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90話 昼食タイム

前回のあらすじ「湖の上に造られた国」

―「ソーナ王国・王都より北の森」―


「なかなか見つからないッスね……」


「う~ん……ユニコーンは棲み処を設けずに、常に移動し続けるからね。その場に留まる時は、今のように出産と育児をするほんの少しの間だけだし……」


 精霊専用の双眼鏡を覗きながらユースさんが答える。


「これって今日中に見つかるのかな?」


「どうだろう?よく野生動物の撮影とかは泊まり込みが基本だし……」


 一応、マスターには明日まで休みをもらっている。泉たちも同じだ。それだから期限としては明日の午前中くらいは問題無い。しかし探索するための準備は全くしていない。スマホも使えない以上、手分けして探すというのも難しい。……今さらだが、そもそもシーニャ女王が探すのに月日をかける。って言ってたよね……これ今日明日中には無理なんじゃ……。


「ふう~……少し休むとするか…」


 時計を見ると、既に午後1時を過ぎていた。


「少し遅くなったけどお昼にしようか……ということで、お弁当を持ってきたから」


「流石、薫兄!いいお……」


「お嫁になる。とかいったらあげないよ?」


「……は~い」


 一回捜索を中断して、僕たちは木々が重なって丁度座るのにいい場所を見つけて昼食の準備を取る。


「お~……玉子焼きにから揚げ、ミニトマトにポテトサラダ。しかも食中毒予防にポテトサラダのキュウリは抜いている……」


「塩もみして、しっかり水気を抜けば問題無いけどらしいけどね。ちなみに使ってる具材は一度炒めてるから、生の野菜は使ってないよ」


「お~!!これが異世界の料理……これはなんと役得!」


「後はおにぎりもあるからどうぞ。それと水筒にはお茶が入ってるから」


「それじゃあいただきッス!」


「あ、ずるいのです」


 レイスたちが料理を取り始める。ちなみにカシーさんたちにもお弁当の一部を分けてある。


「というか、なんでお弁当を準備してたの?」


「カシーさんたちから事前に頼まれたんだよね。今日の仕事のため用意しといて欲しいって。……シーニャ女王のために」


 カシーさん。きっとシーニャ女王に頼まれたんだろうな……。


「なるほど」


「……お、美味しい!!この玉子焼きってただ焼いているだけじゃないのかい?」


「中に砂糖、それと塩と醤油を少々」


「しょうゆ……聞いたことの無い食材だな」


「大豆と小麦に塩。さらにそこに麹を入れて発酵させて作った日本のオリジナル食品だから、グージャンパマにはないかな?」


「異世界の料理って発展してるな……」


「私達もあっちの食事には毎回、驚いているのです……」


「そうッスね」


「あっちで暮らして、結構経つけど……まだ驚く?」


「食材の使い方がすごいのです。卵でも卵白と卵黄に分けてそれぞれ調理したり、煮崩れ防止用に落し蓋とか料理を魅せるために食材に飾り包丁とか細かいのです」


「うちはカップラーメンとかチルド食品っていうやつに感動してるッスね。持ち運びも楽だし長旅に最適ッス!味も様々あって飽きがこないッスよ!」


「この二人の性格がはっきり出てるね……というよりフィーロ。あなた一人暮らしは止めといたほうがいいと思う」


「ふぅ?何でッフか?」


 フィーロが食材をもごもごしながら喋る。それを見たレイスが、お行儀が悪いのです。と注意をしてる。


「栄養が偏って早死にしそう。心臓発作を起こして……人知れず……」


「フィーロ……いいやつだったよ」


 一人暮らしのアパートの床で横たわっているフィーロのイメージが思いついた。


「うぐ……って勝手に殺さないで欲しいッスよ!」


「でも、泉の言う通りなのです……旅の最中も気に入った物があるとしばらくの間それだけしか食べないってことよくあったのです」


「ということで……注意した方がいいわよ。成人病を患うと大変だから」


「色々なカップラーメンとか色々なチルド食品とか食べれば?」


「それよそれ。……それらって野菜成分が少ないし。中には長期保存のために味を濃くしたり、添加量を多めにいれたりするから、多用し過ぎるのも問題よ?」


「じゃあ……サプリメントを」


「あれもあくまで補助だからね?じゃないと……この前のテレビに映っていたおデブさんになりかねないわよ?」


「……あれは勘弁して欲しいッス。動けないほどの体にはなりたくないッス……」


 ギネスに載るような人になると、重機を使って病院に運ぶぐらいだしな……。まあ、精霊は太っても運べそうだけど……。


「といっても、ご飯の準備って私や薫兄。それにひだまりでするから問題ないのかも……」


 泉はコスプレイヤーとして体型には注意しているので、料理のバランスとかは問題無い。僕も30という歳を考えているので、健康には注意している。


「とにかく、これからは少しだけ食べ物には気をつけるッスよ」


「そうするのです」


「僕も人の事を言えないな……興味のあることに夢中になって食事をおろそかにするし……え?」


「うん?どうしました?」


 急にユースさんが会話を止め、そして食べる手も止めた。それとほぼ同じタイミングで僕の背中を何かが突っつくような感じがした。僕が後ろを振り返ると……小さい白馬がいた。そのつぶらな瞳は僕の持っているおにぎりを見ているように見えた。


「……えーと、食べる?」


 僕はまだ手を付けていなかったおにぎりを、手で一口サイズにして白い仔馬の前に出してあげる。


「ヒヒーン!」


 一鳴きすると、出したおにぎりをお行儀よく食べ始める。食べ終わると、頭を僕にこすりつけておかわりを要求するので、同じようにちぎって出してあげる。


「かわいいのです♪」


「そうね♪」


「癒されるッス♪」


「……えーと……ユースさん。この白い仔馬って……」


「ユニコーンの子供だよ。大人になるにつれて角が生えるんだ。親馬はどこかな?」


 へーえ……これがユニコーンの子供か……あ、よく見ると頭部にちょこんと角みたいなのがある。おそるおそる触る。表面は滑らか……先端はまだ子供だからか尖ってなくて丸まってる。頭を撫でてあげると気持ちよさそうにするので、鬣や首と撫でてあげる。


カシャ!


 音のする方をユニコーンと一緒に見ると泉が写真を撮っていた。


「ねえ…今度は私が触ってもいいかな?」


 カメラを持った状態で泉がおそるおそる僕に訊いてくる。


「たぶん?……君、いいかな?」


 意味があるか分からないけど、ユニコーンに聞いてみる。すると泉の方に近寄って頭をこすりつける。


「う、うわぁぁぁぁ~~!!私、ユニコーンに触ってる!!」


「毛並みがいいのです♪」


「本当ッスね……」


 皆が優しく嫌がらない程度に触ったり撫でたりする。


「じゃあ、僕も……」


 ユースさんが撫でようとする。すると途端にユースさんから距離を取る。


「……薫さんが大丈夫だからと思ったけど……ダメか」


「よかったね薫兄。これで立派な女性認定だよ」


「いやいや!この子、仔馬だし!ねえ!僕って男だけどいいの?」


 さっきの事で意思疎通が出来るのが分かったので聞いてみる。首を左、右と傾けつつ僕をジ~ッと見つめ少しばかり考える仕草をする……そして、頭を僕にこすりつけてくる。


「オッケーだって」


「解せぬ」


「とりあえずは、一つ目の目的は達成したね!後は素材だけど……」


「……あれ?この子、ケガしてる?」


 よく見ると後ろの右足を引きずっている。僕は救急箱それとポーションをアイテムボックスから取り出して、救急箱からガーゼを取り出してポーションを染み込ませる。


「痛いけど我慢してね……」


 傷口に菌がいるといけないので消毒液を吹きかける。少しビクッと体をこわばらせるが暴れずにじっとしてくれる。その後、傷口にポーションを染み込ませたガーゼを当てて傷口を塞ぐ。


「これでよし……と」


「偉いのです」


 レイスがそう言ってユニコーンの頭を撫でて上げる。ユニコーンも気持ちよさそうだ。


「ケガをしてたのか……となると何かに襲われたのか?」


「さっき話していたゴリラチンパンジーモンキー?」


「ぐらいかな……他に襲えそうな魔獣はナイトウルフぐらいかな?」


 すると、ユニコーンが首をせわしなく動かして上の方を見る。


「……まさか!」


「「「「ウキャーーーー!!!!」」」」


 薄暗い木々から突如、何かが上から降りてくる。


「しま……!!」


「鵺。針地獄!」


 僕は城壁と同じ要領で、鵺で壁を作る。向かい側は尖った無数の大きな針が付いてはいるが。


「「「「グギャアアアアァァァァーーーー!!!!」」」」


 壁の向こうから襲ってきた何かの断末魔が聞こえる。


「え?」


「常に相手がどんな行動を取るか注意しないとダメだよ君たち……まあ、聞こえてないと思うけどね」


 鵺を戻す。落ちて来たやつらは無残にも針で貫かれて絶命。そして倒れていたのは両腕が極端に太く、サルには似合わない牙を持った魔獣だった。


「これが……ゴリラチンパンジーモンキー?」


「ああ。他の仲間は……いないみたいだね」


 ユースさんが向いた先には、体を震えさせながら泉にべったりくっついているユニコーンがいた。だが、さっきまでのように何かを警戒している様子はない。


「となると、この子はぐれたんだね……」


「可哀想ッス」


「どうするのです?」


「近くに親がいるはずだよ。ケガした仔馬が遠くに行けるはずが無いしね」


「じゃあいる方向はこっちかな?」


 ユースさんが指を差す方向。僕がユニコーンに背中を突かれた。ということは僕の背中にある森の方向から来たってことになる。


「……おそらく戦闘になると思うけど……大丈夫かい?」


「分からない。皆はどうする?」


「いこう!親と逸れるなんてかわいそうだもん」


 泉の意見に皆が同意する。昼食を切り上げて、僕たちは迷子になったユニコーンの子供と一緒にさらに森の奥へと進むのだった。

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