09
何だかんだで明け方近くまで致してしまい、目が覚めた時にはリトラは洗濯機を回しつつ仕事部屋の掃除をしていた。
ベッドから身体を起こし、用意されていた服に着替えて部屋を出るとリトラが笑顔で迎えてくれた。
「おはよう御座いますご主人様。今食事の用意を致します」
「ん、ああ、おはよう。先にシャワー浴びてくるから飯はその後で」
昨夜の事は無かったかの様に振舞うリトラ。
(何だろう・・・昨夜の事は無かった事にしたいのか?・・・・・解らん)
長い事仕事一筋で独り身だった俺に女性の気持ちなど解る筈も無く、後で直接聞くしかないと服を脱いで風呂場へと入った。
「昨夜はお楽しみでしたね」
「・・・・・ほんと何処で仕入れて来るんだよ・・・まぁ良いや、取り合えず迷宮の地下8~10階に水場を作って有るから後で確認しといてくれ。二日後からはそこの管理をして貰う事になるからさ」
「おそらくは戦う事になるのでしょうが、殺さずに無力化すれば良いのですよね?」
「ああ、可能な限り穏便に頼むよ。機動隊か自衛隊かどちらかが調査名目で攻めて来るだろうけど、説得して上層部・・・出来れば政府との交渉の窓口になって欲しいかな」
「畏まりました。けして叶わぬ相手だと知らしめた上で、お互いに利益になる事だと交渉のテーブルに付かせて見せましょう」
「そいつは頼もしい限りだな。そうそう、何時までもお前って呼ぶのもなんだし名前を付けてやるよ、『アクア』で良いか?」
「有り難う御座いま・・・・・ここは『まんまやないかい』と突っ込む所でしょうか?」
「いや、ボケたつもりはねぇよ?」
風呂場を出て十畳間へ入ると食事の用意が出来ていて、二人で食べながら昨夜の事を如何切り出したら良いかと考えを廻らせていると、リトラから切り出してきた。
「ご主人様が昨夜の事を気に病む必要は御座いません。あれは私の我侭なのですから。特に私からは『責任を取れ』だとかそう言った事は御座いませんからご心配なく」
「いや、そんな都合の良い女みたいな扱いする気はねぇよ。昨日も説明したけど、俺は魔王の記憶は有るけど別人だからさ、リトラが慕っていた魔王じゃないって事が・・・何て言うか悪いなって・・・・・」
「いえ、今回私とご主人様のどちらかでも変わっていなければ私は行動を起こさなかったでしょう。ですから・・・その・・・・・これからも御傍に置いて頂ければそれで・・・・・・」
「・・・そうか、お互い変わっちまったんだもんな・・・・・寧ろ俺から頼むよ、これからも宜しく頼む」
「・・・はい・・・・・ご主人様・・・《ピンポーン》・・・誰ですか・・・折角良い雰囲気だったと言うのに・・・・・」
「多分四天王達だろうし、全く以ってその通りなんだけど、御手柔らかにね?」
瞳を潤ませて幸せ全開と言った表情から一転して、憤怒の形相で立ち上がり玄関へ向かうリトラ。
穏やかな朝食の場が戦場に変わるのは御免である。
ピンポーン
『へぇ~かぁ~!一緒にゲームでもしませんかぁ~!』
ノシノシと歩むリトラの先に有る玄関ドアの向こう側から聞こえる能天気なデミスの声が悲鳴に変わるまで然程時間が掛からなかった。
「いってぇな~あたいが何したって言うんだよ」
「ご主人様の朝食の時間を騒がした罰です」
「何だ?全員揃って大荷物抱えてどうしたんだ?」
リトラの背後から四天王が揃って両手に荷物を抱えて入って来た。
「いえ、昨日は自室でそれぞれ自由に過ごしたのですが、陛下の護衛も有りますし、陛下の許しが有ればここで過ごそうと言う話になりまして」
良く見れば四天王達の荷物は大型TVや各種ゲーム機にDVDプレイヤー等だった。
「・・・ははは・・・・・しょうがねぇ奴等だなぁ。良いぜ、好きにしろって言ったのは俺だしな。その代わりベッドや衣装ケースを仕事部屋に運んでくれ。今のままじゃ狭いだろ」
「おおっ!流石陛下!寛大な措置感謝致しますぞ!」
「うむ、陛下の食事が終り次第移動させて貰うとしよう」
漸く狭いアパートから抜け出したと言うのに結局八畳間だけが俺のプライベートスペースかと嘆息しながらも、こいつらと家族の様に暮らせたらそれも有りだなと思った。
こうして俺達の騒がしくも楽しい共同生活が始まった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。