50話 休日はショッピングモールで。電気屋にも行くよ!
前回のあらすじ「ローマの休日?」
―お昼頃「ショッピングモール・1F飲食店」―
少しだけショッピングを楽しんだところで、昼食を取る僕たち。あっちでは珍しい麺料理を食べて貰うため、うどんと蕎麦のお店に入った。
「これが麺料理なんですね」
「そうそう。こっちの太くて白い麺がうどんで、こっちの細くて少し黒っぽいのが蕎麦ね」
「で、これはひもかわうどんって言って近くの街の名物うどんになるよ」
「薄くて平べったいですね」
「これも、うどん、なのか?」
「うん。地域よっては太くて一本だけとか、固さの違いとかで色々あるよ」
「とりあえず、説明はここまでにして、いただきましょうか」
「そうですね。それで……どう食べれば?」
僕はうどんを箸で掴み、めんつゆに浸けて啜って口に入れる。お姫様たちも店員さんが気を利かせて持ってきてくれたフォークを使って僕のマネをして食べる。
「薫さんみたく上手くいきませんが……でも、美味しいです!」
「このソースが麺に良く合っていますね!」
「そういえば、こっちの皿に載せられているのは?」
「そっちは左から漬物でこれは天ぷら。漬物はそのまま食べて、天ぷらはめんつゆに浸けて食べてみて」
カーターがエビの天ぷらをめんつゆに浸けて、口に入れる。
「お、おお~!!」
カーターが目を光らせる。どうやらお気に召したようだ。
「このサクサクとした食感いいな!」
「この漬物を食べる事で、口の中がさっぱりしますね」
3人が美味しそうに食べ進めていく。
「そうしたら……ユノちゃん。私のひもかわうどん一口食べてみる?」
「あ、いただきます」
お姫様が泉に勧められてひもかわうどんを食べてみる。
「普通のうどんと違って柔らかいですね。それにこっちの方が良くめんつゆに絡んでいる気がします」
「ユノ。こっちの蕎麦も美味しいぞ」
「あ、いただきます。……こっちは独特な風味が付いててこれはこれで」
美味しそうに食べるお姫様。気に入ってくれて良かった。
「……で、薫兄」
「うん?」
「精霊って器用だね」
「……うん」
レイスたち精霊も談笑しながら、周囲に目立たないように食べているのだが……箸を使って食べていた。
「あっという間に覚えたよね」
「……うん」
家で普通に箸を使い始めていたレイスに訊いてみたら『見ただけで覚えたのです。』って言ってたな。精霊……恐ろしい子!!
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―昼食後「ショッピングモール・2F」―
「服を見てはしゃぐ女性ってのは世界が違っても変わらないね」
「そうですね」
僕と王子様が見守る先には、泉とお姫様が服を手にしながら楽しそうにはしゃいでいる。
「こっちだと服の形状が全然違うな……」
僕たちの横では、カーターが男性服を見ている。
「まあ、あっちみたいに機能性だけではなくデザイン性も求めてる服もあるからね。それに魔獣とかは出てこないから防具用の装飾が要らないし。でも、このシャツとかはあっちでも違和感無いんじゃないかな?」
僕は青の無地のTシャツを持ってカーターにそれを見せる。ビシャータテア王国でもこのような服を見た覚えがあるので問題なく着れるだろう。
「確かにこれは違和感無いな。王都でも普通に着ていけるな」
「この模様……いや文字かな? 変わってますね」
「何、どんな服かな?」
そう言って、こちらに背中を向けていた王子様が、その気になる服を持ってこっちに振り返る。持っていた白い服には黒い文字で『シスコン!』と……。
「ぷっ……アハハ!」
思わず笑ってしまった! いや、何でこんな服が置いてあるんだよ!
「だ、大丈夫ですか?」
「ど、どうした?」
「ご、ごめん……だ、だいじょうぶ……くっ! ふふ……」
「か、薫?」
「ご、ごめん。本当に……」
必死に笑いを抑える。あ、ヤバい。これツボに入ったかも。
「どうしたの?」
「薫が……」
「薫さん!? 具合が悪いのですか?」
「何か薫兄こらえてない?」
「私が選んだ服を見たら、いきなりこうなって……」
「どんな服?」
「これなんですけど?」
「あ……」
「?」
「あはははは!!」
「え!? 泉さんも!?」
「ご、ごめん……ああ~……おかしい。薫兄が爆笑してた意味が分かったわ」
「けほ……泉も分かってくれた? まさか、よりにもよってその服を一番最初に手にするなんて思ってなくて……つい」
咳込みながら答える。他の服を見てからシスコンと書かれた服だったら笑わずに済んでいたと思うのだが……。初っ端がそれはキツイ。
「えーと。確かこの文字はコレで……しすこんって書いてあるのです」
「何ッスかそれ?」
この後、呼吸を整えるので一杯だった僕の替わりに、泉がシスコンの意味を説明する。それを聞いた王子様は恥ずかしさで顔を赤面させ、両手でその顔を隠すのであった。
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―それから1時間ほど「ショッピングモール・電気屋」―
「まさか、そんな意味があるとは……」
「何であんなネタ服があそこにあったのか私もビックリしたんだけど……。あそこの洋服屋さん色々コラボはするけどさ……」
「あれは絶対笑わせる用だもんね」
「そんな服もあるんだな」
「まあ、王子様の尊い犠牲は忘れないって事にしましょうか」
「姉御の言う通りッスね……で、ここはなんて店ッスか?」
「(サキ!? フィーロさん!?)」
王子様が精霊2人に静かに叫んでますが……まあ、気にしないで説明を始める。
「ここは電気屋さん。あっちで言うと魔道具屋って感じかな?」
「ここが……」
泉以外の全員が物珍しそうに電化製品を見る。
「凄いですね。あ、あそこにスマホがありますね。ここで買うことが出来るんですか?」
「出来るけど……意味が無いかな?」
電波を飛ばす基地局も、充電に必要な電気も無い。そんな世界では意味が無いだろう。
「そうですよね……分かっていても少し残念です」
「そこは直哉とカシーさんたちの頑張り次第かな」
「だな」
そんな話をしていると、ある物が僕の目に入った。
「ねえねえ。カーターこれに座って」
「うん? 何だこれは……椅子か?」
「まあ、いいからいいから」
カーターをそれに座らせる。
「それじゃあいくよ……えい」
椅子に付いているボタンを押す。すると椅子がカーターをマッサージし始める。
「お、おお~~!! いいなこれ!」
「座っている人をマッサージしてくれるんですね」
「お父様にいいかもしれないですね」
「カーターの顔がだらしない顔をしてるわ」
「これは気が抜けるな……」
そう言って、目を瞑り、すっごく気の抜けた表情をするカーター。騎士って大変そうな仕事だからもう少しだけそのままにしてあげたいが、マッサージチェアから起こし、次の電化製品を見に行く。
「洗濯機にオーブン……あっちの世界にもありますね。これも電気で?」
「うん。そうだよ。でもこの辺りの電子レンジは無いかも?」
「これは?」
「これもオーブンみたいに食品を温める道具なんだけど、こっちは食品に含まれる水の分子を振動させて温めるんだ」
「そんなのは確かに無いな。あっちにあるのは熱を発生させる魔石で温めるオーブンとかコンロぐらいだな……」
「いや、十分なんですけどね。うん」
炊事、洗濯、掃除……これらに関係する電化製品は、それに替わる魔道具があるので必要ないかもしれない。しかし、僕はそう思っていても王子様とカーターにとって、それら電化製品は珍しい品には変わらないので、飽きるとか残念がるとかは無くそのまま見続ける。
そういえば、泉とお姫様はどうしたのかと思って辺りを見回す。すると、泉が1人でキョロキョロと何かを探しているので、泉の元へと近寄る。
「お姫様は?」
「目を離した隙にどっかに行っちゃって……」
「まさか誘拐かしら、そうしたらすぐにでも……!?」
「あそこにいるのですよ」
サキが慌てている中、レイスが静かに指を差した方向には、パソコンの売り場で店員に勧められて困っているお姫様がいた。
「ああ~……なるほどね」
「あの男は?」
サキが僕の鞄からこっそり出てきて、その手を店員の方へと向ける。このままだと、店員さんに向かって、何かしらの魔法が放たれしまう。
「ここの店員さんだよ。言葉が伝わらないと思うからレスキューしてくるよ……だから、おとなしく鞄に戻ってて」
「え? 魔法陣のお陰で翻訳はされてるはずじゃないの?」
サキの言う通りで翻訳されているだろう。しかし、きっとその意味を理解できていないだろうな……。泉にカーターたちの事を頼んで、僕はお姫様の方へと向かう。
「どうしたの?」
「あ? えーと……ここで見ていたら話しかけられて」
「パソコンをじっくり見ていたので購入を検討されてるのかな~っと、思いましてね。どうですか? 今ならサービスしますよ」
「確かにある事はあるのですが……今すぐという訳では無いので……」
間違ってはいないだろう。それが何十年後になるかは分からないが。
「なるほど……それなら、とりあえず説明だけでもどうですか? 例えばここにあるパソコンは小さく持ち運びやしやすいので、日常に使うにはオススメですよ」
「いいですね。置き型だと今のオススメはどれですか?」
「それでしたら……こちらですかね。こちら値段は張りますが、ゲーミング性能が高い物になりますよ。ゲームに使用しなくても、高いパフォーマンスを発揮できるのでお仕事用にしてもいいかと」
「それはいいですね……」
「あの~。薫様?」
僕と店員が話をしていると、お姫様が袖を引っ張りながら僕の名前を呼ぶ。しかも……様付けで。
「え? 様?」
お姫様が僕に様付けしたのを聞いて、店員さんが驚いた目で僕の方を見る。
「すいません……ビックリさせちゃいましたか? 流暢に日本語を話せるんですが……時折、間違った使い方をしちゃうんです」
「ああ~なるほど」
店員さんが納得した表情をする。危ない……異国の少女に変な事を覚えさせてるんじゃないかと勘違いされる所だった。
「それで……どうしたの?」
「その……何の話をしてるのかが分からなくて」
「このパソコンの話をしているだけだよ」
「これって何が出来るんですか?」
「このパソコンでは色々な事が出来ますよ。そうですね……例えば、このようにお絵かきとか」
店員さんがマウスを使って、パソコンの画面に可愛らしいデフォルメ化した猫を描いてくれた。
「すごーい……!」
「後はこちらのソフトを使えば、アニメーションも出来ますよ」
すると、今度は車が画面を縦に進む動画を作って見せてくれた。
「面白いですね!」
「喜んでくれて嬉しいですね……パソコンは初めてですか?」
「は、はい」
「それでしたら、こちらにあるようなパソコンは初心者向けで6万円位なのでオススメですよ。今日は購入しないとのことなので、よければパンフレットを見てご検討なんかしていただければと思います」
すると、店員さんが幾つかのパンフレットをお姫様に渡してくれた。
「ありがとうございます」
「ご購入の際は、何とぞウチのお店で!」
ここで店員の話が切れたので、僕たちは泉たちと合流しようと移動しようとする。
「……すいません。1つお訊きしたいことが……」
店員さんに呼び止めらる。もしかして、さっきの会話の中でおかしな発言をしてしまっただろうか?
「取材とかじゃないですよね?」
「え? 違いますけど」
店員さんの発言に呆気にとられながら、僕はそう返事をする。
「そうですよね! いや~美男美女のグループがショッピングモール内で買い物している噂があったので、つい訊かずにはいられなくて」
「ああ~……確かに、買い物中にも言われましたね」
まあ……それを言ったのは人では無く、精霊なのだが。
「美女2人に買ってもらえると縁起が良さそうなので、ぜひ宜しくお願いしますね!」
お辞儀をして、店員さんがその場を去っていく。
「すいません。助かりました」
「ううん。大丈夫だよ。まあ、様呼びは不味かったけどね」
「そしたら何とお呼びしたらいいですか?」
「他の皆のように、さん呼びで言ってもらえればいいからね」
「分かりました薫さん。そうしたらなんですが……」
「うん?」
「私の事もユノでお願いします。お姫様も不味いですよね?」
「それもそうだね……じゃあ、ユノさん……」
「私は薫さんより十歳以上年下ですよ。そこは呼び捨てでお願いします」
「でも……王族だし流石に呼び捨ては……ユノちゃんとかは?」
「……」
笑顔で沈黙を保つユノ。何故か威圧感を感じる。
「……ユノ」
「はい。お願いしますね薫さん♪」
耐え切れずに呼び捨てで名前を言う。お姫様……ユノが笑顔で答える。本当にいいのかな?
「ヨシ!!」
「何が良しなのサキ?」
「気にしないで頂戴! ねえレイス?」
「なのです!」
鞄にいることをすっかり忘れていたサキとレイスの反応に、僕は若干違和感を覚えながら、泉たちと合流するのだった。
「そういえば、美女二人……」
「レイス……それ以上は言わないで。既に大怪我してるから……ね」




