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そんなこんなで忙しくも楽しい日常に慣れ始めた在る日の事。
「ご主人様、市議会の方々が直接遭って相談したい事が有るそうですが、如何致しますか?」
「ん?市議会?直接って・・・・・外に漏れると拙いのかね?まぁ良いだろ、誰か迎えに行ってくれる?」
「では、我が参りましょう。アクア、何時もの様に地下10階の湖前で良いのか?」
「はい、宜しくお願いします」
こう言う時に真っ先に名乗りを挙げるのは何時もギービルだ。
ティゲルも兄貴と慕っているならば、こう言う所を見習えば多少は人気が出ると思うんだけど、ティゲルの為にならないから俺からは絶対に言わない。
暫くするとギービルが三人の男性を連れて来た。
Y市市議会議員を名乗る男達は名刺を出し、先日の議会で決定した内容の書かれた書類を俺の前に置いた。
「・・・・・ふ~ん・・・これってY市の意向って事で良いんだよね?」
「はい、先日の議会にて賛成多数で可決された正式な決定となります」
「政府は?日本政府と俺の関係知ってるんだよね?」
俺達は戸籍が無いので著作権申請時に特別措置を取らせて貰っている。
「政府は関係有りません。これは地方行政の管轄ですから」
「解った、従おう。期日はここに書いてある来月なんて面倒だから、明日で良いよ」
「陛下!何故言い成りになっているのです!この様な一方的な言い分納得出来ません!」
普段俺の決定に異を唱える事など滅多に無いギービルが憤慨するのも仕方ない事だと思う。何せ迷宮をY市の物として引き渡す様に言われたのだから。
「ギービル、お前の気持ちは解るが押さえてくれ。議員さん、俺達は城と迷宮から出られないから城だけは何が何でも死守する、それで良いなら明け渡すよ」
「ご理解戴き有難う御座います。迷宮の在るこの土地はY市に属していますから、誰も登記していない以上、Y市が管理するのは当たり前の事ですので、市の方で有効に利用させて頂きますよ」
まぁそう言う事だ。迷宮の集客力に目を付けて、利権関係で私服を肥やすつもりなんだろう。
「それじゃぁ今夜0:00に全ての施設を撤去して更地にして置きますので後は自由に使って下さい」
「は?何を言ってる、そんな事認める訳ないだろう。現状のまま引き渡したまえ!」
「あん?そっちこそ何言ってんだ?迷宮内の施設は俺が設置した物で元々此処に有った物じゃないんだよ、撤去するのは当たり前だろ。迷宮内の草一本だって俺個人の資産だ、誰にもやらん」
こいつら迷宮を市営にして入場料とか取るつもりだったんだろうけど、そうは行かない。
「アクア、巡査部長に連絡を、今夜中に撤収する様に伝えてくれ。リトラは政府に治癒薬の取引が出来なくなった事を伝えるメールの用意を。苦情はY市市議会の方にって事で」
「な、何でうちが・・・・・」
「ああ、政府との契約で引渡しは迷宮内、アクア立会いの元でって事になってるんだよ。アクアは水の精霊で水場が無い所には行けないから立ち会えなくなったって訳。決めたのは市議会なんだろ?だったら責任取るのは市議会に決まってるじゃないか。因みに契約の更新は内閣総理大臣が変わる時だから、総理に辞職する様にでも言うんだな」
「そ、そんな・・・・・・」
議員達の顔が見る見る青褪めていく。
そりゃあ自分達のせいで助かる人達が助からなくなるのだから青くもなるわな。そして日本中から非難される事になり、今後自分達が表舞台に出る事は無くなるだろうし、巻き込まれたくない後援者も居なくなるんじゃないかな?
「良かったじゃん、Y市は迷宮の30階層分の土地を手に入れたんだし精々頑張って開発してよ。尤も迷宮は核爆弾でも破壊出来ないからさ、基礎工事なんて出来ないから倉庫代わりに何か置く位しか出来ないけどね」
それだけじゃない、上の階に行くには階段が一本しかないし、幅も1.5mと戴して広くないから大きな物は運べない。普通に使うにゃ不便過ぎるんだよね。
「ちょ、ちょっと待って下さい!もう一度議会にかけて再検討しますから・・・・・」
「はぁ?あんた等が態々税金使って会議で決めた事だろ?そして俺は了承した、契約は成立したんだよ。悪魔は契約を守るって知らないのか?そして俺は魔王、悪魔の王だ。俺がそんな真似したら部下に示しが付かないだろ」
俺は渡された書類と名刺を取り返される前に片付けて立ち上がった。
「ギービル、お客様を丁重にお送りする様に。それじゃ態々ご足労様でした」
憤怒の表情から打って変わって満面の笑みで呆然とする議員達を連れて迷宮へと転移するギービル。
俺は仕事部屋でリトラが用意してくれた政府宛のメールを確認した後、議員達の名刺と共にスキャナーで取り込んだ書類を添付して送信し、SNSで迷宮内の施設を今夜で撤去する事になった経緯の説明と、取り込んだ名刺と書類を公開した。
突然の事態に当然騒ぎになったが、俺はSNSやメールに対して沈黙を貫き、日付変更直前に迷宮内の施設の全てを撤去したのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座いました。




