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68話 ソーナ王国の女王

前回のあらすじ「薫への反応は万世界共通」

―「イスペリアル国・大通り」―


「大変失礼いたしました……」


「いえ。気にしないで下さい……いつもの事なので……」


「薫の目が死んでいるけどね」


 サキ。余計な事は言わないで欲しいのだが……。とりあえず白くキレイな石畳を歩きながらコンジャク大司教から謝罪を受けている。ちなみに撮影の許可が下りたので榊さんが撮影を再開している。


「コンジャク大司教の気持ちは分かるな……俺も始めて会って……最大のトラウマになったしな」


「そういえば、カーターのように他の騎士達の中にもトラウマになった者がいますね」


「あ~。それなら高校の時も女性不信になったやつがいたな」


「そういえば、リアルケテルって言われてたな薫兄」


「……つまり話をまとめると、人の精神を汚染させる何かみたいだなこいつ」


「マーバ!? 酷くないかな!? というか皆、酷くないかな!?」


「そうね。流石にこの人数でそう言うのは……イジメと変わらないわね」


「昌姉……」


「やっぱり解決のために、今からでも遅くないから性適合手術を……」


「いやだからね!?」


「おーい。お前等いい加減にしてやれ。流石に薫の奴が可哀そうだ。それと昌……お前も姉なんだから止めてやれ……」


「そうね。ごめんなさい」


「マスター……」


 今まさにマスターの背中に天使の羽を見た気がした。あなたこそが神でしたか……。


「とりあえずこの話は終わりだ……話を変えるぞ。それで今、街中を歩いているがどこへ向かっているんだ俺達は?」


「今はこの街の中心にある聖カシミートゥ教会に向かっている。ここからも見えるあの青い円形の屋根の高い建物だ」


 王様が指差す方向を見るとここからでもはっきりその青い屋根が見えている。


「異世界の方々に説明しますと、あの建物がこの国の中心。およそ二千年前ほどになりますが、あそこが神からの信託を受けた聖地と謂われており、そして初めて造られた建物になります。まあ、建物自体はその後何度も修復をしているので当初からの建材とかはもうないですが」


「記念とか歴史遺産として資材の一部とかを残していないのか?」


「はい。その頃は争いの絶えない時代でして……今は6の王国とこの国がそれぞれの領土を治めていますが、その時は数十にも及ぶ国が争っていたと言われています。そしてここも例外ではありません」


「神の信託を受けた聖地なのにですか?」


「他の国々で『夢で信託を受けた』とか『生まれながらの神の子だ』とそんな国もあったらしく、邪魔なここを潰そうとして襲ってきたのです」


「なるほど」


「そんな戦乱の中、次第に我々のララノア神教の教えが多くの国々から支持を受けて国教となり、そして数百年前から唯一の中立国として認められ、そして神に仕える立場、中立の立場という2つ信頼から貨幣の製造もしております」


「色んな宗教があるこっちとは大違いだな」


「そちらだと教えは複数あるのですか?」


「ああ。ララノア神教のように唯一神としての信仰もあれば、私達の国みたいに複数の神を信仰したり、自らをそのような立場になる教えもあったり……まあ色々だな。ただ、今でも教えの違いやそこに政治なんかを盛り込んでの紛争とか小競り合いがあるがな……」


「そうなのですか……」


 コンジャク大司教が切ない表情を浮かべて黙ってしまう。


「まあ、私達の国ではそんな理由で紛争とかは起きて無いから安心して欲しい。もしこちらの教えを日本でも広めるようと思っているなら出所と目的をしっかりとしていれば変ないちゃもんをつける輩は少ないだろう」


「……難しいですね。私としては我らの教えを知ってもらい、より多くの人々がこの世に生きる目的について、自分の在り方について、死とは何なのかを考える手助けになればいいと思っています。しかし、それが争いを呼ぶ火種になるのならと思うと……」


「大司教。とりあえずは今日の会議で僕たちの世界を知ってからでもいいんじゃないでしょうか? こちらの付き合いも僕たちだけにするって考えもありますから」


「薫の言う通りだ……まあ、我が国はより深い付き合いを望んでいるがな。ぜひとも取り入れたい物があり過ぎる」


「そうですね。まだ私も異世界の事を知らない事ばかりですしね。それにここにいる異世界の方々が信頼できる人だと分かりました。わざわざ自分達が不利益を被るような情報を素直に話して下さるんですから」


「私達としては意思疎通の大切さを重視しています。ほんの些細な違いが悲しいすれ違いを生んでしまいますから……だから、今回の会議ではそのような事が無いようにさせていただきます」


「本当にいい人達ですね」


「大司教の言う通りですね。俺も最初にあったのが薫達でよかったと思います」


「そうね」


「カーターの意見に同意。むしろ少しは薫が多くの利益を得てもいいはずだぜ」


「そうね。薫のお陰で停滞していた色々な物がいい方向に動き出そうとしてるんだもの。功労者として讃えてもいいはずよ」


「なんかそう言われると照れ臭いね」


 素直な言葉や感謝の言葉を聞いて、恥ずかしさのあまり指で頬を掻いてしまう。


「あ! 薫兄の顔。少し赤くなってる!」


「ちょ! 泉! からかわないでよ! こういうの僕、慣れてないんだから!」


 そう言うと皆が笑いだす。僕はからかうのを勘弁して欲しいと溜息を吐きつつも、この後の会議がこんな風に和やかな雰囲気で済めばいいなと思うのだった。


「って、レイス?」


「は、はい!? なんですか!?」


「いや? 何か真剣な顔をしていたから気になって……それに隣にいるフィーロも」


「いや。なんでもないッス……」


 ……さきほどから2人の様子がさらにおかしいのを見て『あ。これならないかも』と考えを改めるのであった。


 そんなやり取りをしつつ、聖カシミートゥ教会の入り口近くまで辿り着いた僕たち。聖カシミートゥ教会周辺は円形状の広場になっており、大勢の人が行き交っていた。


「中も凄いね……」


 聖カシミートゥ教会に入るとそこは広いエントランス。内部は天井画や細かい装飾品などちょっとした美術館を彷彿させる内装だった。外装もキレイな純白に群青色の屋根、窓はステンドグラスの高層建築で驚いたのに、中でまた驚くことになるとは……これだけでも、今日ここに来たかいがあったと思ってしまう。


「おーい薫。俺と昌はこれで調理に入るからな。会議頑張れよ」


「緊張せずに落ち着いて、いつもの薫ちゃんでいれば問題無いわ。頑張ってね♪」


 マスターと昌姉はそう言って、他の修道士の案内で教会内にある厨房へと行ってしまった。


「それでは私達も……」


「コンジャク大司教!」


 教会の入り口から声が聞こえたのでそちらを振り向くと、キレイな身なりをして、髪は金髪、頭にはティアラ、さらに魔法使いと兵士を連れたキレイなエルフの女性がいた。 


「これはこれは、お久しぶりです。シーニャ女王」


「お久しぶりです。今回の会議ではお世話になります。そして……サルディア王」


「久しぶりだな……シーニャ女王」


「ええ」


 その会話を後に、2人の会話が止まってしまった。この会議に出席する前にある程度の知識を得ているので、どうしてこのような状況になったのか理解できる。


「(カーター?)」


「(なんだ?)」

 

「(あの人ってソーナ王国の女王様だよね?)」


「(ああ、そうだ)」


「(……何か手を打たなくていいの?)」


「(まだだな。言い争いになりそうだったら止めればいい)」


 小声で返事をして、王様と女王様の2人の様子を静かに見守るカーター。ただいま各国が戦争中。しかも、この2人はつい4ヶ月前にベルトリア城壁でやり合ったばかりの隣国同士なのである。戦闘とはいかずとも激しい口論が始まりかねない。


「サルディア王……」


「なにか?」


「……この前のベルトリア城壁での戦い大変申し訳ありませんでした。私としては今現在争いを望んでいません」


 そう言うと、シーニャ女王が静かに頭を下げた。


「それはあの者達の処遇をこちらが決めていいと?」


「はい。今回の首謀者であるシュナイダーとキクルスの処遇はそちらにお任せいたします。こちらの制止も聞かず命令を無視したあの者達がどうなろうとも構いません。そして、それがどのような処分であったとしても庇うつもりは毛頭ありません」


 あのアンコウエルフの名前ってシュナイダーだったんだ……名前と顔があってない。


「(え? シュナイダー?)」


 サキもあいつの本名を聞いて、思わず驚いていた。というより、騎士団の一員なのに、あいつの名前を聞いてなかったのだろうか?


「やっぱりか……私もそうだと思っていた。ソーナ王国があんな事をしてまで得るメリットが無い。それに王都で事前にそんな動きも無かったと部下から報告は受けていた。こちらもこれを理由にして戦争を起こす気は毛頭にない。安心なされよ」


「ありがとうございます。サルディア王」


「ただ1つだけ……そこにいる薫には謝罪をしてもらいたい。そのシュナイダーという男に刺され、そしてその男を取り押さえた張本人なのでな」


「となるとこの女性が異世界の……」


「ああ。済まないが彼は男だ」


「え? …………そ、そうですか。え、えーと……この度は誠に申し訳ありませんでした」


 そう言って、僕の性別に混乱している中で、僕にご迷惑を掛けた事を詫びようとして頭を下げようとするシーニャ女王。僕は慌ててそれを制止しようと動く。


「ストップ!! 頭は下げないでもらって大丈夫です!! 一国の女王様にそんな事をさせる訳にはいかないですから!!」


 一国を統治するサルディア王ならともかく、僕はただの一般市民なのだ。王族・貴族という身分がある世界では、これが原因で互いの関係に支障をきたす可能性がある。


「しかし……」


「問題を起こした男たちが住む国の女王として、お詫びする気持ちは分かりました。かといって、一連の事件を犯したのはあの男たちの独断であり、謝罪をしなければいけないのは彼らです。なので、女王様が謝罪しないでもらって結構です! それにあの戦いであの変態共をフルボッコにして既にスッキリしていますから!」


 僕は手振りも加えて、頭を下げる行為を止めてもらう。あの変態共なら強制で何万回もやらせる気はあるが、ただそいつらが住む国の代表だからっていう理由はそもそも気が引ける。


「しかし……」


「女王様。薫がそう言うならそうしてあげて下さい。彼にとって女王様への償いとかは求めていないようですから」


 そこに、カシーさんが助け舟を出してくれた。


「そうなのですか?」


「カシーさんの言う通りです。彼らに指示をしたならそれは謝罪とそれにあった賠償をしてもらいます。しかし今回は彼らの独断。そしてサルディア王もその事実を認めているなら、あなたへ何かを求めることはありません」


「……分かりました。でも、それだと私の気が済みません。どうか少しばかりのお詫びはさせて下さい」


「分かりました」


 とりあえずはこれで丸く収まったのだろうか……僕がそう思っていると、カーターが笑顔で親指を立ててくれた。王様も縦に頷いている。


「それではサルディア王。重ね重ねですがよろしくお願いいたします」


「ああ。薫も納得する処分にするとしよう」


 そして互いに握手して話が終わった。とりあえず、これが原因で争いにならなくて良かった。


「失礼するわ」


 すると、また教会の入り口から誰かが入って来た。振り向くとそこには甲冑を来た精霊の兵士たちを引き連れたいかにも女王ですという身なりをした精霊の女性が先頭に立っていた。

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