34
モニターの中央に映る《勇者の進入を確認しました》の文字を見て、俺の脳裏に過去一万回に渡る戦の記憶が蘇る。
勇者と聖女を五千回殺し、俺達は五千回殺された。
そして、その何倍もの人間を殺し、何倍もの悪魔を殺された忌わしき記憶。
その記憶は人の精神には耐え難い等と言う程生易しい物ではなく、俺は血の涙を流し叫び声を上げて膝から崩れ落ちる様に倒れ、自身の精神を守る為に意識を失った。
「ご主人様!!」「「「陛下!!」」」
落ちて行く―――
深い深い闇の中を唯只落ちて行く―――
声が―--
声が聞こえる・・・・・泣き声と・・・・・一体誰の・・・・・・・
深い闇の奥底で声を聞いた
『なんだ、何泣いてんだヒデ』
泣いてなんかねぇよ
『つまんねぇ意地張るなって。何が有った?言ってみな』
・・・・・人を・・・人を沢山殺したんだ・・・・・俺じゃない俺が
『何だそりゃ?訳解んねぇ事言いやがって。大体お前が人殺しなんて出来る訳ねぇだろ。お前は殺す位なら殺される奴だ』
お前に俺の何が解る・・・知った様な口を利くんじゃねぇ
『ハッ!生意気な口利く様になりやがって。そうやってまた現実から目を背けて、やりたい事もやるべき事も置いて行く気か?』
何だ・・・何を言って・・・・・
『ほれ、良い加減目を覚ませよ、お前の〝家族〟が心配してんぞ。戦うって、守るって決めたんじゃねぇのか』
ああ・・・そうだ・・・・・
『惚れた女泣かせてる様じゃ、まだまだ半人前だなお前は』
うるせぇよ・・・俺を置いて惚れた女と先に逝ったくせに・・・・・
『ははは・・・若い頃の苦労は買ってでもしろってな。良い経験に成ったじゃねぇか。それじゃぁな、もう逃げんじゃねぇぞ』
勝手な事ばかり言いやがって・・・解ってるよ・・・・・・・ありがとう・・・父さん―――
俺が意識を取り戻した時、最初に目にしたのは泣き顔のリトラと、心配そうに覗きこむデミス以外の四天王の三人だった。
「・・・・・すまんリトラ・・・もう泣かないでくれ、俺は大丈夫だからさ。皆も心配かけたな」
「起き上がってはいけません!そのまま安静に・・・ご主人様にもしもの事が有っては・・・・・」
「そうですぞ、勇者の事は我等に任せてそのまま横になっていて下さい」
「ああ、どのみち奴に俺達を倒す術は無い・・・と言いたい所だが、デミスの事が心配だ。アクア、デミスに直ぐ戻る様に言ってくれ」
「申し訳有りません。気を利かせて二人きりにする為に監視を外してしまい居場所を把握しておりません。直ぐに捜索致します」
「タイミングが悪いな・・・地下5階まで魔法陣で来ていれば良いんだが・・・三人共、地下9階を捜索して貰えるか?」
「直ぐに参ります。リトラ、陛下を頼んだぞ」
三人共俺に気を使ってか、着替えもせずに転移して行った。
俺は身体を起こしリトラに支えられながらベッドに腰掛けた。
「リトラ、俺はどれくらい気を失ってた?」
「数十秒でしょうか・・・一分は経っていないと思いますが」
「そうか、間に合うと良いが・・・・・」
「聖剣の召喚はおろか自身の強化も碌に出来ない勇者にそこまで警戒する必要が有るのでしょうか?」
「普通に考えたら問題ないよ。勇者がどんな武術の達人でも倒される事は無いだろうけど、力の無い分頭を使ってくる可能性が有る。そうだな・・・例えばスタンガンとか人質を取るとか・・・・・何を如何使うかで一対一なら如何にか出来る気もする」
「確かに・・・・・」
「今までの世界に無かった物が沢山有るんだ、可能な限り危険は避けた方が良いに決まってる。相手が如何言う奴か解るまでは様子見かな」
様子見とは言った物の一抹の不安を胸に、アクアからの報告と四天王達の帰還を待つ事しか出来ない自分の不甲斐なさを感じていた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




