81話 そして、また新たなキャラが出来る
前回のあらすじ「アイスクリームは美味しい」
―「聖カシミートゥ教会・臨時会議室」―
「……という事で話は以上になります」
ようやく、予定していた話が終わる。窓を見ると外は既に夕焼け空になっていた。
「なるほどな……。これは魔法使いにとっていい話だ」
「ああ。これからの事を考えるとな……」
ローグ王が言うこれからとは魔物との戦いの事だろう。そういえば、あの悪魔たちは変な事を言ってたな。
「薫?どうした?」
「うん?何でも無いよカーター……ただ気になることが」
「話して下さい。薫さんの気になるはかなり重要な内容になりそうですから」
シーエさんがそう言うけど他の人は……こっちを凝視してる。話せ。ってことですね。
「悪魔たちとの会話で気になっていた事があるんです」
「というと?」
「悪魔たちは自分たちの事を魔族と言ってました。魔物とは一言も言わなかったんです。まるで区別をしているみたいで……もしかしたら、そんな風にこっちだけ翻訳されてるだけかもしれないんですけど」
「いいえ……私もそう聞こえたわ」
カシーさんがそう言うと他の人からも同じ意見が聞こえる。
「魔獣は置いとくとして魔物と魔族……違いは何なんだ?」
「そう言えば……こっちの世界ではあいつらの事を何と言うんだ?魔物でもさらに分かれるんだろう?」
直哉が他の人々に尋ねる。
「えーと~。あれは多分悪魔ですね。他の魔物となると他にハーピィ、ラミア、ケンタウロス、サキュバスにインキュバスとか、まあ色々ですね~」
「俺も同じだな。古い文献に載っていた内容と酷似している。魔物の中でも凶悪なやつらってな」
「そうですね。私も先代のエルフから語り継がれてます」
「となるとだ。あいつらは魔物の悪魔では無く、魔族の悪魔と言う違う存在なのか?……もし、同じ存在なら何故分ける?」
「確かに言われると気になりますね。そもそも我々の文明の進歩を阻害する行為に何の意味があるのか?それも疑問です」
他の人々も意見を交わしたりして考えるが当然ながら答えは出ない。なんせこっちが知っている魔物は数百年前の事なのだから。結局、各国の城の蔵書にそのような記述が載ってないか調べるという結論に至った。
「それじゃあ、これで会議は終了という事で」
僕はここで会議の終了を唱えるが……。
「「「「いや!まだ、あれについて言ってねえだろう!!」」」」
……言わないとダメか。
「分かりました。じゃあ説明しますね。」
こうして僕は雷霆・麒麟の説明をするのだった。
―神霊魔法「雷霆・麒麟」を覚えた!―
効果:鵺、術を強化する魔法陣があり、かつ雷の魔石を消費することで使用可能。召喚後、指定された3つの行動を制限時間ギリギリまで行い。術者の意思または終了間際でかつ対象が撃退されていない場合、トドメの必殺技を放ちます。
麒麟の攻撃内容は以下の通り
・轟雷(遠距離時):召喚時に発生させた暗雲から対象に向けて雷の雨を降らします。
・雷槍(中距離時):自身の周囲に大量の鋭い雷の槍を発生させて、相手に向かって撃ちます。
・神速(近距離時):その場に残像を残し対象から距離を取ります。距離を取った直後にすぐさまその距離に応じた上記の攻撃を仕掛けます。
・必殺技「雷霆万鈞」:自身に暗雲からの雷を当てて充電。その後、対象の近くに移動して特大で高出力の雷を放ちます。なお、この雷は数十秒間継続します。
補足内容:この術の威力は術者の状態、武器、魔法陣、雷の魔石によって継続時間増・威力増大・負担減・技の追加が可能です。
「……って感じです」
「は、はあ……?」
説明が終わると全員が、なにそれ?という表情を浮かべる。
「どうしたらそんな事が……?」
「なるほど。イメージした術の内容を魔石に記憶。そしてその魔石の容量内で行えることを実行するということか……」
「直哉殿は理解したのか?」
「ああ。要はこっちの機械に近い内容だ。魔石という機械に行って欲しい事、使いたい魔法をプログラム、そしてそれを動かすのに必要なエネルギー……つまり魔力を注入。それが終われば後は自動的に行われるロボットのようなものだ」
「なるほど……となると私達も使えるの!?」
「これらが出来ればな。どうだ薫?」
「それであってると思うよ。前々から練習してたんだけど、形は出来ても非常に簡単な行動しか出来ないし、その形も崩れやすかったんだよね。で、丁度あの悪魔が魔石に魔法を注いで強くなった所を見て閃いたんだ」
「薫。まさか俺達やシーエ達の兵士魔法は」
「うん。麒麟の練習中から分かった内容を教えていただけだよ」
そう。カーンラモニタで泉たちから案を貰い、カーターたちが術の練習してたのを見て、麒麟から利用できそうな所をピックアップして皆にレクチャーしただけ。皆の術の出来を見て、そこから麒麟へフィールドバックしたりしている。
「はあ~……魔物、いえ、魔族との戦いに対してその術は我々の切り札となりえる物。どうにかして魔法使い達には覚えてもらわなければ……」
「ソレイジュ女王の言う通りですね……多くの魔法使いが使用できるようにしなければ」
「とにかくだ。必要な属性の魔石、魔法陣、そして魔法使い専用武器。それらを使わないと発動は不可って事だな」
「はい。ヴァルッサ族長の仰る通りです」
各国が付き人と話し合いを始める。これからの魔族との戦いに向けて準備するために。
「それでは皆様……」
コンジャク大司教がここにいる全員に呼び掛ける。
「これにて今回の会議はお開きという事でよろしいでしょうか?」
全員から同意の声が発せられる。これにて会議は終了。無事とはとてもいえないが……終わってよかった。
「それで勇者様。ちょっとだけお時間よろしいですか?」
「あ、あの勇者はちょっと……」
コンジャク大司教。その呼び名はちょっと……。
「じゃあ、大妖怪・妖狸?」
「そういうことじゃないからね泉!?」
「じゃあ……隠神刑部?」
「それ他県の大妖怪!単に勇者って呼ばれるのが違和感あるってだけ!」
「えーと……とりあえず勇者はよろしいでしょうか?」
「いや……それも……いや、それより何ですか?」
「すいません。勇者である薫さんとレイスさんに少し来て欲しい所がありまして」
「……はあ」
僕とレイスは各国の代表たちにどこかへと連れていかれるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「聖カシミートゥ教会・バルコニー」―
連れていかれた場所は……教会のバルコニー。ここから町が一望できる。そして下には市民の方々が……そして。
「……何で僕たちが前に立たされているんですか?」
「いいではないか。悪魔に止めをさしたのは薫たちなのだからな」
サルディア王?何か隠していませんか?……他の方々も。
「皆さん!!お集りいただきありがとうございます!!」
コンジャク大司教が集まっている市民に対して拡声魔道具を使って呼び掛ける。
「皆様のご存じの通りと思われますが……2日前に悪魔が襲撃。そして悪魔は大司教に扮して我々を支配してきました」
市民からどよめきの声が聞こえる。この2日間の間に情報として伝えられていたとはいえ驚かずにはいられないだろう。
「悪魔が倒された以上、魔物との戦いが一層激しくなることは必至でしょう……」
市民が真剣な眼差しでコンジャク大司教を見る。
「そこで!各国の代表を協議した結果。各国現在の戦争を完全に停止。今ここにグージャンパマ連盟を築きこれらに対抗することをここで宣言します!!」
市民からさらに驚きの声が聞こえる。というよりグージャンパマって?
「(薫。その時いなかったから分からないと思うから説明するが……グージャンパマとはそっちの言葉で世界という意味だ。榊殿がこの連盟の名前を付ける際に世界全体の同盟という事で提案してくれた)」
「(へえ~)」
サルディア王が小声で教えてくれた。グージャンパマ同盟か……各国が一致団結する時って世界に危機的状態が迫った時とは言うけど……まさに今がそれか。
「まだ、我々の戦力は微弱な物。今襲われでもしたらなすすべがないでしょう……しかし。我らの信ずる神は我々を見捨てなかった!異世界から我々に希望を与えて下さった!」
その言葉を聞いて嫌な感じがする。あれ?これって……。
「この者達のその目は悪魔の企みを全て見通し、この者達の魔法は悪魔の企みを打ち砕く光の鉄槌!そして、神の使いさえもこの世に顕現させる!」
市民の皆さんから羨望の目で見られる……皆さ~ん。そんな期待を込めた目で見ないで下さ~い……。
「その名は勇者、成島 薫。そしてレイス。我々の希望である異世界の住人である!さあ!勇者様!ここにいる市民に何か一言をお願いします!!」
そう言って、コンジャク大司教が笑顔で拡声魔道具を僕に差し出してくる…………は、は、謀ったなーー!!各国の代表がいい笑顔でこっちを見てくる。いつ?いつこの計画を立てたの!!僕が寝てる間か?
「(どうするんですか!!)」
市民が歓声を上げている中、後ろにいるサルディア王に小声で訴える。
「(すまん…ここで直ぐにでも打開策を出さないと各国影響を及ぼすからな…という事で、何か一言を頼む!)」
「(頼む!じゃないですよ!!しかも笑顔で!!)」
「(直哉殿は…大丈夫だ。問題無い!と言ってたぞ?)」
直哉ーーーー!!!!絶対、笑顔で笑いながらそれ言っただろう!!どうするのこれ!?王様から市民の方々へ目を移す。あ、待ってる。羨望の目ですっごく見てくる。え?どうするのこれ?
「(か、薫?)」
同じく生贄にされたレイスが困った顔で僕を見る。くっ……!!僕は拡声魔道具を大司教から奪い取るように受け取ろうと思ったが……こっちの声が正常に反映されるか不安なので大声で叫んだ。
「今、大司教から紹介預かった。私の名前は成島 薫。そしてこっちが相棒のレイスだ……みな今回の事で驚き動揺をしていると思う。私たち異世界の住人も出来る事があれば手伝わせてもらう。だから心配しないで欲しい。お互いの技術と力を合わせればどんな奴等が来ても勝つことが出来る!乗り越えていける!約束しよう!我々が魔物との戦いに終止符を打つ時、その時こそ我々が真の自由を手に入れる時だ!!私の稲妻を旗印として付いてきて欲しい!!」
市民から大歓声が沸き起こる。……う、う恥ずかしい。市民の方々からゆっくり顔を逸らし、見えないところに移動する。顔は赤面する感じがするし、目も潤んでくる。な、なんでこんな事をしないといけないの!!
「お疲れ様なのです……薫」
「う、う~~~~!!」
この後、この勇者の演説は「逢魔時の誓い」として語り継がれることになるのだった……。え?なんで黄昏では無くて逢魔時かって?……知るもんか!!




