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53話 正義の味方登場!

前回のあらすじ「セクハラから始まる戦闘」

―「銀行・個室」―


「薫……ヤっちゃたのです!」


「いや! 死んで無いから!?」


 男の方を見る。鼻と目から血を勢いよく流血させて変に痙攣させている。近づいて呼吸を確認すると……うん。弱弱しいがしている。


「大丈夫! 呼吸はしているから!」


 僕は親指を立ててレイスに満面の笑みで答える。これは正当防衛……一度、痴漢を撃退の際にやり過ぎて警察に厄介になっている。流石に2度目は勘弁してほしい。


「いや大丈夫じゃないですよねこれ!?」


「『大丈夫!』って言ってよ! ちょっとイラっときてつい手加減なしで、籠手を装備した状態で殴ったけど……これは正当防衛だから……ね!! それにレイスだってやったよね!?」


 僕を助けるために剛速球の氷を相手の顔面に直撃させてた事を主張する。何か姑息な犯人が使う手段な気がするが……この際、気にしてはいけない。

 

「そ、それはそうなのですが……と、とにかく何とかしないと……」


「おい! 何だ今の音は!!」


 こちらへと足音が近づいてくる。このままでは、部屋に入られてしまうと思い、僕は急いで扉に鍵をかける。


「……か、薫?」


 どうする? 逃げる? いや、ここって出入口は廊下に続く扉だけだから確実に無理。それに仮に逃げられても、人質になった人たちが危ないし……この間にも足音が徐々に近づいてくるし……!!


「ど、どうするのです?」


 僕は気持ちを落ち着かせるために一度目を瞑る。ここはもう……覚悟を決めるしかない。僕はアイテムボックスから例の装備を取り出す。


「それって!?」


「レイス。ちょっとあっち向いてて……着替えるから」


 レイスが壁側を向いた所で、僕は今着ている服を急いで脱ぐ。


「……こんな形で着るなんて」


 激しい運動しても常に快適な状態を保つ魔法が施されたフルールで出来た長襦袢に、防御力の高い素材で作られた白のハイソックスに見える足袋、そして僕の得意属性に合わせた魔石が取り付けられるようになっている青紫色の掛襟を着る。その上に防御力を高める魔法陣が施され、ザラザラとした素材だった物を滑らかにするため、かなりの特殊加工して作られたワイバーンの皮で出来た白衣。キャロットスカートみたいになっている青紫色の緋袴を着る。このハイソックス足袋と緋袴の僅かな隙間ってか僕の足が見えているんだけど……防御性は大丈夫なのかな? 最後にかなりアレンジが加えられた千早を羽織る。この千早もワイバーンの皮に地属性と水属性の魔法強化の魔法陣がさり気なくあしらわれている。あ、厚底の花草履を履くの忘れていた。


「これもつけとこう」


 おまけで渡されていたウィッグをつけて長髪にして変装する。最後に鵺に取り込んである魔石を出して各装備品に装着する。何故か置いてあった鏡で、全身を確認するとゲームで見るような巫女がそこにいた。


「ふぁ~……キレイなのです~」


「うれしくないよ……というかいつから見ていたの?」


「スカートを履く所からなのです」


「……泣きたい」


「おい! 扉を開けろ!!」


 さきほどから強く叩かれている扉の向こうから声がする。僕は最後に口元が丸見えのタヌキの仮面を付ける……狐の仮面と何が違うのか分からない。少し耳が丸いような……後は目の所が施された線でタヌキっぽく見えるような……とりあえず、これも着けておけば男とは思われないはず……。


「レイス」


「はいなのです?」


「バレるといけないから、口調と後トーンも変えるからよろしく」


「どんな風にですか?」


「それは……」


ダダダダダダ!!!!


 僕とレイスの話を遮るような銃声。扉の鍵穴周辺が穴だらけになり、その扉をブチ破って男2人が入ってくる。


「動くな……!?」


「なんだこいつらは?」


 僕とレイスを見て男たちは困惑している。


「レイスいくぞ……水連弾!!」


 水の弾が勢いよく男たちに何発もぶつかり廊下へと弾き飛ばされた。僕は念の為に再度鉄壁を発動してから廊下に出る。廊下には左に1人。右に2人が銃を構えて立っていた。


「テメェ! 何しやがった!」


「うるさい……呪縛」


 話しかけてきた左側の男のライフル銃に向けて呪縛を放つ。


「うお!!」


 男が重さに耐えかねてライフル銃を落とす。そのまま男に猛スピードで近づき、刃を落とした刀状の鵺で切りつける。


「ぐは!!」


「消えろ! 水連弾!」


 二本指で相手を指し、そこから幾つもの水の弾丸が男に高速でぶつかっていく。男は勢いよく壁にぶつかり、その壁にもたれたままその場に崩れた。


「な! なんだこいつは!?」


「ば、化け物だ!!」


 さきほど扉で吹き飛ばした奴等も含めた男たちが僕たちを撃とうと銃を構える。


「氷壁」


 相手が発砲する前に厚い氷の壁を僕たちの前に出す。直後に男たち撃ち始めて壁を壊そうとするが氷の壁は壊れる気配が無い。


―水属性魔法「氷壁」を覚えた!―

効果:氷の壁を目の前に出現させます。かなり堅いです。


「な、なんだよこれ……」


「愚か……実に愚かだな……。この妾に対してそのような陳腐な攻撃しか出来ないとはな……攻撃とはこうやるのだ……雷撃!」


 男たちの上から雷が落ちる。男たちは悲鳴を上げる事も出来ずに体から煙を出しながら倒れてしまった。ふと、後ろから音がするので振り向くと、壁にもたれていた男がこっちを見ていた。


「ひぃ!」


「運の悪い男だな……さっきので気絶しておれば妖狸であるこの妾にいたぶられずに済んだのにな……」


「た、たすけ……!」


「断る! 喰らえ……雷撃!!」


 そして残った男にも雷を落とし鎮圧する。とりあえず今いるのはこれで全部のはず……というか。


「……生きているよね?」


 確認すると息はしているので大丈夫……だろう。


「薫……」


「うん?」


「わらわって……?」


「とにかく僕って印象を残さないためにも高飛車な女タヌキ妖怪を演じるからよろしく……」


「目に生気が無いのですよ……!?」


 それは新たな黒歴史そして犯罪歴を作成中なんだもん。気分は暗くなるよ……。でもこうなったらこのぐらいぶっ飛んだキャラ設定で勢い良くやった方がいいだろう。


「そしたらいくよ……後は3人だけのはずだから」


 さっきからの暴れてる音で相手にはバレバレだろう。でもやるしかない。僕は人質たちを助けるために静かになった廊下を進む。この廊下は銀行員が作業するバックヤードから繋がっていて給湯室や休憩室に職員用トイレ、そして僕が襲われた個室などがあり、今人質のいる場所からは完全な死角になっている。僕は廊下の隅から人質と盗賊団の様子を見ようと立ち止まる。


「おい! そこにいるの分かっている!! 大人しく出てこい!!」


 ……足音で気付かれたかな。


「(レイス。僕の体を盾にするように来て。銃弾でケガ……最悪死ぬ可能性もあるからさ)」


「(……分かったのです)」


 僕はレイスと小声で打ち合わせし、威風堂々とした様子で全員の前に登場する。


「な?」


「どうした? お前らの言われた通り出て来たのだが?」


 周囲を確認する。正面入り口付近にリーダー格の男そして少し離れた所に、人質にそれを見張る男が2人……。


「な、なんだこいつ?」


「ふむ? そうか……この格好は人間共から見れば奇異に見えるのか……」


 さっきのキャラ設定を印象付けるための演技をする。


「何を言っているんだ!!」


「おい!」


 リーダー格の男が銃を向けてこちらに話しかけてくる。


「下手なマネをしてみろ。この銃でお前を撃ち殺すぞ」


「氷弾」


 僕は二本の指をリーダ格の男に向けて、そこから野球ボールサイズの氷を放つ。


「なっ!!」


 リーダー格の男はすかさず体を倒して避ける。


「てめぇ!」


「氷連弾」


 今度は氷の連弾を見張りの男たちに放つ。男たちは直ぐにかがんで避けたことで、氷の弾は後ろの壁にぶつかり砕ける。僕はすかさず最短距離で見張りの男たちに近づこうと、デスクの上に飛び乗り、そのまま窓口の方へと走る。花草履に加工された速度上昇効果のお陰で、思った以上に速く移動できる。


「こ……!」


 かがんだ状態で銃をかまえた男たちの上を飛び込え、反対側に着地する。何か言おうとしているが……最後まで聞くつもりはない。


「鵺。黒刀」


 鵺を刀状にする。そして着地した時の勢いを利用して男たちに近づき刀を振り抜く。


「ぐは!!」


 顔に向けて振り抜かれた刀……刃は落としているので切る事は出来ない。が、ほぼ鉄の棒でぶん殴られたのと変わらないので、刀が顔面にぶつかった男は鼻から血を流して倒れる。もう1人の男も慌てて体勢を直して、こちらに銃を構えようとするが遅い。


「氷連弾!」


 さっきは外したがこの近距離なら外さない。そのまま何十発もの野球ボールサイズの氷玉が剛速球で当たる。きっと骨が何本か折れた男はその場に倒れる。残りはリーダー格の男だけ……。


「やめてーー!!!!」


 声のする方を向くと、そこには銃を男の子の頭に突き付けたリーダー格の男がいた。さっきの声はその母親が出したものだろう。


「おい! 何かしてみろ! こいつの頭をブチ抜くぞ!!」


 さっきまでの冷静沈着な感じではなく、完全にキレた状態である。


「お母さん……」


 涙を流しながら『お母さん』と子供が呼んでいる……あれだと僕の攻撃が当たってしまう。


「テメェのせいでメチャクチャなんだよ! くそ!」


「……自業自得ではないか? 悪い事をしてるのはお主たちだろう?」


「悪い事? ちげぇよ!! 楽しい事をしてるんだよ!! 強い俺らが弱い奴を踏みにじり、その弱い奴等から全てを頂くっていうゲームなんだよ!! この前ので大金を得たからパーッと遊んでやろうと思ったのによ!!」


「……くだらん」


「は?」


「くだらんな。私利私欲の為に他人の迷惑をかえりみずに暴れる大馬鹿……小者のやることよ」


 その瞬間、乾いた音と胸に衝撃が走り、僕はそのまま倒れる。


「ひぃ!」


「きゃあああ!!!」


「あ、あ……」


 人質から聞こえる驚きの声。


「きゃははは……!!!! くだらない? 人質を捉えられて何も出来ないお前に言われたくないんだよ……とりあえずシ……」


「呪縛」


「がっ!!」


 子供に向けていた銃が僕に向いたのを倒れた状態のまま確認し、すかさず男を呪縛で拘束する。


 男を呪縛で高速出来たことを確認したところで、僕は撃たれたところをさすりながら、ゆっくりと立ち上がる。服には穴など開いておらず何の変化も無い。『ワイバーンの皮って凄い!』と思いつつ、視線をリーダー格の男に向けるとその場に膝を付いたままだった。


 ちなみに、人質だった男の子は既に脱出していて、お母さんの所に走って抱き付いていた。そのお母さんは泣いている子供に対し頭を撫でて落ち着かせようとしている。僕はそれを見て安心し、最後の仕上げを始める。


「動けないだろう? なんせお主にかかる重さを変えたからな」


「う、嘘だ……。こんな事……人間が出来る訳が……」


「人間? 何を言ってるのです?」


 僕を盾にするように移動していたため目立たなかったレイスが、リーダー格の男の前に出ていき話しかける。


「はっ……?」


「何あれ?」


「小人? いや妖精……!?」


 レイスの姿を見て男だけではなく人質たちも驚きの声を漏らす。ここで考えていたセリフを言い放つ。


「人間? 妾は妖狸。誇り高き化け狸よ」


「化け狸だと? そ、そんなの……」


「妾に無礼を働き……かつ、か弱い小童を人質に取る行為……万死に値する!」


 僕は鵺を籠手にする。


「レイス……あれをやるぞ」


「了解なのです!」


 籠手に斥力の力を溜めて、それを凝縮する。


「ま、待ってくれ!! 頼む! 自首する。だから……」


「その言葉……嘘ではないな?」


「ああ……だから頼む。殺すのだけは勘弁してくれ……」


 そう言って男は銃から手を離した。


「……」


 僕は呪縛を解く。男は正面玄関に向けて走り出す。まあ、これでいいか……。


「くらえ!!」


 男は僕に向かって何かを投げつける……あれって手榴弾!?


「バーカ!! 死ね!!!!」


 手榴弾は僕たちの所に近づいていく。そして……それは轟音と共に爆発したのであった。

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