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60話 新たな魔法使いはモフられる

前回のあらすじ「エーテルゲットだぜ!」

―ジャイアントオーク討伐から数日後「カフェひだまり・店内」―


「~♪」


 昌姉が上機嫌で鼻歌を歌いながら、床にモップ掛けをしている。


「良かったな」


「ええ♪」


 マスターに訊かれて満面の笑顔で答える昌姉。こちらを見る際に髪をかき上げたのだが、その際に見えた腕に、あのジャイアントオークの指輪が嵌められていた。


「魔法の道具なんて夢みたいだもの♪」


 あの後、王様への動画付きの報告を済ませて、無事にアイテムボックスも貰う事が出来た。1つはすでに直哉の会社に寄って直哉では無く、念のために紗江さんに渡しといた。ちなみにそのまま渡すと殺したオークの怨念が宿ってそうなので、あっちで買った聖水を使って清めたことを伝えてから2人に渡している。


「紗江さんも同じことを言ってたよ」


「薫ちゃん達のは指輪だけど、これはバックルかしら」


 ジャイアントオークにとっては指輪だったが僕たち人間サイズだと腕輪になってしまう。


「まあ鞄とかに取り付けてアクセサリーとして利用してもいいんじゃないかな? だけど……紛失は厳禁だよ?」


「分かってるわ♪ 本当にありがとうね薫ちゃん♪」


 昌姉は僕に抱き着きながら、お礼を言ってくる。いい歳をしているので、このような褒め方は少し恥ずかしい。


「薫ちゃんの可愛いくてカッコいい写真も増えたしね♪」


「うっ……!」


 それを聞いた僕は、昌姉に抱き着かれた状態のままうめき声を上げてしまった。あの後、泉から僕の妖狸姿の写真が来たそうだ……ノリノリのポージングをした僕の写真が……。


「お前の黒歴史どんどん増えていくな……」


「言わないで……マスター」


 王様への報告時には着替えていたが、カーターが報告書としてそれをみ見せた瞬間、王様が見とれていて王女様に頬を抓れていた。


「それでだが……そのオーク達の正体は分かったのか?」


「ううん。分からないだって。オークたちは通常の道を通ってるわけではなくて獣道とか使って移動してたみたい。ある程度は追う事が出来たみたいなんだけど途中の川とか他の魔獣の縄張りとかを通ったりしたせいで追えなかったって」


「そうか」


「……はい。その通りです」


 突如として、ここにいない誰かの声が聞こえる。僕たちは驚きつつ店内を見回してみる。店はまだ開店準備中でお客はおらず、ここには僕とレイス、それとマスターと昌姉の4人しかいないはず……すると目の前に煙が突如現れてそれが消えると若い男性……服装はあっちの冒険者が着るようなスピード重視の装備と口元を隠すようなマフラー、そして何より頭には犬のような耳、そして背中からブラウン色の尻尾が見えていた。


「失礼しました。お初にお目にかかります。私の名はハリル。そしてそこに座っているのは私の相棒精霊のクルードです」


 ハリルと名乗る犬耳男性の指差す所を見るとそこには同じような格好をした金髪の男の精霊がいた。目が合うと会釈をしてくれた。


「私達はビシャータテア王国、現国王サルディオ様に仕える密偵兼魔法使いです」


 『スパイ来たーーー!!!!』と心の中で叫ぶ僕。前々からいるとは聞いていたし、その人がどんな人かと思っていたけど……そういえば王様との謁見の際に見た気がする。


「王様からジャイアントオークの件での追加報酬と情報を持ってまいりました」


「え? 僕の家からここまで来たの?」


「はい」


「……誰かに」


「ご安心下さい。私達の持つ特殊な魔法で視認することは出来ません。ただ……蔵で作業していた私達を知る関係者には見られましたが」


「薫ん家ってここからかなり距離があるが……道に迷わなかったのか?」


「はい。なんせ密偵をやっていますからここまでのルートを覚えるのは得意ですし、それに僕の嗅覚、それと魔法があるのでなんとかなります。あ。ちなみに魔法は一族の秘伝でお教え出来ないのでご了承ください」


「う、うん……じゃあ、えーと……とりあえずハリルさんがビシャータテア王国の7人の魔法使いの1人ってことでいいんだよね?」


「ハリルと呼んでいただいて結構です。で、薫様の仰る通り魔法使いの1人です」


 テーブルに座っていたクルードも黙って頷く。


「あらあら。すごいわー! 犬耳獣人なんて!」


 昌姉が初めての獣人を見てすごく喜んでいる。いや。なんか獲物狙うような目をしている気が……そんな事を思っていると、昌姉はゆっくりとハリルさんに近付いて、その犬耳を触る。


「はう!」


「ああ~……触り心地すごくいいわ~。毛並みサラサラ……ちゃんと手入れされて……」


「あ、あの?」


 ハリルさんが何かを伝える前に、今度は尻尾を優しく撫で始める。


「はふん!」


「何この感触! すごく触り心地がいい! ずっと触っていたいくらい……」


「や、やめ…ダ、ダメェ……」


 そう懇願するハリルさんを尻目に、昌姉は目をトロンとさせ、尻尾に頬擦りしながら恍惚に浸っている。ハリルさんへの迷惑を考えずに……、おかげで、さっきからハリルさんが恥ずかしい呻き声を連発している。


「あいつ……犬とかペット飼いたいっていってたからな……飲食店をやるから飼う事は諦めたんだが……その反動のせいかもしれんな。今度、一緒に動物と触れ合えるカフェとかに行ってやるか……」


「マスター! 何、冷静に考えてるの? とりあえず昌姉を止めないと!」


「おっとそうだった」


 その後、慌てて僕とマスターは昌姉の撫で回す行為を止めさせるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後―


「はう~~。犯された……」


「ご、ごめんなさい。つい……」


 昌姉が申し訳なさそうに謝る。いつもの笑顔とは違って珍しく困った顔をしていた。ちなみにクルードさんは止めてる間微動だにせずに座っていた。


「い、いえ。普通はこう触られても何とも思わないのですが……何故か今のは力が抜けるというか……とんでも無かったです」


「そ、それは……どうも?」


「いや昌姉。誉めてはいないと思うよ?」


「分かってるわ……ただ、どう謝ればいいものか……」


「いえ。お気になさらず。それで話を戻しますね」


「あ、はい。どうぞ」


「まずはこれを」


 ハリルさんが手の上に金貨2枚を何も無い所から出す。おそらく着けている手袋の下にアイテムボックスを装備しているのだろう。


「これは?」


「まずは報酬です。ジャイアントオーク討伐。そしてエーテル発見ならこのくらいだろうと」


「ありがとうございます」


 僕は出された金貨を受け取る。


「それとこれを」


 今度は液体の入った瓶を3本取り出す。


「これは今回見つかったエーテルで作られたハイポーションです。これを飲めばどんなケガも治せる薬になります」


「普通のポーションとは何が違うの?」


「えーと。ポーションでは治せないキズというぐらいしか……過去に受けたケガで動けなくなった男がこれを飲んだ瞬間すぐに動けるようになったとか、後は生まれた時から目の見えなかった女性がこれを飲んだ瞬間に目が見えるようになったとか言われてますね」


 ハイポーション……とんでもない回復薬だ。医者の方々がこれを聞いたら頭を抱えて悩ませる事態になるだろう。


「これ凄く高い薬じゃ……」


「金貨10枚ですね。賢者であるカシーやスメルツ達じゃないと作れませんから。」


「それを3本も?」


「ええ。あ、泉さん達にも同じ報酬をカーターがお渡ししてるかと」


「泉ちゃんのと合わせて6本……とんでもない薬が手に入ったわね」 


「もしもっと必要なら、カシー達にご相談してください。その際には対価が必要ですが……あ、それとですが」


「何か?」


「その薬の効果で言い忘れていたんですが……レルティシアの悲劇が起きた際にこれを飲んでもよくはならなかったという話がありますね。他にも効果が無かった話がちらほらと……」


 なるほど……病気とかには効果が無いってことか。まあ、飲んだらなんでも治せるなんてなったら、本当に医者泣かせになってしまう事態である。


「静かに聞いていたが……とんでもない薬だな」


「そうね」


「これで報酬は以上です。それで……」


「報告だよね……進展があったの?」


「その事ですが……まず、やはりあそこでエーテルの栽培が行われていました。あの空間を調査したところエーテルの育て方が載っているとされるメモが発見されました。現在も解読中ですが、すぐに分かるかと」


「つまり裏であのオークたちを率いていた誰かがいるのは確実と」


「はい。しかもアイテムボックスを大量に用意できる位の力がある者……国家ぐるみが濃厚かと」


「魔獣を統率できる力を持つ国なんてあるの?」


「私の部下が情報を集めていますが今のところはありません。ただ過去に出来る者たちの記述はありました」


「それって魔物?」


「ご察しの通り。今回の件、そしてワイバーンの件、この2つは魔物が企てた事件じゃないかと王様も考えられております。そしてあそこは魔物が国を襲うために用意してた拠点と考えています」


「そっか……」


「あまり驚いていないようだな?」


 今まで座って黙っていたクルードさんが喋った。意外に渋い声でカッコいい……。


「この約3ヶ月の間にあっちの世界で見たことや聞いたことを小説のためにまとめていたりしたからね。『少しおかしいな?』って」


「……ふん。なるほどな」


「それなら話が早いですね。王様はこれらの件も会議で報告する予定です。そしてその背景に魔物が関係している事も……」


「それで異世界の住人である僕からも不審な点とかを第三者視点で会議で話をして欲しいと?」


「はい」


「いいですよ。その位なら大した労力になりませんから……」


「ありがとうございます。それとその会議ですが1ヶ月後に決まりました」


「となると……4月の下旬か。それじゃあ予定は空けとくよ」


「よろしくお願いします。それと今後報告があれば私達がお伝えに来ることもありますのでよろしくお願いします」


「分かりました」


「それでは……報告が済んだので、私達はこれで」


 そう言って立ち去ろうとするハリルさんとクルードさん。


「え? もうちょっとゆっくりしていても?」


「私達は密偵。何かと忙しい身なのです」


「あら。そうしたら今度はゆっくり時間がある時に来てくださいね。今回のお詫びもしたいので……」


「分かりました。それでは!」


 クルードさんがハリルさんの近くへと飛んでいく。すると、2人が合流したと同時に、2人を包むように煙が上がる。そして煙が無くなるとそこには誰もいなかった。


「ケモ耳魔法使いか……」


「ああ……そうだったな。中々にすごいキャラ設定だ」


「……ふさふさ」


「……昌。今度の休みに一緒にアニマルカフェにいくか?」


「ええ!!」


 良い返事を返して、昌姉は中断していたお掃除を再び鼻歌を歌いながら始める。


「今度から適度にいってやらないとな……」


「そうだね」


 僕からもよろしくお願いしたい。これから頻繁に会う事になるだろう獣人の為にも……と思うのであった。

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