89話 ソーナ王国の冒険
前回のあらすじ「調査中」
―「ソーナ王国・王都」―
「お~!!すっごーい!!こんなお城見たこと無いよ!!」
泉が城下町から見えるソーナ王国のお城を見て感動している。
「うん。これはすごいね。大樹にお城が飲み込まれているのかな?」
「少し違いますね。最初はこの木が大昔に落雷で一部消失したらしく、その消失した部分をお城の一部として組み込んだそうです。それでそのまま木が成長していって、お城を飲み込んだというのが正しいですかね」
シーニャ女王が僕の質問に答えてくれる。
「あ。写真いいですか?」
「えーと……あっちのドローインですよね。どうぞ」
小説用に写真を撮る。木に飲み込まれた石のお城に……町はマングローブみたいに水の中に根を張る木にツリーハウスや木の道が造られている。現在の時刻は朝なのだが、うっそうとした森の中には日光はあまり届かないので、常に町は魔石のオレンジ色の灯りがほんのりと照らしている。
「こんな町、映画だけの世界だと思っていたけど……感動する……」
右にはツリーハウスのお店が並び人が行き交う、左を向くとそちらは水路、ベネチアのゴンドラのような船を漕いでいる人も見える。絶対ファンタジー系の映画を撮るならロケ地として最高のシチュエーションだと思う。
「喜んでもらえてよかったです」
シーニャ女王がほほ笑む。その笑顔に思わず僕はドキッとする。こんな金髪美女エルフにそんな顔をされて見つめられると男としてはグッとくるものがある。
「どうかされましたか?少し顔が赤く……?」
「多分、男性としてドキッとしたッスね」
「なのです」
「あ、そういえばそうでしたね……すいません」
「いいえ。サルディア王もときどき間違えるぐらいですから問題無いかと?」
「カシーさん。泣いていいかな?サルディア王とはもう半年近い付き合いのはずなんだけど?」
「とは言っても……こっちを見る目線を考えればしょうがないと思うけど?」
女王様がいるのが原因で注目されていると思っていたが、よく見たら多くの男性の方々が鼻の下を伸ばして僕を見ているところからして違うのだろう。
「まあ、なにかあったら勇者様が対処するので♪」
「泉!その呼び名は止めて!すっごく恥ずかしい!それに後ろに兵士さんたちがいるんだからそんな事態は起きないから!」
僕がそう返すと皆から笑い声が漏れる。本当に男性として切ないんだけどな……これ。
……という事で今日はビシャータテア王国のお隣、ソーナ王国にお邪魔している。ゲームで言うなら僕と泉にカシーさん。そしてそれぞれのパートナーの計6人パーティーで来ている。ちなみにここまではイスペリアル国を介して転移魔法陣で来ている。
「それで、今日は魔物に関する書物が見つかったから、その情報について確認するってことだけど……僕と泉って必要かな?」
「と、いいますと?」
「……こっちの言語、読めないんですが?」
「それは私達の担当よ。こっちの国の賢者と魔法使いで内容を確認するわ」
「あれ?それじゃあ……本当に僕たちって必要ないんじゃ?」
「薫たちには別の事を頼みたいらしいのよ」
「カシーさんの言う通りです。実はあるクエストを依頼したくて……」
「クエスト?僕たちに?」
僕たちじゃないとダメってどんな内容だろう?
「それに関してはお城の中で話させていただきますね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「王宮・客間」―
案内された客間で僕とレイス、そして泉とフィーロは座って待つ。カシーさんたちはお城に着くとすぐに、お城の図書室へと向かって行ってしまった。3人がお喋りしているなかで、僕は部屋の中を確認するのだが、石でできた内部にも植物の枝や根が侵食していて、葉っぱや花も見ることができる。本来なら、これって廃墟じゃない?と思う所なのだが伸びすぎないように剪定されているみたいでキレイに整っていた。また、調度品はそれに合わせた物となっていて、ビシャータテア王国にも負けない立派な客間になっている。
部屋の観察をしていると、シーニャ女王が本を持って扉から入ってきて、そのまま僕たちと対面にある椅子に座った。
「それで……そのクエストってどんなんッスか?」
「はい……それは、この森に生息する、ある聖獣から素材を取ってきて欲しいんです」
「聖獣?」
「聖獣は魔獣の中でも人に友好的で、さらに神聖とされる存在、取れる素材も桁違いの効果を持つとされている魔獣です」
「レイス様の言う通りです。これから魔物との戦いが始まるうえで魔法使いではなくても強力な防御魔法を張れるように、特殊な魔石の作成をしたいのですが、その素材にその聖獣の毛が必要なんです」
「それで、その聖獣ってなんて名前なんですか?あと見た目とかは?」
僕がそう尋ねると、持ってきた本を広げてこちらに見せてくる。そこには絵が付いていて……なんとまあポピュラーな聖獣が描写されていた。
「はるか昔、この国が出来るよりも前から住み続け、湖の上を駆ける姿は人々を魅了する一角を持つ白き聖獣……ユニコーンです」
「ワイバーンに悪魔……ついにはユニコーンか」
「えーと。あの白馬に角が生えたような感じのあれですか?」
「はい。そうです。それで、ユニコーンはこの王都の周辺に生息しているのですが、湖の上を自由自在に駆けまわり、かつ女性じゃないと触れることを許されない存在でして……すばしっこいのもあって、本来ならば、船と大勢の人員、そして月日を使わないといけないのですが、薫さん達なら空を飛べるので、船は要らず、かつ少ない人数で最速で採取してもらえると思いまして」
シーニャ女王が笑顔で話をしてくれる。ただ気になることが1つ。
「……ちょっと待ってください」
「あ、はい。なにか?」
「女性にしか触らせてくれないんですよね?」
「そこで泉さん達にも来てもらったのです……まあ、薫さんなら問題無いと思いますが……」
「大問題だよ!僕、男!」
「……実は、そこが気になっちゃって」
「まさか、その確認もしたかったと!?」
「……はい」
「シーニャ女王のその考え、私も興味があるな。あの聖獣ユニコーンが薫兄を目の前にした時、どんな対応を取るのか」
「確かになのです……」
「うちもッス!」
「ちょ!酷くない!?というかシーニャ女王?これ魔物との戦争に向けての大切な準備ですよね!?そんな能天気な考えでいいんですか!!??」
「す、すいません!ただ……あの会議に同伴していた者達からも議題に上がり、ついにはこの国の魔法使い達が総出で話し合う事態になりまして……」
「そこまで!?」
「薫兄。もしユニコーンがなついたら記念に撮影してあげるから!」
「確かにそれは撮って欲しいよ!……けどなったらなったで、なんか複雑な気持ちなんだけど!?」
まさか、こんな所で僕がどれだけ男性に見られていないかを試されるなんて。しかもその相手はユニコーンとは……。
「それと、この辺りに詳しい精霊を探索に同伴させますのでよろしくお願いします」
「分かりました!ということで薫兄?」
「……ガンバッテイコウ」
―クエスト「ユニコーンから素材を回収しよう!」―
内容:特殊な魔法を封じ込めた魔石の作成に必要なユニコーンのたてがみを手に入れましょう!また、薫にユニコーンがなつくのかどうかの確認もして下さい。
「それと……森には強力な魔物も生息しているので注意してくださいね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―数時間後「ソーナ王国・王都より北の森」―
王都より北、先ほどと同じように湖の上に木々が生えていて、それがうっそうと生い茂っている。王都がオレンジ色の人工的な灯りが灯っていたのだが、ここは天然の青く冷たい灯り。この森の木はカーターの庭園にあったローゼリウスと同じように魔力を溜める習性があって、それを発光へとまわしているらしい。そのため目の前には一面に青い世界が広がっている。これはこれで幻想的な光景で目を奪われてしまう。
「まさか、本当に人が魔法で飛ぶなんて……噂は本当だったのか」
モノクルをつけた精霊。ユースさんが湖上を飛ぶ僕たちを見て感想を述べる。
「驚かせてすいません……」
「いいや!気にしないでくれ!僕としては興味のある仕事だったし、ましてやレイス姫のお役に立てるならこれ程の事はないからね!」
「お仕事なのですか?」
「そうですレイス姫。ここソーナ王国は土地の大半が湖。そしてその大きな湖に育つ木々の上に町を作り人々は暮らしています。また、木々に覆われていて日中でも薄暗いため、独特な進化を遂げた生物、それと魔石が見つかったりする興味深い土地でして。僕はそれに興味を魅かれて、ここで発見される生物や植物の調査なんか生業にしてたら、いつの間にかこの土地を誰よりも詳しく知る者として知られているようになってました」
「へえー。それじゃあ、ユニコーンも?」
「ああ。知ってるよ。この時期なら育児のためにこの北の森にいるはずだ。ちょうど生まれて間もないユニコーンの子供も見れるかもよ?」
「うわぁ~!見たい!すごっっっく見たい!」
「うちも楽しみッス!」
二人の意見に僕たちも思わず首を縦に振る。きっとかわいいに違いない!
「ははは!本来は飛ぶことが出来る僕と他の女性の精霊で観察するんだが……今回は君達が来てくれて僕としても助かるよ。何せユニコーンのたてがみを持って来るにしても精霊用のアイテムボックスが無いから大した量を持っていけなくてね……それに、そこの勇者殿を見てユニコーンがどんな反応するか僕としては大変楽しみなんだよね」
「地味に傷つくから止めていただけないでしょうか……?」
「そうなのかい?てっきりノリノリかと……服装の雰囲気が女性っぽいというか……」
「この巫女服は女性が着るように、私がメチャクチャにアレンジを加えているからしょうがないかな」
「つまり、勇者殿は女装癖があると?」
「ないから!男性用の服を依頼したら、いつの間にかこうなっていただけですから!?」
シーニャ女王の話で森の中には人を襲う魔獣も当然いるとの事で、対応が出来るように魔法使いの服に着替えている。
「ねえ?もっと男性に見える服を……」
「今ある素材的にそれ以上の物は出来ないッスよ?それでもいいんッスか?」
「Oh……No……!!」
「無駄に発音いいね薫兄」
「ってそれで思い出した……そういえば、ここにいる人を襲う魔獣って何?」
「ああ。この森の一番の脅威はゴリラチンパンジーモンキーだよ」
「「……いや。どれか一つにしてよ」」
せめて、バトルゴリラとかクレイジーモンキーとかメカチンパンジーとか……もうちょっとゲームに出て来るような名前にして欲しかった。
「二人共どうしたのです?」
「私も薫兄もツッコむって……あっちの世界だとゴリラ、チンパンジー、モンキーってそれぞれ独立した名前を持つ動物がいるのよ」
「なるほど」
「まあ、そこは置いといて……どんな特徴なんですか?」
「人に近い姿をした毛むくじゃらの魔獣で、身長は君たちの腰くらいで、ただその両腕は図体と比べてかなり太く殴られたら大ケガは必至、唯一の救いは魔法を使っての攻撃をしないってところかな?後は樹上中心の集団生活をしてる魔獣だよ」
つまりチンパンジーの体型にゴリラの腕を持つ魔獣ってことかな?モンキー要素は……なんだろう?とりあえず……。
「集団か……襲われたら逃げるが一番かな?」
「そうだね。無理に戦うのは得策じゃないよ」
「いや。その時は、麒麟で!」
「この森を燃やす気!?」
「あれは色々準備が必要だからダメなのです」
「というか、うちらにも危険が及ぶッスから止めて欲しいッス……」
とりあえず、ゴリラチンパンジーモンキーに出会ったら逃げるという事に決めるのだった。




