・・・・さてね・・・自殺したり入院したり・・・刑務所に居る奴も居たなぁ・・・ハハハ!・・・君はどれがお好みだい?それとも・・・君自身より家族が被害に会う方が良いのかなぁ・・・ハハハハハ!!僕の新しい〝家族〟に手を出すと言うのならそれ相応の覚悟をしておくんだね・・・・・それじゃ」


自分達を狙うなら家族に報復する事を仄めかし、黒い笑みを浮かべたままマサトは転移し勇者の前から消え去った。


「くそっ!っのやろう悪魔だったのかよ!やれるもんならやって見やがれ!その程度の脅しで引き下がると思ったら大間違いなんだよ!!」


迷宮地下一階に勇者の叫びが響き渡る。

勿論彼の本心では無い。出来るなら今直ぐに携帯で家族の安否を確認したいが、迷宮内ではそれも出来ない。

天神の支配下に有る彼には魔王討伐が最優先任務となっており、脅された位で迷宮攻略を中断する事は許されないのだ。


勇者としての使命が彼の足を動かし、地上1階へと続く階段へと進んで行く。

過去一万回の戦いにおいて初めてとなる勇者単独の迷宮攻略が始まった。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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