64話 会議の為に今すること
前回のあらすじ「実際の火災ではプロの指示に従って行動しましょう」
―火事から数日後の早朝「カフェひだまり・店内」―
「久しぶりに作ったな」
そう言ってマスターが出したのはうどんだった。
「え、パスタじゃないの?」
「出すならこれがいいと思うぞ。こっちの世界とは言ってもここは日本だからな。日本の料理でもてなした方がいいだろう」
「確かにそうかもしれないわね。もしこっちの世界に来るとなったらまずは日本の紹介になるものね」
「それもそうなるのか……」
「キノコが毒と言ったり、あまりあちらに流通していない食べ物は食べにくいだろうしな……これなら、あまり他の食材を使わないから、変に驚かれたりはしないだろう。ただこれだと物足りないからな……シンプルに天ぷらか」
「だね。天ぷらも定番中の定番、エビ、イカにカボチャそれと獅子唐に茄子かな」
「それとちょっとした漬物だな」
「ここ洋食がメインなのにね」
「今回だけの特別メニューよ泉ちゃん」
「美味しいのです」
「同じくッス!」
レイスとフィーロがマスターが作ったうどんを試食している。泉が美味しそうに食べるその姿を見て、さっそく自分のうどんを一口食べてみる。すると、レイスとフィーロの2人と同じようにいい笑顔を浮かべる。
「美味しい~♪ マスターって和食も作れるんだね」
「修行でな……少しの間だが板場で振るったことがあるんだよ。それと薫……今ので少なくなったからアレを頼む」
「うん。分かった。今度多めに購入しとくよ」
今回の会議ではこちらの世界の紹介を兼ねているので、料理をマスターに頼んで準備してもらったがのだが、これなら問題ないだろう。
「しかし……初めての異世界か。薫が異世界を見つけた時からこんな日がいつか来るとはおもっていたがな」
「ふふ……ワクワクするわね」
そういえば、2人をあっちに連れて行った事が一度も無かったな。魔法陣を見つけてから、数か月は経っているというのに……。
「必要なら僕たちに言ってね。気軽に行き来できるからさ」
「ああ。もし行く時があったら頼む」
「ふふ♪」
(次のニュースです……先日、大規模な放火事件で逮捕された犯人がヘルメスから購入した特殊な化学薬品を使って放火を行っていたことが分かりました)
先程からつけっぱなしになっていたテレビ。今、映しているのはキャスターがニュースを読み上げるところだった。その内容に皆が一度会話を止めてテレビの方へと視線を向ける。
(逮捕された火付 太郎容疑者は、放火を行うために先日銀行で立て籠もりしたヘルメスのメンバーの1人から特殊な化学薬品を購入していたことが判明……)
「またヘルメスか……」
「うん」
ここでも、ヘルメスが関わっているとは……この辺りも物騒になってきたなと感じてしまう。
(火付容疑者の自宅からはペットボトルに入った特殊な化学薬品が大量に発見され、今回の放火は溶液の性能を見るためとのことでした。捜査当局は逮捕されたヘルメスのメンバーから危険な物が他に流出していないか捜査するとのことです)
(怖いですね……)
(そうですね。ヘルメスの脅威を改めて実感しますね)
(先日もヨーロッパで大手の銀行に強盗、中にいた行員や客、全員を皆殺しっていう事件も起こしてますからね。今後の活動に注意しなければいけませんね)
(そうですね……ただ、私としては妖怪の方が気になりますがね)
(ああ、妖怪ですか……)
(……実は次のニュースがそれになるんですが)
(というと?)
(それでは次のニュースです。その放火現場で妖怪達が消火作業する姿が幾つかのカメラに収められたそうです。かなり遠くから撮っているため分かりづらいですが……VTRをどうぞ)
VTRが流れ始める。そこには燃えている多くの家屋、そしてズームアップすると空には3人の姿が黒く見える。レイスたちは小さいせいでこの映像からは確認はできない。
(あれ? これ3人じゃないですか? 確か犯人逮捕の現場には妖怪2人と小人が2人と聞いていますが……)
(小人は、まあ、このズームアップした映像ですから見えなくて当然でしょう……となると妖怪が3人ですかね?)
しばらく映像が流れる。すると1人の黒い影から赤いなにかが地上に向かって放たれるのが見える。すると強烈な爆裂音と突風が起きてそこで映像が終わっていた。
(……何があったんですか?)
(消防士の方から話を伺った所、爆風消火といわれる消火方法を妖怪達は取ったと考えられるとのことです。どんなものかと言うと、爆風の勢いで火を吹き飛ばして一瞬にして消火するという事で、海外の大規模火災などで使われる事もあるそうです。またこの後、もう一度突風が発生。さらに軽く周辺に雨が降ったそうです……雲一つ無い晴天ですが)
(それらを全て妖怪達がやったと?)
(でしょうね……映像だと赤い何かが出て来てますし)
(3人ですよね……妖狸と妖狐それ以外にもいるということでしょうか?)
(警察も妖狸、妖狐以外に仲間がいるとみているそうです)
「あ、うちらが映っているッス」
「本当なのです…何か恥ずかしいです」
そこには妖怪に扮した僕たちが映っていた。女装した自分が動いて、自分の事を妾と言っている……。
「は、薫が!」
「大丈夫よレイスちゃん。薫は強い子だから」
「早く次の映像にいってくれないかな……」
僕の願いが届いたのか、すぐにスタジオの映像になった。
(仮面に巫女服を着て、小人を連れて自在に空を飛んで、物を浮かすことが出来て、突風を起こせる……しかもこんなのが複数いるって!アニメのヒーロー戦隊ですかね!?)
コメンテーターの1人であるお笑い芸人が、笑いながら意見を述べる。その意見に別のコメンテーターも多少同意しつつ、自分の取材話を始める。
(……実は私も記者として彼女達を調べているのですが分からない事ばかりですね。以前から噂になっていないか聞き込みをしたのですが、それが全くない。ある日突然、あの銀行の事件を境に、急に現れたって感じですね)
(急にですか?)
(ええ。突如として現れた妖怪……彼女達が一体何者なのか。多くの人物が調べていますが何も分からないが実情ですね。しいて分かったと言えばこの付近にタヌキに関わるお寺があること、そして狐が尾を曳いて城の配置を教えたといわれている伝説。彼女達はこれらをモチーフにしているのかと)
(現在確認して分かることは、妖怪が3人に小人が2人のグループで、自由に空を飛ぶことが可能。また、風や氷に水を自在に出すことが出来て、中には電気を起こす事も出来たという話もあります)
(それと私から追加で……彼女達は私達が使うような通信機器を普通に使用している事。そして今回の消火作業から考えて、科学の知識を有しているメンバーがいる事も分かっています。一般人の考えなら最初に水で消火作業しますしね)
(これって国が関与しているとか無いですよね? 国が極秘に研究した兵器が……って)
(それは無い……とも言い切れないですね。他にも、本当に妖怪って話も出てきてますが……)
(……警察はこちらの方も引き続き捜査中とのことです。それでは次のニュースです)
そして、次のニュースになった。猫が変な格好で寝ている姿が映ってとても癒される。どうやら僕たちに繋がるような証拠などは出てきていないことに安堵する。
「ニュースに取り上げられたね」
「薫にどんどん……」
「マスター言わないで!」
「いや。言いたくなるだろう?これは」
「今じゃ美人妖怪が出る町でさらに賑わっているからね。ここも」
「より一層、周囲の目が厳しくなるからな。変な事はするなよ……お前等全員な」
「はい……」
「うッス」
泉とフィーロが返事をする。ちなみにこの前の事でお二人からお叱りを受けている。
「そろそろ時間だな。それ食ったら店を開けるぞ」
「はーい。今日はレイスはこっちだよね?」
「はいなのです」
この後、うどんを食べて僕たちはそれぞれの仕事に入るのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―お昼過ぎ―
「美味しいですね」
「ああ。ここの料理は天下一品だからな!」
「まったく調子のいいやつだなお前も」
「でも、私達としてもここの料理は美味しいわマスター」
「インスタント麺とかも食べてみたがここの料理は別格だな」
お昼過ぎの人が少なくなった時間帯に直哉、紗江さん、そしてカシーさんたちが店に来店してた。カシーさんたちはこっちの世界にいくらか慣れたのかキノコの和風スパゲッティーを頼んでいた。
「そうだ薫。こっちの準備も終わったぞ」
「そうなの?」
「はい。とりあえずこの世界の歴史、文化などをまとめておきました。これをあっちではスクリーンに映して紹介する予定です。ちなみに文字はカシーさん達に頼んで翻訳してもらいました」
「お陰様でこっちの歴史を知ることが出来たわ。それとこれで知った情報は王様達に報告してるから」
「まあ、知られて困る情報ではないしな……まあ、私としてはこっちの世界の住人が野蛮と思われないか心配だが」
「それはこっちも同じだ。現在進行中で戦争なんかしてるしな」
「聞く限りはまだまだ平和だと思うぞ。こっちみたいに大量破壊兵器とか無いぶんな」
「ですね」
「そうね……そこの女性が地属性最強というか全属性最強の彗星なんていう魔法を創る前ならね」
「……薫さん」
「ははは……」
すいません。ロマンで大量破壊兵器を創ったのは自分でした。というか女性って言わないでよ。
「うん?全属性って?」
「この前、お前達に頼んで彗星を限界まで使用してもらっただろう?その結果から検証したんだが…威力、魔力の消費量などなどを考慮した結果、あれがダントツの威力だと判断にいたった。俺達でもエクスプロージョンをパワーアップした杖を使って10発程度使える所を、彗星はその倍近く使えて、使う核の重さ、落とす高さ次第で威力を幾らでも上げられる。反則級の技だ」
「薫さんそんな事をしていたのですか?」
「うん。小説を書くのに魔力切れってどんなものか一度味わっといた方がいいと思ってやってみたんだけど…。あれは気持ち悪かったよ」
放火犯討伐後に、カシーさんたちに頼まれて雷の魔石作成と一緒にカーンラモニタの実験場で小規模でやったのだが……魔力切れになると頭をぐらんぐらんされて、船酔いとか車酔いを数倍にした気持ち悪さだった。あまりの気持ち悪さでその場でしばらく寝転がったのを覚えている。
「しかしメテオを20発とはな……小さい町ならそれで壊滅しそうだ」
「唯一の救いは一気に落とせないのが救いだな」
「いやワブー。それは一気に仕留めてもらえるか、じわじわ仕留められるかの違い位で絶望しかないよな?」
「ですね……薫さんがどこぞの魔王に見えてきましたね。巫女服みたいな服を着た妖怪魔王……よかったですね。小説のネタにぴったりですね」
「いや。書かないからね?」
そんな黒歴史を自分で書くなんてするもんか。というか魔王って……
「魔王誕生……いっちょ祝っとくか?」
「マスター!祝わなくていいから!?この話は終わり!!……それで開発はどうなの?」
「水を浄化する魔石にセンサーをつけた簡易的な機械を作ってみたが……素晴らしい性能だ!あれがあれば世界の水不足を解決できるぞ!!」
「すでに知り合いのお客様に、我が社が作ったお試し品としてお渡しているんですが小さいながら多量の工業用水の無害化も成功して、うちに仕事の依頼もすでに入ってます。後は魔石を使った道具の販売権の許可さえいただければ」
「それと付随して新しい事業も出来そうだしな」
「何があったの?」
「水に溶けている有害な金属とかは無害化した状態で下に溜まることが分かった……素材としての再利用…リサイクル業もできるな。ちなみに純金にプラチナも採れたぞ」
「すごっ!」
「私としては何としても許可を取りたいですね……ぜひとも!うちの運営資金のためにも!」
そう言う紗江さんの表情がいつになく真剣だった。
「というわけで後は本番だな」
「うん」
数日後にはあっちの世界のお偉いさん全員と合うことが出来る。小説のネタとしても有難い話だ。
~♪~~♪
スマホが鳴る。僕はスマホを手に取り電話に出る。
「あ、お久しぶりです…え?うそ?………分かりました。はい。じゃあ今から行きます」
そう言って僕は電話を切る。
「直哉……」
「うん。どうした」
「大輔のやつ……入院だって」
「は?あいつが?あの頑丈なやつが?」
僕はマスターに許可をもらって大輔が入院する病院へと直哉と一緒に向かうのだった。




