51話 今日一日を振り返って
前回のあらすじ「アレックスはシスコン」
―その日の夜「王宮・執務室」王様視点―
「そうか。楽しめて良かったな」
「はい。あっちの世界は凄いです! 車や整備された車道や歩道などのお陰でより広い土地に国民が大きな家を建てる事が出来ていました。ただその分、自然には優しくないとは言っていましたが……」
「まあ。人の手が加わればそうなるわな」
「後は電子機器としてパソコンや電子レンジとかの話も出ましたよ」
パンフレットとなる物がテーブルの上に置かれる。そこには見た事の無い金属の箱の絵が鮮明な色で描かかれている。
「ご飯も美味しかったですし、衣服も色々あって楽しかったです」
「ユノ。衣服はいいだろう……」
ユノとカーターが笑っている所からしてアレックスが何か失敗したのだろう。まあ、無為に聞くことはしないが。
「そうかそうか。楽しめてなによりだ」
「後、もう少しすれば桜やツツジが咲く頃だから、今度はお父様やお母様にも名所を案内するよと薫さんに言われました」
「あら。そうしたら見てみたいですね。どんな花か気になりますし」
「そうだな。それもいいな……」
その後、アレックスとユノは少し会話をしたら部屋に戻った。慣れない世界と驚きで疲れたのだろう。すると、カシー達がメイドと一緒に部屋に入ってくる。
「ただいま戻りました王様」
「おう。どうだった?」
「凄い。の一言でしたわ」
カシーがアレックス達がいなくなったソファーに座ると、精霊であるワブーもその横に着席する。入ってきたメイドはお茶のお替わりを入れて退出していった。
「魔石無しで社会を成り立たせるなんて信じられなかったわ」
「あっちでは電気、ガスを利用して動く様々な道具を作っているらしいからな」
そう2人は言って、入れたてのお茶を飲む。興奮気味で喉が渇いていたのだろう。2人が一息ついた所で確認したいことをカーター達も含めて尋ねる。
「こっちでも応用できそうな技術はありそうか?」
「飛行機や車……後は通信、情報インフラはいけるんじゃないかとの事でした」
「そうだな。部隊を派遣するのに1台で大人数移動出来る車はいいな。アイテムボックスも使えば、荷物も大量に運べて便利そうだ」
「それ以外の分野は魔石で済む所もあるから、必要無いかもね。寧ろこっちの方が優れている。って薫に言われたわ」
「でも、魔石も魔獣から取る必要があるし、より良い魔道具を作るにはこの前のワイバーンの変異種のような魔獣を倒さないといけないし……石油やガスも多少なり検討の余地はありかも」
「社員から魔石というクリーンなエネルギーがあるから他のエネルギーはいかがなものかと意見は出たがな。他のエネルギーは周囲に悪影響をもたらすとの事だったしな」
「なるほどな。……そこは要検討だな」
「とりあえずは、車、飛行機のような移動機械。それとスマホを含めた情報インフラの開発を行うのは必須かと」
「後は料理のレパートリーをどんどん増やすべきね。フードコートだけを見てても飽きないわ。アイスクリームっていうのも美味しかったし」
「何だそりゃ?」
両手でほっぺを抑えるサキを見て、それがどんな物なのかを訊いてみる。
「あっちのスイーツの一種で、甘くて冷たい、そして口の中にいれるとさっと溶けて……美味しかったですよ」
「何でそれを土産に持ってこない?」
「……溶けますので」
ただでさえ、さっきのシュークリームの優しくも暴力的な甘さに感動してたのに、まだ美味い物があるのか!
「『麺料理もついに次はラーメンかな?』って話してたわね」
「そうだな」
「あら? それはどんな料理なの?」
「薫いわく、薫達の国で最も食べられている麺料理で……そして最も説明がやっかいな料理とは言ってました」
「何か、メンカタカラ…メヤサイダブルニン……ニクアブラマシマシだったか言ってたような?」
「何の呪文だ?」
「『気にしないで、普通のラーメン屋を紹介するから。』とは言われたから、ちょっとだけ特殊な店で使うのかもしれないわ」
「今度さりげなく聞いてみるか。少し気になる」
「そうか……とりあえずコックに作ってもらって、そこから一般に広めてもらうようにしよう。デザートは特に……」
ユノのあのお土産効果で、メイドのやる気が上がっている気がするしな……。それに後回しにすると怖い。皆も首を縦に振って同意してくれたので、デザートの普及は最優先に決まったのだった。
「それと、王様」
「何だサキ?」
「ユノ様が薫に名前で呼んでもらう事に成功しました。念のためご報告を♪」
「あら。やるわねあの子」
「そうじゃな」
そっちの進展もあって何より……我の時と同じように、落とされてしまうかもしれないな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―ほぼ同時刻「薫宅・居間」―
「そっちはどうだった?」
「いや~。色々、刺激的だったぞ。社員の奴等全員が魔石の力を見て、阿鼻叫喚の声を出していたぞ」
「何で救いを求めてるの?」
「いや。まあ色々崩れますからね。今までの価値感とか……ね」
カシーさんがあちらに帰った後、僕たちは直哉たちと炬燵を囲んで、お互いの今日の感想を述べていく。
「大変ッスね~」
「いや。お前らもその1つだからな!!」
「ごめんなさいなのです?」
直哉のツッコミにレイスが謝る。いや謝る理由など無いのだが。
「まあ、そこはいいんだが……で、薫」
「うん? どうしたの?」
お茶をすすっていた僕に直哉が話しかけてくる。
「あの世界……何かあるぞ」
「そりゃ、魔法が普通の世界だもん」
「違うからな……? というかお前も気付いているだろう」
「……」
僕は少しだけ笑みを浮かべる事で、その疑問に気付いていることを伝える。
「やっぱりか」
「何がですか?怪しいところなんてないような?」
「私もそう思うんだけど……というより当の世界の住人であるフィーロとレイスを前に言う事じゃないと思うんだけど?」
「……前に薫が言ってたのです。おかしいって」
レイスはあまり驚きもせず、怒ったりもせず。そのまま静かにお茶をすする。
「おかしいって何がッスか?」
「そうそう。薫兄も直哉さんも何がおかしいの?」
「まず、あれだけの技術があるのに土地の開発が進んでないのはおかしい。もっと、土地を広くしたり道を整備したりしていいはずだ」
「戦争中だからでは? それに魔獣も出ますし……」
「戦争中だからだよ。ぬかるんだり乾燥して埃っぽい道なんて大変だしさ。それにあれだけの人数を養うのに土地が切り開かれてないのもおかしな話だよ」
空を飛んだ時に王都の城壁より外を見たが、農地があったことにはあったのだが、その先はすぐに森だった。
「あれだけの王都の人数を養うのには農地が少なすぎる。もっと推し進めてもいいはずだ」
「他の大きい街や村から商人が仕入れているからとか……やっぱり魔獣が出るとかは?」
「理由になっていない。むしろそれなら魔石を使った害獣避けとか、こっちみたいに狩猟組合を作って魔獣対策とかして農地を広げた方がいいだろう。なんせ魔石という半永久的に使える物を組み込んだ武器もあり、ギルドの戦士や国がもつ騎士という戦力もあるんだしな」
「確かに出来るとは思うのです。被害を全く出さないということは出来ないと思いますが……」
「それはこっちの世界でも同じだ。鳥獣被害としてこの世界も少なからず出る。ただ国の食料事情を満たすのにもっと多く生産してもいいはずだ。この日本と違って他国からの供給が望めないならなおさらな」
「飢饉とかも考えて備蓄用も考えて多めに欲しいよね」
「そうだな……他にも食料の種類が少ないと言っていたがあれにも疑問がある」
「そうですか? 市場を見ると同じような物がズラッと大量に並んでいるようにも見えたので違和感は……」
「クコの実というものがあることから、あっちの世界にも当然果物とかもあるはずだ。そして毒キノコがあるという薫の証言から、きっと食用のキノコもあるはずだろう。そして……それを食べた奴も当然いるはずだ」
「どうなのかな? 見た目が明らかに毒々しい物だったら私だったら食べないような……」
「それは今の時代の感覚だ。しかし古代……自ら作物を栽培するというのがまだ無い時代なら?当然まず誰かが最初に何かを食べてそれが毒か食用かを知る。そしてそれを本人、または見た人が伝えて、さらにそれが他の人伝で伝わっていく。それが繰り返されて次第に食料のレパートリーが増えていく。さらにだ。食料が採れない時を想定して長期保存を目的とした試行錯誤をすれば菌による発酵食品が見つかることもあるはずだ。なんせこの世界にもヨーグルトやみそ、キムチにナンプラーがあるのだからな」
「社長……それって、つまり?」
「あれだけの文明になれば当然その過程を踏んでいるはずだ。だから種類もあって当然のはずなのだが……不思議でしょうがない」
「そういえば薫兄……カシーさんも変な事を言ってなかったかな? 食料じゃないけど『どうしてこんな事を今まで考えなかったんだろう?』とか言ってなかった?」
「賢者と言われる彼女達がそう言ったのなら何かあるのだろうな……そう考えられないようになる原因がな。お前は小説のネタの為に見聞きした事をまとめる作業をする。だから気付いていたんだろう? この違和感を」
「うん。最初に違和感を感じたのはあっちで初めてお菓子を出された時かな。調味料の1つである砂糖があるって分かったからね。塩・コショウしか無いって聞いてたのに少しおかしいかなって、その後もなんかちぐはぐしたところがあって……まあ、直哉がそこまで言うなら確実だけどね」
「気を付けることだな。あの世界……何故か発展を拒んでいる節がある。しかし、実際には人々は発展を求めている」
「この前のワイバーンみたいに発展を妨害されている……とかだったりして」
「分かってるじゃないか」
「「……」」
「この2人。とんでもないことを話しているッス……」
泉とフィーロ、紗江さんが僕と直哉の話を聞いて唖然としている。
「レイスは驚かないの?」
「逆に納得しています。精霊は自由奔放に生きるのが気質。でも、あの国は自由どころか束縛してる所があります。もしかして、精霊達に外の世界と関わりを持つ事を好ましくないと思う者達がいたとしたら……」
「レイスもッスか!? でもそう言われると確かにうちらって自由が好きという割には、国は束縛というか閉鎖的というか……あれ? 何か矛盾してて変かも?」
「とまあ。短い時間でここまで何かしら思い当たる節があるんだ。気を付けて損はないな」
「分かりました社長。私も注意してみます」
「そうしたら私もあっちで最近服を作っているから、気になる情報とか仕入れてみるよ」
「……とは言っても、思い過ごしかもしれんからほどほどにだ。そうだろう薫」
「うん」
しかし、思い過ごしという可能性はかなり低いだろう。これからはあっちの世界の違和感も積極的に調べなければ……。
―薫は称号「探求者」を手に入れた!!―
内容:それは違和感を感じ真実を追い求めようとする者に送られる称号……と、カッコ良く言ったもののあまり度が過ぎると痛い人になるので注意しましょう。
「そういえば、話は変わるけど泉」
「どうしたの薫兄?」
「お金大丈夫なの? 今日、結構おごってたでしょ?」
「大丈夫よ。ドール用の衣服、小物がめっちゃ売れているの! まるで人形が使う事を前提に作られているような細かさがあるって!! 今やちょっとした予約待ちよ。ねえ。フィーロ?」
「はいッス!」
そう言って、2人が親指を立てて笑顔を浮かべるのだった。




