73話 真実
前回のあらすじ「よくあるパターン」
―「聖カシミートゥ教会・会談の間」―
「せ、聖水?」
「うん。ジャイアントオーク討伐後に僕が聖水を使ってアイツらが持っていたアイテムボックスを清めた時ぐらいの話になるんだけど」
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―今より時間は戻ってジャイアントオーク討伐から数日後「カフェひだまり・店内」―
「まさか、聖水もあるとはな」
「マスターもそう思うよね……。あっちって魔獣とか魔物が出るから、それ対策にあるんだって……まあ、怯ませるぐらいの威力しか無いらしいけどね」
僕は買ってきた聖水をマスターと昌姉に見せている。ちなみに聖水の作り方は水に水質浄化の魔石を入れるだけ。これは普通の飲み水を作るのと変わらないがその期間が違う。その期間なんと10年以上!その期間、樽なんかにずっっっと魔石を入れて置く事で出来る。また大量生産品ということで一本銀貨一枚で買える。
「すごいわ!聖水って!」
「見た感じ……ただの水だよな……」
マスターが瓶を持ち上げて中身を確認する。
「飲んでみたけど…」
「飲めるのか?」
「うん。魔獣や魔物には毒でもそれ以外の種族には無毒なんだって、美味しい水だったよ」
以前、僕の先祖はエルフなのか魔物なのかという疑問にどうすれば分かるかなという考えた中で、この聖水を飲んでみれば分かるんじゃないか?と思ってお店で購入。そして恐る恐る飲んでみたが…実に美味しい水だった。その後も、体に何の異常も無かったので僕の先祖ってエルフなのかな?
「薫!飲んで見てもいいか?」
「……え?あ、うん。大丈夫だよ」
「それじゃあ……遠慮なく」
マスターと昌姉が聖水を飲み始める。
「本当に水……ね。でもなんか飲みやすいわ。ね、武人さん……武人さん?」
「……薫」
「マスター?どうしたの?」
マスターが体を震えさせている……どうしたのだろう?
「これを大量に買えるか?」
「え?……買えるけど」
「これほどの上等な軟水の水は始めてだ!!これを使って料理すれば美味しい物が出来るぞ!!そうだ!今度の会議で出す料理はうどんと天ぷらにするぞ!」
マスターの目が輝いている。こんなにキラキラした目いつ以来だろう……。
「は、はい……」
いつもとは違うマスターの姿を見て、僕はただそのような返事をするしか無かったのだった。
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―時間は戻って「聖カシミートゥ教会・会談の間」―
「……って事で、今回の料理を最高にするために、うどんにつゆ、天ぷらの衣……使う水その全てを聖水にしたんだ」
「え……お前。あれ、退魔用の水だぞ……料理って……えー……」
マーバが呆れているが、今回はそれを無視する。それにどこぞのアイドルはラーメンを作るのに雪山に入って軟水を手に入れたぐらいだ。問題無い。
「つまり……この料理を食べて苦しんでいるその四人は……魔獣か魔物ということになります」
会談の間にいる全員が苦しんでいる大司教に扮した者たちを見る。
「お、お前……!」
ロロック大司教が僕を見る。このまま話を続ける。
「半年に一回。この会議をやっているのはここに蔓延しているお香の匂いを嗅がせて、自分たちの思い通りの行動を取らせるため……おそらくは国々の発展を阻害が目的ですね」
「な、なんで我らの目的が……!」
「……自白とみるよ」
「薫……匂いって?」
「この部屋って入った時から凄く甘い匂いがするんだ……で、泉はこの匂いが気持ち悪いってことで厨房で休んでいるんだけど」
苦しんでいた大司教の一人がふらふらと立ち上がる。
「待て……そもそも何でこの匂いが分かる……この匂いは我々、魔族にしか分からないはずだ!!」
全員が大司教の告白を受けて驚愕する。
「僕の先祖にいたんだろうね。君たちの言う魔族が……ね」
今度は僕の方を見てサルディオ王たちを除いた一部の方々が驚く。
「僕の家の蔵にあるこの世界とつながる魔法陣。異世界の門は彫った溝に魔石を流し込んだ月の雫を用いて作られた……でも、そもそもあっちには魔石なんてシロモノは無い……つまりこっちの世界から誰かがそれを持ち込んだことになる。それが魔族の誰かで僕の先祖ってことだ。そうすればあの魔法陣が蔵に長らく放置してあった理由も分かる」
「理由だと?」
「うん。カーターの先祖が使った魔法陣と蔵の魔法陣は2つで1つの転移魔法陣として役割を持つんだと思う。逆に言えば、魔族である先祖がアレを使ったとしても帰れる場所はこの世界でもビシャータテア王国内……魔族と敵対している者たちが住む土地にしかいけない」
「そうか……だから曾祖父たちは誰にも、家族にさえも薫達の先祖について言えなかったのか。成功したのは魔物が関わっていたから……」
「バカな……魔族で異世界の行った奴がいる?そんな奴が?」
「また、ノースナガリア王国に精神魔法の魔法陣を設置したのはあなた方の誰かまたは全員。ここからならノースナガリア王国まで時間をかけずに往来できる。素材もここから運ぶから楽でしょ?」
「なるほど。イスペリアル国が我々の国にこんなことをして意味が無いと思って違うと考えていましたが……魔物が関わっているとなると話は違いますね」
「く、くそったれ!!」
悔しそうにロロック大司教がこちらを見てくる。ここで少しカマをかける。
「それと硬貨にも仕掛け施してましたよね?」
「え?」
「今回の硬貨の変更……これは偽装防止なんかではなく。精神操作系の何か……魔法か薬かはたまた別の物かは分かりませんが、それの効力が切れるから……ですよね?」
「いつのまに……そんな事を……」
「まあ、それの原料にはエーテルが必要で、それの回収の為に武装したジャイアントオークを行かせた。大量に運ぶためにウルフやゴブリンも引き連れさせて……違いますか?」
「な、なんで……そんなことまで?いつ、いつからなの?」
女性の大司教が驚いた様子をみせる。どうやら上手くいったようだ。
「す、スゲェなこいつ……異世界人ってこんな奴らなの?」
「あ~ヴァルッサ族長……言っとくが我々、異世界人はあれを基準にしないでくれ。あれは特別だ……というか、そもそもあれは人と魔族、おそらくだがサキュバスのハーフが原因だと思うが……」
なんでサキュバス押し?直哉……後でゆっくり話をしようか?
「あの~社長。薫さん……途中からカマを掛けてますよね?あたかも知ったかのように振舞って……」
「な!!」
「紗江さん気付いてたの?」
「なんか途中の喋り方というか雰囲気が今やっている刑事ドラマの言い方に似てましたから。証拠が無いから、犯人を騙して証拠を出させて真実を突き止めるヒールでダンディな刑事のマネですよね?」
「その通りだよ。ということで……ありがとうね。わざわざ自供してくれて」
「く、くっそーーーー!!」
倒れていた残りの大司教たちも立ち上がり、こちらに敵意を向けてくる。
「この……詐欺師がーー!!」
「確かに!薫さんのことだからあの刑事のマネだと思っていましたけど、確かにライバルの美人女性詐欺師の方がしっくりくるんですよね……」
紗江さん……こんな時にボケをかまさないで下さい……と、とにかく……。
「それで、どうするつもりだい?ここには各国の魔法使いにカシーさんたち賢者もいる。無駄な抵抗はしない方が身のためじゃないのかな?」
ここイスペリアル国に来るには魔法陣を使用しないといけないので、ノースナガリア王国を除く各国の魔法使いが少なくとも一組はいるはず。それだから四組。さらにビシャータテア王国からはカシーさんたち三組。計七組の魔法使いがいるのだ。聖水の効果で弱っている体で相手するには無謀だろう。
「なめるな~~!!!!」
ロロック大司教からいきなり強風が発生する。そして徐々に姿を変え始める。背中から蝙蝠のような羽が出たと思えば、着ている修道服を破きながら筋肉隆々な上半身に下半身は獣の足と尻尾。そして最後に頭がヤギのような見た目の顔になる。
「シカタガナイ……コウナッタトキ二命令サレタ。決メラレタ対処デイカセテモラウ」
他の三人も変身してオーソドックスな悪魔の姿になる。
「全員!王達を守れ!!」
一人の魔法使いが指示を出す。すぐさまに王様と一緒にいた配下の魔法使いたちが前に出て来る。
「ファイヤーボール!!」
「ウィンドカッター!!」
各々が悪魔たちに向けて攻撃を仕掛ける。それらの攻撃は悪魔たちに直撃し煙や砂埃が舞う。
「やったか?」
「気を抜くなよ!!」
「薫!」
「うん。何、サキ?」
「今すぐ王様を連れてここから避難して!」
「え?……でも」
「戦ってもらってもいいわ……でも、これはこの世界の問題。あなた達を巻き込むつもりは無いの、少しだけ時間をあげるから決めて」
「サキの言う通りですよ。ここは私達でいきます。皆さん準備はいいですね?」
「ああ」
「ふ、楽しい実験の時間だ」
「ええ。この新しい杖の相手には丁度いいわね」
「……分かった。皆、行くよ!!そっちの人たちも!!」
「は、はい~!」
「分かった」
各国の代表たちを会談の間から避難させる。
「慌てないで!!落ち着いて避難してください」
直哉たちが先頭を誘導する。皆が指示に従って部屋から退室する。って!
「コンジャク大司教!」
驚きの事実を知って放心状態のコンジャク大司教の手を引っ張って避難を促す。
「あ、で、でも……」
「色々あって大変だと思いますが……ここは早く逃げましょう!!」
すると、煙が蔓延している所から強風が発生して煙を散らす。そして、そこには無傷でたたずむ四体の悪魔がいた。
「なっ!!」
「薫!!」
カーターが近づいて、脇付近に手を入れて無理やりコンジャク大司教を立たせた。
「逃げろ!」
「うん!さあ、行きますよ!!」
そして、僕はコンジャク大司教を連れて部屋の出口に向かう。後ろから轟音が鳴り響いているこの部屋から。




