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惟河の正面に座り真っ直ぐに彼の眼を見て話を始めた。
「さて、君の事は以前調べさせて貰ったんだが、正直家に欲しい人材なんだよね。表向きはプログラマーで良いのかな?携帯用のアプリとか作ってネットで売って生活していると」
「ええ、まぁそんな大それた物じゃないですけど」
「父親は十二歳の時、母親は十九の時に亡くなっていて親戚等も居らず天涯孤独の身と・・・・・だから犯罪に身を染めたと?」
「・・・何の事ですか?」
「裏の仕事の事だよ、ハッカーで良いのかな?四、五年前までゲームの解析や改造ツールにエミュレータ何かを売ってた時期が有るでしょ」
「その事ですか。始めたのも止めたのも特に理由が有った訳じゃないですけど・・・力試し的な感じですかね?」
嘘だ。力試しと言うのは多分嘘ではないのだろう、おそらく明確な理由が有って試したのだと確信したが、そこに触れるつもりは無かった。
寧ろその力を貸して欲しいからだ。
「まぁ、別に君が過去に何をして来たとか、そんな事はどうでも良いんだけどね・・・・・それじゃ本題に入ろうか。君は俺の元で働きたいと言う認識で間違ってないかい?」
「それだとちょっと正確じゃないですね。僕はデミス様の傍に居たいだけです。そしてその為には貴方の眷属になるしか道は無い。だから・・・どうかお願いします。貴方に忠誠は誓えませんが、僕に出来る事なら何でもします。僕を貴方の仲間にして下さい!」
惟河はそう言うと深々と頭を下げた。
「ククク・・・どうよギービル、俺は気に入ったけどお前はどうだ?」
「今迄何人も眷属志願者は見て来ましたが、こ奴はかなり異質ですな・・・だが面白い。此度は今迄とは違いますからな、こう言うのも有りかと」
「決まりだな。それじゃ契約をする訳だが、最終確認だ。悪魔になるって事は君の事を知る者は居なくなり過去の経歴も抹消されて人で在った証は全て消え去り、元に戻る事は叶わないがそれでも良いのかい」
「人である事に何の未練も御座いません!」
頭を上げた惟河の眼には光が満ちていた。
「では・・・・・汝、惟河正人よ我力となり、共に戦う事を誓うか」
「誓います」
「今ここに契約は成された!己が心の欲望に身を委ね、魔性の身体と力を得るが良い!眷属転生!!」
俺が魔王として使える力『眷属転生』により惟河の身体が闇に包まれ、その姿が悪魔へと変貌して行く。
「出でよ新たなる眷属!マサトよ!!」
悪魔へと転生した惟河・・・いや、マサトを包む闇が晴れて行き、徐々にその姿を現して行った。
「ふおおおぉぉぉぉ!!み・な・ぎ・って・きたあああぁぁぁぁ!!」
悪魔へと転生した彼の姿は・・・・・全く変わっていなかった。
一番人に近い見た目のティゲルでさえ肌の色は青に近いグレーだと言うのにだ。
「・・・・・え?失敗した?・・・とかじゃない・・・よね?なんで?」
「ククク・・・いやはや此度は本当に妙な事ばかり起こりますな・・・ははははは!!」
「ギービル、笑っている場合では無いぞ。こ奴・・・かなりの魔力を有している・・・・我に迫る魔力をだ」
「え・・・・・そ、それじゃ俺は格下げで、デミスは除外になんのか?」
ニクスの指摘に青褪めるティゲル。
「あ、僕は四天王になる気は無いんでそのままでお願いします。僕としてはデミス様を守りつつ魔王様の力になれればそれで良いんで。それでは、何から始めたら良いでしょうか魔王様」
「引越しの荷解きから・・・と言いたい所だけど、202号室だ・・・デミスの所に行ってちゃんと謝って来い!」
「はい、よろこんで~!!」
何処ぞの居酒屋の店員の様な返事と共に部屋を飛び出して行くマサトを見送り、ギービル達と顔を見合わせ軽く笑い合った。
二人が戻って来たのは夕食の時だったが、デミスは特に変わった様子も無く、二人がこのまま上手く行くと良いと心から思った。
勇者の初襲来に新しい家族が増えたりと大変な一日だったが、この日が本当の意味での〝始まりの日〟となったのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




