98話 お姫様とデート2
前回のあらすじ「お姫様とイチャイチャ」
―「紫陽花寺」―
遊園地を後にした僕たちは、高速道路も使って車で20分ほどの紫陽花寺に着いた。ここは、その特異な建築様式からさざえ堂とも呼ばれたりする。そして今回の目的である紫陽花はその建物の周りで咲き誇っていた。
「これが紫陽花なんですね!色々な色がありますね!」
「地元でもかなり有名な場所だからね。そこの建物は歴史上・芸術上の価値が高い物ってことで国の重要文化財にも指定されているよ」
「そうなんですね」
「後で中にも入ってみようか。堂内の拝観できるはずだから」
「はい!」
僕たちはそのさざえ堂を埋めるかのように咲いている紫陽花を見ていく。すると、僕の頬に冷たい何かが触れる。
「雨が降ってきたね」
僕は持って来ていた傘を差す。そして、ユノにも傘を渡そうとしたらそのまま僕の差した傘の中へと入って来る。
「泉さんが言ってたんです。恋人は相合傘をするって!」
……そんな決まりは無いが、その嬉しそうな顔に野暮な事を言う気にはなれなかった。そして、そのまま紫陽花を二人で見ていく。
「キレイですね。雨のお陰で余計に映えて見えます」
「そうだね。でも、この花弁に見える所なんだけど花弁じゃないんだよね」
「え?」
「ここ。この小さいのが花弁なんだ。この周りのはがくって言う花全体を支える役目を持つ部分で、グージャンパマで咲いているローゼリウスにも花の付け根に緑色で葉っぱみたいな物があるでしょ?あれと同じなんだ」
「へえー。面白いですね。優雅に花が咲いてるんじゃなくて、その周りがキレイに見えるなんて……」
「他にも花言葉が面白くてね。紫陽花自体にもあるんだけど、色によってもその意味が変わるんだ」
「その……紫陽花の花言葉って何なんですか?」
「紫陽花自体の意味は…前は時期による花の色の変化から移り気や浮気と悪い意味があるんだけど。最近だと花が沢山あるように見えるから家族団欒なんて意味でプレゼントとして人気があるんだ。色は確か……白が寛容、青だと辛抱強い愛情、ピンクは元気な女性だったかな?まあ…とりあえずプレゼントとして渡す時は少し気を付け無いといけない花ってところかな」
「花に言葉を乗せて相手に送るなんて素敵ですね……そういえばさっき話に出ていた桜にもあるんですか?」
「桜は……えーと……ちょっと待ってて」
スマホを取り出して、桜の花言葉を調べる。
「桜は精神の美、優美な女性だって。後は種類によってそれぞ意味があるみたい」
「へえー……そうなんですね」
他の花の話もしながら紫陽花を見ていく。時折、言葉が途切れる事もあるがそんな変な感じにはならず、ゆったりとしたいい感じの雰囲気が流れる。その後、お堂の中にも入って日本の文化について説明するのだった。
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―「車内」―
さざえ堂を出た僕たちは、この後ユノに予定があるという事で魔法陣のある僕の家に帰る。本来ならこの後、夕食を二人で取ってその後は雰囲気で……となるが相手は未成年。いくら両親公認とはいえソレには……いや、それだから僕は童貞のままなのか……?
「今日は面白かったです!」
「それは良かった。でも、本当はこの前のショッピングセンターより大きい所へ連れて行ってあげようかなって思っていたんだけど……」
ユノのような年齢ならそっちの方が喜ぶかな……と思ってどうしようか悩んだが、今回は止めといたのだった。
「それでしたら次はそこへ案内して下さい♪」
「うん」
それからしばらくの間、沈黙が続く。気付かれないようにユノの方を見ると、その表情はどこか暗い。…………何かやらかしたかな僕?
「ユノ?」
「え?……あ、な、何ですか!?」
「何か考えていたからさ……どうかしたの?」
「いいえ……」
「話してみてよ。僕に差し支えなければさ……それとも、僕に問題が……?」
「いいえ!それは違います!今日はとても楽しかったです!ただ…その……この後の事が……」
「魔族の件?」
「はい……今回のデートを強く薦めてきたのはお父様でして……最初は娘を思う父親として思っていたんです。ただ何か雰囲気がいつもと違うというか……それに、お母様にお兄様も喜んでくれている反面、何かあせってるような心配してるようなところがありまして……だから、恐らくは何かあった時には、私がこっちに逃げられるようにしているんじゃないかと」
「魔族との戦闘でビシャータテアに何かあったら……か」
「ええ。お父様とアレックス兄様は恐らく最後まで国に残る所存だと思います。最後の最後まで王族の務めを果たすために」
「……」
「そしてお母様もお父様を置いてこちらに避難するということはしないでしょう……でも私にはそんな事をさせずに一番安全な場所、こちらの世界へ逃がすつもりなんだと思います。私にこっちの魔法陣を消すように言って……」
「そうか……なんとなくだけど分かってたけどね」
「そうなんですか?」
「うん。あの時の王様たち何かやけに積極的な感じがしたし、それにあの悪魔を倒して以来、各国の代表は対策を大急ぎでしている。この前のソーナ王国の件も魔族の仕業かもって可能性が出て来たしね。……だからかな」
ソーナ王国での一件の後、ゴリラチンパンジーモンキーの変異種であるシルバーバックの発生時期をソーナ王国が調べた結果、ソーナ王国にとってどうにも都合の悪い時期に出て来てるのが分かった。その報告を会議の現場でしたところ、他の国も思い当たる節があるということで、今後は魔獣の動きにも注視するという事になった。……もう、すでに他の魔族が動き出しているかもしれないのだから。
「あの……薫さん」
「うん?何?」
「……お願いします」
「ん?」
「私達の世界を助けて下さい……お願いします!」
ユノが僕の方を向き……そして頭を下げてお願いをしてくる。世界を助けて欲しい。なんて普通ならとんでもないお願いだ。これはゲームでも無ければアニメでも無い。死はそのまま人生終了。コンテニュー機能も無い。けれども……何とかしないと世界が大変な事になるかもしれない。ただ、それはこっちの世界ではなくグージャンパマという別世界だ。僕たちが本来住んでいる世界とは無関係といえば無関係ではあるし、蔵の魔法陣を消してしまえばそれっきりの関係にも出来るかもしれない。ただ……。
「いいよ。まあ、大船に乗った気分で任せて!とは言えないけど」
無視をするなんて……もう僕には出来ない。既にそれほどの繋がりがあちらにあるのだから。それに、こっちに来れる魔法陣がある以上いつかは来てしまうのだろう。それが何年、何十年いや何万年先かは知らないが。
「……いいんですか」
僕は路肩に静かに車を停めて、先ほどから見えていたユノの目元にある涙を指で拭う。
「ここで僕たちが逃げた所でいつか来るかもしれない脅威を先延ばしにするだけだよ。それなら、協力してくれる人たちがたくさんいて、まだ、グージャンパマが魔族によって支配されていない今こそ最後のチャンスかもしれないしね」
「薫さん……」
「それに……大切な彼女の頼みだし、王様は義理のお父さんになるかもしれないんだからさ」
「……ありがとうございます」
「どういたしまして。それと今度から薫でいいよ」
「え?」
「さん付けしなくていいってこと。何か、さんを付けるとよそよそしい感じがして嫌だからさ」
「はい。分かりました……薫」
「うん!そうしたら、魔法の開発に練習をしっかりやっとかないとな」
僕はそう言って、再び車を走らせる。
「麒麟以外にですか?」
「うん。あれは色々準備が必要だし、それに臨機応変に対応できるような技も欲しいかな」
「何か案でも?」
「これが無いんだよね……まあ、必死に考えるか……ユノの為にも」
「はい♪」
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―「薫宅・庭」―
「今日はありがとうございました薫!」
「喜んでもらえたならよかったよ」
庭で今日のデートの話をしていると、蔵から泉たちが出て来る。
「あ、薫兄にユノちゃん。ちょうど帰ってきたところなの?」
「はい!」
「そうかそうか……それで、今日は薫兄の家に泊まる?」
「いや。親元に帰らせるから……」
「まあ、そうだろうと思ってたけどね」
「泉の予想通りっだのです」
「流石ッスね」
何でそんな予想してるんだか……。
「それじゃあ、あっちに送っていくよ」
「あ、薫兄。それは大丈夫。明日の朝、私が送っていくよ」
「……うん?」
「というわけで、これから私の家で女子会!そしてパジャマパーティーをするから皆を連れていくね♪」
「え?」
「私……誰かの家にお泊りするのって初めてです」
「そうか。それで、お泊り道具って蔵の2階にあったこれで合ってる?」
「はい!」
そして泉が手に持っていた鞄をユノに渡す。
「よし!じゃあ行こうか!……今日のデートの成果も聞かないとね♪」
「え?それは恥ずかしいです……!」
「楽しみなのです♪」
「恋バナッスね♪」
「え?ちょっと……!」
それを聞いた僕は急いで止めようとする……が。
「薫!私、今日は泉の家に泊まってくるのでよろしくなのです!」
僕が言い切る前に泉たちはユノを大急ぎで車に乗せて走り去ってしまった……。え?ってことは今日のデートの内容を根掘り葉掘り聞かれるって事?え?え?ちょ?
「ちょっと~~~!!!???」
僕は急いで泉のスマホに電話を掛けるが……出ない。それなら、今から泉の家に行くか?いや、それって男としてどうなんだろう?で、でもデートの内容を聞かれて……。
「--っっツ!!」
翌日、僕たちのデートの内容が泉たちから伝わりとんでもなく恥ずかしい目にあったのは言うまでもない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―デートから数日後「カフェひだまり・店内」―
「地元の遊園地に美女二人が手をつないで仲良くデートしていた……俺の心の何かが目覚めた!」
「同日。寺で相合傘をしていた美女二人がいた……何て尊い!だってよ薫」
「言わないで!もう、その話は!!」
あのデートの様子を見た人たちがネット上に書き込みして、ほんの少しだけ話題になるのだった……。
「……シニタイ」
「ユノちゃんの為に世界を救うんでしょ?頑張ってね勇者様♪」
「なのです」
「……もう勘弁してよ~~!!!!」
「結局、最後はこういうオチなんッスね……」




