82話 お願い消化中
前回のあらすじ「キャラが多すぎる!」
―「近所の公園・広場」―
会議が終わり、無事に異世界グージャンパマから帰って来れた僕たち。何か分からない間に異世界の勇者となり、世界存亡にかかわる事になったが……まあ、いい。今のこの状況を考えれれば……そんなのはどうでもいい。
「なんで、こんな格好を……」
「言ったじゃない?レイスの服のお代替わりにコスプレしてって」
「う、う~~……!!」
ただいま世の中はゴールデンウイークの真っただ中。ここの公園は地元でも有名な観光地で、ちょうどこの時期にはツツジが見頃になる。他にも周辺に芝桜で有名なガーデンがあったり、ちょっとだけ遠いが藤棚が有名な場所があったりとその時期を待っていた観光客が大勢来る季節である。……そして、役人どもは何を思ったのか観光客をより呼ぼうとしてある企画を立てた。妖狸と妖狐が住む町としてPR……巫女服……そうだコスプレだ!……なんでそうなった!?
とにかく、そんな事があってただいま泉からのお願いの消化中なのだけど……。
「……でも、意外と多いね」
「結構、ガチのコスプレが多いッスね」
「そうなのですか?」
「あの人の服装。見えそうで見えないギリギリを狙ってるッスね。けど今回の、いかがわしくない服装。というのをしっかり守ってるッス」
「しかも、あの人の持ってる杖。あれガチで木から作ってるわね。自分で作ったにしても買ったにしても相当のこだわりよ……」
僕も周りを見るが確かにコスプレしている人が多い。家族全員でコスプレしている人たちもいる。
「あそこの人なんて小さい子供と一緒に撮ってるのです」
「同じアニメシリーズだからね」
市販品の日曜の朝の子供番組の格好をしている子供と、同じ日曜の朝の子供番組の格好をしているガチのコスプレイヤーが一緒に写真を撮っている。ヴィランとヒーローで戦っている最中をイメージして撮影している人たちもいる。
「あ、あの……」
声をかけられた方を振り向くとカメラを持った方々が……。
「写真いいですか?」
「あ、はーい!どうぞ!それじゃあビューティ!」
僕は黙って頷き撮影に入る。ちなみに今回のコスプレは金曜の夜の大人番組のデンジャラス・ガールズのコスプレ。これ日曜の本家が怒るんじゃねぇ?と言われつつも無事に放送し終わったアニメである。ちなみに今年第二期をやることが決定したらしい。そしてその物語の主人公、泉がデンジャラス・プリティの格好を、僕はデンジャラス・ビューティにコスプレ中である。ちなみにレイスとフィーロはそれぞれの変身ポーチの中に隠れている。
「ポーズお願いしまーす!」
「すいませーん!こっちから撮影してもいいですか?」
その声に合わせてポーズを変えつつ撮影が進む。変なローアングルの撮影とか大勢で囲んだりとか、ポーズの強要とか無くて実に平和的だな……。この前は強要する人がいたから捻ったけど……。
「すいませーん♪こっち向いてもらっていいですか♪」
その声に反応してそっちを向く……え?
「はーい♪いくわよ♪」
「……なにしてるんですか?橘さん?」
「いや~可愛いからついね♪」
「お久しぶりでーす!」
「あら!元気にしてたかしら泉ちゃん!」
「はい!……って、そういえば仕事じゃないんですか?」
「絶賛仕事中よ。私服で見回り中」
「(……署長なのにですか?)」
「(本来はやらないんだけど、予想以上に人数が集まっちゃてね……それでよ)」
小声で気になることを聞く泉。偉い人がここで何をやってるのかと思えば、あなたも役人に振り回された一人でしたか……。
「しかし、似合ってるわね~♪そのスカートのふくらみやフリフリとか難しいんじゃないの?」
「いや~。苦労しましたよ。でも、いい材料が見つかってそれを利用したらなんとかなりました!」
「そうなの?よかったわね」
いい材料……ジャイアントオークの鞣した皮とコールドウルフの毛皮…異世界の材料がここでもふんだんに使われている。この時期、ここの温度が他の地域より高いため熱中症にならないように、火耐性でかつ通気性が良く長時間の運動もオッケーという性能付きです。ちなみに胸元の水色の魔石には水属性の魔法をアップさせる力があったりする。
「薫ちゃんも似合ってるわね……青色が美人さを引き立たせてるわ。それだからかしら、遠くからこっちを見ている盗撮者がいるわね」
そう言うと、橘さんがその遠くからこちらをこそこそ撮っているカメラマンに注意するためにこの場から離れていった。あれ、良く気付いたな……全然分からなかった。
「大変だね……」
「そうッスね」
周りにいないのを確認してフィーロが喋る。
「そういえば……あそこで撮らないんですか?あのツツジっていう花が咲いている場所で」
レイスの言うその場所では多くの人で賑わっていた。ツツジを背景に写真を撮れるということで待っている人もいる。
「もう、ちょっと空いたら撮りましょうか」
「……まだやるの?」
「まだ始まったばかりよ?」
「はあ~……」
その後、休憩を取りつつも撮影を行う。空いたころを見計らってツツジの前で撮影。途中で泉の知り合いのコスプレイヤーさんと一緒に撮ったりしてなかなか楽しい時間だった……。いや、楽しんじゃダメだよねこれ。
「いや~薫兄なかなかノリが良くて助かるわ~」
「キレキレでポーズを取っていたのです……」
「さっきの一緒に撮った人なんて薫が男ってことで驚いていたッスね」
……これは癖だから、長年の積み重ね。そう積み重ね……僕の黒歴史………。
「あれ?なんか落ち込んでるッス?いつもの男に見られなかったショックッスかね?」
「もしくは……アレじゃあないのです?」
レイスの言うアレとは、今回の企画の原因となった物……妖狸と妖狐のコスプレだ。
「作成者の私でも良く出来てると感心しちゃうほどよく出来てるわね……」
「確かにッスね」
「あそこに巫女服を小さい子供が着てるのです。双子でかわいいのです!」
そう言えば、パンフレットに、あなたも妖狸と妖狐になれる!!ってうたってたな。このために税金使って作られたと考えると、市民の方々に申し訳なく思う。
「いや~疲れたわ」
その声に反応してレイスたちが素早くポーチの中に引っ込む。
「お疲れ様です。」
「ええ。お疲れさま。そっちはどう?楽しめたかしら?」
「はい!」
「薫ちゃんは……まあ、そんな感じか」
僕の不機嫌な表情をみて納得してくれた。
「あ、そういえば薫ちゃん大丈夫だった?」
「え?何がですか?」
「ほら。この前の事件。あなた銃で顔をぶん殴れたって聞いたわよ?」
この前の事件……盗賊団ヘルメスの銀行立て籠もり事件。そう言えば銃で殴られていた。まあ、鉄壁を使ってたから痛くもないけど。
「別に……まあ、攻撃を逸らしたからね」
「薫兄。それ何気に凄いんじゃ……」
「まあ。そんなところよね」
「どうかしたんですか?」
「ううん。なんでもないわよ。ただ、この町で話題沸騰中のあの妖怪達を追ってる最中で、その際のレポートでそんな事が載ってたからついね」
その話に多少なりと体がビクッと反応する。橘さんすいません。その妖怪たちは目の前にいます……。
「あの事件……不可解な事が多くてね~。困っちゃうわ~」
「そうなんですね」
「それに、この前の火事の現場では飛んで逃げたでしょ?そんなのどう追えばいいのかしら?」
「はは……確かに」
「とりあえずは捕まえたら過剰防衛で逮捕かしら。まず2年の懲役は間違いないと思うけど……」
そして橘さんが僕を見る。……え?まさか疑ってます?しかも捕まったら懲役2年?
「そこから……さらに爆発物取締罰則違反、銃刀法違反……塵も積み重なって10年以上かしら……」
橘さんが自身の髪をいじりながら話す。
「え?えーと。まさか疑ってます?」
「いいえ?ただ。あの格好をしたら似合ってるだろうな~と思ってね」
「確かに……今から衣装借りられるか聞いてみる?」
「い・や・だ!」
そんな事してたまるか!というより、泉も大胆な事を言うな……疑われないように演技してるのかな?
「あら?私が警察の特権でなんとか……」
「やらないで下さい!」
「冗談よ」
「誰かそいつら捕まえて!!」
いきなり大声が広場に響き渡る。声のする方を見ると、こちらへ走って逃げる男たちがいる。その手には不釣り合いな女性の鞄を持っていた。
「あら。置き引きかしら?」
悠長にそんな事を言うが、流石、僕の武術の師匠。その年に似合わない猛スピードで走って犯人の進路を塞ぐ。
「邪魔だ!どけ!」
犯人がポケットから折り畳みナイフを取り出す。が、あれじゃあ相手にならない
「いやよ」
置き引き犯が橘さんへナイフを振るうが、その手をいとも簡単に掴み取り、そのまま投げ飛ばしてしまう。
「窃盗の現行犯で逮捕するわ!」
「くそ!」
もう一人の犯人もナイフを持って襲うとする。でも、あれも問題な……。
「デンジャラス・シューート!!」
その声とともに僕の真横を何かが剛速球で通り抜ける。その剛速球の球は見事に犯人に直撃する。振り向くと泉が何かを投げたポーズをしていた。しかし、さきほどのアレは肩にぶつかっただけで完全に動きを止めるには至らないだろう。僕はその犯人を止めるためにトドメの一撃を加えるため近づく。
「この~!」
犯人が僕に気が付いてすぐさまナイフで攻撃を仕掛ける……流石に、橘さんのようにナイフを振る手をそのまま掴むという芸当は無理なので、体を少しだけ逸らして避ける。そしてヒールの尖った部分で相手の頬を蹴り飛ばす。
「ぐふぉぉ!」
変な声を漏らして犯人が倒れる。その姿はどこか、ムチャしやがって……。と言いたくなるような姿だった。
「薫ちゃん!やる~!」
「橘さん……ここ誉める所じゃないですよ。下手するとこれも過剰防衛ですから」
「まあ、この位なら私の方で何とかするから大丈夫よ。むしろ助かったわ」
「橘さんならこの位余裕じゃないですか。前に10人に囲まれた時も息をつくことも無く叩きのめした事もあったって聞いたことがありますよ」
「あら?その時は12人よ」
橘さんに押さえつけられた犯人がそれを聞いて堪忍した。まあ、そんな人を相手にするのは無理と判断したのだろう。……実に正しい判断だと思う。
「しかし、泉ちゃんもやるわね……あの石を剛速球で投げて当てる技術中々だわ」
土属性の魔法を使ったんだろうな。なんせ魔法を使えば命中補正が入るからほぼ確実に当たるし。とそんな事を思ってると、制服の警察官が来て橘さんに敬礼をした後、男二人を連行していった。
「それじゃあ。今度はお店に寄らせてもらうわね~」
そして橘さんも被害者への聞き取りするという事で去っていった。
「……お、お強いのです」
「僕の武術の師匠だもん。この位が普通だったよ」
「勇者の師匠……流石ですね」
「勇者言わないで……」
「ビューティ?大丈夫」
「……何でその名前?」
「後ろ後ろ」
指で脇腹をつつかれつつ、泉に言われて後ろを振り向くとそこにはギャラリーがいた。
「スゲーー!!デンジャラス・シュー―トだ!再現率たけぇー!」
「あっちのビューティも再現率たけぇーよ。必殺技名をいわずに、ただ相手をハイヒールで蹴り、倒れる相手を見下す。名付けてデンジャラス・クィーン!思わず俺、感動しちゃたよ」
「……かえ…」
「写真をお願いします!!」
「いくよ!ビューティ!!」
「……」
その後、時間ギリギリまで僕たちの撮影会が続くのだった。
「恥ずかしい……!!」
「子供と一緒にノリノリで撮ってたじゃん」
「なのです」
「そうッスよ」
……ただの長年の癖。ただそれだけだから……。




