92話 水槍ブリューナク
前回のあらすじ「多勢に無勢」
7/4:影星の説明を追加しました
―「ソーナ王国・王都より北の森」―
「鵺。玉」
僕は鵺を黒い球体にして魔法の準備をする。そしてこの前の麒麟のように球体に魔力を込めるように意識をする。
「大地の力を貪り肥大せし星よ。全てを引き寄せし黒き星となれ!影星!」
その言葉を言い切ったと同時に、僕は急いで鵺を前に投げ飛ばし距離を取らせる。そして鵺に込めていた魔法が時間差で発動する。
「グ、グギャアアァァ……!?」
鵺から物を吸い込むような力が発生。僕は両手を前に出して鵺を操作してさらに距離を取らせる。
「まさかの引力……しかも、遠隔操作が可能って……」
「いいから早く!」
「それじゃあ……トルネード!!」
物を吸い込んでいる状態の鵺の周りに、下の湖から水をふんだんに取り込んだトルネードが発生して鵺を包み込む。水を含んだトルネードの中に黒く光る物体が見えている。
「出力を上げるのです!」
レイスの言葉を合図に影星の出力を上げる。
「こっちもッスよ!」
泉のトルネードの出力も上がる。徐々に吸い込む力が強くなっていく。
「ヒヒーン!!」
ユニコーンたちも子供たちが飛ばされないようにその体で押さえ始める。ユースさんは……。
「うおおおおーーーー!!!!なんなんだ!!この術は!!!!」
後ろから声がする。レイスと同じように僕の背中に隠れているようだ。
「「「「キキーー!!!!」」」」
ゴリラチンパンジーモンキーは木の枝に掴まっている。しかし、細い枝に掴まっていた奴らは枝が折れたりしてどんどん吸い込まれていく。
「じゃあ、まずは右!」
「オッケー!」
泉たちと連携を取りながら、僕たちは湖上に発動させた術を移動させる。
「キッキーー!!」
「ギャアァ!!」
どんどん吸い込まれていくゴリラチンパンジーモンキー。僕たちはまず自分たちの周りを一周した後、今度は木々にしがみついていたゴリラチンパンジーモンキーにそれを近づけて吸い込ませる。
「キャホホーー!!」
「ギシャシャーー!!」
どんどん吸い込んでいく……。
「グェーー!!」
「ゲコゲコーー!!」
どんどん……。
「ドヘェェーー!!」
「ア~ウトォォーー!!」
「叫び声!!統一してよ!!気が散るって!!しかも最後!!アウト!!って言ってたよね!?」
「薫兄のツッコミ待ちだったとか?」
「この状況でなのです!?」
「体を張るッスね。あいつら芸人魂があるッスね」
「仲間があんな目に合ってるのに!?」
吸い込まれてしまったお仲間さんたちはトルネードの中に取り込まれている。そして先ほどから述べたようにうにトルネードは水を大量に含んでいるため……。
「……溺死してるね」
「なのです……」
それからも操作してどんどん吸い込み……溺死させていく。それを約5分続けてあらかた片づけた所で解除する。
「はあ~~……疲れた……」
「だね……」
「で、この悲惨な死体の山どうするんッスか?」
「なのです……」
湖上にはゴリラチンパンジーモンキーが、ぷかっ。と浮いている。しかも大量に。
「あ。鵺……」
投げ飛ばした鵺を確認すると、球体のまま僕の元へゆっくり飛んで戻ってきた。
「投げても戻ってくるって……便利」
「そうだね……ここまでが術の効力なのかな?」
「え?自分達で操作してるんじゃないんッスか?」
「してないんだよね……これ」
魔法の力って本当にご都合主義である。
「まあ、それは置いといて……」
「ヒヒーン!!」
ユニコーンが鳴く。その目線の先を確認すると何か白いのが動いたのが見えた。
「シルバーバック!?」
「やばっ!」
追いかけようとすると、安全な場所に避難していたゴリラチンパンジーモンキーが襲い掛かってくる。僕たちはそれを迎撃しようと構えたが、数は少ないため戦えるユニコーンがそれらを代わりに迎撃してくれる。
「ヒン!!」
すると2匹のユニコーンが僕たちに近づいて頭を使って何かしらを伝えようとしている。その仕草は背中を差しているようだ。
「まさか……乗れってこと?」
するとユニコーンが足を折り曲げて、僕が乗りやすい体勢なってくれた。
「薫兄!行こう!!」
泉たちの方を見るとすでに乗っていた。
「薫!」
「わ、分かった!」
そして、ユニコーンは僕が乗るのを確認すると、湖上を走り出す。
「うわ!早い!」
「なのです!」
僕たちが飛ぶよりかなり早い。しかもブレーキをかけずに木々を縫うように走ったりする。
「はは!なんせユニコーンの走る速度は魔獣の中で一番だって言われているぐらいだしね!!」
僕の服にしがみつきつつ、ユースさんが説明をしてくれる。ちなみに僕たちも乗馬用の道具が無いのでユニコーンの体にしがみついたりしている。
「あ!いた!」
レイスが僕の服にしがみつつ指を差す。その指差す方向を見ると蔦や枝を使って素早く移動する白いゴリラチンパンジーモンキーがいた。
「薫兄!この姿勢、長時間もたないから一気にケリをつけるけどいい!?」
「分かった!どうすればいい?」
「あいつを落として!」
「分かった……レイス。雷いくよ」
「はいなのです」
「当たれ!雷連撃!!」
白いゴリラチンパンジーモンキーが逃げる方向に無数の雷を発生させる。残念ながら当たらなかったが……蔦を掴み損ねて落ちてくる。
「これが……神霊魔法か」
「いくよ!ユニコーン!!」
泉の呼びかけに応えて、ユニコーンが速度を上げる。
「フィーロ!ユニコーン!いくよ!」
すると、泉たちの周りに薄い水のベールが発生する。
「神話に語り継がれし神槍のごとく敵を貫け!ブリューナク!!」
「ヒヒーン!!」
水のベールが形を変えて、ユニコーンに跨った泉たちを包みつつも先端がランスのような鋭い形になる。そしてその先端では水がドリルのように高速回転をし始める。ユニコーンの走る速度に水の回転がどんどん速くなっていく。
「キ、キキィィーーーー!!!!」
そして、その勢いのまま白いゴリラチンパンジーモンキーに突進。四散させた。
「おう……やるね彼女達……」
「まあ、あれだけデカい槍……いや、ドリルで貫かれたらああなるよね」
「なのです」
泉たちが術を解除して、こちらに向かってくる。
「よっし!倒した!」
「また、ゲームの呪文を再現出来たッスね!」
「ヒヒン!」
ユニコーンも嬉しそうに鳴いている。
「そうしたら戻ろう。ユニコーンの手当てしないと」
「うん。そうだね」
「ゴメン!チョットだけ待ってくれ!アレ!アレの回収をして欲しい」
ユースさんの言うアレ…。白いゴリラチンパンジーモンキーの頭部が沈まずに浮いている……。
「薫兄……」
「うん……分かってる……」
あっちの世界で平和に暮らしていた女性である泉に魔獣の死骸を持つというのは酷な事だろう。ここは男性として……そう。男性としてこの僕が……とは思っても気が引ける。しかし、これを持っていけるのは僕だけだろうし……。僕はアイテムボックスからビニール袋を取り出してその中に目を見開き、口から血以外にも何かを吹き出していた頭をマジックハンドにした鵺を使って入れる。入れ終わったそれをアイテムボックスに入れて………いや、なんか呪われそうだからそれは止めとこう……。
「じゃあ、戻ろうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―数十分後―
その後、ユニコーンたちがいる場所まで戻ってきた僕たちはポーションを使ってのケガしたユニコーンたちの応急処置をする。
「とりあえずはこんな所かな……どっか安心して休める場所まで移動出来ればいいんだけど」
「そうだね……ふわ~ぁ」
泉が口に手を当てて大きな欠伸をする。そして、座っていたユニコーンの背中に座った。
「大丈夫ッスか?」
「うん?いや。ちょっと疲れたなって……」
「上級魔法を長時間維持してたもんね……」
僕もそう言って背筋を伸ばす。
「薫も疲れているのです?」
「少し休んだらどうだい?この森に入って大分時間が経っているだろうしね」
僕はユースさんからそれを聞いて時計を見る。
「16時か……」
「森に入ってから6時間も経ってるんだよね……」
この森は薄暗く木々の発光によって周囲が照らされている。そのため時間の経過というのが分かりにくい。しかも、お昼ご飯を食べて休んだ以外は魔法を使って飛びながらの移動だったために精神的にも肉体的にも疲労しているのだった。
「すう……ん……」
「って泉?」
「寝てるのです」
「疲れたんッスね」
ユニコーンをベッドに……なのかな。あれは?とりあえず掴まったまま泉が器用に寝ている。
「ヒヒン……」
シルバーバックとの戦闘の時に乗っていたユニコーンがこちらを見る。鳴き声的に僕を心配しているような気がする。
「君も休んだほうがいい。もし何かあったら起こすから」
「でも……」
「シルバーバックが倒れた以上、ゴリラチンパンジーモンキーが襲ってくることはないよ。それにここにはユニコーンが一杯いるしね」
「うーん……」
「もし、何かあった起こすから……さあ」
「それじゃあ……」
お言葉に甘えて、僕もユニコーンの背中で休み始める。いや。これ眠れるのかな?と思うのだが……いや?意外にひんやりしていて……あ、抱き心地意外にいいかも?でも、柔らかい訳では無いし……どちらかというと馬と同じように筋肉質というか…………。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―3時間後「ソーナ王国・王都」―
「薫?大丈夫?」
「う、うーん……?あれ?カシーさん………って!」
僕が寝ぼけ眼で起きる。そこには今日の朝に見たソーナ王国のお城が見えた。
「ヒヒーン!!」
ユニコーンが元気よく鳴いている。時計を見ると3時間経過していた。どうやらユニコーンの背中でガチ寝をしていたらしい。
「しかし、ユニコーンの素材である毛を持って来るんじゃなくて本体を連れて帰るとは……しかも大勢で……」
「ふぇ!?」
僕がワブーの視線の先を見るとそこにはユニコーンの群れが出来ていた。そこにはケガしているユニコーンもいた。
「あ。手当て……応急処置しか……」
「それならレイスちゃん達がシーニャ女王と一緒に準備しているわ。それと泉ちゃんならまだ寝てるわよ」
カシーさんに言われて、泉を見るとユニコーンの上でぐっすり眠っていた。
「しかし……あなたってやっぱりユニコーンから見ても女性にしか見えないのね……」
「……あ」
ただいま現在、僕はユニコーンに乗せてもらっている最中。そしてこのユニコーンは男性に触られることを強く拒否する。それは、たった今ユニコーンに触れようとした勇敢なエルフの男性兵士さんが蹴り飛ばされて湖に落ちたのが見えたので間違いない。しかし、同じ男性である僕は触れるどころか、背中まで乗せてもらっている。
「ねえ君?今さらなんだけど……僕、男だけど?」
それを聞いたユニコーン……そして他のユニコーンたちも少し驚いているような感じで僕を見る。そして、まるで打ち合わせしたように全頭が同時に左、右へと首を傾けて考える。そして……何事もなかったようにその場でくつろいだり、子育てに戻った。
「……ヒヒン」
「問題ないようね」
「やったな。薫」
「……誠に遺憾です……いや。本当に」
―クエストクリア!「ユニコーンから素材を回収しよう!」―
報酬:ユニコーンの毛、ゴリラチンパンジーモンキーとナイトウルフの素材たくさん、シルバーバックの頭部。他にも手に入る報酬があるので、忘れないように受け取りましょう。
―地属性魔法「影星」を覚えた!―
効果:鵺を玉にした状態のみ使用可能。鵺を中心に強力な引力を発生させます。遠距離からの操作が可能で術終了後に鵺が手元に戻ってきます。かなり強力な引力が発生するので自身が巻き込まれないように注意しましょう。なお、今回のように他の魔法と併用する際には上級魔法でないと打ち消す恐れがあるので要注意。




