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新しく家族となったマサトの部屋は601号室にした。と言うか自分から俺と同じ階を望んだのだ。
俺はてっきりデミスと同じ部屋か、隣の部屋が良いと言うと思っていたのだが『仕事の都合上出来るだけ魔王様の部屋の近くが良いでしょう』だそうで、公私の切り分けは出来ているみたいだ。
そしてその日の夕食後、マサトにやって貰いたい事の説明をした。
「・・・・・なるほど・・・ククク・・・いやぁまさか〝神に挑戦〟する事になるとは・・・これは燃える展開ですなぁ・・・グフ・・・グフフフフ・・・・・」
「直ぐに取り掛かれとは言わない。先ずは足りない日用品とか用意しようと思うんだが、欲しい物は有るか?」
「そうですなぁ、生活に必要な物は揃っておりますので特に有りませんが、100m程のLANケーブルを用意して頂けますか?ここと僕の部屋を繋げたいので」
「別に自室でなくてこの部屋にPC置いても良いんだぞ?」
「いえいえ、やる以上は本気でやりたいのですよ。一人の方が集中出来ますからな。あ、その前に一つ良いですか?迷宮の地上部分に僕の考えたこれを採用して貰いたいのですが」
マサトが俺の前に一枚の紙を差し出した。
「何だこりゃ?ん~・・・これじゃ一本道だし、移動距離が伸びる以外にメリット無いだろ」
「いえいえ、単調で有る程慣れ易く隙が生まれますし、同じ事の繰り返しと言うのは精神的負担が大きい物なのですよ」
「ふぅ~ん・・・それで罠に嵌め易くなると・・・・・良いだろ、これで暫く試してみよう」
マサトの案を採用した俺はLANケーブルを注文した後、迷宮の地上部分の改装を行った。
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初襲撃の夜、勇者はY駅ビル内のネットカフェに居た。
「はぁ・・・・・参ったな・・・中途半端な都会なもんだから俺が泊まれそうな所が少なすぎる・・・迷宮に篭れりゃ宿代は掛かんねぇけど持てる食料に限りが有るし、そもそも軍資金が・・・・・」
迂闊に野宿等して警察に補導される訳にもいかず、かと言ってホテルは高過ぎる。食事はカロリーバーとスポーツドリンクにするしか無いかと、明日からの本格的な迷宮攻略に頭を悩ませていると、胸ポケットに入れていた携帯の着信音が鳴った。
「・・・げっ!やべぇ・・・母ちゃんからかよ・・・・・」
母親からの着信に青褪める勇者だが、そもそも彼の買ったばかりの携帯には自宅と両親の携帯以外には派遣会社しか登録されていない。
仕事の予約をしていない以上、家族以外からの着信など間違電話位しか有り得ないのだ。
仕方なく携帯に出ると、母親から散々叱られた上に泣かれ、父親からは生暖かい声援を受け、妹には御土産を頼まれたのだった。
「くそっ!二、三日で帰って来いだと!?交通費だって馬鹿になんねぇってのに御土産だぁ?!欲しけりゃ通販で頼めば良いだろうが!!」
そう言う彼自身も通販など利用した事は無い。と言うか彼の家族全員がネット関連に疎く、詐欺の類に掛かるのが怖いからと言う一昔前の考え方をした一家なのだった。
そして勇者はブツブツと文句を言いながら、拙い操作で頼まれた御土産の売っている場所を検索するのであった。
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「・・・・・ほうほう・・・ぐふ・・・ぐふふふふ・・・・・ふうん・・・普通・・・いや、恵まれているな・・・・・さて、どうしてくれようか・・・ぐふふふふ・・・・・」
その頃魔王城601号室では、中途半端に荷解きをして散らかった薄暗い部屋で、マサトがPCで調べ物をしながらなにやら黒い笑みを浮かべていた。
「・・・さて、お遊びはこれ位にして魔王様からの依頼に取り掛かるとしますかな・・・・・」
そう言うとマサトは真剣な目付きに変わり、モニターを睨んで流れて行く文字を追って行った。
室内にはキーボードを叩く音と、時折マサトが発する奇声が遅くまで響くのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座いました。




