91話 ゴリラチンパンジーモンキー戦
前回のあらすじ「とりあえず仔馬を発見」
―「ソーナ王国・王都より北の森」―
「鉄壁」
「プロテクション!」
子供のユニコーンが来た方向へと飛んでいる間に防御魔法をかけて、しっかり戦闘準備を取る。
「今回は……火属性はともかく……雷属性も厳しい?」
「森林火災なんて起こしたら大変だからね……」
地面が水とは言え周りは森。こんな所で、火を使ったら大変な事に……。
「それなら気にせず使ってもらっていいよ」
「え?でも……」
「ここは大丈夫なんだ。君達にも分かってると思うんだけどここの森の木は少し違う。ここは魔力を取り込んで木自体が発光。そして耐火性にも優れている。じゃないとあの町で火を使って調理とか暖を取るとか出来なくなるだろう?」
「それは……気にしていたんですけど……それに雷で燃えたんですよね?」
「その雷で燃えた後なんだよ。この森が出来たのはね。どうやら一度大規模火災をここの木々が経験したことで、その対策として魔力を使って自身を燃えにくく、かつ燃え広がらないように地面に水を用意するように……ね」
「え?じゃあここって元々は普通の森だったんッスか?」
「ああ。他と変わらない森だったらしいよ」
「これ直哉に教えたら、なんだその進化方法は!?ってツッコミそうだな……」
僕たちの世界の木々が雷を受けただけでそんな急激な進化をしたら大変な事になってしまう。やっぱり魔力が当たり前の世界だからこその進化なのかな?でも、あっちにも魔力は存在するし……。
「何か考えているようですけど……そこまでにしといた方がいいのです薫」
「え?」
「ユニコーンちゃんが警戒しているのです」
泉がフライトを使用してユニコーンを宙に浮かせている。ユニコーンは水上を駆ける事は出来るのだが、空を自由に飛ぶまででは無かった。ユニコーンは最初こそ驚いた様子だったが、今は空を駆けるように飛んでいる。
「来たよ!」
上からゴリラチンパンジーモンキーたちが蔦を片手に持ちながら落ちてくる。ただいま水上を移動中のため先ほどのように針の壁を出す事は出来ない。
「氷連弾!」
「ウインドカッター!」
攻撃が当たり何体かは仕留めたりケガをさせたりは出来た。……が、まだ何体かがこっちへ向かってくる。
「とは言っても……空中を自由に飛べるこっちの方が有利だけどね!」
僕は鵺を籠手にする。
「レイスいくよ!獣王撃!」
向かってくる一体のゴリラチンパンジーモンキーに獣王撃を喰らわす。いつものように吹き飛んで他のゴリラチンパンジーモンキーも巻き添えにする。
「やるね薫兄!」
泉たちにもゴリラチンパンジーモンキーが集団で襲い掛かる。ゴリラチンパンジーモンキーが泉と近くにいたユニコーンに触れた途端にそれは消えて、同じように攻撃を仕掛けようとした他の仲間と互いにぶつかり合って湖に落ちていった。さらには他の吊り下がっている蔦を掴もうとしたゴリラチンパンジーモンキーは確かに掴んだはずのそれを掴めずに落ちていく。
「どうやら、全員倒したみたいだね……」
声がする方を向くとそこには泉たちとユニコーンがいた。ユニコーンはすでに警戒を解いている。
「ミラージュ……パワーアップしてない?」
「あれから調整して広範囲に幻影を生み出すことに成功したんだよね。これを召喚魔法に応用できないかな……」
「いや……造らなくても」
「なんだかんだで巻き込まれそうになりそうだし……予防策としてね。それに夢があるじゃない♪」
「それ……もしかして僕が知っているアレ?」
「うん。薫兄達が和風の隠しキャラなら、私達は洋風の隠しキャラよ!」
「全てを幻想へと誘うッスよ!」
あの召喚獣……確かゲーム内だと町一つを幻想で壊滅させたやつだった気が?
「いいのかな?」
「私達が言えた事じゃないのです……」
まあ、僕の麒麟が地面を捲り返すことが出来ないように、おそらく町一つを幻想に陥れる魔法なんて出来ないだろう………多分。
「とりあえず、どんどん進もうか?……ねえ?君のお母さんどっちにいるか分かる?」
「……ヒヒン」
ユニコーンが少しだけ辺りを見回すとある方向へ首を振って一声鳴く。僕たちはその後を付いて森の奥へと向かう。
「しかし結構、奥まで来たね……」
「こんな奥には来ないんですか?」
「ゴリラチンパンジーモンキーや他の魔獣がいるからね……精霊だけの調査隊なら普段はもっと前で引き返すよ」
「……他の魔獣ってアレ?」
僕はたまたま見つけた木の上で倒れている無数のウルフを指差す。
「あれはナイトウルフ!?」
僕たちは、ナイトウルフが横たわっている場所に降り立つ。
「既に息絶えてるね。でも死んでからそんなには経ってはいない……」
ユースさんが触れるのを見て僕も確認のためにその死骸に恐る恐る触れると、その体はほんのり暖かかった。
「これもゴリラチンパンジーモンキー?」
「多分……ユニコーンだったら水属性の魔法を使うから死骸が濡れていたりするからね」
「多分。ってどういうことッスか?死骸が濡れていないならゴリラチンパンジーモンキーッスよね?」
「その彼等の死骸が無い。両者とも互角の実力なんだ。こんな一方的にやられるなんて……」
「まさか……特別?」
僕たちは顔を見合わす。もしかしたら魔物が裏で悪巧みをしてるのかと。するとユースさんから、この原因となる存在の名前が出る。
「まさか……シルバーバックか?となると不味いな」
「シルバー……バック?」
「なんッスか。それ?」
「ゴリラとかだと群れを司る名称だね」
「ああ、その通りだ。ゴリラチンパンジーモンキーの群れを司るリーダーをそう呼ぶんだ。ただ、普段はそんな個体はいないんだけどね」
「普段はいないのです?」
「ああ。彼らは普段から集団行動を取るんだが、そこに統率者はおらず、仲の良い者同士がつるんでるようなものなんだ。そして……自分たちが大ケガするような戦いを好まない」
「でも、さっき2回戦いましたよ?」
「それはてっきり君達の見慣れない姿を見てこの森に来た新参者と思って襲って来たんだと思ってたんだよ。まさか女性2人に精霊3人のグループに負けるわけが無いってね」
「僕たちはいい獲物ってことか……」
僕に対する女性発言をしたユースさんにツッコミを入れようかと考えたが大人しく話を聴く。
「ただシルバーバックがいるとなると話は変わる。この個体だけドラミングという特殊魔法を使えるんだが、この魔法を使うと仲間を強化。そして自分の言う事を聞かせることが出来るようになる。そして集団を統率し始めて、手当たり次第に自分達にとって邪魔な存在へ攻撃を仕掛ける。さっきのアレは巡回してたグループってことさ」
「なるほど」
「そして……こうなると王都も襲う可能性がある。だからシルバーバックの存在の確認が取れたら王都にいる兵団に魔法使い、そして賢者。彼らを呼んでこれに対応する。それほどの大事が今この森で起きてるってことさ」
「どうするの?戻るの?」
「ヒーン……」
「ユニコーンちゃんがつぶらな瞳でこっちを見てるのですよ……」
「しかし……」
「……この子の親と合流。その後、ユニコーンの親子と一緒に森からすぐに退避。もしシルバーバックと遭遇したらその時点で全力で逃走する」
「……しかし、ユニコーンが言う事を聞くか?」
「分からない。けど、子供を心配する親なら安全な場所に避難しようとするはず。子供からも説得してもらうのもアリだと思うんだけど……どう?」
「ヒヒン!」
「オッケーみたいッス」
「男性にここまで心を許しているのは始めて見たよ……」
「……」
そういえばこの子、僕の指示にほんっっとうに素直に聞いてくれている。ありがたいけど……複雑だ。
「と、とにかく周囲に警戒しつつ探そう」
そのまま、僕たちはさらに奥へと進もうとする。その時だった。
「ヒヒーーン!!」
「今の鳴き声は!」
遠くから聞こえる馬のような鳴き声。しかも大分近くにいる。
「あっちからなのです!」
「皆!戦闘準備オッケー?」
「大丈夫よ!」
「これよりミッションに入るッス!」
レイスとユースさんも僕を見て頷く。そして僕も鵺を刀にして、皆で声のする方に向かう。
「上!」
声のする方へ向かうとする僕たちに、ゴリラチンパンジーモンキーたちが上から蔦を使って降りてくる。僕たちはそれを回避、そして蔦を切って湖に落とす。
「湖へ落ちるのにためらいは無いのかな……」
「やっぱり……シルバーバックだよ。魔法ドラミングには一種の洗脳効果があって恐怖心やそれらがなくなるんだ」
「狂戦士化ってことか……」
「あ!見えた!」
前を見ると複数体のユニコーンが確認できた。そして、それを囲うように木の根っこや枝などにゴリラチンパンジーモンキーがいた。すると、一体のゴリラチンパンジーモンキーがユニコーン目掛けて飛び降りた。
「鎌鼬」
鵺を素早く振り、風の刃を飛ばす。その刃は掴みかかろうとしていたゴリラチンパンジーモンキーの両手を切断した。それによって空中でバランスを崩したゴリラチンパンジーモンキーはユニコーンに触れることも無く湖へと沈んでいった。
「ウインドカッター!」
さらに泉が周囲にいるゴリラチンパンジーモンキーへ威嚇用に魔法を撃つ。そして、僕たちはその隙にユニコーンたちの傍へと近づく。
「助太刀するよ」
「これ以上はさせないよ!」
「ヒヒーン!」
すると、さっきまで一緒にいた子供のユニコーンが一匹の大きいユニコーンへと近づく。それを見たユニコーンは頭を使って仔馬を撫で始める。どうやらあの子の親みたいだ。無事に親と再会できてよかった……ただ、その親もだいぶケガしている。
「「「キキィィーーーー!!!!」」」
「これは……数が多いね」
「どうするッスか?」
「……逃げよう」
「だね。これはいくら何でも無理……フィーロ!アイスランス!!」
泉たちが魔法を使って、蔦を使って近づくゴリラチンパンジーモンキーたちを落とす。その間に他のゴリラチンパンジーモンキーたちが僕たちが来た道の蔦や根っこに移動をして道を塞ぐ。
「退路を断つ……か」
強行突破をするしかないかな?
「移動は……無理だ。かなり酷いケガをしてる……」
ユースさんが、何とか水上の上に立っているユニコーンのケガを診る。男性であるユースさんがユニコーンに触れられる以上、大ケガは間違いないだろう。
「「「「キキィィーーーー!!!!」」」」
すると、たくさんのゴリラチンパンジーモンキーが飛び掛かってくる。僕たちも魔法で応戦。まだ戦えるユニコーンもその角や脚で攻撃したり、強力な水弾を使ってゴリラチンパンジーモンキーを蹴散らしたりしている。
「どうする薫兄!」
泉に訊かれて、案を考える……今いる場所は水の上。雷属性は感電も考えると危険。後は地属性も今回は対象となる物が無いから無理。火属性は大丈夫とはいうが心配だしそもそも適性がない。となると水属性と風属性……。
「トルネードで周りを吹き飛ばす?」
「うーん。それでも全ては無理だよね……」
そんな話をしながら、襲い掛かってくるゴリラチンパンジーモンキーをあしらう。どうにかして、こいつらを一か所に集められないかを考える。ユニコーンたちの方もどういう魔法かは不明だが湖の上に座り込んだりするのも出てきている。すぐにでも対処しないと……。
「一ヶ所に集められたら……」
「薫。あれは?獣王撃の際に出来た……」
「え?……あ~~……あれか」
「何か手があるんッスか?」
「あるようで……いや、上手くいくかな?」
「あれの周囲にトルネードを発動させればイケると思うのです」
「でも、僕たちが巻き込まれないかな?……いや。僕たちを起点にしてグルっと一周すればいいのか?」
「なに?何か手があるの薫兄?」
「あるけど……泉。トルネードって操作できる?こう一周……」
僕は手振りを加えながら説明をする。
「それらな出来るよ!トルネードの最大の利点だもの」
「発動中は術者の意思で自在に動かせるッス!」
「それなら……二人共ちょっと耳貸して」
これからの使う魔法について二人に話す。
「ちょっと!?そんな魔法ありッスか!?」
「使えるからありなんだろうね。ということでいくよ!」
とりあえず獣王撃と一緒に出来たのはいいが自滅しそうになって、使い道が思いつかなかったため魔導書にも書かなかったこの魔法。……危なくなったら直ぐに解除しよう。そう自分の心の中で決めたのだった。




