67話 神教国イスペリアル
前回のあらすじ「準備中」
―翌日「薫宅・蔵」―
「これは凄いな。まるで、これから神隠しにも遭うようだ」
「そうね……神社って感じが凄いわね」
「『お二人の巫女服を見てこうなった。そして内装に大分こだわった』と言ってましたから」
「う……!!」
「なるほどね」
今、僕たちは自宅の蔵の前にいる。中の内装が無事に完了して、蔵の内部にある魔法陣をいじらずに、それを囲うような形で、神社を思わせるような建物が建てられている。僕としてはそんなにデカくない蔵で良く建てたもんだと思う。しかも上に広く取られていて身長の高い人も楽に蔵の出入り口まで通れるようになっている。また蔵の脇に階段があって、そこも修復されていおり、そこを上った2階は畳敷きの小さな寛ぎスペースになっていた。
「壁の修復に耐震性強化、さらに魔法陣から入口までバリアフリー。後、のちのちの維持管理や修復がしやすいような設計にしといたとのことだ」
「……直哉の会社ってなんだっけ?」
「一応、機械の製造ですね……多分」
「榊さんがそう言うと私も自信が無いですね……」
「それってどうなの会社的に?」
泉の言う通りどうなんだろう? というより……こんな調子で、よく会社が維持できるもんだ。
「とりあえず移動しましょうか」
「そうだね……それじゃあ、泉たちと僕たちの2組に分かれて移動しようか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―30分後「ビシャータテア王国・王宮」―
異世界に到着後、歩きで少しだけ王都を見学しながら王宮に行く。王宮の城門には既に王様たちが待っていて、昌姉たちの紹介を済ませた後、会議を行うイスペリアル王国の転移の魔法陣がある場所へ向かう。
「ここまで色々見たが……すげぇな異世界ってのは。あのコンロ型の魔道具は使い勝手が良さそうだった」
「そうね……ふふ、まさかこの歳でこんなワクワクなんて思わなかったわ。しかも、こうやって王様や騎士様にエスコートしてもらうのもね」
「昌の言う通りだな。俺が一生の間に味わうことの無かったはずの体験だな」
「こちらとしては大切な客人だ。そのくらいはな」
「あれ? 今日は王様モードなんですね?」
「会議がある場合は気を引き締めないといけないからな。いつもの口調は無しだ」
「それにしても大人数だな……これ」
「そうね」
カーターたちが言うのも無理はない。王様達からはカーターとサキ、シーエさんとマーバ。そして、賢者であるカシーさんとワブーの総勢16人なのだから。チョットした大移動である。
「これ小説に書く際大変かも口調とかどうしよう……いや、かなり端折ればいけるかな……」
「お前の小説まだまだあれは序盤だろう? いいんじゃないか悩まなくても?」
「社長の言う通り、私も原稿を読ませてもらいましたがまだベルトリア城壁でのやり取りまでですよね?」
「そうなんだけどね……」
「そういえば薫の書いた本が販売されるって報告を受けたな……おめでとう。王としてあちら世界との相互理解に繋がればいいと思っているぞ」
王様がそう言うと、異世界の皆からお祝いの言葉を頂く。
「ありがとう。でもまだまだこれからだから……」
「期待しているぞ……で、着いたぞ」
そこには小さい建物があり、そこを守る為の門番が4人も立っているので、これがどれほど重要な建物なのかが伺える。
「かなり厳重なんですね」
「ええ。なにせここの先にあるイスペリアル国には会議のために各王国の転移の魔法陣があります。そこを伝っていけば魔法使いならどこにでも瞬時に移動出来てしまうので警備も厳重なのです」
「それだから、魔法陣の設置場所も王宮から少し離れているんだぜ!」
レンガ造りの建物の鉄扉を門番が開ける。そこから中に入るとビシャータテア王国の国旗と魔法陣しかなかった。ついでにだが魔法陣の形は蔵の魔法陣と比較すると大分違うデザインだった。
「……質素というか何も無いな」
「社長の言う通りですね。もっとこう装飾されていてもいいような」
「移動だけの物で各国から誰かを招くとかは無いからな」
「そうなのですか?」
「うちらが聞いている話じゃ今までに一度も無いって話だぜ」
「それって数百年の間に一度も無いってことですか?」
「それにはちょっと自分も紗江さんと同じく驚きですね。あっちじゃああまり考えられないですしね」
「とりあえず移動しましょうか。ここに魔法使いは5組いるから移動には困らないわね」
「え? カシーさん大丈夫なんですか? 私達4人、異世界の転移の魔法陣しか使った事ないんですけど?」
「大丈夫よ。これも同じようにイメージすればいいだけだから」
そうカシーさんが軽く言うが泉の言う通り心配である……大丈夫だろうか。うん?
「2人共どうしたの喋っていないけど?」
「あ、いえ。ちょっと緊張しちゃって……」
「うちも同じッス……」
「それにしてもここに来るまで一度も喋っていないから気になるけど?」
「そうね……フィーロなんて今日はトースト半分残してたもんね。いつもは1枚食べるのに」
「大丈夫ッスよ! とりあえずちゃちゃっと行くッスよ!」
フィーロはそう言って、泉の腕の袖を引っ張って魔法陣の方に進む。しかし、その表情は硬い。
「大丈夫なんだね?」
「はい! 問題無いのです!」
レイスはそう言って笑顔を見せる。しかし……口元がピクピクと動いているので、かなりむりしている事が分かる。多少の心配はあるが素直に教えてくれないと思うのでここは触れないでおくとしよう。
「じゃあ、まずは私達とカーター達で先に行くから」
「お前らも遅れないでどんどん移動しろよ」
4人は魔法陣に乗り発動させる。すると異世界の門と同じように光を放ち消えた。
「じゃあ、次は私達が」
次はシーエさんたちと王様が。そして3人の移動後、今度は泉と昌姉たちが移動していく。
「よし。じゃあ、次は僕たちだね」
「頼むぞ薫、レイス」
「はいなのです!」
「……」
「紗江さん? 移動しますよ?」
紗江さんが手を口に当てて何か考え事をしている。何かあったのかな?
「あ、えーと……薫さん1つだけ……1つだけ聞いてもいいですか? さっきの会話でどうしても気になっちゃって」
「え? どうかしたんですか?」
「トースト1枚って……あの小さな体でどこに入るんですか?」
「……さあ」
紗江さん聞かないで下さい。それは僕も気になっていることなんですから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「イスペリアル国・ビシャータテア王国行き転移魔法陣前」―
「すごーーーい!!!!」
「はああ……」
魔法陣での移動した先ではマスターと泉が思わず声を上げていた。それも無理もない。目の前には青い屋根以外は白一色の街が眼前に広がっていたのだから。
「見事な街並み……ギリシャのサントリーニ島みたい」
「ええ。そうね。違うとしたら海が無い事ぐらいかしらね」
「昌姉! こっちに来て! 記念に写真撮っとこうよ!」
泉とマスターが呼んでいるので合流して写真を撮る。
「うむ……私も撮ってもらっていいかな」
「王様……」
「おーい。仕事だぞお前等」
街並みに感動したところで、僕たちは螺旋階段を下りて、魔法陣のある建物から出る。そこはビシャータテア王国とはまた違う独特な街並みになっていた。
「修道服を着ている人達が多いね」
「うん」
「ここはララノア教の総本山だからな。ここで修行する者も多いぞ」
「へえー。すごいですね。あ、社長。見て下さいよ猫耳修道女とか精霊の修道士とかいますよ」
「これは撮影のしがいが……撮影オッケーですかねこれ?」
そう言って榊さんがカメラを下げる。
「うーむ。今は止めといたほうがいいかもしれないな……」
「そうだな……後で問題になったら困るしな。榊。撮影は中断してくれ」
「はい」
榊さんは返事をすると、カメラをアイテムボックスにしまう。
「いやー。本当に便利ですねこれ」
「ですね」
すると、向こうから他の修道士とは少し違う服を身に纏った獣人がやってくる。しかも、その獣人の邪魔にならないように、他の修道士たちは道を開けつつ頭を下げている。
「お待ちしてました。サルディア王」
「まさかあなた様が自らお迎えに来るとは……」
王様がかなり驚きつつ手を出して握手する。すでに周りの市民や魔法陣を守る門番の人たちも頭を下げたり祈っていたりする。他の修道士よりデザインが洗練された修道服を着こなす中年の獣人の男性。耳と尻尾の形、体格からして熊の獣人だろうか?
「コンジャク大司教が何故ここに?」
「大司教?」
「あなた方が異世界の住人ですね。私はイスペリアル国大司教を務めさせて頂いているコンジャクといいます」
「大司教と言うとこの国の一番偉い方ですか?」
「私以外に後四名います。私も含めた四人でこの国を運営の指示をしています」
なるほど。この国のトップの1人ってことか。どうりで王様が驚いているはずだ。
「今日は異世界の方々をお迎えする特別な会議です。そこで無礼が無いように私が来た。ただそれだけですよ」
「薫。挨拶と私達の紹介を頼む」
「え?」
「初めて異世界と交流したのがお前だからな。お前がこちらの世界の代表として挨拶するのが良いだろう」
「こちらの方が異世界の代表ですか?」
コンジャク大司教が今の話を聞いて僕に近づいてくる。直哉の言う通りその方がいいのかも。
「初めまして。私は成島 薫。異世界の国であるビシャータテア王国と初めて交流した者です」
「それはそれは……今日はよろしくお願いします」
コンジャク大司教が手を出す。僕はそれに応えて握手をする。その後、あっちから来た皆の紹介をしていく。
「……以上です。今回の会議では精一杯こちらの事を紹介できればと思っています」
「こちらこそ改めてよろしくお願いいたします。あちらの宗教がどんな物か私としては興味深く……実はこうやって案内に来たのもそのためでして」
恥ずかしそうにカミングアウトしてくることから、どうやら今日の会議を楽しみにしていたようだ。
「しかし……お美しい。こんな方があちらの世界にいるとは……これほどの美人は私達の世界でも中々御目にかからない」
「あ、えーと」
「どうかされましたか?」
「大司教……申し訳ないが彼は男だ。しかも人族の30歳だそうだ」
「……」
「大司教?」
「……ええええーーーー!!!!」
しばらくの沈黙の後に大司教、それとそれを聞いた周囲の市民から盛大な悲鳴が上がるのだった。
「いつも通りね」
「だな……」
「さすが薫兄……期待を裏切らないわね」
「……ハハハ」
僕は乾いた笑いをしながら、落ち込むのであった。




