52話 繰り返される悪夢
前回のあらすじ「泉は精霊で…ガッチリ!」
―「銀行・個室」―
「薫……」
レイスが僕の名前を呼ぶ。僕の前には顔から血を流し倒れている男がいる。僕はそこで自分の左手を見る。籠手を装備したその手は赤く染まっており、その籠手を染めているのはその男の血だ……どうしてこんな事になってしまったんだろう?
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―今より3時間前「カフェひだまり・店内」―
(次のニュースです。先日、大阪で銃を持った男達が宝石店を襲撃した事件で、警察は国際犯罪組織「盗賊団ヘルメス」が関与していると発表がありました。なお……)
「盗賊団か……全く物騒だな」
「そうね。しかも自動小銃とか手榴弾とかかなり危ない武器を持っているって話よ……怖いわね」
店内のテレビでやっていたのは、巷で話題になっている盗賊団ヘルメス。軍でも使われるような銃器を使って、銀行・美術館など金目の物がある施設に強盗し、邪魔が入れば殺人も平然と行う危険な奴等である。
「じどうしょうじゅう?……それはかなり危険な武器なのですか?」
話を聞いていたシーエさんが僕たちに自動小銃について訊いてくる。シーエさんがどうしてここにいるかというと、カーターたちと同じようにお店の手伝いをしながら、この世界についての情報収集の最中である。ちなみにマーバも見えないところで一緒に仕事をしている。
「前に僕が話していた武器だよ。遠距離から鉄の弾を飛ばして相手の体を貫くっていう武器なんだ」
「うん? それって魔法じゃねーの?」
「魔法とは違って、火薬というのを使って飛ばしているそうなのです。殺傷能力が高くかなり危険らしいのです」
「物によっては連発が利くから、大量殺人とかの危険もある武器だね」
「……なるほど。確かにそれは危険そうですね」
「でも……俺としては魔石使いも同じじゃねか? 火を出したり、暴風を起こしたりなんて……危なっかしいんだが」
「マスターの仰る通り……そうなんですよね」
「でも、武器として使える魔石の所持は登録制なんだよね?」
「ええ。武器になる魔石の所持・購入は国、またはギルドの許可が要ります。ギルドでは証明書としてカードが発行されていますね。冒険者としての働き、人格の審査をギルドで受ける事で魔石を購入、所持することが出来るようになります」
「登録……そういえば、魔法使いはいいの?」
「魔法使いはそのような決まりは無いですね。変に決まりをつけると他国に取られますから」
「という訳で、お前ら2人が魔法を使うのに証明書とかいらないから安心しろよな! それよりも……じゅうはどうなんだ? アレって簡単に手に入るのか?」
「僕たちの国では害獣駆除としてのライフルとかは資格を取れば厳しい管理の下で所持できるよ。それ以外は全面禁止。使用できるのは警察や自衛隊にいる人たちだね」
「なるほど……まあ、魔獣が出ない以上そこまでの武装は必要ないですもんね。必要なら薫さんみたいに催涙スプレーやドリルスティックを所持すればいいですし……」
「いや。あれ持ち歩いていて警察に職務質問されると、変な目で見られるから基本的に持ち歩いてないよ」
「そうなのですか? でもそれだと薫さんの身に危険が………いや、確か薫さんは武道の熟練者をなぎ倒してた以上、なくても問題なさそうですね」
「ははは……」
ベルトリア城壁の変態三人組の戦闘を思い出す。今、思い返してもムカつく連中だったな……。今、ここに現われでもしたら、顔面を殴っていたかもしれない。
「こいつの心配はいらねえだろう。魔法と鵺って言う武器を持ち歩いているしな」
確かにマスターの言う通りである。持っていた防犯グッズを凌駕する武器を携帯しているのだ。その気になれば、鵺を刃を落とした剣の形にして返り討ちに出来てしまうだろう。
「薫ちゃんダメだからね?」
「やらないから!」
「でも……薫の場合、うっかり巻き込まれたりして……殺りそうだよな」
マーバ? 何か『やりそうだよな』の部分に殺意がこもっているように聞こえたんだけど?
「そんな訳……ねえとは言い切れないんだよな。こいつの場合」
「そうなのよね……変に運が悪いというか、間が悪いというか……」
「皆して変なフラグを立てないでよ!! あ!?」
ふと時計を見ると、時間は既に1時を過ぎていた。
「ゴメン。時間だから銀行に行ってくるね」
「キャッシュカードが使えなくなったんだっけ?」
「うん。スマホで調べたら汚れているだけかもしれないってことでキレイに拭いたんだけどダメだった」
「そうか。まあ、今日は比較的空いているから店の事は心配するな」
「うん。それじゃあいってくるね。レイスも来る?」
「行くのです!」
「分かった。ちょっと待っててね」
僕は素早く着替え、銀行へと行く準備を整える。
「薫ちゃん気を付けてね」
昌姉に見送られながら、僕とレイスは市内にある銀行へと出発するのであった。
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―現在「銀行・個室」―
そう。今日ここに来たのはそれが理由だった。それで車に乗って、この銀行に来たんだ。その後は……。
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―今より2時間前「銀行・窓口」―
「はい。お手続き完了です」
「ありがとうございます」
無事に手続きが終わった。後はこれで帰るだけだな。
ウー!! ウーー!!
何か外からパトカーのサイレンの音がずっとしていてその音が近づいている気がするような……何か事件があったのかな?
ガッシャーン!!!
帰るために玄関に行こうとしたらその玄関にワゴン車が突っ込んできた。慌てて僕は身を守るように壁になるようなところに隠れる。外からはさっきまでずっと鳴っていたパトカーのサイレンがよりハッキリ聞こえる。すると車の中から顔をバンダナやマスクなどで隠した男たちが出てくる……その手に重火器を携えて。
ババババババッ!!!
すると、男たちの1人が上に向けて銃を乱射する。
「きゃあーー!!」
「お前等!! 変なマネをしてみろ!! こいつで容赦なく撃ち抜くぞ!!」
「隠れている奴は大人しく出てこい。いいかこれは警告だ。もし1人でもいたら誰か1人を撃ち殺す」
皆、恐る恐る男たちの言う事を聞く。僕も言われた通りに出ていく。
「こっちに来い!!」
他の場所を探していた男たちが店員を連れてやってくる。
「こ、殺さないでくれ~!!」
「うるせえ!」
そう言って、男は店員の足を拳銃で容赦なく撃ち抜く。
「ああぁぁーーー!!!!」
撃たれた男性が悲鳴を挙げ、それを見ていた女性たちが体を震わせている。
「お前等さっさと集まれ!! 殺されてぇのか!!」
僕たちは一ヶ所に集められる。撃たれた男性もここまで引っ張ってこられ、その周りに銃を持った男3人が立つ。
「無駄な抵抗は止めて大人しく投降しろ!!」
外から声が聞こえる。ここからワゴン車が邪魔で見えないが警官の声だろう。しかし、1人の男が玄関に向けて発砲をする。
「うるせぇ! こっちは人質がいるんだぞ!! いいか!! 替わりの逃走車を用意しろ!! 指示に従わなければどうなるか分かってるよな!?」
そう言って、男がこちら側を向く。
「おい! お前等はこいつらを見張れ! 他の奴等は店内を確認して他に誰かいないか確認しろ。後は金目の物があればかき集めとけ!」
男たちは返事をすると、各々散らばっていく……全員で8人か…。
「まさか、警察に見つかるとは…」
「ああ。で、この後はどうしますボス?」
「今から考える。どうせ奴等の用意する車なんて小細工されているだろうしな。奴等も増援が来るまで下手なマネはしねえだろう」
口をマスクで隠し銃を発砲していたこの男がリーダーらしい。周りを見ると他の銀行の従業員やお客さん……合わせて20人ってところだろう。中には小さい子を連れた子連れの女性もいる。
「おい。何キョロキョロしている」
「ご、ごめんなさい!」
僕はその後、変な動きをしないでジッとする。ふとコートの中にいるレイスがポケットから顔を出していて不安そうに僕の方を見る。僕は黙ったまま、頷くのであった。
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―またまた現在に戻って「銀行・個室」―
それから、直ぐに増援のパトカーが来て犯人と交渉……。何とか女、子供の解放を求めたがそれを犯人グループは却下した。それで……。
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―今より10分前「銀行・窓口」―
「大丈夫ですか?」
撃たれた男性の顔が青ざめている。僕はハンカチを取り出し傷口を強く縛り止血をする。
「おい! 変なマネをするんじゃねぇ!」
見張りの男が僕に銃を突きつける。止血を終えた僕は黙って男から目を逸らさずにその手を離す。
「なんだその目は!? 女のクセによ!!」
男がライフル銃で僕を殴る。こっそり鉄壁をかけたからあまり痛くはないけど。
「ああ!! 畜生!! イライラするぜ!!」
「落ち着けよ」
「うるせぇ!」
僕を殴った男は、落ち着かせようとした仲間に対して暴言を吐き、再び僕の方を見る。そういえば、このイライラしている男だが、先ほどから僕を必要以上に見てくる気がする。すると男の口元が少し上がったように見えた。
「おい。お前立て」
ライフル銃で立ち上がるように僕に指示してくる。
「来い!」
「おい! 何をするんだ! 勝手な事は……」
同じ見張りの男が嗜める。
「かまわん。ここでドヤされても俺の気が散る」
「いいんですか?」
「言ったろう? 気が散るとな。それに1人くらい勝手な事をした奴がどうなるか見せしめが必要だ」
「へへ。ボスの許可が下りたなら遠慮なく」
「ふん。言っとくがほどほどにしとけよ」
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―今より数分前「銀行・個室」―
「きゃ!」
僕は個室のソファーに乱雑に横にされる。コートに隠れているレイスは大丈夫か心配していると、男がマウントポジションを取りコートの前を乱暴に脱がす。
「へへ。いいな。胸は無いし……色気の無い服だが顔は100点だな」
「離せ……!」
「変な抵抗してみろよな? 銃でお前を簡単に殺せるんだぞ?」
「くっ!」
……どうしよう。ここでもし下手に暴れたら人質の人に危険が及んでしまう。かといってこのままっていうのも……そう考えている間にも、男が僕の胸を掴んでくる。当然だが何も感じない。不快には思うけど。
「あん? 何も感じねえのかよ……というかブラを付けてねえし。ああ貧乳だからいらねえのか……」
女性なら怒るワードを言い放つが、僕は全然痛くも痒くも無い……が、不快である。
「離せ!!」
「うるせえ!!」
男が僕の顔を平手で数発叩く。
「女のくせに生意気なんだよ!!」
そして、男の手が下の方に移動する。
「あん? なんだこれ……ってまさか!」
男の手が僕のあそこに触れた。
「なっ!? テメェ!! 男かよ!! ちっ! 女みたいな悲鳴を出して気持ち悪いんだよ!!」
今度は男が僕の顔を殴る。でも鉄壁の効果で痛くは無い……でもイライラはする。
「ああ!! さらにイライラするぜ!! てめぇのせいでよ!!」
それはこっちのセリフだ……男が太ももに取り付けてあったガンホルダーから銃を取り出し僕の顔に向ける。
「オメエのようにイライラさせる奴はよ! この世に要らねんだ!! 死ね!!!!」
さっきから一方的に殴って怒鳴り散らして、挙句には僕がいらないか……フザケルナ?
「鵺」
僕はそう言うと、手首に着けていた鵺が形を変えて僕と男の前を遮る盾を作る。その後乾いた音が部屋に木霊する。
「なっ!?」
「鵺! 籠手!」
鵺が形を変えて僕の両手にまとわりつく。そしてそのまま男の左頭部をぶん殴る。
「ぐふぅ……」
僕の突然の反撃に男はよろめきながらも、すぐさま僕から距離を取るために離れる。
「この……!!」
男が再び銃を僕に向ける。するとコートのポケットからレイスが飛び出す。
「アイス・ボール!!」
ピンポン玉サイズの氷が男の顔面に猛スピードで直撃して再びよろける。すかさずソファ-から僕は立ち上がり、男に近づいて相手の右脇腹を抉るようなパンチを喰らわせる。
「がっ……!!」
男の顔が下を向く。すかさず僕はその下に向いた顔面に向かって渾身のアッパーを放つ。
メキメキ……ミシ……。
鼻が折れたのか、顔から勢いよく血が流血する。
「はっ!!」
そしてそのまま勢いよく、さっきまでのお返しと……今こいつが見た物を本当になにもかもキレイサッパリ忘れてくれる事を祈り、『記憶を消すにはとりあえず脳に強い衝撃を!!』という気持ちを拳に込め、思いっきり何の躊躇もせず天へと振り抜く 。きっと自分でも惚れ惚れするようなキレイなアッパーカットだったと思う。そして男はそのまま鼻や目から血を流しながら仰向けに倒れたのだった。




