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「すみませーん!アクアさんですよね?荷物をお届けに参りました。受け取りをお願いします」
「え?私にですか?どちら様からでしょうか?」
「え~っと・・・惟河正人さんからに為ります。あ、こちらに手紙も付いてますから。それじゃ、こちらにサインをお願いします」
「はぁ・・・じゃぁこれで。ご苦労様です」
聞いた事の無い名前に大き目の段ボール箱六つの荷物、アクアは戸惑いながらも箱に付いていた手紙を剥がして中を読んだ。
手紙の内容は、突然荷物を送りつけた事への謝罪と、着日の昼にはこちらに向かう旨が書かれていた。
「取り敢えずご主人様へ報告と・・・・・惟河正人とは・・・一体何者なのでしょうかね・・・・・・・」
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「ご主人様、荷物の持ち主が参りました。それと、デミス様への面会を求められておりますが如何致しますか?」
「は?あたいに?惟河正人とか聞いた事もないんだけど、どんな奴なんだい?」
「そうですね・・・体格はティゲル様と同じ位ですが、見目の良い好青年ですわ」
「・・・なんかさり気無く俺がディスられた様な気が・・・・・・」
「あたいは全く覚えが無いんだけどなぁ・・・・・」
「デミス、会って来ると良いぞ。アクア、デミスとの面会が終ったら俺にも用が有るだろうから言ってくれ。それと荷物は多分城に運ぶ事になると思う」
「え?!陛下は何者か知ってんのか?」
「ん~・・・多分だけどな。まぁ会ってからのお楽しみって事で」
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地下9階の湖前に転移したデミスが見たのは積み上げられた段ボール箱の山と、その隣に座りモンスター達と戯れる男だった。
「あ!デミス様お久しぶりです!呼び出したりして申し訳有りませんでした!」
そう言って頭を下げる青年にデミスはやはり見覚えは無かった。
「いや・・・その~悪いんだけど、名前を聞いても顔を見ても記憶に無いんだけど誰なんだ?」
「え・・・・・あ~そういえば前回自己紹介してませんでした。すみません、見た目が随分変わっちゃったから解らなくても仕方ないですよね・・・ははは・・・・・でも、この程度ではめげませんよ!今日の為に全てを捨てて来ましたから!」
「は?何だそれ?ますます解んねぇんだけど?」
デミスが首を傾げていると、彼は上着のポケットから何やら取り出してデミスの前に跪いた。
「デミス様、貴方に私の全てを捧げます。どうかこちらをお受け取り下さい」
真っ直ぐにデミスを見つめる彼の両の掌の上には指輪の入った小箱が乗せられていた。
「今直ぐ等とは申しません。いつか貴方の伴侶に相応しく為れる様に、魔王様に雇って頂くため住む所も引き払ってまいりました。どうか色良いお返事をお願い致します!」
「・・・・・・・・・・おまえ、あの時のおたくだったのかよ・・・・・気が付かなくて悪かったな・・・本当にあたいの為に変わって・・・・・取り敢えずこいつは預かっておく・・・けど勘違いすんなよ、あたい等お互いの事何も知らねぇんだし・・・その・・・・・あれだ、親交を深めてからもう一度考えるって事で」
デミスは彼の手から小箱を取るとコートのポケットに仕舞った。
「おおっしゃあああぁぁぁ!!第一関門突破あああぁぁ!!」
両の拳を握り締めた彼の歓喜の叫び声が迷宮に響き渡る。
「お二人共折角ですから迷宮内を散歩なされては如何ですか?陛下の方には私から報告しておきますから」
「おお!アクアたんナイスアシストですな!さあさあ、行きますぞデミス様!」
「え?!おい!ちょっと!引っ張るなって!」
彼に手を引かれて木々の中へと消えて行くデミスを生暖かい目で見守るアクアだった。
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「・・・と言う訳で、お二人は今親交を深めている所です。ご主人様は良く彼だと解りましたね?直接会った私でさえ気が付かなかったと言うのに」
「俺もすっかり忘れてたんだけど、あいつの事は以前調べてたんだよ。あいつ俺と似た境遇でさ、荷物送ってきてデミスに面会ってとこで気が付いたんだ。惚れた女の為に全てを賭けるなんて〝おたく〟らしいしな」
「それで陛下は彼を仲間に引き入れるおつもりで?」
「まぁその辺は話をしてからかな。次から次へと来られても困るし・・・・・」
ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!
俺達の会話を遮る様に突然八畳間の方からけたたましい音が鳴り響き、何事かと急いで向かうとPCモニターに赤文字で《EMERGENCY》《Push Enter Key》と表示されていた。
「な、なんだよこれ・・・一体何があったってんだ・・・・・・・」
画面の指示通りキーボードのEnterキーを押すと警告音が止んで画面が切り替わり《勇者の進入を確認しました》《迎撃態勢を整えて下さい》と表示されたのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座いました。




