70話 異世界会議
前回のあらすじ「燃え尽きた二人」
―「聖カシミートゥ教会・会談の間」―
ビシャータテア王国の王宮に負けないぐらいにキレイな装飾がされた廊下、階段を進んでいくと建物の一番上。最上階に着く。ある一室の両扉を開けると広々とした部屋に円卓の机が置かれた部屋。お香を焚いているのか甘い匂いが漂う。そこには魔法使いを連れた何名かがお喋りをしていた。
「あら~。皆様ごきげんよう~」
「うむ…どうやらこれで全員揃ったようだな」
「アハハ!!そうだな!!」
…人魚、ドワーフそして銀髪の犬?の獣人。この人たちが他の国の王様なのかな?人魚さん車椅子に座っているけど、上がるには階段しかないここまでどうやって来たんだろう?
「済まない。少々遅れた」
「ちょっとしたハプニングがありまして…」
「…あら?他の大司教は?」
「もう少しで来るそうよ~。そ・れ・よ・り。その変わった衣服を着た人達が異世界の住人~?」
「あ、はい」
「そうか…自己紹介が遅れたな。私はローグ・ヴァル・シシャ―ル。ドルコスタ王国のドワーフの王だ」
「そうしたら俺だな!俺の名はヴァルッサだ。ガルガスタ国の獣人の王…というより族長だな。だから他の国の王のように名字が無いが気にしないでくれ。ちなみにオオカミの獣人だ!」
「わたしの名はオルデ・マ・アクリスタ~。アオライ王国の人魚の女王で~す。よろしくね~」
それぞれの王様から挨拶を受けて、僕も自己紹介と来ているメンバーの紹介をしていく。
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―数分後―
「……になります。今回の会議では至らないところがあると思いますがよろしくお願いします」
「……」
「……」
ローグ王とヴァルッサ族長が黙ったまま僕を見ている。
「こんなキレイな子が男だなんて~。世の中って広いわね~」
「「嘘だーー!!」」
ローグ王とヴァルッサ族長が叫ぶ。
「さてと、いつものことが済んだので話を続けるが…」
サルディア王が何事も無かったように話を続けようとする。
「ちょ、ちょっと待て!サルディア王!嘘だろ!これが男って!?」
「そうだ!ぜひとも、結婚を考えたお付き合いをと…」
「王様達。大変申し訳ないですが薫兄は男です。親戚である私が保証します」
「「嘘だーー!!」」
二人は一度天を仰ぎ、そして四つん這いになって倒れ込む。それを見たお付きの魔法使いが、お気を確かに!と声をかけている。
「俺も…ああだったな」
カーターが二人の行動を見て同情している。
「ねえカーター……ビシャータテア王国にも各国の密偵がいるんだよね?僕の事を王様に伝えてなかったのかな?」
「この反応はそうだろうな……」
倒れている王様達……立ち上がって今度は別のお付きの人に詰め寄っている。時折、何故、伝えなかったんだ!と聞こえる。
「それで会議の内容だが……流れはどうするのだ?」
「そうですね~……私としてはまずいつもの定例の会議をして~。それから異世界の話がいいと思うんですよね~」
「私もです。すでにそちらの国で空を飛ぶ道具の開発に成功したと聞いています。その事を踏まえるとかなり驚きの話になりそうなので、まずはいつも通りの会議をしっかりやっておきたいのですが…」
「シーニャ女王に私も賛成よ。こちらも先に報告したい事があるから」
「それでは会議の順番はそうするとしよう。……お二人も異存は無いか?」
「……ああ。大丈夫だ」
「そうして欲しい……」
言い寄っていた王様たちが既に疲れた様子を見せ始めている…と、とにかく今日の会議の流れがこれで決まったようだ。
「すみません。皆様!遅れてしまいまして!」
声が聞こえた扉の方に顔を向けると、そこにはコンジャク大司教と同じ格好をした四人の男女がいた。
「いえ。ちょうど集まった所ですよ大司教方」
この人たちが残りの大司教なのか…。
「ちょっと準備がありまして……申し訳ありませんでした」
「準備ですか?」
「ええ。それで……そこにいる方々が?」
大司教の人たちが僕たちを見る。……とりあえず自己紹介をしないと。そうして再び先ほどと同じ自己紹介をする。
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―数分後―
「よろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いいたします」
この人、ロロック大司教は僕の事を聞いて驚かないんだな……。というよりコンジャク大司教以外の方々が驚かないなんて。
「それでは全員集まりましたので会議を始めましょうか」
大司教の一人であるロロック大司教が会議の開始を宣言し、各々の代表、大司教が席に着くため移動を開始する。僕たちもサルディア王が座る席の方に移動する。
「(薫兄……)」
「(ん。どうしたの?)」
「(……ううん。何でもない)」
小声で泉が僕に声を掛けてくる。何か言いたそうだけど……何かあったのかな?
「(どうしたの?)」
「(いや。ちょっと何か…その……ごめん……)」
「(いいよ。いつでも言ってもらっていいからさ)」
「(……うん)」
そして、それぞれが所定の位置に着いた所で会議が始まった。
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―会議が始まって、およそ2時間後―
会議の内容としては最初にロロック大司教たちから硬貨のデザインの変更の話が出た。今の硬貨から大分時間が経って、偽造防止とかも考えて変更をしたいとのことだった。ドローインによって念写された紙には新デザインが載っていて、今の硬貨に負けないくらいに凝ったデザインだった。
「このデザイン……硬貨として大量に用意できるのか?」
直哉がふと疑問を会議の最中にロロック大司教にぶつける。そこでロロック大司教がこの世界に流通している硬貨の説明をしてくれて、簡単に要約すると2~3年かけて今ある硬貨を少しずつ回収し、それを溶かして新しいデザインとして発行していくとのことだった。各国の王様も異論は無いとのことで硬貨の変更が決まった。その次にガルガスタ国のヴァルッサ族長が前国王の処分の説明、アオライ王国のオルデ王女が海中の魔獣が活発になっているとの話をして各国に対して注意を促すのだった。
「そうしたら、今度は私の方から……この度のベルトリア城壁での戦闘についてですが……」
今度はノースナガリアのシーニャ女王がベルトリア城壁での戦闘の謝罪と、すでにビシャータテア王国との和解が済んでいるとの説明。それに対してサルディア王も認めて、後はサルディア王の方で戦闘を仕掛けた戦犯を処分するという事でこの戦闘の件はここで終わりにするとのことになった。そしてここまでで2時間程が経過していた。
「それでは次に私の方からだが…」
今度はサルディア王が話を始める。
「まずはここにいるカーターたちの異世界の門の使用だが…」
「ああ……それなら釈明とかは俺はいいぜ。あちらの世界の情報を共有する条件付きだがな」
「こちらもです~」
「その原因を作った側として何も言う事はありません」
他の代表の方々も同じような意見だった。意外にもあっさりとカーターの異世界の門の無断使用の件は許された。
「そうか……そうしたら次にだが、実はこの数か月の間に2件の魔獣による被害が発生、しかも異常な個体が国内に出現している」
「異常な個体?」
「どういうことですか~?」
「1つがワイバーンが群れで王国内に生息する魔獣フルールを食料として食い荒らしながら王都に接近するという事件。ワイバーンが群れで行動する事態が珍しいのだが、そのうちの一匹がディフイジョン・ファイヤーボールを放っていた事も確認されている。それと……シーエ。アレを出してくれ」
シーエさんが円卓の上に魔石とワイバーンの皮を置く。それを各々の代表と付き人が見ていく。
「これ……大分いいわね」
「ああ。これで武器に防具を作ったらいいのが出来るな……ドワーフとしてはぜひとも扱いたい素材だ」
「って、まさかこれで武器や防具を作ってないよな?」
「いや。すでに作らせてもらった」
「おいおい。サルディア王?幾ら何でも軽率じゃないか?これ程のやつなら普通この会議で他の国々に報告、それからじゃないのか?承認なしでこれで武器、防具を作ったって……戦争の意思があると考えるぞ?」
ヴァルッサ族長が目を細めて厳しい言葉で聞いてくる。僕にはよく分からないけどそんなにいいものだったんだ…。
「ここにいるカシーの杖に使用させてもらった。ベルトリア城壁で壊れた杖の修復としてな」
「賢者である彼女の杖を……?」
「……ヴァルッサ族長の言う通り。そちらの賢者であるカシー殿の杖を強化。爆発魔法を得意とする彼女が本気を出せば他国に多大なる被害が及ぶ。何か弁解はあるのか?」
他の代表の見る目が変わる。それだけの事なのにここまでの話に発展するものなんだ……。さっきまでの気楽に話していた雰囲気とは大分違う気がする。
「その前に……もう1つの件の話をしたい……こちらはジャイアントオークの群れが商人の馬車を襲撃。そしてその後近くにある洞窟に住み着きギルドから派遣されたパーティーに大ケガを負わせるという事件が起きた」
「えーと。そんな珍しくないような気がするんですが~?」
「ここからだ……そのジャイアントオークの数匹が鉄製の武器に防具を装備。そして……会話で意思疎通をしていた」
「サルディア王。ご冗談を?そんな訳が……」
ロロック大司教がこちらを睨みつける。どうやら嘘だと思われているらしい。
「薫。例の物を頼む」
「分かりました……皆様。少々お時間よろしいでしょうか?すぐに準備させていただきますので」
念の為にここにいる全員に確認を取る。
「俺はいいぜ」
「私もです」
ヴァルッサ族長とシーニャ女王の返事の後に、他の方々からも許可を貰えたのでアイテムボックスから道具を取り出し、直哉たちの手も借りて準備をしていく。
「どう?」
「問題無く動いていますね」
「それじゃあ…皆様お待たせしました。これからご説明をさせていただきます。申し訳ないのですが部屋を少し暗くしていただいてよろしいでしょうか?」
コンジャク大司教が魔石を操作して部屋の灯りを消してくれた。……さてとあちら風の証明の方法で納得させるとしますか。




