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63話 魔法使いの消火方法

前回のあらすじ「放火犯にメガトンハンマー!」

―「地方スーパー・駐車場」―


「2人共大丈夫なのですか?」


「レイス!」


「全く……」


 僕は巨大なハンマーにした鵺をブレスレットに戻す。その後、倒した犯人の手を軽く蹴り、持っていた手榴弾をその手から外しておく。こんなのは手でやった方が早いのだが、うっかり僕の指紋が残って逮捕される可能性がある。そして……ここに長居するのも良くない。さっさと帰ろうと思い、泉の方へと振り向く。


「助かった……」


 すると、泉がホッと胸を撫で下ろしている。きっと、自分の身の危険ではなく、周囲にいる人たちが無事だった事に安堵しているのだろう。


「レイスからどこかへ飛んでいった話を聞いて、追ってきてみれば……」


「ごめんごめん! まさかこうなるとは思ってなくて……」


「分かっている……さっきからスマホで状況を確認してたからな」


「え?」


「ほら、あそこにカメラあるのです。だから……生中継で今までやっていたのです」


「そうだったんッスか?」


「ああ。特に危険も無ければそのまま姿を現さずに、こっそり見守っているつもりだったのだが……そうにはならなかったからな。すまないが手を出させてもらったぞ」


「ありがとう。助かったよか……妖狸!」


 『泉!? 僕の名前を呼ぼうとしたよね!? 止めてよね? 公共の前で言わないでよね!?』っと心の中で叫ぶ僕。口に出して注意出来ないのがもどかしい。


「え、妖狸?」


「あれが妖狸……」


「盗賊団ヘルメスを討伐したあの!?」


「見て下さい妖狸です!! あの噂の妖狸が現れました!!」


 キャスターの声を受けてカメラがこっちを向き、周囲の人々は僕の姿を見て声を上げている。狸のお面のお陰でバレてない……よね。とにかくこれ以上は目立ちたくない。


「帰るぞ」


「あ、でも……」


 泉が火事が起きている方を向く。なるほど、この目的は消火作業か。


「分かった。それなら妾達も手伝うとしよう」


「助かるッス!!」


「それなら早く行くのです」


 そのまま、全員で空へと飛び立つ。


「おねえちゃんたち~!」


 声のする方を向くと子供が両手を上に挙げて、目一杯僕たちに向かって手を振るう。


「ありがと~~!!」


 泉たちが手を振るうのを見て、僕たちも妖狸のイメージが崩れないように手を振り、その場を後にして火災現場へと向かう。さて、これで誰かに聞かれる心配は無いだろう。ということで……。


「全くもう!! 危なかったじゃないか!!」


「ゴメン! 本っっ当に助かった! ありがとう薫兄!」


「魔法使いの服で飛んでいくから何事かと思ったのですよ……」


「あはは……そうえいば、薫って編集さんと打ち合わせしてたんじゃないッスか?」


「あの時すでに打ち合わせは終わっていて、テレビを見ながらお茶を飲んで世間話中だったんだ。それで泉たちが来たからっていうことで、すぐに梢さんは帰っていったんだ。そうしたら入れ替わりにレイスが来て……」


「2人が魔法使いの服を着て、空に飛び出していった事を話したのです」


「そうだったんッスか……」


「それでちょうどテレビでこの町で大規模な火災が発生してるから『これだ!』って思って、2人の後を追いかけたってわけ」


「そうだったんだ……本っっっ当にありがとうね! 薫兄、レイス!」


「助かったッス!」


「あの時ちゃんと言って欲しかったのです!」


「「反省してます……」」


 2人が首を下に向けて反省の意を示す。


「本当に反省している?」


「「はい……」」


「なら話はここまでだよ。さっさと火を消そう」


「うん」


「ういッス」


 2人への注意を終え、僕たちは火災の状況を見る。さっきよりも燃え広がており、火の勢いも強くなっている。


「どうやって消火するのです?」


「それは普通に水属性最強魔法のダイダルウェーブで……」


「やめとこう。それは」


「え?」


「何でッスか?そうしないと火を消せないッスよ?」


「今は4月で、空気は冬のように乾燥していないし、今日は無風……住宅街とはいえそこまで密集している訳でもない。それに消火栓も多数あって消防車も進入できる通路もある場所だし……普通ならこんな長時間燃え続けないと思うんだ」


「ということは?」


「放火犯が石油や灯油みたいな物を使って放火した。けど……」


「どうかしたのです?」


「そんなのは消防士さんも想定して、それにあった方法を取ってると思うんだけど……とにかく水を下手に使うと、それらが広がる可能性があるから止めておこう」


「じゃあどうしたら……」


「うーん……カシーさんたちがいれば爆風消火なんて出来るかも。油田火災とかでも使われているから多分大丈夫な方法だろうし……」


「あら。どうすればいいのかしら」


 何も無い上空にカシーさんの声が聞こえて皆が驚く。その声は上から聞こえたので見上げると、鳥のような仮面を付けたカシーさんとワブーがいた。


「どうしてここに?」


「笹木クリエイティブカンパニーで研究をしていたら、テレビであなた達が活躍しているところが流れてるって従業員が教えてくれてね。念のために私達が来たの。ああ、それと飛び立つ所は部外者には見られていないわ」


「良くここにいるって分かりましたね?」


「ああ。直哉がスマホの地図機能を教えてくれてな。おかげでここまでは難無く飛んでこれた。お前達を見つけられたのはたまたまだがな」


 ワブーがそう言って、カシーさんの手に持っているスマホに指を差す。スマホの地図機能と飛行魔法の組み合わせは便利である。


「で、あれをどうにかするんだろ?」


 ワブーが僕たちに、下の火災をどうするのかと訊いてくる。どうやらすぐにでも行動を移せるようなので、さっそく消火方法の説明に入る。


「うん。それで消す方法なんだけど……」


 僕は皆に今回の消火方法について説明を始める。しばらくして、それを聞き終えた皆はすぐさま行動に入る。


「薫兄! こんなんでいい?」


「オッケー! レイスも大丈夫?」


「はいなのです!」


「しっかし……でっかい空気の球ッス」


 泉たちに魔法で凝縮した空気の球、ウィンド・ボールを用意してもらう。魔法のお陰か表面がうっすらと緑色に光っていてそれが球体と分かる。僕も鵺を籠手にして、その手に斥力の力を込めて準備をする。


「じゃあ、いくわよ!」


 カシーさんも杖を持ちエクスプロージョンを発動させる準備が整ったようだ。こちらも準備が整ったので、さっそく作戦に入る。


「エクスプロージョン!」


 カシーさん達が爆発魔法を発動させる。しかし火災現場に直撃させるわけではなく、その少し上である上空で破裂させる。その強力な爆風のお陰で火が掻き消されていく。さらに念を押してもう一回……。


「薫!」


「いくよ……獣王撃!!」


 僕は泉に用意してもらった風の球を獣王撃で下に向かってぶん殴る。それによって風の球がそのまま火災現場の地面に向かって勢いよく飛んでいき破裂する。その瞬間、風の球から猛烈な強風が発生する。それは強風が起こる中心では屋根の瓦、木材などが吹き飛び、さらに小さくなっていた火も消し飛ばしてしまった。


「……やった?」


「見た限り、煙は出ているッスけど、火は見えていないッス」


「レイン」


 火がある程度消えた所で、予定通りカシーさんたちが雨のように広範囲に水を撒く。ちなみに、これは火を消す目的ではなく、火災現場の温度を下げるためである。僕たちもカシーさんたちを見習って水を散水していく。煙がまだあっちこっち出ているがどうやら火は消えたようだ。


「どうかしら?」


「ちょっと待って下さい。スマホで確認しますから」


 僕もスマホを見ると、さっきスーパーで見たアナウンサーが髪を乱した状態で中継している。その後ろでは消防士や救急隊員が忙しなく動いている。


(今! 凄い爆発音が2回! 強風を巻き起こして火を消しました! 確認は出来ませんが恐らく妖怪を名乗るさきほどの4人組の仕業と思われます! 火は一部を除きほぼ消火された模様です!)


「消えた……みたいだね」


「やった!!」


 フィーロとレイス、泉がハイタッチして喜ぶ。


「そうしたら長居は無用だ。すぐにここから移動するぞ」


「うん。そうしよう」


 僕たちは空を飛んでそのまま僕の家に戻ることするのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後「薫宅・庭」―


「やあ、薫! 大活躍じゃないか?」


 家に帰ると、家の庭で直哉と紗江さん、それに榊さんが待っていた。


「どうしてここにいるの?」


「笑いにきたに決まっている……ぶるふぁ!」


 紗江さんが蹴りで直哉の後頭部に渾身の一撃を加える。後頭部を殴打された直哉はその場に倒れて動かなくなった。


「蔵の改装の進捗具合の確認ですね。今度の会議の後に、こちらに来られる事を予想すると、なるべく早くに終わらせなければと思いまして」


「なるほど」


「しかし……皆さん良くお似合いです」


「うっ!」


「ありがとうございます!」


「うちらの自信作ッスからね!」


「私はうれしいですけど……薫が」


「そりゃ女装だもん。これなんの罰ゲームかな……それと榊さん。頬を赤くしないで下さいよ。僕、男ですからね」


 榊さんがさっきから黙って僕を見ていた。


「私も薫さんだと認識はしているんですけど……おキレイですね。改装作業中の社員が見とれて作業の手を止めるほどに」


 蔵の方を見ると、確かに従業員の方々もこっちを見ている。


「榊さんの言うとおり、おキレイなんですよね……女性として自信が無くなるほどに……」


「まあ、こいつの場合はよくあることだったな。高校の時に学園祭でメイド服の格好を無理矢理させたら、薫目当ての客が大量に来たしな。泉。写真持ってるなら皆に見せてやってくれ」


「はーい」


「『はーい』じゃなーい! 直哉も復活直後になんてことを言うんだよ!?」


「いや。さっきの強力な衝撃でそれを思い出しただけだ」


「なにそれ!?」


「まあ、冗談はここまでにしといて、蔵の内装を相談したいんだがいいか?」


「はあー……分かったよ。着替えて来るから少し待ってて」


 この後、僕は着替えを済ませ、蔵の内装について、直哉たちと話し合うであった。


「あ、それでカシーさん。さきほど従業員からスマホを貸したという連絡を聞いているので、返却をお願いします」


「……ダメ?」


「貸してくれた従業員が困りますので」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「泉宅・寝室」泉視点―


「今日も色々あったね」


「そうッスね……ふぁあ」


 フィーロが欠伸をして目を擦っている。


「そろそろ寝ようか。灯り消すよ」


「うぃッス」


 私は電気を消して寝床に入る。


「明日はフロリアンで作業ッスか?」


「うん。明日は依頼が来ている人形用の小物の作成を進めようかな」


「りょーかい……」


 しばらくして静かになった部屋に寝息が聞こえる。


「お休み……フィーロ」


 そう言って私も目を閉じる。普通じゃない私達の日常……明日はどんな日になるのかな?


―クエスト「火を消せ!」クリア!―

報酬:ワクワクドキドキの1日

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