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96話 親の心配

前回のあらすじ「親孝行中」

―「王宮・客間」―


「ふう~~……お茶が美味しい」


 あの後、しばらくの間ユノとユニコーンの乗馬をしていたが、こちらも梅雨の時期ということで雨が急に降り始めたので練習を止めて、僕たちは王宮へ避難してきた。


「この部屋……すごっ」


「調度品一つ一つが立派だね。お客さんの中には欲しがる人がいるかも」


「茂さんは調度品や家具を扱っておられるので?」


「ええ。海外のアンティークとか芸術家の作品を輸入、販売している会社に勤めています。ここの品はかなり高い値段で取引が出来るかと」


「それなら一つ友好の証としてプレゼントするか……そこの小型のスタンドランプはどうだ?手をかざせば光量の調整、温度の調整もできるぞ」


「それはかなり実用的ですね……デザインも申し分ない…。しかしいいので?」


「ご子息にはお世話になりっぱなしだからな……この位は全然構わんよ」


「やったー!薫!よくやった!」


「母さん……少しは自重してよ」


「ははは……」


「……そういえばなんッスけど」


 フィーロがおもむろに口を開き、皆の会話を止めた。


「どうしたのフィーロ?」


「そういえばなんッスけど、薫の両親も異世界の事を知ったんッスから薫の先祖について訊かなくていいんッスか?」


「そういえば……そうだったな」


「ん。うちの先祖?」


「それ僕が説明するよ」


 その後、母さんたちに蔵の転移の魔法陣が前からあって、しかもその作り方がこっちの賢者と呼ばれるような人じゃないと作れない事、そして悪魔たちが使ったお香による効果が効かなかったことなどを説明する。その間、二人は何もせずじっと話を聞いてくれた。そして僕の話が終わると、途中でメイドが淹れ直してくれた冷たいお茶を口に含みつつ考える。


「う~ん……となると明菜のお母さんかな?」


「だろうね~~……心当たり多すぎだし」


「薫にとってはお婆様ってことですか?」


「ユノちゃんの言う通りだよ。私の母さん典子って名前なんだけど、何回か父さんがポロリと言ってたんだよね。アンジェって」


「お母さまは偽名をお使いになってたと?」


「偽名……に当てはまるかは分からないけど日本人らしい名前を使ってたね。あっちの神の使いをエンジェルと呼ぶんだけど、それを日本語だと天使、さらにそれを典子って漢字に変更すると、てんこ。って読めたりするの。だから、アンジェって名前ををそんな風にして無理矢理直したんだと思うんだよね……」


「その典子さんは……」


「薫が生まれる前に死んだよ。一応、老衰ってなってる」


「一応?」


「見た目が若々しいから、最初は病気かなってなったんだけどね。目立った外傷も無いし、事件性もないからって死亡解剖をしなかったんだ。それに死ぬ数ヶ月前から寝たきりになってたから……そういえば」


「どうかしたの母さん?」


「あんたの言った蔵の工事を頼んだの母さんだったな……って。確か寝たきりになる直前に急にやり始めたの。私がどうしたの?って聞いたら、私が死ぬ前に友人の為にやらないといけないことがあってね。って言ってたよ。その時は母さんが死ぬって何十年先の話だと思ってたね……」


 母さんはそう言って、お茶を飲むその顔はどこか淋しそうだ。


「その、やらないといけない。って何だったの?」


「分からない。てっきり蔵の中を改造してそこで何かを始めるんだと思ってたからさ。まさか、蔵の中にあれを描くためなんて思わなかったよ……」


「友人……カーターの祖父達だよな……」


「おそらくね」


「薫。典子さんは実家に何か残していなかったのかい?」


「一度、押し入れとかの中身を引っ張り出して調べたんだけど、それらしいのは無かったよ」


「それなら、私が持っている両親の遺品を確認してあげるよ。アルバムとかもあるからもしかしたら何かしら残ってるかもしれない」


「ありがとう。母さん」


「いいんだよ!それに……茂さんが定年退職したら同居するからよろしく!」


「うん?」


「いつでも異世界にいける住居って素敵よね~♪ねえ。茂」


「そうだね。気分はいつでも海外旅行ができるかな」


「……まあ、それはいいけど。ってレイスは?」


「大丈夫なのです。むしろ賑やかになって楽しそうなのです」


「嬉しい事を言ってくれるねレイスちゃんは!後は……薫が結婚して孫の顔を見せてくれるといいんだけどね~」


「それは……まあ」


 それはいいお相手がいればということで……そういう話はここでは勘弁して欲しい。


「泉ちゃんもだよ」


「それなら、大丈夫だと思うッスよ。イケメン二人に魔法の指導をしてるッスから」


「フィーロ!?」


「ああ。カーターさんにシーエさんか……チャンスを逃しちゃダメだよ」


「明菜おばさん!?」


「あっちにいる妹もこれで安心するだろうね。これで泉ちゃんは大丈夫だとして……問題はあんたよねー」


 母さんがジト目でこっちを見てくる。泉に何も言わせないまま、再び僕の結婚についての話に戻すなんて……というか今回は何かいつもよりしつこい気がする。


「そのうちにでも……」


「はあ~~……最後に彼女に振られてから、その言葉を何回聞いたかね」


「ほおーー……茂殿達は薫の結婚が心配と?」


「そうなんですよね。王様のご息女みたいに礼儀正しい子だと安心なんですがね……」


「ふぇ!?……し、茂さん!?一体、何をおっしゃってるのですか!?」


 父さんのいきなりの言葉に、お茶を飲もうとしていたユノが驚いて飲むのを止めて、その驚いた表情のまま父さんの顔を見る。


「それはそれは。良い話ですわね!!ねえ!あなた!」


「そうだな……そろそろ、ユノも結婚をしてもおかしくない年頃だしな……まあ、薫なら問題無いだろう」


 そう言って王様が涼しげな表情でお茶を飲む。いやいや?色々、問題な気が……種族とか……特に年齢的に未成年だよね……。


「ということは、ユノちゃんが私の義理の娘になるのか……いい!いいね!薫!結婚しちゃいなよ!」


「え?いや……」


「何だい?あんな美人な子はダメなのかい?」


「ちょ、ちょっと待って!いきなり結婚って!?」


「でも、ユノちゃんはオッケーだよね?この子を見る目がそんな感じだったし……」


「は、はい。お義母様……」


「ユノ!?」


 や、やばい!この流れのせいか、ユノが僕の母さんをお義母様って呼び始めてる!!


「ああ。だからさっきの乗馬の際にユノを薫のユニコーンに乗らせたんッスね」


「そうだよ。愚息は気付いてなかったけどね……それに、薫以外は全員、気付いてるんじゃないのかい?」


「え?」


 皆は気付いている?え。何それ?


「それは……ねえ……」


「泉と同じッス。レイスも気付いてるッスよ」


「レイスも?」


「フロリアンで皆と一緒にお喋りしてた時に……」


「私共も我が娘の男性の好みは存じてますから……まあ、ここにいない息子ともども気付いてましたね……」


「アレックスもわざわざドローインした薫の絵をお土産に持って来てたしな……まあ、俺も俺で指示してたしな」


「お。お父様……そんなことを?」


「王様?指示って?指示って何!?」


 僕を置いて勝手にどんどん話が進んでいく!王様の指示って誰にしてた!?


「じゃあ、正式にお付き合いをするということで!」


「そうですわね!」


「いや~!これはめでたい!今日はお赤飯かな」


「ユノの嫁ぎ先も決まって良かった!良かった!」


 そして、笑い合う互いの両親……。


「いや!?ダメだよねこれ!?」


「だ・か・ら。何がダメなんだい?」


「そうだぞ薫?ユノと結婚すれば晴れてお前はこの国の貴族になるぞ」


「ユノは問題無いわよね?」


「は、はい!お付き合いさせていただけるなら、文句はありませんお母様!!」


 ユノの顔がとてもうれしそうだ…………いや?だから……。


「年齢!ユノはまだ未成年だよ?」


「グージャンパマなら15歳過ぎれば大人。日本は法律上、父母の同意があれば問題ないから大丈夫だよ。こうなると思って事前に調べておいたから。ユノちゃんも気兼ねなく薫兄と結婚出来るからね」


「泉さん……ありがとうございます!!」


 そして泉は親指を立てて、頑張れのエールをユノへ送る。


「ユノ……互いの両親が同意しているのだから、薫さんのこと……しっかり攻め落としなさい」


「はい。お母様!!」


 攻め落とすって。何か使い方間違ってないかな?


「……あれ?僕の意見を擁護する人ってまさかいない?」


「そりゃあ……俺が用意周到に外堀を埋めたからな。後はお前さんの両親だけじゃったし」


 それって昌姉やマスターもってことかな?王様……いつからこの計画を?


「もしかして薫兄……ユノちゃんのような金髪美少女。しかも隠れ巨乳がタイプじゃないとか?それともすでにお付き合いしている人が……」


「泉。いくらなんでも最後のは無いッス……」


「なのです。一緒に過ごしている私も保証するのです」


「何か酷い言われようなんだけど!?」


「で、薫。問題があるのかい?」


 父さんが冷静な口調で僕に訊いてくる。僕は改めてユノを見る。……金髪美少女で見た感じそうは見えないが巨乳。王家の人間でお姫様……品行方正………。


「いや…それは……ないけど」


 僕はそう返事をする。ユノを改めて評価した結果は問題無い。いや、逆に若くてこんな美人が僕の彼女になる。おまけにビシャータテア王国という権力も付くって……あまりにも好条件すぎる。寧ろこっちが釣り合っていないような……色々、悩みどころが多いような……。


「ちなみにユノっていくつ?」


「この前で17歳になりました♪」


 僕の意見にユノが笑顔で応えてくれる。……30歳の僕が17歳の娘と付き合う………うわ。犯罪臭しかしない。


「年齢的にアレかもしれないけど見た目は大丈夫だって!周りの人には女友達が仲良くくっついている風にしかみえないからさ!」


「そうだそうだ。とにかくまずはお付き合いからでも……な!」


「薫兄!恋する乙女の想いを無碍にするの?」


 周りにいる皆からのプレッシャーが凄い!まさかここまでとは!


「薫……ここで断るとか男としてどうなのです?」


「そ、それは!?」


「薫さん。男としてしっかりとした返事をして下さい」


 レイスと王女様がさらにプレッシャーをかける。しかもやたら、男。という部分を強調してくる。


「わ、分かりました……お付き合いさせていただきます……」


 その言葉を聞いたユノが僕が座っているソファーに近づき、そのまま僕の横へ座り腕を組んでくる。そして……うん。腕に胸が当たる。衣服が基本ゆったりとした物だったので見た目は分からなかったが……この感じ泉の言う通り大きいな。


「泉さんが、薫兄を落とすなら腕を組んだ際に胸を当てるように!って教えてくれました♪」


「何て言う事を教えてるの!?」


「攻め落とすにはこっちから仕掛けないと」


「……泉。君の目的はなんなの?」


「今度、薫兄と一緒に同じ衣装(コスプレ)を着たいって……」


「それが狙いかーー!!というかこれ男に見られていないよね?どちらかと百合の関係じゃないの?」


「私もそう思ったんだけど、女性を恋愛対象に見れないとは言ってたよ。ただ男性は薫兄みたいなかわいい人じゃないとダメっていうだけで……」


「ピンポイト過ぎないその条件?」


~♪~~♪


 僕が泉とこのやり取りをしている間、ユノはずっと上機嫌に鼻歌を歌いながら僕の腕に体を密着させてくる。そして、その光景を見た互いの両親は、いや妬けますねぇ~。とか言っている。


「これから、よろしくお願い致しますね。薫さん♪」


 僕の腕にくっついているユノが、僕の顔を下から覗き込むようにして僕の目を見つめてくる。その表情は笑顔で……とても眩しい。


「う、うん……よろしく」


 …………こうして、僕はユノとお付き合いすることになったのだった。今は6月……結婚を司る神様にしてお姫様の名前と同じ女神ユノが仕組んだ策略かと思わず僕はそう考えてしまうのだった。

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