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城へ転移したデミスは惟河を抱き上げたまま入り口を開け603号室の中へと入って行った。
「待ってろ、今陛下に頼んで直して貰うからな」
気を失ったままの惟河を廊下に寝かせようと膝を付いた所で仕事部屋の扉が開いた音がしてデミスが顔を上げた。
「デミス、話はアクアから聞いてる。こいつを使って直してやれ」
「有難う御座います陛下。でも・・・こいつ気を失ってて薬飲めねぇんだ・・・如何したら良いのか・・・・・」
「ん?・・・・・そんなの口移しで飲ませてやれば良いだろ?お前を庇って怪我したんだし、まぁ定番のご褒美イベントだな」
俺は見逃さなかった、気を失っている筈の惟河の口元がピクリと動き笑みを溢したのを。
「く、口移しって・・・そんなの無理!無理だって!」
「いや、俺だって嫌だし他にやる奴居ねぇだろ。体張ってくれたんだし、それ位良いじゃねぇか。人命救助だよ人命救助」
外傷だから患部に薬掛ければ良いだけなんだが、混乱して気が付いていないデミスにそんな無粋な事は言わない。
「うっ・・・そ、そうだな・・・こいつあたいのために・・・・・・・・へっ?!」
意を決したデミスが俺から受け取った治癒薬の蓋を開けた瞬間、惟河が目を開け治癒薬をデミスから奪い取って飲み干した後、呆気に取られているデミスを抱きしめてキスをした。
「んん~~~・・・てめっ!気が付いてやがったな!」
「ふぅ・・・・・魔王様GJです!デミス様ゴチっしたぁ!!」
「・・・・・いや・・・何かちょっと違ってただろ」
「いえいえ、デミス様がやる気になった以上手間を取らせる訳には行きませんからな!気が変わる前に自分から動いたまでです。いやぁ・・・最高でした・・・・・我人生に一辺の悔い無し!!」
「調子に乗んなああぁぁぁ!!」
右拳を上に突き上げた惟河のこめかみにデミスの左フックが炸裂して壁にぶち当たり、惟河はそのまま倒れて今度こそ本当に気を失った。
「「あ・・・・・」」
「・・・くっ・・・・・は・・・初めてだったのに!この馬鹿が悪いんだ!」
デミスはそれだけ言い残して自室に走り去ってしまった。
「そんなカミングアウトはいらなかったんだが・・・・・お~い、大丈夫か~」
俺が惟河を起こそうと揺すっていると玄関が開きギービル達が帰って来た。
「只今戻り・・・・・陛下、これは一体如何言う状況で?」
「いや、俺じゃねぇよ?まぁこいつがちょっと調子に乗ってデミスに鉄拳制裁喰らっただけだから」
帰って来たギービル達に説明していると、惟河が起き上がり壁にぶつかった右肩を擦った。
「いつつ・・・いやぁ照れたデミス様もかわゆすなぁ・・・・・」
「・・・お前以外と頑丈だな・・・・・すげぇ音したけど大丈夫なのか?」
「まぁ手加減してくれたみたいですし、これ位ならご褒美でしか有りませんな。わはははは」
「お、おう。それじゃこっちに来てくれ、ギービル達もご苦労だったな、荷物はそのままで一緒に話を聞いてくれ」
十畳間へ入ると部屋を片してくれたリトラが出迎えてくれたのだが・・・・・
「ふおおおぉぉぉぉ!!き、金髪ショートのメイドオオォォォ!!しかも最近流行のミニスカで無くロングスカート!!流石魔王様解ってらっしゃる!メイドとは本来こうでなくては!!僕はメイド喫茶へ行った時に偽メイドを見て呆然と立ち尽くした後、何も頼まずに店を出てから怒りが湧いて来て『ふざけんな!!』と叫んで二度と行きませんでした!いやぁ魔王様とは話が合いそうですなあ!!」
リトラを見た惟河が奇声を上げて捲し立ててきて、俺は呆然としギービル達の目は点になっていた。
「・・・・・え・・・俺、如何返したら良いのこれ?・・・・・・・あ~・・・取り敢えず言っとくけど、俺は自分の嫁にメイドの格好させる様な趣味とか性癖持ってないから」
「な、なんと!てっきり同好の士だと・・・残念だ・・・・・しかし、本物のメイドが嫁とは羨ましい限りですなぁ・・・・・・・デミス様にはメイド服よりタイトスカートのスーツが似合うと思いませぬか?」
「似合うかどうかで言ったら似合うんじゃないか?・・・・・いや、そう言う話をしたい訳じゃなくてだな・・・・・まぁ取り敢えず落ち着け、そして座ってくれ」
「ああ、すみません。本物のメイドにちょっと興奮してしまいまして。なはははは」
恥ずかしそうに頭を掻く惟河。
喋らなければ何処にでも居る普通の青年にしか見えないが、中身は生粋のおたくの為に言動による違和感が半端ない奴だった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




