57話 はじめての洞窟探索
前回のあらすじ「異世界で缶コーヒー」
―「西の洞窟・入口付近より少し奥」―
「洞窟内なのに明るいね」
入り口付近は暗いため、てっきり松明とか魔法で周囲を照らしながら進むものだと思っていたが、しばらく奥に進むと壁が光っていた。
「ここで作業をするために設置した魔石が光ってるんだ」
「あれ、魔石って回収しないの? 何回も利用できるんだよね?」
「このぐらいの魔石は多く出回ってるし、それにこんな大きい洞窟には魔獣がいる可能性が高くなる。わざわざ奥まで入って得るものがないんだ」
「なるほど」
「もしかして入り口付近が暗かったのって持っていかれたのかな? そんな離れてないし」
「もしかしたらね。私達も最初の頃の洞窟の状態なんて知らないから、なんとも言えないわ」
「話し中すまない。皆、気を付けろ。前から敵が来てる」
カーターの声に反応して前に注意を向ける。複数の何かが走って近づいている。手には木製の棍棒、緑色の肌に二足歩行……それでいて、かわいらしいマスコットみたいな姿。
「か、かわいい!」
「ゴブリンね。泉。見た目はかわいくても凶暴だから気を付けなさい」
「ゴギャアアア!」
口を開けて大声で叫びながら走ってくる。しかしそれでもどこかかわいらしい。
「氷壁」
とりあえず、洞窟内の道を塞ぐように壁を作る。勢いよく突進した何体かが壁にぶつかる音が洞窟内に響く。
「泉、フィーロ! 攻撃魔法いくわよ!」
「りょーかい! スプレッド・アイスランス!」
攻撃用に氷壁の上をあらかじめ開けていたので、そこから向こう側に尖った氷の槍が敵に目掛けて飛んでいく。
「グギャアアア~!!」
氷の槍が敵に突き刺さったのだろうゴブリンの悲鳴が聞こえる。すると壁の上をジャンプで通り抜けて、3体がこっちに近づいてくる。
「鵺、黒刀」
「フレイムソード!」
僕は鵺を刀に変えて、カーターと一緒にゴブリンへ切りにかかる。
「ギィ!!」
ゴブリンが棍棒を振り上げる。僕はそれを気にせずさらにスピードを上げて、そのままゴブリンの横を通り抜ける際に、その胴体を切り抜く。
「ギャハ!!」
体を真っ二つにされたゴブリンはその場に崩れた。そして近づいていた残りの2体を見るとカーターによって倒されていた。
「凄いッスね……」
「お見事なのです!!」
「やるわね!」
「剣道は教えてもらっていたから竹刀とかは扱ったことはあるけど、真剣は始めてだから良かった……のかな?」
ゴブリンの真っ二つになった死体を見る。
「薫兄よく見れるね」
「うん……」
泉は死骸を見ないように目を逸らしていた。普通はそうだ……僕は自分でも驚くほど冷静に死体を見ることが出来る。あのベルトリア城壁の戦いの時と同じくらいに。
「薫。大丈夫か?」
カーターに声を掛けられてそちらを向く。
「大丈夫だよ。こんな風に冷静にいられるのに驚いているだけ……」
「そういえば薫と泉は大きい生物を仕留めるとかしたこと無いんッスよね?」
「うん。だから私は死体とかは直視できないかな……この前のワイバーンも目を逸らしていたし」
「普通は泉のように目を逸らすよ……僕が異常なだけ。ゾンビゲームとかそういうのをやりすぎかな……?」
「泉やフィーロがやっている所を見たのですが確かにリアルだったのです……でも」
「こっちは血の臭いとか感触とか全ての感覚で味わうッスから、それだけっていうのは……」
「……だよね」
そうだ。僕はゴブリンを切った時それが普通と思った。ゲームみたいにボタンを押すとかの作業じゃない、実際に僕は切るという行為をした。手にその感触も残っている。でも……。
「薫兄。大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「……無理はするなよ。この件は確かに速やかに解決したい物ではあるが無理させる気は俺には無いからな。もちろん泉もな」
「私は大丈夫です! 武器で直接攻撃している訳では無いので」
「僕も大丈夫だよ。気にしないで」
「そうか……なら進むとしよう」
とりあえず今はこれでいい。このクエストが終わった後に家で考える時間があるのだ。どうして自分がこんな事が出来るかはその時に思慮すればいい。そう僕は考えてそのまま洞窟の奥に進むのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―数十分後―
「大分、戦闘に慣れて来たかな?」
「次々にやって来るね」
「ウルフの素早い攻撃に4人が対応しているのには驚きだがな」
「武器を使って魔法を使うと細かい事も出来るって聞いていたので。それで少し工夫してみたんです」
「ゲームにあったマシンガン? という武器を参考にしたッスからね」
ワイバーン討伐の際に使ったスプレッド・アイスボールは唱えた直後にそのまますぐに発射だったのだが、ウルフを倒す時には泉の武器であるヨルムンガルドを使う事で一発ずつ連射して長時間撃つことも、何回かに分けて複数撃つということも出来るようになった。
「薫のじゅうおうげきっていうのはヤバいわね。あれ彗星よりヤバいわよ。あれ人に使ったのよね?」
「はいなのです。今のウルフ……壁に叩きつけられてぺっしゃんこになってしまったのです。この前の男性が何で死んで無いのかが不思議でしょうがないのです」
「そうなんだよね……」
「……お前がああしたんだが?」
先ほどの戦闘でウルフがかなり近くに近づいて、とっさに鵺を籠手にして噛みつきを防御、もう一方の手で獣王撃を放ち対応したのだが、その結果があまりにも悲惨過ぎて全員が目を逸らして見ることが出来ない状態になっていた。
「ミンチより酷いッス」
「……反省してます」
「行こうか」
「帰る際にこれを見ないようにしないといけないわね……」
その場を後にしてさらに奥に進む。初戦のゴブリン戦からゴブリンだけじゃなくウルフも数回襲い掛かってきた。それらと戦闘をしつつ、僕たちは洞窟の大分奥の方にやってきていた。洞窟内は結構奥まで続いていて、所々では大きく開けた空間もあった。
今までの事を振り返っていると、ふと、僕はここである疑問を歩きながら皆に聞いてみる。
「おかしくないかな?」
「何がッスか薫?」
「いや。洞窟に入って戦闘を何回か繰り返しているけど……そのジャイアントオークってこんな奥に住むの?」
「そういえばそうなのです。オークはそれこそ大食漢でなんでも食べるのです。でもこんな所じゃ食料も手に入らないし、取りに行くのも大変なのです」
「レイスの言う通りね。ゲームならボスはダンジョンの奥がセオリーだけどここは現実だもんね。それに討伐に来た人達って入口付近で倒れていたんでしょ?」
「ところどころ分からない単語があったけど確かにそうね。いくら何でも入り口から遠すぎるわ」
「……そうか。肝心な事を見落としていたな」
「カーター?」
「オークは肉食で、様々な生き物、魔獣……そして当然人も喰う」
「うん」
「瀕死になったパーティーは命からがら大怪我した状態でこの洞窟の入り口まで戻った。ただこの洞窟の地面を見てもらえれば分かるが……状態が悪い。湿気が高く付近にはコケが生えていたりして滑りやすくなっている。逃げるにしてもオーク達に追いつかれる可能性の方が高い」
「でも逃げられた」
「ああ。オークはトドメを差さず、ましてや食料ともせずにそのまま逃がした」
「そういえば魔獣の死骸も無いッスよね? オークがこの奥に進んだとしたらうちらと同じように戦って魔獣の死体がこんな風にその場に残るはずッスよ」
確かに。今ある死体は僕たちが戦って倒した死骸だけだ。もし戦ったにしても食べたにしても何かしら残るだろう。
「……荷馬車が襲われたっていうけど、その荷馬車って何を運んでいたの?」
「……食料と水よ」
「……」
その場に立ち止まり、皆が互いの顔を見合わせる。僕たちが来るまでは魔獣の死体が1つも無いキレイな洞窟内の道。そしてここまでに入り口に近い幾つかの広間があったのにオークはそこにねぐらを作っていない。どう考えても不自然である。
「ここにはいない?」
「でも、パーティーの証言では洞窟の内部から出たって言ってたわ」
「となると考えられるのは3つ」
「スケブと白衣……」
「この状況で!?」
「冗談よ。ボケて少し気を紛らわしたかっただけ。続けて」
「全くもう……続けるよ。1つ目は最初の通りここをねぐらにしている。2つ目はパーティーが入った時たまたまここを出ていくタイミングだった。そして3つ目はこの洞窟の奥で何か目的を持って行動をしている」
「2つ目は無いんじゃないッスか? もし出ていくなら入り口付近のパーティー生きているはずが無いッス。なんせ帰り際に遭遇するんッスから」
「そうだな……まあ、ギルドがパーティーを回収して俺達が来る間にここを立ち去ったか、もしくはもっと奥にいる……しかし他の魔獣の死骸が無い理由……あいつらはどうしてオークに襲われなかった? いや逆に襲う可能性があるよな?」
「ねぐらにするためにキレイにしているとかはどうですか? そうすれば死骸とか無いのも…」
「そういえば、もっと根本的な問題があるのです」
「レイス?」
「この洞窟にウルフとゴブリンが同時にいるなんてありえないのです」
「……そうだったわね。魔獣はお互い縄張り意識がある。そしてこの洞窟は基本一本道で出入り口も私達が入ってきたあれだけ。棲み分けとか出来無いからお互いが洞窟内で争っているはず。しかしそれらの痕跡も全くない…そしてこいつらも奥から現れている」
「もしかして、襲ってくる魔獣ってそのオークが使役しているとか……無いよね?」
「その可能性ありだと思うよ泉」
「魔獣が他の魔獣を使役するなんてありえない! それにジャイアントオークは図体が大きいただの暴れん坊でそんな頭脳は無い! ……っていうのが普通なんだがここまでくるとな。この前のワイバーンみたいな例外か?」
「そうかもしれないわね。しかも複数体」
「……魔法も使ってくるか?」
「かもしれないわよ。気を付けていきましょ」
サキのその言葉に皆が頷くのだった。




