87話 取り調べ…?
前回のあらすじ「警察官。異世界に立つ!」
―「王宮・客室」―
「……なるほど。それで」
カーターのお陰で、直ぐに王様が対応に出てくれた。今、王様とカーターとサキそれにカシーとワブーも交えての事情聴取を受けている。
「……少し休憩にしましょうか。お堅い取り調べではないですし」
「そうか……なら」
すると、扉から一人のメイドがやってきて王様からお茶の準備を頼まれて、準備の為に部屋から出ていく。
「こんな豪華な場所で事情聴取するなんて思ったこともなかったわ」
「それには同意します。それで、やはりこの件は内密に……」
「そうね……でも、いくらかは口の堅い者に真相を伝えていざという時に対応できるようにしましょうか。薫ちゃん。その時はまたここに連れて来てもらっていいかしら」
「はい。大丈夫です」
「それで……この後、薫達はどうなるんだ?」
ワブーがストレートに聞いてくる。橘さんは頬に手を当ててほんの少しだけ考え始める。
「……今回、この子達は法に触れることを行った。本来、法を遵守する警察として見逃すわけにはいかないわ」
橘さんが冷静に答えていく。
「で、でもそれは……」
「サキ」
カーターがサキが言いたいことを制止させる。
「私たち警察はね。警察法として個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。って定められてるの。だから今回の騒動の対応次第では公共の安全と秩序の維持を保てなくなってしまうの」
「そ、そんな……」
「ただ、今回は上層部がそのために薫ちゃんたちの逮捕を止めた。つまり薫ちゃんたちを逮捕することで平和の維持が出来なくなると上は判断した。そう解釈も取れるわ。だからその下である私達は事情聴取を終えたら、それでお終いにするわ」
サキがそれを聞いて胸を押さえて安心する。
「まあ、法は触れても悪事を働いていなかったというのもありますがね」
「鈴木の言う通りよ。もしこれが悪事だったら上のお達しを無視しても逮捕してたわね」
「魔法で悪事は絶対働かない。約束する」
「私も!」
「同じくなのです」
「うちもッスよ!」
「分かればよろしい。それと念のために、上が命令を変えた時ようにそっちに有利になるように書類は作っておくわ。まあ……異例の件がふんだんだから、それを上手く使って書類送検程度で済めばいいんだけど」
「済みますかね?」
「難しいけどね。薫ちゃんの鵺は銃刀法違反に触れて、この前の盗賊団は過剰防衛になる恐れはあるし……でも、こちらとお近づきになりたいと考えているなら薫ちゃんたちに対して下手な扱いをするとは思えないわ」
「それはよかったわ」
「後はそっちの人々が日本に入るのは不法入国及び不法滞在に当てはまるんだけど……これに関しても……ね。薫ちゃん達の対応からして、おそらく逮捕してもすぐに釈放という処分が取られる可能性が……」
「やはり、問題があるか」
「まあ、問題といえば問題なんですが……だけど手は出せない……とにかく私達の管轄内に関しては、この事情を知る者との行動を義務とする。というのはどうでしょう署長?」
「そうね。あとで知り合いにも掛け合っておくわ。そうすればある程度自由に動けるかもしれないわね」
「事情を知る者と一緒に行動を取らせることで、警察としてはこれらに対してしっかり対処してた。ってことにするんだね」
「薫ちゃんの言う通りよ。そうすればこちらとしてもバレた時に言い訳ができるわ。後はよりちゃんと対処してたということで、いつ何人がどういう目的でこちらに来たかを記録しとけばよりいいかもしれないわ」
「分かったわ。私が行っている会社の社長にも話しておくわ」
「必要ないわ。この後、すぐにでも笹木クリエイティブカンパニーにも事情聴取するから」
「ですね。いざという時の準備はし過ぎといた方がいいでしょう」
「我々のためにすまない。こちらの代表の一人として礼をいう」
「王様。お気になさらず。これが警察……いや。外務省の仕事か?これは?……まあ、ちょっと違うけど仕事ですから」
「本当なら上がすぐさま対応してくれればいいんだけど…しないんでしょうね。きっと」
橘さんが頬杖をつき始める。そのタイミングでお茶を持ってきたメイドさんが部屋に入ってきてお茶を置いていった。すぐさまおかれたお茶を手に取り、橘さんは口に含む。
「あの~どうしてですか?問題なら対処するような……?」
レイスがその事に疑問に思い聞いてみる。
「あっちの国同士の情勢ってかなり面倒なのよ……それで今回の件は間違いなく争いの種になるわ」
「そうなのか?」
「レイスは直哉が前に話したと思うんだけど、国家のバランス……それが完全に崩壊するって、最近の僕たちの魔法使いの能力を考えれば、あの時以上の事になると思う」
「……君達の国家は何を考えているんだ?」
「そうね……国が今回の出来事に関わっていない。初めて知った。ということにしてバレた時の他国からの追及を逃れる言い訳づくりをしておいて、その裏では監視をしつつ一個人、一企業に魔法について自由に研究させておく。そしてバレたら危険な研究として押収という名の横取り。関わった者を法の下に処分して自分達は甘い汁だけを頂く……というのが上の思うシナリオかしら?しかも、税金を投入しないという徹底ぶり……」
「ま、待って……それって」
「僕たち背後から狙われる?」
「最悪のシナリオだとね」
そんなサスペンスドラマみたいな展開は望んでいないんだけど!
「それだから……あなた達はこれまで以上に周囲には気をつけなさい。この件について国の思惑が分からない以上、あなた達の身に危険が及ぶ可能性があるのだから」
「う、うん」
僕たちの事を知りつつ泳がせる政府。うわ……これって小説にサスペンス要素追加か?と少しばかり思ってしまう。
「……なんか変な事を考えていないかしら薫ちゃん?」
「ううん。気のせい」
「そう?まあ、あなた達が本気になれば命は大丈夫だとは思うけど……銃を特殊な服越しとはいえ受けきったり、手榴弾をその鵺という武器で防いだり、殴れば人を錐揉み回転させながら吹き飛ばしたり……」
「あ~……しかも薫兄達、ビル3、4階ぐらいの巨大悪魔を雷の雨やら極太のレーザーで焼き払ってたもんね……」
その泉の発言に橘さんたちが、まじ?というような顔をする。というか言わないで欲しかった……。
「まあ、薫達のような歩く自然災害が戦地とかにいったら確実に脅威でしょうね……」
「だな」
カシーさんたち……一度に8回も爆発を起こせる魔法を何発も撃てるあなたたちには言われたくない。
「そう……だな。言っとくが、こちらにはこれ以上の魔法使いはいないから勘違いはしないでくれ」
「分かりました」
「ねえ?歩く自然災害って……ひどくない?」
「そうなのです」
橘さんたちと王様たちの会話での僕たちの扱いが酷い気がする。
「私、あの時の映像持ってるけど、橘さん達に見てもらう?ぜっっったい!同じことを思うよ?」
「う!」
「なのです……」
その後、橘さんたちも見たいという事で、あの時の戦いを鑑賞。結果、歩く自然災害として認定された。
―称号「歩く自然災害」を手に入れた―
効果:ひとたび暴れれば、手に負えない者に送られる称号。世界終焉のシナリオに認定されないように気を付けて下さい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―さらに2時間程経過―
「……魔法使いの力。半永久的に使用可能な魔石。そして異常な回復量をほこるポーション関係。これ社会に影響でますね……」
「こんなのが市場にに出回ったらそれこそ大変だわ~。経済に大影響よ。全くとんでもない事を持ち込んでくれたわね薫ちゃん?」
「す、すいません……」
「まあ、この件が良識のある薫さんに回ってきたのが幸いですね。笹木クリエイティブカンパニーでも取り扱いに細心の注意を払っているようですし、これがその手の輩にでも渡ったら……」
「世間を騒がせているヘルメスならそれこそ最悪の結末だったでしょうね。精霊は手を貸さなくとも、魔石を使っての兵器開発は出来たでしょうし……まあ、あの魔法陣が使えないと意味がないけど」
「私達も薫達の人柄を信用してるから、このような協力が出来るというものです」
「そうね……」
橘さんたちが神妙な面持ちで考え始める。
「どうしたんですか?」
「……薫ちゃん達に一つ提案があるんだけど」
「何ですか?」
「今後、警察の捜査に協力援助してもらえないかしら?」
「え?」
その言葉に僕たちは思わず驚いてしまう。それは泉たちも同じで、僕たちは思わず顔を見合わせる。
「薫達の行動は慎重にでは?」
「かといって、何もしないのはジリ貧になりかねないのよね……それなら警察の捜査にその力を快く提供。彼らの力は今後の我々の生活をよりよい物にする。それに薫ちゃん達がいい意味で活躍すればするほど上も手が出しにくくなる……要は今のうちに一般世論を味方にするのが得策だと思うのよね」
「署長?しかし……」
「それにこちらとしても理由があるわ……。薫ちゃん達の行動を知り、それを通報している輩がいる。そいつは既に私達がこちらに来たのを知らせているかもしれないわ。となると必然的に私達に対して何かしらの対処をしてくるでしょうね……でも、私達が薫ちゃん達といい関係を結んでいると知れば私達もむげにするとかできにくくなるわ」
「それは……確かに」
「それに魔石はこちらとしては有利な交渉の条件になるわ。魔石の事も上が知っているなら、喉から手が出るほど欲しいでしょうね……エネルギー資源が乏しい私達の国にとってはね」
「そちらのエネルギー……電気を起こすのに必要な資源が乏しいと聞いている。発電機という物に魔石の力を使えば半永久的に動き続ける夢の機械が出来るとも……」
「ええ。それに薫ちゃん達の協力おかげで自ら電気を起こせる魔石もすでに開発済み。それを知ったら余計に欲しがるでしょうね……そして、その魔石をグージャンパマから唯一こちら側の人間として仕入れが出来る薫ちゃんたちをきっと重宝する」
「そうしたら、直哉たちにもしばらくの間は人造魔石の開発はしないように話しておこうかな。まあ、当の本人たちは魔石を使った機器の開発とかに夢中みたいだけど」
魔石を人工的に作る構想はあるのだが、それには魔石の成分を調べる専用の調査機器がいるとかで、まずはそちらから作らないと……。ということだった。
「ええ。そうしてちょうだい。あっちでも魔石が作れるなんてなったら用済みにされかねないわ」
「もし、必要なら我らの名前を出してもらってかまわん。何かあったらそちらには協力はしないともな」
「助かるわ~!!ふふ……。やっぱりこの手の問題は早い物勝ちだわ」
「それでは……今後ともそちらに出向かせてもらうが……よろしく頼む」
「こちらこそ。事件解決に妖狸と妖狐ちゃんの力が借りられると考えればこちらも助かるわ~」
そう言って、互いに握手して話を終える。これからは市内なら異世界の住人を見られても見逃してもらえるとなるならありがたい。
「そうしたら……そろそろ戻らないといけないわね。あっちの仕事もあるし」
「そうですね。それとすぐにでも笹木クリエイティブカンパニーと話をしないと」
「そうしたら、私共がお送りします」
「助かるわ。それで……これは私用なんだけど、あなたに訊いてもいいかしら?」
「俺……ですか?何か?」
「付き合っている人はいるかしら?」
その言葉に僕は気付く。カーターがロックオンされたと。
「いないですけど……」
「それなら……」
「橘さん……カーターは同性愛者ではないので他を当たって下さい」
「……え?」
「それは残念だわ…イケメンなのに」
「それともう一人。クールで銀髪のイケメンでシーエさんって方もいますが同じですからね?」
「会う前にいわないで欲しいわね。そういう事は……」
「橘さん!ダメですよ!!そんなBL展開は私も許しませんから!!」
「あら残念。もしかして……気があるのかしら?」
泉がそれを聞かれて、薄っすらと頬を赤くする。
「ち、違いますよ?異世界のお友達として私は!」
「若いっていいわね……まあ、ほんの冗談だからね」
冗談かどうかは怪しいが……まあ、これ以上は訊かないでおこう。
「まあ、察してはいたが……そういう人か」
「うん。橘さん男性が好きだから。特にカーターのようなイケメンが」
「グラッシュたちのような奴等がそっちにいるんだな。やっぱり」
カーターから出る初めての名前。誰だ?
「そういえば、彼らはそうだったわね。まあ、若い子たちをはべらかしつつも仕事をしっかりこなしているから、私としては文句はないけど?」
「えーと……カシーさん。グラッシュって誰ですか?」
「あなたたちはまだ話をしたことはなかったわね。この国にいる最後の魔法使いで名前はグラッシュ。相棒はバルン。両方とも理想の男性ハーレムを求めつつ、国の農業や物流の仕事をする男達よ」
「求めつつとは言ってるが……既にあれはできているだろう?」
「あら。私としては羨ましい限りね~!ちょっと話をしてみたいかも?どうやったらそんなことが出来るか興味があるわ」
「署長…!」
鈴木さんが声を荒げる。まあ、市民を守る人がそのような事をするとは思えないが……。
「あー……俺が聞いた限りだと……最初は興味がないんだけど……酒を飲んで、一緒に宿に泊まったら次の日には……」
……ゴメン。カーター。それってやってるよね!?十中八九やっちゃてるよね!!??
「私、その一人と話したことがあるけど……なんでも新世界を見れた。こんな理想郷があったなんて。って言ってたわよ」
俺はノンケでも構わず食っちまう青いつなぎを着たいい男じゃないのそれ?……まあ、でも僕は大丈夫か。イケメンじゃなくて美女扱いだし…………あれ?何か悲しい?
「な~んだ……それは残念。あっちでそんな事をしたら怒られちゃうわ。まあ、私は私なりにいい男をゲットするけど……というわけで興味があったら……」
「させないからーー!!」
泉が大声を出してその言葉を遮る。……こんなオチでこの異世界での事情聴取は終わるのだった。




