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5話 誰も知らない賢者

前回のあらすじ「カレー美味しい」

―夕食後「ビシャータテア王国・ベルトリア城壁 食堂」― 


 怒涛の夕食が終わり食堂の片付けを済ませる。人数も人数なので片付けには大分時間がかかり腕時計を見ると針は10時を指していた。


「片付け終了したぞ」


「こちらも終わりました」


「僕も終わったよ。これで片付け終了だね。皆さんお疲れ様でした」


 笑顔で皆に労いの言葉をかける。


「笑顔が眩しいな…。男だけど」


「ああ。そうだな」


「……そろそろ皆馴れてくれないかな!?」


「「「「「無理!!」」」」」


「本当に無駄に息ぴったしだね!!」


 すごく息ぴったしだった。事前に打ち合わせしたじゃないかと思うぐらいだった。


「無理に決まっているぜ。女の私達が可憐だと思うぐらいだしな」 


「エプロンして料理している姿とか食器を洗っている姿とか若奥様って感じだったわね」


「だよな。配膳待っている奴等、薫のことずっと見ていたもんな」


 ねえ~~。とサキとマーバがお互いの顔を向き合わせて言う。あっちの世界でもだが、こっちの世界でも、僕は男に見えないという評価に対して泣きたくなった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それからすぐ「ビシャータテア王国・ベルトリア城壁 執務室」―


 片付けを終えた後、僕たちは執務室に集まる。これからどうするかの打ち合わせと魔法陣のことで分かったことなどを話すために。


「改めてですが。我が隊のために様々なご助力ありがとうございます」


 そう言って、シーエさんが頭を下げる。そこまでしなくていいのだが、隊長としての立場がある以上、とやかく言うのは無粋だろう。


「いえいえ」


「異世界の料理凄かったぜ!!ありがとうな!!」


「ふふ。どういたしまして」


「美味すぎて涙が出るって、自分自身ビックリしたけどな」


「そうね」


「私も久しぶりに食べることの楽しみというものを感じましたよ」


「あの卵は反則だったな…」


 他の騎士さんたちには内緒で、調理した人たちだけ密かに作っていた半熟卵をカレーにトッピングしてあげた。まあ、お預けを食らいながらも頑張ったご褒美というところだ。そんなこんなで夕食を振り返ったところで、僕が気づいたことの説明を始める。


「それじゃあ。話を始めるけど……何から話せばいいかな?」


「薫に任せるわ」


 サキの一言に全員が頷く。皆も同じ意見らしい。


「分かった。ただ説明をしていくけど、あくまで仮説。推測であって証拠も何もないからそこは踏まえていてね」


 皆が真剣な眼差しになり、聴く姿勢になったところで話を始める。


「まず僕たちの世界に転移した人たちが帰ってこない理由だけど、その多くが変な場所に出て来たことが原因だと思うんだ」


「変な場所というのは?」


「例えば海の上とか火口の近く、はたまた極寒の地域とか、遥か上空……とにかく、人が住むには過酷過ぎる場所。そんなところに出てきたんだと思う。異世界の何処に出るかなんて誰も知らないんでしょ?」


「でも、薫の家に魔法陣があったわ」


「その魔法陣が出来る前という意味で考えて欲しい。どうかな?」


「私たちの世界にもそのような場所がありますし、研究者達もその説を唱えている方々もいますから納得のいく理由ですね」


「僕たちが住む地球の陸地の割合はおよそ30%ぐらい、さらに人が住める場所とかなるとさらに低くなると思うよ。運よく陸地でも、上空とかに出てきたら最悪だし」


「上空か……死ぬ前に何回人生を振り返ることになるんだろうな」


「飛べる魔法があればいいんだけど……成功したっていう話は無いわね」


「……話を戻しましょうか。ゲートで出てくる場所を点として考えるとそれが遥か空の彼方だったり海底だったり洞窟の奥、そういう所に出てきてもおかしくないということですね。では、帰ってきた者達はどう考えていますか?」


 シーエさんが聞いてくる。僕はスマホからアルバムを開く。そこには小説を書くために撮った様々な写真がある。そしてこの説明に向いている写真を表示する。


「なんだこれ!!」


「スマートフォンっていって、あっちの世界の通信機器だよ。それだけではなくこんな風に写真を撮ったり色々出来るんだ。まあ……それはあっちの世界での話でこっちでは写真を撮ったり見るだけの道具になっているけど」


「すごいぜ。全部色付けされているぜ」


「しかも、このサイズで通信が出来るというのは……私たちの世界にもありますがこれよりかなり大きい物になりますよ」


「俺達も最初に見せられた時、同じ反応だったよ」


「あっという間に出来上がったのよね」  


 どうやらこっちの世界では「ドローイン」という魔法がカメラに当たるらしいが白黒だけで少しだけ時間もかかるらしい。


「それで、これを見てもらいながら説明するね」


 僕が以前に世界の伝承を調べた際に撮った写真を交えながら説明する。


「この写真のように恐らく妖怪、化け物と間違えられたんだと思う。僕たちの世界は文明を築いている生物は人しかいない。だからエルフやドワーフそして精霊などの人たちはあちらではかなり目立つと思うんだ。で、昔話、伝承や都市伝説で精霊や悪魔、妖怪、神などがでてくるんだけど、それは目の前で魔法なんかを使った異世界人たちをそれと勘違いしたんだと思う。そして中にはそれが自分たちに危害を加える異端な者として攻撃したんだと思う。多分言葉が通じなかっただろうしね」


 最初に精霊であるサキを見た時の自分を思い出す。きっと僕以外の人間でも驚くだろう。そして今より科学が発展しておらず神学が盛んだった頃は未知の物に対して今より畏怖したり畏敬したりしていただろう。会った後はお互いの対応次第だが少なくとも言葉が通じなければ意志疎通が出来ずにいざこざになったのではないかと考えた。


「え? でも言葉通じてるんだけど…」


「なるほど。やはりそうですか」


「シーエは納得したのかよ?」


「ええ。かのじ……彼の口の動きを見ているとかなり不自然ですしね」


 ねえ。シーエさん? 今、僕の事を彼女って言おうとしなかった? とりあえずツッコミを抑えて話を続けるけど……。


「不自然って何だ?」


「口で説明するより見てもらった方が早いかな。シーエさん。少し協力してもらっていいですか」


 シーエさんが僕のところに来て耳元でそっと話す。その内容に承諾してカーターたちが見やすいような位置に並んで立つ。そして……シーエさんと同じ言葉を発する。


「「おはようございます」」


 そして、そのまま別の言葉を言う。


「「おやすみなさい」」


 暫く沈黙が流れる。


「本当だ……。口の動きが全然違う」


「ああ。だが2人が言ったことは間違いなく同じだった」


「でも、口の動きは全然違ってたぜ?」


 そう。僕がカーターたちと話してた時にも違和感があった。発してる言葉と口の動きがあっておらず、まるで海外映画の吹替えみたいだったのだ。


「どうなってるの?」


 僕は説明するためにこの城壁と僕の蔵にあった2つの異世界の門(ニューゲート)の写真を見せる。


「多分、魔法陣に工夫されているんだと思う。その証拠にこの魔法陣ここら辺はそっくりなんだ」


 かなり複雑な図形で何かに例えられないため2つの写真を交互に見せて指さして似ている個所を差す。


「なるほど。その他の個所に意志疎通関係の魔法陣が組み合わさっているということじゃないかという事ですね。」


「うん。魔法陣ってそういった物あるかな?」


「聞いたことはありません。しかし無いとも言えません。魔法陣には異世界に行く以外にも強力な魔法を使うための陣だったり、罠の陣、味方または敵に何かしらの効果を付与する陣もありますから」


「となると、後でカシーとワブーに魔法陣を調べてもらうか」


「カシーとワブーって?」


「さっき話していた変人賢者だ。王宮直属の研究施設に所属していて様々なことに精通している天才だ。主には魔法陣の研究、武器や防具の開発をしているんだ」


「魔法陣の仕組みってあらかた調べ終わっているんじゃなかったけ?車の中で聞いたはずなんだけど?」


「仕組みはな。だから基礎の魔法陣に色々足していくことで特定間を移動できる魔法陣だったり、炎の呪文だけを強化する魔法陣とか色々ある。俺自身も良く使う魔法陣は手帳に記して持ち歩いているしな。だから魔法陣の書き方でいくらでも違う効果をもつ魔法が作れるんだ。それこそ魔法陣に使う文字一文字違うだけで別の物になる」


「じゃあ、今はその組み合わせを研究しているってこと?」


「その通り。俺が良く使う魔法陣の中には2人が作ったものもあるしな。それだからまだまだ可能性がある分野ともいえる」


「異世界の門の研究もしていたわ。まあ、国の重要人物だから実験許可は下りなかったけど。でも、今回の件で絶対に懇願するでしょうね。あの2人が2回も成功させたんだから問題ないはず。だから研究させろ!! ってね」


 サキが笑って言う。賢者と呼ばれるような二人に先に異世界行きを成功させたことを自慢したいのだろう。


「むしろ、王様の方から進んで許可を出すでしょうね。国の発展のチャンスを見逃すわけないはずですし。薫さんが協力的なのも後押しになるでしょう」


 国の発展に関わる今回の出来事。それはこっちの世界だけではなく僕たちの世界にも同じことが言えるだろう。……今一度、この出会いがもたらす影響について考える必要がありそうだ。そして、カシーとワブーという賢者と呼ばれる2人とは長い付き合いになりそうだ。


「でもよ。カーターの血筋って関係ないのかよ? 第一、成功した魔法陣ってことで他にもあの魔法陣を使ったやつは大勢いるんだぜ?」


 もっともである。だからあることを聞かないといけない。


「ここ数十年の間に使っている人はいるかな?」


「いや。いないと思うぞ。最初の成功以降、全部失敗に終わってな……そのせいで各国の魔法使いが激減する事態が起きて大騒ぎになったしな」


「やっぱり……。蔵の魔法陣だけど恐らく結構最近だと思う。蔵の床の材料なんだけどコンクリートって言って日本では明治以降およそ二百年前から使われるようになったんだ。さらに一般に広まったのはここ数十年ぐらいなんだ」


 セメント自体は古くローマの頃から使用されている。しかし日本だと明治時代頃に富岡製糸場とかの建造物に使われ始め、一般的に広まったのは戦後といわれてる。それだからあの蔵に使われてるコンクリートはそんなに古くないはずだ。


「どういうことだぜ?」


「移動の魔法陣は2つで1つ。そしてこれは異世界の門(ニューゲート)も同じなんだと思う。だからカーターの持つ魔法陣と蔵の魔法陣はセットで始めて1つの魔法ってこと。そして異世界の人間がここ数十年の間に描いた。消えないようにコンクリートに彫り魔石を流し込んで……」


 推測の域だが、でもかなりいい線をいっていると思う。そうなると僕とあの魔法陣の関係は……。


「なるほど。となるとその家の持ち主である薫さんの関係者……恐らく血縁者が描いたおかげで安定して行き来が出来るようになったということですね」


「「「え?」」」


「やっぱりそうなるよね。まさか赤の他人が蔵の床に彫りましたなんて考えられないもん」


「急展開過ぎて分からないわ」


「えーと。薫って異世界人とのハーフってことか??」


 皆が混乱する。でもそう考えるとしっくりとくる。先祖に異世界から来た人がいてその人がこの魔法陣を描いた。その人は帰らずにそのままこちらに留まった。子孫には魔法陣の事を内緒にして。


「分からない。家族の誰からも聞いたことが無いよ」


「……ほんっっっとうに、カシー達大興奮するわね」


「異世界がついに!! って言って嬉々してやるぜ。絶対」


「魔石を流し込む……。つまり月の雫(ムーン・ティアー)を作れることからして賢者は間違いない」


「魔石なんて見たことないから間違いないと思う。それにそんな物があったら利用していると思うし」


「賢者は国の発展、維持には欠かせないからな~~……月の雫なんて物を作れる奴がいると聞いたら国がほっとかないし、第一急にいなくなったら大騒ぎになるぜ」


「マーバの言った通りです。しかしそのような話は聞いたことがありません」


「秘密にしてました。じゃダメなの?」


「全くあり得ない訳では無いが、それは少し難しいかな」


「それって、国が持つ諜報機関が他国の情報を念入りに収集して一般市民は知らなくてもこちらは知っているとか?」


 こっちのセキュリティがどれほどの物か分からないが、聞いていた話の中で、種族関係なくどの国にでも住めるという事だったので、他国のスパイがいてもおかしくないだろう。


「それもあります。ただ賢者は国のアピールという仕事があるのです。その国に他の魔法使いを呼び込み住まわせるためにも」


「なるほど」


 つまり賢者はその国の広告塔でもあるわけか。 


「後それに付け加えるんだけどさ。ただでさえ魔法使いは少ないから、引っ張りだこだし何だかんだで隠すのは難しいぜ」


 でも、その賢者はどこの国にも属しておらず、しかも賢者と呼ばれるほどの魔法使いであるはずなのに誰にも気づかれなかった人物となる。


「……かなり謎の人物だね。でもその人は僕たちの世界で何をしようとしたんだろう?」


「謎……ね」


「そうだな」


「どうしてだぜ?単にあっちの居心地が良くて永住したとかじゃダメなのか?」


「それも一理あります。ただ、月の雫を使ってまで作り上げた魔法陣がある以上帰る意思がなかったとは一概に無いといえません」


「それに曾祖父達との関係があるのかどうかもだな。曾祖父の異世界行きはだいたい100年ぐらいだから直接あの魔法陣とは関係ないかもしれないが、もしかしたらな……。」


「謎が増えたぜ……。」


 これらは本当に偶然なのかも知れない。たまたま誰にも知られなかった賢者がこちらの世界に来て、カーターの曾祖父が使った魔法陣とたまたま繋がる魔法陣を、月の雫という貴重な品も使って作った。


 しかし、気が変わって、こちらには帰らずそのまま地球で一生を過ごし、さらにその数十年後に異世界の門を使ってカーターがやってきただけ……。つまり何の意図もなく、たまたま個々が組み合わさって今回の結果を生み出した。それこそコインを何百回も振って全て表のように可能性は何分の1としてはあるのだから、可能性はかなり低いが全く無いともいいきれないはずだ。でも……僕にはそう思えなかった。


 それは小説を書く身だからそう思ったのかも知れない。何故ならその方が内容としては面白いのだから。物語が進むに連れて謎が解けてはまた新たな謎が表れて最後には全てが解けて終わりを迎えるというのは展開的に面白い。それに僕がここに来たのは小説のネタ探しという取材も兼ねている。だからそうであって欲しいという僕の願いなのかも知れない。でもそれだけじゃない何かをこの時、僕は感じていた。


「誰も知らない賢者か……」


 そして、そう僕は呟くのだった。

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