84話 名所案内
前回のあらすじ「変な奴等が出て来た!」
*48話~83話の誤字の訂正、加筆をしました。
これによる内容の変更はありません。
―「某フラワーパーク・園内」―
「おお!これは見事だな!」
「甘い匂い…それに木々から零れる日光がいいですね」
「樹齢150年。広さ1000㎡にも及ぶ県指定の天然記念物です。ここの2本以外にも、これとは違った藤棚が他にもありまして、白と黄色に関してはトンネル状になっているので見物ですよ」
「歴史があるのですね~」
「確か、ここの藤っておよそ30年前に移植しただったかな?市の都市計画でここへ引越ししたんだ」
「そんな歴史もあるんですね」
シーニャ女王が白いつば広帽子を押さえながら藤棚を見上げている。白い帽子に白いワンピースの服装がその金色の髪に似合っている。さらにスレンダーなスタイルも相まって外国人モデルにしか見えない。ちなみに、最初に感想を述べたヴァルッサ族長も耳を隠す目的込みでこちらの世界のキャップを被って変装をしている。
今日はゴールデンウイークが終わった平日。お互いの相互理解を深めるために本日は異世界の代表たちをこっちにご招待しているその最中である。案内人として紗江さんに僕。護衛にレイスにシーエさんとマーバ。天気も良く、しかもタイミングが良かったのか人が少なく大勢の人を案内するのに打って付けの日となった。
「なるほどな。こりゃすげぇな」
「……サルディア王?王様としての口調じゃなくていいんですか?」
「あ~……かまいやしねぇよ。あれから何度もあって会議を開きまくってると、あの喋り方だと大変でよ」
「僕が戻った後も?」
「サルディア王の言う通りだ。なんせ各国が大急ぎで対応しているからな。ギルドのリーダーも呼んだりして近頃は慌ただしい日々だったな。というか薫殿も自分の事を、僕。と呼ぶんだな」
「会議だと自分の事を僕ってあまり言わないので……」
「これからはこっちとも連携を取らないといけないからな。今度から喋り方は気にしないで接してくれ」
「分かりましたローグ王」
「こちらもいいですよ!ちょうど池に反射されて逆さ藤が見えますよ!」
紗江さんが集団の先頭に立って園内の案内をしていく。その景色を見て皆が感嘆の声を上げる。
「……凄いですね。ここって人を楽しめるだけの施設なので?」
「こっちの世界は観光業として仕事が成り立っているんですお母さま。この後行く場所もかなり素敵な庭園ということですよ」
「そう。それは楽しみね」
「フィーロも泉も一緒に来たらよかったのになぁ」
「あっちはあっちで娘がどんな生活をしているか気になるんですよ」
僕が持っている鞄の中でソレイジュ女王とレイスがお喋りをしている。ちなみに泉たちはフィーロの両親と一緒に自宅訪問をしている。ただフィーロが久しぶりに両親と出会って気まずそうにしていたけど大丈夫かな?
「カーターの家の庭園も立派でしたが。ここも立派ですね」
「ははは…確かに。そういえば今日の護衛シーエさんだけですよね?各国から出さなくて良かったんですか?」
「皆さんの迷惑になるということで、代表として私達が来ることになったんです。それに最強の魔法使いが目の前にいますから」
「ははは……」
あっちの世界と関わって半年として経ってないのに、世界最強の魔法使いになってしまった。ついに、小説で言うチート野郎の仲間入りである。
「役得だぜ!!」
はあー……マーバは楽しそうに飛んでいるな……飛んで……いるだと?
「うわあああ!!!!戻って!戻って!!」
周囲を確認するがまだ見られていない!まだ間に合う!
「マーバ。こっちでは精霊は目立つんですから隠れていて下さい」
「いや~だってね♪」
「マーバさん?戻りなさい」
「女王様のご命令のままに!!」
ソレイジュ女王の命令に対して、すぐさまシーエさんの着ているパーカーの帽子部分に潜った。
「ありがとうございます!助かりました!」
僕はソレイジュ女王に対して深々とお辞儀をして誠意を示す。
「申し訳ありませんソレイジュ女王」
「いいえ。あなたの紳士的な対応は高く評価していますのでお気になさらず」
「ありがとうございます」
「薫さ~ん!移動しますよ~!!」
気が付くと皆がすでに移動を始めていたので僕たちも移動をするのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―正午「某有名フラワーパーク・売店付近」―
ちょうどお昼の時間になったので、園内にある売店で昼食を取ることにした。最初はこの園内にあるレストランとか、もしくは市内のお店を予約しようか考えたていたのだが、事前に聞いてみたらテイクアウト式に興味があるとのことで、正面ゲートに近いこのお店で取ることにした。
「こ、これがラーメンか」
「そう。ちなみにこれが一般的なラーメンだよ」
この隣町がラーメンで有名な街で、その名を冠したラーメンがあったので売店で注文してみた。
「それと…イモフライにポテト入り焼きそば……」
「見事にジャガイモを使った料理ですね。イモフライ…これはあっちでも作れそうですね。信者の方々にもウケが良さそうです」
「焼きそばは…ソースがないと無理かな…」
「おーい薫。このソースって何が入ってるんだ?」
「そうですね~」
ヴァルッサ族長とオルデ女王が焼きそばをすすりながら僕に聞いてくる。……言い忘れたがオルデ女王は車椅子に座っていて足元はひざ掛けで隠している。それと、座っている車いすはかなり高性能な魔道具ということが分かった。なんせ自動で動いていて、階段とかの段差も難無く昇り降りしているのだ。仕組みがどうなっているかが、かなり気になる魔道具である。
「えーと……にんにく、生姜、セロリ、玉ねぎ、グローブにシナモン…他に15個ぐらいは使ってるかな?」
「そ、そんなに?」
「うーん。後で調べておくけど…それに合った香辛料があるかグージャンパマにあるか分からないんだよね……特に材料の醤油とかお酢とか醸造しないといけないし」
焼きそばをあっちの世界で再現するのはかなり先の長い話になるだろうな……。
「醤油か……この前のうどんを食べるのに使ったつゆにも入ってるんだっけ?」
「はい」
「そうか……あれは俺、欲しいなあ~。権限で造らせるか」
「私もです~。こっちでは魚をアレに漬けて生で食すらしいですし~」
……人魚の女王が魚を食べる……それって共食いじゃ?
「共食いじゃないから安心して……下さいね?」
「え?は、はい」
……感づかれたか?いや。よく訊かれる内容なのかもしれないな。きっと。だから…殺気を感じたのは気のせいだろう……うん。気のせいにしとこう。
「それとデザートには、この前のアイスクリームとはまた違うソフトクリームがありますから言ってくださいね。藤の香りが楽しめるフレーバーもありますよ」
この後、デザートも食して、皆がこっちの世界の料理に舌包みを打つのだった。
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―午後「某お寺」―
紗江さんの運転で、再び県を跨いで今度はお寺とガーデンの案内をする。前回のコスプレした公園は……自分の心のケガを抉りそうなので止めてもらった。本来ならこの時期一番のスポットなんだけどな……。しかし紗江さんが中型車両の運転免許を持ってるのは意外だった。大勢の社員が一度に移動する際に便利なので。とは言ってたけど。ちなみに車内は遠足に行く子供のように賑やかだった。
「ほーう。これがお寺か」
「少し変わったお寺だけどね。参道の両脇にタヌキの像があるのはここぐらいかな?」
「像に服を着せるなんて変わってますね」
「建物の造り……面白いな」
「そうだな……こんな建物を一つ造ってもいいかもしれねえな」
「あっちの文化を知ってもらうためにもいいかもしれないですね。勇者様の世界の建物がどんな物か知ってもらうためにも」
コンジャク大司教。目立つから勇者は止めて欲しいんだけどな……。
「そういえば、薫さんが妖狸を名乗る際にここのお寺のヨウカイでしたっけ?それをモチーフにした話を聞いたことがあるのですが……それってそんなに強い存在なんですか?」
「あ!それは気になるのです」
シーエさんやレイスに訊かれる。そういえばレイスにも説明してなかったっけ……。
「ううん。そういう存在じゃないよ。昔、大人数の僧をもてなすのに大きな茶釜が必要だったのを、ここの代々の住職に仕えていた人間に化けた狸が用意してくれたとか、正体がバレて源平屋島の合戦と釈迦の説法の場面を再現して、人々を感動させてここを立ち去ったって話だよ。まあ……お伽噺の茶釜から手足を出して綱渡りする狸で世の中には伝わってるかな?他にも狸ではなくて、実は貉だったとか色々な伝承があるんだ」
「へえ~……って戦闘向きじゃないじゃん!?むしろ後方支援じゃん!?」
「うん。そうなんだよね……。まあ、あの時は焦ってたからな……。」
ちなみに、地元に伝わるお話の中で戦闘向きなのは……狐の方なんだよな……。助けた狐が城の縄張りを教えたりとか、石田三成がそのお城を攻めるのにお堀に木々を敷き詰めたのに忽然とその木々が消失してたり……なんで妖狐にしなかったんだろう僕。
「そうしたら、次はガーデンの方に行きますので付いて来て下さーい!」
紗江さんの呼びかけで皆が移動を始める。お寺の近くの低地湿がある公園を通り抜けて近くのガーデンへ移動する。
「今は芝桜とネモフィラが咲いているそうです。両方ともキレイですよ」
「それは楽しみです~!」
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―「薫宅・庭」―
「実に有意義な時間だったな」
「そうですね」
各国の代表が各々今日の感想を述べていく。どうやら満足してもらったようで良かった。紗江さんは皆を降ろしたのを確認すると、マイクロバスを返してきます。という事で帰っていった。
「あ、それで薫。ちょっとお願いがあるんだが」
「え?何ですか」
「今度、会議に参加して欲しい」
「内容は?」
「魔族が何を企んでいるかだ。俺達を操り何を得ようとしていたのか……」
「……え?それなら予想はついてるけど?」
僕の言葉に各国の代表がこちらを見る。
「薫さん。その目的は」
「悪魔の目的。それはあの世界でもっとも発展した技術である異世界の門だよ。……多分だけどこっちの世界も手に入れたいんじゃないかな?」
「……どうしてそんな事が?」
「食料に技術、領土拡大とか邪魔をし続けていた所があるけど、異世界の門に関しては全くっていうほど何もしてないんだよね」
「確かに。あの魔法陣の研究に各国の許可が必要になったのは、レルティシアの悲劇でたまたまこっちの病気がグージャンパマに入り込んだ結果ですしね」
「そもそも、そんな事があったのにどの国も研究を止めなかったって変な話だと思うんだよね。普通、そんなことがあったらどこかが禁止にすると思うんだ。そして魔族も魔族で、異世界の存在を恐れていたなら、精神操作を使って技術自体を抹消するんじゃないかな?むしろ……あの魔族たちはレルティシアの悲劇で起きた黒死病に興味を持ったんだと思う。あれを利用できないかってね?そして、それを使って二つの世界を力で支配する……まあ……無理だけど」
「そういえば、直哉さん達もその事について説明して下さってくれました。それは止めといた方がいい。この世界が滅びるぞ。って」
「心配なのはその事があっちに伝わってしまったとしたら……最悪でしょうね」
「その心配はありません。ソレイジュ女王」
蔵の方から声が聞こえたのでそちらを見ると、ハリルさんたちがいた。
「ハリル。何か分かったのか?」
「サルディア王。その事でご報告が。ビシャータテア王国だけではなく各国の代表、全員に対しての報告ですが」
「分かった。話せ」
「あの巨大な悪魔との戦闘中にイスペリアル国から離れようとしていた魔獣の集団を複数の密偵が発見。お互い国の垣根を越えてそれらを対処。恐らく彼らはいざという時の魔王へ報告する部隊だったかと。そこまではすでに報告済みかと」
「ああ」
「その際にウルフに縛りつけられていた巻物に何が書かれていたかが解読できました」
「内容は?」
「完全なる異世界の門の完成。それによるビシャータテア王国の影響が記されていました」
「となるとまだあっちには最新の異世界の門の情報が伝わっていないってことか……」
「恐らくは。現在、イスペリアル国周辺で怪しい者がいないか見張っていますが、疑わしい者はいません。通信魔道具の可能性も考えて捜索していますが……発見に至ってません」
「そうか……報告は以上か?」
「はい」
「分かった。引き続き監視を頼んだ」
「おまかせを……それでは」
そう言ってハリルさんたちは再び蔵に戻っていってしまった。恐らくだが、まだあっちに伝わっていないならそれはありがたい。でも、定時報告が途絶えた以上、すぐにバレるだろうが。
「とりあえずは、薫の麒麟も伝わっていないか」
「そうだといいんだけどね。でも……あれ大勢に見られてるからなんともいえないかな……」
「……まあ。この話はここまでにしとくか。なかなか刺激的な一日で疲れたしな」
他の代表も同じようで頷いている。また明日から大変な日々になりそうだ。と思っていると、庭にワゴン車が入って来た。止まると扉が開き、そこからゾンビ……ではなく各国の賢者が出て来た。
「科学…物理……」
「真理だ……これは私はついに真理へと至る道を……」
「扉が見えた……真理の扉が!!」
各々がうわ言のように何かを言っている。というか真理の扉はヤバイと思うが……体のどこかを奪われた様子は無いので問題無いはず。すると助手席からカシーさんたちが降りてくる。
「あまりの情報に少しパンクしたみたい」
「見れば分かります……で、勉強会は上手くいったんですか?」
「ええ」
各国の代表が異世界の見物をしている間、賢者さんたちはこちらの技術を勉強していた。その講師は直哉と榊さん。そのため今日は一緒に行動をしていなかった。と、またまた車が入ってきた。その見慣れた車から出て来たのは泉とフィーロファミリーだった。
「それじゃあ……私達は帰るけど、しっかりやるのよ」
「帰りたくなったらいつでも帰ってくるんだよ?」
「分かってるッス」
「じゃあ……泉さん。よろしくお願い致しますね」
「はい。こちらこそ」
お別れの挨拶が済んだ所で、僕もフィーロのご両親に挨拶をする。優しそうなご両親で最初にレイスへの暴言を謝罪していた。ノースナガリア王国に設置されていた魔法陣が破壊された影響で人々の心が徐々にいい方へ変化しているらしいというのがソレイジュ女王からの報告だった。
全員が集まった所で、グージャンパマの人々は蔵の魔法陣を使って帰っていった。こうして騒がしくて忙しい今日という一日が無事に終わったのだった……その光景を誰かが遠くから監視していたのを除いて。




