8話 戦闘開始
前回のあらすじ「スパイ。ゲットだぜ!」
―「ソーナ王国・ベルトリア城壁前 野営地」???視点―
「スパイからの通信が途絶えました」
「何だと?」
スパイが捕まったということか? これでは内部情報が掴めないではないかクソ! しかし今弱った状態ならこちらに分があるはずだ。すぐにでも攻め込まないと。
「通信妨害用の魔道具をすぐに起動しろ。相手に王都への連絡を入れさせるな」
「それと……」
「何だ」
「見張りの兵から連絡がありまして…。どうやら相手に物資の補給があったようです」
「馬鹿な! あれだけの土砂崩れをそんな短時間で……? まさか賢者が……」
「それが……。賢者が向かっているとつい先程王都にいるスパイから連絡がありました」
「なんだと!? じゃあ一体やつらはどうやって補給したのだ?」
不味いぞ。スパイが捕まった今、土砂崩れが偶発な事故でないことがばれてしまう……。さらに賢者がこちらに向かっているとなると……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―同時刻「ビシャータテア王国・ベルトリア城壁執務室」―
「なるほど」
シーエさんが僕の話を聞き納得してくれた。
「これは単なる小競り合いではなく、念入りに考えられた大規模な侵略行為で間違いなさそうですね」
「他国に赴いての街道の破壊行為は言い訳出来ないだろうしな」
全員が縛り上げたザックを見る。催涙スプレーのダメージがかなりキツかったらしく無気力のままだ。
「スパイ捕まえたけど泳がした方がよかったかしら?」
「いえ。どうせ伝えることと言えば物資の補給が出来たことと異世界の門の成功ですから相手に伝わらない方がいいでしょう。まあ、どちらにしても相手は行動を起こすと思いますが」
「定時報告させていたなら「ない=捕まった」と考えるだろうし、薫のことがバレているなら直ぐにでも薫を抑えたいはずだぜ」
「僕を?」
「薫の情報はそれだけの価値があるということだ。戦争でいうなら催涙スプレーやペストは情報としてかなり有効だ」
「催涙スプレーはともかくペストを?」
「ペストは病気ということだが知らない者からしたら薫が引き起こせるかも……と、変に考える頭のいい奴等もいるかも知れないだろう? あちらはそっちの世界の住人がどんなやつか分からないしな」
「そっか。こっちの人からしたら知らないもんね」
「そういうことよ。まあ、ネズミやノミが引き起こすそんな病気を武器になんて出来るわけないとは思うけど」
「そうですね。生き物を操るなんて方法は無いですしね」
「まあ、確かに細菌兵器は変異の恐れがあるから禁止になってるからね……」
「「「「……え?」」」」
皆が驚いた表情でこちらを見る。
「あれ? もしかして伝え忘れていたかな? 一応技術としては……その研究を……」
皆がこちらを見てる。昨日言ったつもりだったけど……かといって、変にここで黙ると後々問題になるから言っといた方がいいだろう。多分。
「武器にしてるの?」
サキが問いかけてくる。その額からは汗が噴き出ている。
「ペストじゃなくて他のウィルスだけど……大量殺戮できるから条約では禁止にされているし、ウイルスが変異して事前に準備していた解毒剤が効かなくなる恐れもあるからってことで……これ。僕、昨日言ってなかったけ?」
カーターがガシッと僕の肩を掴み僕の目を見る。
「薫。絶対にそんな物持ち込まないでくれ。世界平和のためにも!!」
「そうよ!! そんなことしなくても大丈夫だからね!!」
「持ってこないし、そんなこと出来ないから!」
後々の事を考えて言っとこうと思ったけど……僕たちの世界が変に思われないか心配だ。
「ということで、薫さんの情報はこの世界のパワーバランスを崩す可能性があります。いえ、今ので確信しました。確実に崩れます。欲のあるものなら何としてもその情報を引き出そうとして拷問されるかもしれません」
「捕虜への拷問は禁止されているはずなんだけどな……」
こっちの世界にも戦時国際法のように禁止事項があり、捕虜の拷問は禁止とされているらしい。とはいってもバレる事は無いからと一部の馬鹿は行っているらしい。ちなみにバレたら収容所送りだそうだが。
「話を戻しましょう。恐らくこの後戦いになります。薫さんには一度戻ってもらって……」
「皆、外を見ろ!!」
マーバに言われ、窓から外を確認する。相手が陣からこちらに向かって出撃している。
「鐘を鳴らせ!! 敵が来るぞ!!」
カーターが大声で叫ぶ。その直後に鐘が鳴り慌ただしく騎士たちが戦闘準備する。
「早いですね……。」
「スパイからの連絡が途切れて慌てたんじゃないのか?」
「供給が分かったとか?」
「それはありますね。今日の朝食では見張りの騎士達に食事を持っていっていますから。それをあちらの兵士達が確認して分かったってところでしょう」
「どうせわざとでしょ」
「そうなの?」
「もちろん。こちらが供給手段があると分かれば相手は攻めるのを躊躇います。兵糧攻めで徐々に弱らせるのが上手くいかないと分かれば引くと思ったのですが。悪手でしたね」
「仕方ないと思うぜ。まさかこんなバカげたことをやるやつなんていないと思うしな」
「相手がルールを破って大規模な侵略を行おうとしていた。そしてそれがバレた以上、報告される前に急いで城壁を落とそうと考えたということだよね。でもそれって不可能なんじゃ……」
「俺達を皆殺しにして、あちらが侵入してきました私らは悪くありませんって言う気なんだろうな。不可能だけど」
「不可能ですね」
「不可能だぜ」
「無理ね」
本で読んだことがあるが攻城戦はかなり難しい。それこそ避けるべきと言われるほどに。長期戦で相手を衰弱させて降伏させるのが今回の作戦だとしたらそれは失敗だ。じゃあ、強攻はどうだというと……大人数で攻める必要があるのに、相手を見るとどう見ても人数が少なく感じる。城壁を破壊するための投石器も無いようだし……。いや魔法があるからそんな物騒な物をもってくる必要は無いのかもしれないが。
「薫。大丈夫よ。あちらの兵士が魔法を使ってきたとしても不可能だから」
黙っていた僕を心配してくれたのかサキが言う。
「やっぱり魔法のある国だから城壁にもそれように対策が取られているの?」
「城壁の壁には魔道具の力で強度を上げています。また城壁自体の材質が国境から王都まで近いということでかなり固いもので作られてもいますから安心してください」
「来るぞ!!」
窓から外を見ていたカーターが言う。僕も見てみると侵攻してる部隊から無数の火の玉が飛んでくる。ぶつかると思った瞬間その数m先で火の玉が消える。そこには映画やアニメで見るあのバリアみたいなものがあった。火の玉がぶつかるとバリアが光りどんなものかがよく分かる。
「おおーーー!! カッコいいーーー!!」
僕は思わず声を上げる。いやカッコいい。バリアに難しい幾何学模様? 魔法陣? そんなのが映っている。VRとかではなく生での体験。戦闘中なのにおもわず感動する。
「すげえだろうこれ! 知っているあたしでも感動するしな!!」
マーバが僕に共感してくれる。あ。スマホで撮っとこう。
「何やってるんだ薫?」
「動いた状態のまま撮影中です……」
「スゲー! あのテレビみたいに撮れるのかよ! 撮れたら見せろよ!」
「ねぇ? あんたら2人……。戦闘中なんだけど?」
サキの方を向くと鬼の形相でこちらを見ていた。
「「……すいません」」
その場でどけ座して謝る。とりあえず、ここは安全地帯だと理解したし……。
ドオーーーン!!!
「被弾しました!!!」
「どうやらあちらにも魔法使いがいるようですね。こちらも攻撃を仕掛けます。弓部隊に準備させてください。魔法部隊もお願いします」
そう他の騎士に指示しながらシーエさんとマーバがこの場から移動する。結界を貫通する魔法なんてあるんだ。いやゲームとかであるけどさ。というより。
「魔法部隊?」
結界を貫通する魔法はまあなんとなく理解した。しかし魔法部隊って? 精霊と契約して始めて魔法が使えるはずなのに、この砦にいる精霊はマーバとサキ以外見ていない。よく見ると相手の方にもいないような?
「ああ。薫には説明してなかったわね。攻撃魔法って精霊がいなくても使えることは使えるのよ」
「え?」
「薫だって使ったでしょ? 部屋の灯りや温度調整とか」
「ああ……魔石か」
「そういうこと♪ 魔石に攻撃の魔法を込めてあって、使う人が意思を込めればその魔法が使えるってわけ。ただ使う魔法によって魔石を替えないといけないし、魔石の魔法は威力が弱いの」
考えてみたらそうか。魔石の平和的な利用方法しか見ていなかったから忘れていた。しかし、先ほどの会話におかしなところがある。
「あれで弱いの?」
相手の兵士が使用する魔法を見る。あのバレーボール大の火球が人間に当たったらただでは済まない気が……。
「魔法使いの魔法はもっと凄いけど? それに瞬時に違う魔法が使えるわよ」
「ということで俺たちは防衛に当たるとするか」
「そうね。薫は危ないからここにいてね。後、見てもいいけど魔法使いの魔法は結界を破るから気を付けてね」
「分かったよ。ここで見学してる」
一緒にいても戦いの邪魔だしここからなら良く見えるだろう。そう思っているとカーターとサキは急いで出撃していく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それから30分後「ビシャータテア王国・ベルトリア城壁通路」―
……あれから少し時間が経った。僕は外の様子を見ている。意外にも僕は冷静にこの戦いを見ている。てっきり恐怖で竦んだりするかと思ったんだけど全然それが無い。城壁の屋上から人が弓を射ってそれが相手に当たる。その場に倒れこんで悶える。城壁に貫通魔法が当たり瓦礫が味方の騎士の頭部にヒットして頭から血を流す。現代日本ならあり得ない戦争の光景を普通に見ていられる。……某ゾンビゲームとか戦闘系ゲームと色々やり過ぎたせいかな?
そんなことを思っていると城壁の屋上からカーターたちが出てきた。そして二人が転移魔法を使う時と同じように祈る姿勢をとる。すると魔石で撃ってくる相手兵士と同じ火球が出てくる。すごい。宙に浮かぶ幾つもの火球ってもはやゲームとかのメテオにしかみえない。数十人の兵士が撃っている魔法が可愛く見える。魔法使いの魔法が強力ってこういうことか……。
そして、カーターたちから攻撃が放たれる。相手は防御魔法を使って防ごうとするが無惨にも結界は霧散し攻撃が当たる。ただ、大分威力は弱まっているみたいで敵に当たっても全身に火が回る訳ではなく、当たった箇所が火傷したり、衝撃で腕の骨が折れるだけとかで済んでいるようだ。当たり所が悪ければ死ぬだろうが、敵も全力で防御しているため大量出血した人や部位が欠損した人は見られない。見たところ確実に死んだ人と思われる人は今のところ1人もいない状態だ。
強力と言えばシーエさんたちの攻撃に関しても同じだ。シーエさんたちの炎とは真逆の水だった。数は少ないが水の玉が敵に当たった瞬間に広範囲に爆ぜる。その勢いで多くの敵が姿勢を崩したり転倒していく。殺傷能力は無さそうに見えるが相手の火球が水球によって消火されてもいるので妨害としては最適な魔法だ。
……勝負は目に見えている。ど素人の僕が見てもこの勝負はこちらの勝ちだ。それなのにどうして引こうとしないのだろう? やけっぱちとか? 相手はどんどんケガ人が増えていくのにそれでも攻めてくる。恐らくあの馬に乗って偉そうにして……ひげ面で……頭が禿げてて……耳は長いけど……太ってて……うん。全然エルフっぽくないんだけど!! あれエルフなの!? 顔はアンコウとカエルを組み合わせたような感じで、体型は太った中年男性って!? 兵士さんたちの方がすっっっごくエルフっぽい。ゲームとかでよく見る美男であそこに倒れている綺麗な長髪の人なんて某指輪物語にでてくるエルフのまんまでそこだけ見ていると映画のワンシーンみたいなのに……あれで台無しだよ!!
けど……あれが大将と考えてどうしてこのまま攻め続けるんだろう? 大将ということは多分あれが魔法使いなんだと思うけど……。精霊はどこにいるのだろう? そういえばさっき使用した魔法を使ってないな……あれ? まさか。
「動くな」
僕の首元に冷たい何かが当てつけられる。……しまった。
「手を挙げろ。変なことをしたらこのナイフでお前の首を切る。キクルス。こいつのズボンにさっき話した武器があるそれを出せ」
「ケケケ。分かった」
僕は手を挙げた状態で恐る恐るナイフを当てている奴の顔を見る。それは昨日シーエさんに初めて会った時に会議の場にいたこの城壁を守る騎士の1人だった。