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59話 エーテル

前回のあらすじ「オークを狩った」

―「ビシャータテア王国・西の洞窟」―


「全員倒したのよね?」


 飛んでいた泉たちが地面近くまで降りてきて聞いてくる。僕は辺りを見回す……そこにあるのはジャイアントオークの死体。ポーションを使っても回復は不可能なほどの損傷をしている。


「大丈夫みたい。でも、念のため警戒は怠らないで」


「分かった」


「オーク討伐完了ッスね!」


―クエスト「不死身のジャイアントオークの群れを退治せよ!」クリア!―

報酬:壊れた鉄製の武具、アイテムボックス(中にポーションあり)、オークの毛皮


「なんとか……倒したな……」


「だ、大丈夫ですか……」


「泉の言う通り大丈夫なのです?」


 あまりにもクタクタの姿で、膝に手を当て、息を整えているカーターに、泉とレイスが心配して思わず声を掛けてしまう。


「ふう~……ああ。やっぱり体力にも精神的にもくるなこの技は」


「今の技は?」


「ああ。フレア・カラミティって言ってな、フランベルジュっていう火属性上級魔法にフライトを合わせた技って所だな。最初に試した時に辺りがメチャクチャになってシーエに、これは一種の災害ですね。って言われてこの技名にしたんだ」


 確かに、ジャイアントオークだけじゃなく岩壁に地面が傷だらけだ。一部は溶けている部分もある。


「確かにこれは……」


「ただ実戦はまだだったからな。今回丁度いいと思ってな」


「僕の実力を測らなくていいの?」


「攻撃を紙一重で交わして、獣王撃でどんな敵をも木端微塵にする。それが分かったから問題ない」


 そう言って、カーターとレイスが壁に叩きつけられたジャイアントオークを見る。


「……障害物が存在する場所なら大惨事になる危険な技ってことで報告しとくわ」


「……他に新しい魔法を考えとくよ」


「変な魔法……考えるなよ?」


「危なくない技を考えとくから……」


 彗星に獣王撃……どれもこれも殺傷能力が高いからな。かといって、雷刃は少し弱いかもしれないし……スタンガン替わりには出来そうだけど。


「……さてと、調べてみるか」


「うん」


 気を取り直して、カーターが休憩をして動けるようになった所で、まず全員でジャイアントオークの死骸から指輪を取り外していく。


「全てのオークが持っているのか? 参ったなこりゃ……」


「12個ものアイテムボックスをオークに支給……アイテムボックスって高価なんですよね?」


「そうね。気軽にポンと渡せるものでは無いわね」


「中身は何が入ってるッス?」


 サイズがオーク用のためかなり大きいアイテムボックス。指に嵌める事は出来ないので手に持って、指輪から道具を出していく。


「ポーションばっかりだな。人に使って問題無い物かは分からないが」


「他の指輪もポーションだけですね……」


「見事にポーションばかりなのです」


 皆が指輪から入っている道具を取り出していく、僕も次のジャイアントオーク……最後に壁に叩きつけられた奴から指輪を外して中身を取り出していく。


「あ。食べ物に水発見……後はゴミかな?」


「見せてくれ」


 カーターとサキがメモを取り出してそれらを確認する。


「間違いない。奪われたものだな」


「数が合わないわね。まあ、当たり前か」


「あれ? これなんだろう?」


 奪われた食料品の中に畳み込まれた紙がある。僕はそれを手に取り広げる。


「地図……この洞窟のかな?」


「なになに見せて」


 サキが僕の持った地図を覗いてくる。


「全部確認終わったよ~!」


「残りは全部ポーションだけだったッス」


「良く死骸から指輪を取り外せたね」


「うん。頑張った。ガンバッタ……」


 泉がドンヨリとした目になる。まあ、魔獣とは言え死骸から追い剝ぎするには抵抗あるだろう。しかも顔は獣でも人型だし。


「4人ともこっちに来てくれ」


 そんな事を思っていると、カーターに呼ばれたのでそちらへと向かう。


「ここってオークたちが最初にいた所?」


「ああ。この地図に印が付いていて、この辺りだと思うんだが…」


「ただの岩壁……だよね」


「……そうなんだよな」


「それに何かをするにも道具とか無かったのです」


「……確か」


「薫兄?」


 オークたちを最初に発見した所を思い出す。確かリーダー格のオークがいたのは……。


「ここ」


「なにも無いッスよ?」


「そうだな……いや。この岩、壁の物と少し違うな。しかしかなりでかいな……」


「レイス。虚空を使ってみよう」


「はいなのです」


 少し様子の違う岩に手をかざす。


「虚空」


 見た目は特に変化は無い。僕は横から岩に手を当てて力を入れてみる。すると横に岩が動いていく。


「動いた!」


 僕はそのままさらに横に動かしていく。


「奥があるわね」


「中は……暗いな」


「それなら……」


 泉がスマホを取り出して中を照らす。


「広!?」


「何なんッスかこれ!?」


「これは……サキ。ライト使うぞ」


「ええ」


 カーターたちが更に魔法で全体を照らす。光によって照らし出された中には地下なのに滝があって、そこから川となって幾つかの支流となって流れている。その支流の間にある地面には同じ植物が大量に生えており、その植物の葉っぱからキラキラとした物が空へと舞い上がっていく。あっちの世界ではまず見られないこの不思議で神秘的なな空間に僕は目を奪われていた。


「すっごーい……写真撮って、後であげてもいいかな?」


「多分大丈夫だと思うけど……とりあえず僕も写真撮っておこう。この感動は絶対に小説に反映させる」


「うちも写るッス! レイスも!」


「は、はいなのです」


 取材用に写真を撮り、そしてお互いに写真を撮り合って記念としても残しておく。


「これって……」


「間違いない。エーテルだ。しかもこんなに……」


「これがエーテル?」


「間違い無いのです。エーテルは成長する際に大量の魔力を溜め込むのですが余分なものは空気中に逃がすため、こんな風に周囲がキラキラ光るそうです」


「あれ? カーターさんあれって……」


 写真を撮っていた泉が何かに気付いて指を差す。その方向を見ると鍬にスコップなどの農耕具が置かれていた。


「これって、エーテルを栽培していた?」


「はは……まさか……と言いたいところだが、喋るオークも見たしな……もう否定が出来ない」


「そうね……」


「どうする?」


「馬車に通信魔道具を用意してある。直ぐに連絡しよう」


「分かった」


 僕たちはそこを後にして一先ず洞窟の外へと引き返すのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―およそ3時間後―


「こ、これは……」


「スゲーー!」


 通信魔道具で連絡を取り、シーエさん率いる追加の部隊がやってきた。


「採り尽くしたと言われていたエーテルがこんなに……しかも魔獣が栽培なんて……」


「喋るオークもいたんだよな?」


「はい。しかも僕たちが戦闘する際に、僕たちを個々に分断して各個撃破を仕掛けてくるような知性もありました。もし映像とか必要なら後で見れますよ」


「へ? 薫兄、いつの間に録画なんてしてたの?」


「録画っていうのは動いた絵を撮る物ですよね?」


「でも、薫そんな物持って無かったはずだけど?」


「この腕時計。これ隠しカメラ機能があって音声も拾ってくれるんだ。あと、この帯にも小型のカメラが……」


「か、薫兄いつの間にそんな盗撮マニアに……」


「違うよ! ただこの前のワイバーンとの戦った後、その時のネタを元に小説に書こうとした時に記録映像があったらいいなあと思って、通販で購入しといただけ! 腕時計はそう見えるかもしれないけど、こっちの帯のカメラはアクションカメラっていうので動画の撮影とかに使われているぐらい有名なカメラだからね!?」


「調査とか取り調べに便利だな。それ」


「こんなのはこの世界には無いですからね」


 シーエさんとカーターが興味を示している…しかしこれも充電が必要なため難しいだろう。


「とにかく。後で王様に報告する際に便利だと思うよ」


「そうだな。そうしたら後とは言わずすぐにでも報告しにいくか」


「そうして下さい。ここは私達の方で調査します。それと戻った際にギルドの職員、王宮からスメルツとザックスそれに野営の装備をもった騎士団を寄こしてください」


「分かったわ」


「それじゃあ、4人とも戻るとする……」


「あの……1つお願いが……」


 泉が恐る恐る手を上げる。


「どうかしましたか泉さん?」


「エーテルを分けてもらっていいですか? 染色に使ってみたくて……量は少しでいいので……」


「ああ。そういえば泉の目的はそうだったな。いいかシーエ?」


「ええ、もちろん」


「ありがとうございます! それじゃあ回収します! フィーロ行くよ!」


「はいッス!」


 泉はそう言って、フィーロと一緒に育てられたエーテルの畑に入っていった。


「ねえ? 僕も要望を言っていいかな?」


「薫もか?」


「うん。僕はエーテルじゃなくてオークのアイテムボックスを2つ貰えるかなって」


「うん? 王様への許可が必要だと思うが……シーエ、どうだ?」


「大丈夫だと思いますよ。薫さんへの褒美の件で頭を悩ませていたはずでしょうし……でも」


「何に使うんだぜ薫?」


 シーエさんの代わりに、マーバからアイテムボックスの使用理由を尋ねられる。アイテムボックスは1つでも大変高額で軍事用としても利用できる魔道具である。何となくの理由で渡すに訳にはいかないのだろう。


「1つは昌姉へのお土産。アイテムボックス欲しがってたからさ。もう1つは直哉に。これがあれば魔導工学の研究に役立つと思うんだ」


「あ~なるほどね」


「それなら問題はありません。後で王様へ許可を取っときましょう」


「それなら俺も進言しておく。すぐには無理だろうが……まあ、問題は無いだろう」


「ありがとう!」


「終わったよ~」


 エーテルを採り終えた泉たちが帰ってきた。その後、僕たちは王様への報告のために馬車に戻るのだった。


「……そういえば着替えたい」


「人が沢山だから無理だと思うよ?」


「あうっ……」


「というよりこの写真。コスプレした女性が撮っている風にしか見えないッスね。しかも薫のこれポーズが決まってるッスよ」


「うう……はしゃぎ過ぎた」

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