74話 悪魔のさらなる誤算
前回のあらすじ「正体現したね!」
―「聖カシミートゥ教会・厨房」―
「大変な事になったな」
「うん……」
「とりあえず避難しましょ!」
あの部屋から避難して、何も知らない昌姉たちと一緒に避難するために直哉たちに各国の代表を任せて、僕たちは厨房まで来た。
「なんてことだ」
ついでに連れて来てしまったコンジャク大司教が頭を抱えている。その周りには心配しそうにしている修道士たちがいる。
「とにかく避難しましょう。この付近にいる人たちをすぐにでも避難させないと!」
「え、ええ……」
「しっかりして下さい!人々を導くあなたがしっかり指示しないとダメなんですよ!」
こんな状況でコンジャク大司教には申し訳ないけど指導者としてここはしっかりと行動して欲しい。
「は、はい!お前達!」
「はい!」
この部屋に一緒にいた修道士たちが大きい返事をしてコンジャク大司教を見る。
「すぐに他の修道士たちと協力してここから遠くへ避難するように指示をして下さい。ただし下手な混乱を生まないために、今はロロック大司教達が魔物だったということは伏せて下さい!」
「わ、分かりました!」
修道士たちが人々を避難させるために厨房から出ていく。
「そうしたら私達も早く!」
「って泉とフィーロは?」
「ここよ」
そちらを見ると既に巫女服という名の魔法使い服に着替えていた二人がいた。
「……何でそれに着替えているんだ?」
「え?だってこれが一番安全な服だもの」
「そういえばそうだったわね」
「防御面なら最強ッスよ」
「それにもし戦闘になった場合も考えてね」
プロテクションを使えば防刃、防弾、防火…etc、と様々な効果が付くので、これ以上の防護服は確かに無いだろう。
「薫!」
「あれ?レイス……女王様と一緒じゃ?」
「魔法使いとしての力が必要だと思って、お母さまに断りを入れてこっちに来たのです」
「ということで薫兄も早く!」
「え?……でも」
「恥ずかしいとか、そんな事言ってないで!人の命が関わっているんだから!!」
「う、うん……ちょっと待って、すぐに着替えるよ」
厨房の物陰に入って、巫女服をアイテムボックスから取り出して急いで着替える。
「出来たよ」
「え?あ、あの早くないですか?今物陰に入ったばかりじゃ?」
コンジャク大司教が驚いている。コスプレさせられて二十年の成果である。嬉しくは無いけど……。
「私も着替えるのです」
そう言ってレイスが物陰に入って着替え始める。
「レイスが着替え終わったらすぐに出るからね」
「ああ」
「分かったわ」
「……」
「コンジャク大司教?」
何故か黙り込んでしまっている。どうしたのだろう?
「あ、すいません。女性であっているんだよな。っと考えてしまいまして…」
「いや!?僕は男!こんな緊急事態に何を考えているんですか?」
「す、すいません。その御髪がロングヘアーになっていたので」
「そういえばお前なんでカツラなんてしてるんだ?」
「実はこのウィッグも施されていて、立派な防具なんだよね……」
髪が縮れないようにという無駄な理由で耐火性に優れているらしい。
「そ、そうか」
「ミツケタゾ」
厨房の入り口を見ると、そこには魔物もとい悪魔がいた。早すぎる……もうあの場から抜け出してきたの?
「薫!」
レイスが着替え終わって、僕の近くに飛んで来る。
「クク……魔法使いガ二組カ……シカモオンナ!!タマラネエ!!」
「あ、ああ……」
コンジャク大司教が恐怖で震えている。泉や他の皆は驚いているが避難する体制は取っている。僕たちも鉄壁を掛けて逃げる準備をする。
「イイネ!イイネ!!トクニソッチノオンナ!ヤリガイガアル!」
そう言って僕を見る……え?気付いてないの?
「ドンナイイ声デナクカナ?タノシミ!!」
「気付いてないの?僕だけど?」
「ア!?……テメェカ!!ソンナフリフリシタフクキテ……女装シテキショクワル!!」
「……レイス」
「は、はい?」
「ぶっとばそう……こいつ跡形も無く、慈悲も与えない」
「薫兄のスイッチが!」
「ちょっと?相手は魔物ですよ!」
「ブットバス?フザケルナ!!」
悪魔が僕に猛スピードで近づいてくる。確かに速い。今までの誰よりも速いけど……。悪魔が僕を目掛けてその筋肉隆々した大きな悪魔の腕で殴ってくる。それを少しだけ体を逸らして避ける。
「鵺。籠手」
そして、すかさず悪魔の胸部に目掛けて魔法でカウンターする。
「獣王撃!!」
一切の手加減無し全力で殴る。悪魔はその威力で後ろに勢いよく下がる。しかし壁には激突することなく、悪魔は踏み止まる。
「ガ、ガハ……!?」
「追撃いくよ!氷連弾!」
尖った氷の弾が僕の周りに発生する。そして腕を下げるとそれが一斉に悪魔へと発射される。
「フィーロ!私達も!!」
「う、うッス!!」
「ウインドカッター!!」
泉もよろけた悪魔に攻撃を仕掛ける。多数の風の刃と氷の弾で多少の出血はしているが致命的なダメージではない。
「コノ……アマガ!!」
悪魔は僕よりやりやすいと判断したのだろう。泉たちに向かって巨大なファイヤーボールを投げた。
「泉!」
僕が鵺でカバーをしようとする前にそのファイヤーボールが泉に向かって着弾してしまった。そして炎はそのまま、その場で燃え続ける。
「泉ちゃん!」
「ハハハ!」
悪魔が泉を仕留められたことに笑っていた。でも……。
「へへ……どうかな私達の魔法は?」
「ナ!?」
悪魔が声のする方に振り向くとそこには杖を構えた泉たちの姿がいた。
「トルネード!!」
悪魔は躱すことが出来ずに、そのまま風属性最強魔法を喰らう。
「薫兄!!トドメをお願い!!」
「分かった!レイス!!」
「はいなのです!!」
僕は動きの止まっている悪魔に向かって魔法の準備をする。……この狭い厨房では彗星は使えない。それなら。
「雷連撃!!」
トルネードで身動きが止まっている悪魔に頭上から雷を複数喰らわせる。そしてトルネードの効力が消えたその場には悪魔がボロボロになりながらも立っていた。
「バ、バカナ……シンレイ…マホウ?」
「鵺。黒刀」
僕は左手に刀を持ち悪魔に向かって駆けていく。
「コ、コノ……!」
僕にすかさず攻撃を仕掛けるが先ほどよりも遅い。僕は軽々と避けて僕は悪魔の胸に刀を突き刺す。
「グフ……!!」
「僕に気色悪いって言ったこと、あの世で後悔するんだね。雷刃……放電!!」
鵺の刀身から電気を放電し始める。体の内部に強力な電気がずっと流れると考えるとかなりエグイ攻撃だと思う。
「アギャアアアアアーーーー!!!!」
悪魔が悲鳴にも似た断末魔を上げる。僕はその声が止むまで電気を流し続けて……悪魔がふらついた所で素早く刀を戻して離れる。その直後、悪魔はそのままうつ伏せに倒れた。
「……倒した?」
「……多分」
僕は念の為に、トドメに脳天に刀をしっかりと突き刺す……。幾ら何でも脳天を深くぶっ刺されて生きている生物はいないだろう。
「死んでる……ね」
「分からないよ。これが人形で他の傀儡子が操っているとか……」
「泉……そりゃ、漫画の見過ぎだ……」
マスターが悪魔が倒されたのを確認したのを見て、泉にツッコむ。僕の知っているその漫画だったなら、そいつ魔王の側近だよね?勘弁して欲しいんだけど?
「っと、消火しとかないと」
悪魔が放った火がまだ燃え続けているので、水連弾で消火する。ふと先ほどから一言も発さない昌姉が心配になって見てみると、少しだけ泣きそうな昌姉と目が合った。
「皆?大丈夫なの?」
「う、うん。大丈夫だよ昌姉」
「そう……」
そう言って、昌姉が僕に抱き付く。
「心配したんだからね……」
「ご、ごめんなさい」
「泉ちゃんもよ?さっきのビックリしたんだから……」
「ごめんね昌姉!だから泣かないで!」
いつも笑顔の昌姉が泣いていた。マスターが近づいて慰める。
「お前さんの言う通りだな。……しかし、泉。さっきのアレはなんだ?攻撃喰らってたよな?」
「え?普通に蜃気楼……ミラージュを発動させて攻撃を誘導させただけだよ?」
「うちらの必殺技の一つッスよ!」
「……さらと、泉たちとんでもない事言ってるね」
「なのです」
「だな。この至近距離で蜃気楼って……」
「ふふ……二人で一生懸命、蜃気楼とか逃げ水とかについて勉強したからね!!」
ああ。馬鹿め…それは残像だ。ってやりたかったのね。
「あ、あ……」
……コンジャク大司教の事をすっかり忘れていた。
「大丈夫ですか?」
「ゆ……」
「ゆ?」
「勇者様!!」
「……はい?」
「神霊魔法を使いこなし魔物を倒す。まさに伝説の勇者!!しかも、古の話の勇者は一回使っただけで、その命を落としたのに……」
「あ!……す、すいません。その件で今回の会議で話そうと思っていたんですが……と、とにかく今は逃げましょう!」
「は、はい勇者様!!」
……コンジャク大司教が羨望の目でこっちを見る。他の皆は呆れた目で僕を見ている。
「ついに30歳童貞魔法使いから勇者にクラスアップしたッスね…」
「そうね……」
―薫は称号「勇者」を手に入れた!―
内容:異世界から召喚され、雷を操りし伝説の巫女服勇者……。今、ここに新たな歴史の一ページが刻まれた!……気がする。
「憧れていたけど……複雑です。というか話はカーターたちから聞いていたけど、神霊魔法使いって勇者って呼ばれるの?」
「ええ。まあ、他に大賢者や大魔導士とか呼ばれたりしますが……」
この格好じゃなければな……と思いつつ、僕たちは悪魔をそのままにして急いで外へと避難するのだった。




